第二百七十九話 エルランドさんの解体講座
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「そうです、そうです。そこの骨の関節を外すんです。関節が外れたら、ここに沿って切り離していくんですよ」
土魔法で作った石の台に置かれたコカトリスにエルランドさんの指示の下、ミスリルのナイフを振るう。
スイ特製のミスリルナイフは切れ味抜群で面白いほどスッと肉が切れていった。
俺は今エイヴリングの街の郊外の森で、エルランドさんから魔物の解体講習を受けていた。
普段は駄目駄目な壮年エルフのエルランドさんだけど、ドラゴンを解体できるくらいの腕を持っているだけに指示も的確で分かりやすい。
ダンジョンでヴァンパイアナイフが出てから、解体のことを教わろうと考えていたんだよね。
そんなもんで、ちょうど今日明日と時間が空いたこともあって、エルランドさんに頼んで早速肉確保がてら講習会開催となったわけだ。
とはいっても大きい獲物はさすがに1人で扱うのは無理そうだから、コカトリスくらいのものを解体できるようになればってことでお願いした。
しかし、エルランドさんから「小ぶりのレッドボアくらいまでできるようになっていると色々と応用できますよ」とアドバイスされて、レッドボアの解体もやってみることになった。
確かに小ぶりのレッドボアが全長2メートルくらいだから、これくらいの獲物の解体ができればけっこう幅が広がるな。
それに何といってもボア系の魔物はどこの森でもいるっていう話だし、四足歩行の魔物の解体の仕方はそんなに変わらないと聞いたからレッドボアの解体ができれば、いざというときは大物でも何とかなりそうだ。
エルランドさん曰く「こういうものは慣れが大事です」ということで、とにかく解体してみることになった。
フェルたちに頼んで、とりあえずコカトリスを獲ってきてもらって、今はエルランドさんに習いながらコカトリスを解体している真っ最中だ。
そのフェルたちはというと、コカトリスを5羽ほど狩ってここに置いていったあとは再び狩りに繰り出していった。
今回のダンジョン探索で獲得したマジックバッグ(特大)を持たせたから、腹が空くまでは戻ってこないだろう。
ちなみにだが、ヴァンパイアナイフは超優秀で、コカトリスにぶっ刺したら勢い良く血を吸い取っていったよ。
血を吸っているときは、ヴァンパイアナイフの刃の部分が赤茶けた色になって、血を吸い尽くすと元の黒っぽい魔鉄の色に戻る仕様だった。
そのおかげで、コカトリスの解体をしていても血で汚れることもなく、グロさも大分軽減されていることから俺でも普通に解体作業をすることができた。
やっぱりこういうとき何が1番ダメかっていったら、血がドバッと出たりだとか血の匂いだと思うんだよね。
それがないだけで大分落ち着いて作業ができる。
ヴァンパイアナイフ様様だ。
これが手に入っただけでも、エイヴリングのダンジョンに潜った甲斐があったってもんだ。
「ムコーダさん、内臓も食べるんだと言っていましたけど、本気ですか?」
コカトリスの腹を割いて、いよいよ内臓をというところでエルランドさんがそう聞いてきた。
「ええ、もちろん」
こっちの世界では内臓を食うことはしないみたいで、すべて廃棄処分になっている。
冒険者ギルドに解体を頼むうえではそれは仕方ないけど、自分で解体するとなれば別だ。
もちろん鶏とは別物なんだから、ちゃんと食えるかどうかは判別するぞ。
俺には便利な鑑定スキルがあるんだしさ。
鑑定さん、鑑定さん、役に立ってちょうだいな。
【サエズリ……食道、気管。コリコリとした弾力のある食感の希少部位。食用可。】
【ハツ……心臓。プリプリとした弾力のある食感が特徴。食用可。】
【レバー……肝臓。ビタミン類や鉄分が豊富で栄養価が高く、クセがなく食べやすい。食用可。】
【砂肝……筋胃。鳥類特有の器官。味にクセがなく、コリコリした食感。食用可。】
【セギモ……腎臓。脂がのり旨味も強い希少部位。食用可。】
【キンカン……体内で成長途中の卵。食用可。】
【ボンジリ……尻尾にあたる部分の肉。筋肉が発達していて旨味が強く脂ものっている希少部位。食用可。】
おお、鑑定さんありがとう。
魔物だけど内臓はやっぱり食えるんだな。
全部、居酒屋や焼き鳥屋で一度は見たことがある部位だ。
とはいえ、内臓は内臓だ。
コカトリスは大きいから内臓1つ1つが鶏よりデカいとはいえ1匹でせいぜい焼き鳥1、2本分ってところか。
これは俺1人で楽しむ分しかないなぁ。
ま、これくらいは許されるよな、うん。
焼き鳥、ビールと一緒に食ったら最高だろうなぁ。
ジュルリ……、いかんいかん、今は解体の最中だ。
さっさと内臓を取り出さねば。
傷付けないよう1つ1つ丁寧に取り出していった。
ただ、セギモだけはちょっと取り出しづらい部分にあってうまく取り出せなくて断念。
ま、これも何度か解体をこなしていけばなんとかなりそうだけどな。
「ムコーダさんがそれだけ丁寧に扱っているということは、美味しいんですね?」
