表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勘違い系○○  作者: 流音
第三章:大学生
97/218

3-16不安と疑問


この状況は何だろう…


私は麻友と夏凛と久しぶりに話せると花火大会に足を運んだのに、

山本君の別れ話に巻き込まれてなぜか今も一緒に花火を見上げている。


山本君は邪魔者以外の何者でもない。


私は何とか彼を引き離せないか考える。


するとそんな私に気づいたのか山本君が私の顔を覗き込んだ。


「花火見ないのか?」


私はさっきのキスまがいを思い出して、思わず後ずさる。

山本君は何というか…自由人だ。

別れ話もあんなに壮絶だとは思わなかった。

女の子にあんなに冷たいなんて…私が言われたらきっと立ち直れないだろう。


そのとき大きな花火が上がって歓声が巻き起こった。


私が空を見上げようと顔を上げたとき、同じように空を見上げた山本君の横顔が目に入った。

子供みたいに目を輝かせていて、少し意外だった。

それを見ながら何で今隣にいるのが吉田君じゃないんだろうと思った。

この間、板倉さんたちと話したことを思い出す。

宇佐美さんと吉田君の関係は何もなかったのだろうか…

彼の失踪に宇佐美さんが絡んでいるのだろうか…


考えると嫌な自分が顔を出す。

吉田君を信じようと思うのにもしかしたら…という嫌な事を考えてしまうのだ。

私は弱い。

ちょっとしたことですぐ悪い方に考えてしまう。

昔から何も変わっていない。



私は横にいる麻友に声をかけた。


「麻友…。今、幸せ?」


私の突然の質問に麻友は驚いているようだったけど、私に左手の指輪を見せて笑った。


「幸せだよ。紗英は?」


私は少し悩んだ後に答えを口に出した。


「どうかな…わからないや…。」


麻友は服部さんとの婚約が決まっている。

そんな彼女と比べたら、私は幸せかと聞かれたら迷いなく彼女より幸せではないと思う。

麻友は私の腕を掴むと言った。


「紗英、幸せなんて人それぞれだよ。だから、諦めちゃダメだよ。」


麻友は昔から変わらないまっすぐな目をしていた。

私は少し元気が出てきて頷いた。

そして私は彼女から少し離れると「ちょっと飲み物買ってくる」と言い残してその場を後にした。


私は後ろで上がる花火の音を聞きながら、人混みをかき分けて人の少ない通りに出た。

自販機まで来ると、ジュースを買わずにその横の花壇に腰かけた。


さっきの麻友の顔を思い出しながら、私は自分の左手を見た。

私の手には指輪なんてない。

でもあの日、吉田君がこの左手に誓っていた。


私は左手と花火を重ねて見ようと顔を上げた。

手のひらの隙間から色とりどりの花火が見え隠れする。


綺麗…



「何してんの?」


私は手のひらから視線を外して、私に声をかけた人を見た。

山本君が私の手のひらの向こうに立っていた。

私は左手を下げて答えた。


「何も。」


山本君は眉を上げて肩をすくめると、私の隣に腰かけた。


「何かあったのか?」


質問の意味が分からない。


「どうしてそんなこと聞くの?」


「…いや…なんかいつもと様子違うなと思ってさ。」


「そんなことないよ。」


私は板倉さんたちと話した事がずっと胸にしこりとして残っていたが、山本君に話す事じゃないとそう返す。

山本君は不服そうにしている。

私は立ち上がって自販機の前に移動すると、ジュースを買った。


「何で電話しないの?」


今日の山本君は質問攻めだ。

私は自販機からペットボトルのジュースを取り出して言った。


「用件もないし。」


私の言葉が気に障ったのか、山本君は立ち上がるとポケットからケータイを取り出した。


「じゃあ、俺に番号教えてくれよ。」


「………どうして?」


私はまっすぐ山本君を見ると尋ねた。

山本君は少し怯んだけど、ケータイを握りしめたまま私に詰め寄った。


「俺がかけたいからに決まってるだろ!?」


「やだ。」


グッと胸を掴まれたような言葉に私は反射的に口から出た。

私は山本君とこれ以上近づきたくなかった。

彼といると本音を暴かれる気がして怖かった。

弱い自分を突き付けられるようで…情けなかった。


―――予防線を張らないといけない気がした。


「……ごめんなさい。」


「―――なんだよ…それ…。」


私の言葉が山本君を傷つけたのかもしれない。

でも、私は弱いから。

頼れとか言われると甘えてしまう。


吉田君のときもそうだった。

『頼れ』…『大丈夫だ』…言われると安心する言葉…

そう言っていた彼はいなくなった。


いなくなったときの事を考えると、最初から頼らない方がいいんだ。


自分に言い聞かせて、その場を逃げるように走り去った。




***




花火大会が終わった次の日、私は自分のアパートに帰って来た。

家人の帰りを待っていたかのように静かな部屋に入ると、玄関に腰を下ろした。


なんだか…一人だと落ち着く…


私は荷物を持ってヨタヨタと自室へ移動する。

そしてベッドに倒れ込むと、天井を見上げて大きく息を吐いた。


大丈夫…私は一人でも大丈夫…


自分にそう言い聞かせるが、時折山本君の傷ついた顔がちらついて胸が痛む。

自分の選択は間違ってない。


最近少し山本君と近くなりすぎただけだ。

以前のようにある程度距離を開けていれば、いつか気にならなくなる。

大丈夫…大丈夫…


私はしばらく心の中でそう念じると、気を紛らわそうと起き上がった。

明日は就職の面接がある。

私はその準備をするために、気持ちを切り替えた。





***




次の日、私は東京の私立新美浜高校に足を運んでいた。

面接場所は高校の第一会議室。


私は入り口の事務室で部屋の場所を聞くと

階段を上がって第一会議室のある階へやって来た。


学校の造りはどこも一緒のようで、私は西城を思い出して懐かしかった。


会議室の前には同じ面接の大学生が並んで座っていた。

私はその人たちに会釈して前を通り過ぎると、空いている椅子に腰かけた。

みんな緊張しているのか誰もしゃべらない。

シーンと静まりかえった空気が息苦しかった。

私は無心になろうと目を瞑った。


するとスリッパの足音が聞こえてきて、私は目を開けた。

面接の係りの先生のようだった。

用紙を片手に私たちを見回してから、何か頷いて口を開いた。


「では、お一人ずつ中に入っていただきますので呼ばれたら入ってきてください。」


それを聞いて一気に緊張してきた。

私は大きく深呼吸すると失敗しないように祈った。




面接時間はあっという間だった。

私はひたすら聞かれた事に笑顔ではっきりと答えていただけだった。

顔から笑顔が張り付いてとれない。

顔をほぐすように動かしてから、事務室の方に挨拶して校舎を出た。


校門への道を歩いていると、部活中の高校生に何度もすれ違った。

グラウンドからは掛け声が聞こえている。


何だかこの空気なつかしいなぁ~…


私はグラウンドを横目に見た。

野球部が一生懸命練習に励んでいた。

スパイクの音、バットにボールの当たる音…


翔君もああやって練習してたなぁ…


高校のことを思い出して笑みがこぼれる。

そして私は顔を前に戻すと大きく息を吸い込んだ。





私は東京駅で新幹線で帰るか普通に電車を乗り継いで帰るか考えていた。

いつ来てもここは人が多いし、みんな忙しそうに早足だ。

ぼーっとしていると人の波に流されていきそうだ。

私は電車を乗り継ごうと決めると、在来線のホームに向かって歩き始めた。


切符を買って改札をくぐってホームへ。

人の波にそってホームに並んで電車を待つ。

窮屈だなと思いながらも、

もしここの面接に受かったらこういう生活になるのを想像してげんなりする。


電車がホームにやってきて、扉が開くとすごい人並みが階段に向かっていく。

私は何気なくその人混みを見ていたのだが、ある人に目が止まって自分の目を疑った。


「吉田君…?」


ずっと会いたいと願っていた彼がそこにいた。

髪が短くなっていてスーツを着ていたが間違いなく吉田君だった。

人の流れにそって階段に向かって歩いて行く。

私は人をかき分けて吉田君を追いかけた。


「吉田君!!待って、吉田君!!」


私の声が聞こえないのか、気づいていないのか分からないけど彼は私に振り返らずに歩いて行く。

人混みに紛れて何度も見失いそうになる。

私は人混みを抜けると、階段にさしかかった吉田君に向かって大声で名前を呼んだ。


「吉田君!!!」


聞こえたはずだった。

周りの人が怪訝そうな目で私を見ては通り過ぎて行く。

でも、彼は振り返らずに行ってしまった。


なぜ彼が私の声に振り返ってくれなかったのか…


私はホームに呆然と立ち尽くして、人混みに紛れて分からなくなった吉田君の背を探し続けた。




ここから紗英の気持ちに変化が現れていきます。

竜聖の登場は今後の流れ上、組み込みました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