俺が丁寧に取り分け終えた内臓をアイテムボックスにしまったのを見て、エルランドさんがそう聞いてくる。
「これはですね、串に刺して炭火で焼くと美味しいんですよー」
もちろん味は塩のみ。
ゴクリと唾を飲み込む音が聞こえた。
「ム、ムコーダさん……」
「分かってますって」
ただ、内臓だから希少なんだよね。
ちょっとは分けてやってもいいけど、俺の楽しみなんだから俺優先だからな。
その後は、エルランドさんの指示の下、内臓を取ったコカトリスを切り分けていった。
ちょうど解体が終わったころに腹を空かせたフェルたちが戻ってきた。
昼飯は、街を出る前に宿で準備してきたオーク肉の豚丼だ。
醤油、砂糖、みりん、酒、水を煮詰めたタレを絡めたオーク肉がたっぷり載った豚丼だ。
豚丼で腹ごしらえをしたフェルたちは再び狩りに繰り出していった。
俺とエルランドさんは、残りのコカトリスを解体だ。
「ふぅ、最後のコカトリスが終わりましたね」
「どうですか? やはり実際にやってみた方が分かりやすいでしょ」
エルランドさんの言うとおりだ。
実際にやってみた方が慣れるのも早い。
1羽解体したあとは、何となく手順も分かってくるし、1羽また1羽と解体をこなすごとにかかる時間も短くなった。
これならコカトリスの解体は1人でも十分できそうだ。
「ええ。今ならコカトリスの解体も問題ないです。ありがとうございました」
「レッドボアはどうしますか? フェル様たちがお昼までに狩ってきたものがありますよね」
昼飯に戻ってきたフェルたちが狩ってきた獲物の中に、小ぶりのを頼んだのに結構大きいレッドボアが数匹いた。
「いえ、いまからだとフェルたちが戻るまでには終わりそうもありませんし、明日にしましょう。それよりも、このコカトリスで夕飯の準備をしたいと思います」
「おお、あれですね」
「はい、内臓もいただきます。肉を串に刺すだけなんで、エルランドさんも手伝ってもらえますか?」
「料理は苦手なのですが、串に刺すくらいでしたら大丈夫です」
よし、言質はとった。
俺が肉を捌いて、エルランドさんにはどんどん肉を串に刺していってもらおう。
焼き台は自作するつもりだから、串は長めの串を用意して、肉を刺した先端部分が1.5センチくらい串が飛び出た状態にしてもらった。
俺が捌いてはエルランドさんが串に刺しで、けっこうな量が出来上がった。
内臓については下処理をして俺自ら串に刺した。
焼き鳥屋でのバイト経験がここで役に立ったぜ。
ネギマ、モモ、皮、砂肝なんかの内臓の串とコカトリスを余すところなく使った。
「ふぅ、疲れました……。これは魔物と戦うより疲れるかもしれませんね」
「アハハ、手伝いありがとうございました。夕飯に期待しててくださいよ」
ちょうど一息ついたところでフェルたちが帰ってきた。
「お帰り。どうだった?」
『うむ。なかなかの成果だったぞ』
『そうだぞ。あ、ちゃんと食えるやつ獲ってきたからな』
『おっきいのいっぱい獲ってきたのー』
フェルたちが持って行ったマジックバッグ(特大)の中身を確認すると……。
ワイバーン×10、ワイルドバイソン×5、ゴールデンシープ×6、ジャイアントホーンボア×1、ロックバード×2だ。
「すごい成果ですね、これは……」
フェルたちの午後の狩りの成果にエルランドさんも驚いている。
ちなみに午前は、俺がお願いしたのもあってコカトリス×12とその卵×4、それからレッドボア×6だった。
コカトリスの卵はけっこう貴重なものらしいけど、巣を見つけたからと獲ってきてくれた。
「おい、ワイバーンが10匹もいるぞ」
『うむ、ちょうど飛んでいる奴らを見つけてな。10匹ほど落としてやったわ』
『そうそう。そんで俺とスイで頭を切り落としたんだよな』
『そうだよ~。フェルおじちゃんが落としたのをスイとドラちゃんで倒したんだー』
そ、そうか、ワイバーンも災難だったな。
初見のものでは、ワイルドバイソンは全長3メートル近い黒っぽくて厳つい牛で、ゴールデンシープはその名の通り金色の毛をした羊で大きさは普通の羊より少し大きいくらいだ。
ジャイアントホーンボアは、下あごから突き出た2本の大きな牙のほかに頭の真ん中に大きな角が生えた軽トラサイズのデカい猪だった。
「こ、これは是非ともドランで買取させていただけませんか。ダメでも、せめてゴールデンシープだけでも……」
エルランドさんの話では、ゴールデンシープの毛が貴族連中に人気で非常に高値で取引されているそう。
しかしながら、ここ最近捕獲数が激減していて品薄になっているそうだ。
手持ちの肉の在庫が少なくなったとは言っても、オークの肉ならたっぷりあるし、今日解体した分のコカトリスもある。
それに明日になればレッドボアの解体もするから、ドランに行く間の肉は大丈夫だろう。
「分かりました。どの道、エイヴリングの冒険者ギルドはダンジョンの買取でかなり予算を使うみたいですし、これらはドランでということにしますよ」
「ありがとうございます」
「それじゃ、街に戻るとしますか」
こうして俺たちはエイヴリングの街へと戻っていった。




