3-13思い出話
どうも!お久しぶりッス!
加地ッス!!
竜聖さんがいなくなって、俺たちは自然に疎遠になってたッスけど
今日はこうして高校時代のメンバーで集まれて本当に嬉しいッス!!
紗英さんは相変わらず優しい雰囲気で安心したッスけど…
やっぱり竜聖さんと一緒にいたときのように幸せそうじゃなくて、少し気になるッス。
今も卒業アルバムを見つめたまま元気がないように見えるッス。
一体アルバムに何が映ってるんスかね?
ちょっと気になるんで覗いてみるッス。
このアルバム…高校時代のものみたいッスね…
竜聖さんが相楽先輩や美合先輩に囲まれて嫌そうに写真に写ってるッス。
あ、こっちは板倉先輩と腕組んで写ってるッス。
修学旅行のものみたいッスね。
なんか…竜聖さんが映ってる写真…全部嫌そうな顔してるッス…
まぁ…高2の夏ぐらいまでは竜聖さん…こんな感じだったッスけど…
あ、次のページは高3の写真みたいッスね。
春の校外学習や文化祭、体育祭の写真がまとまってるッス。
竜聖さんの写真は校外学習の写真が一枚だけみたいッスね…
夏にいなくなってしまったッスから…当然ッスけど…
でも、この唯一の写真は良い笑顔で映ってるッス。
高2までの写真と全然違うッス。
やっぱり…竜聖さんは紗英さんと再会してからすごく変わったッス…
その証の一枚ッスね。
紗英さんはその一枚の写真を手で撫でているッス。
その仕草がすごく愛おしそうに見えて、切なくなってくるッス。
やっぱり…紗英さんは今でも竜聖さんを待ってるッスね…。
「紗英さん、竜聖さんの面白い話しましょうか?」
俺と同じように紗英さんの事を見てたのか、相楽先輩が言ったッス。
紗英さんはアルバムから目を離して相楽先輩を見て首を傾げてるッス。
相楽先輩…いったいどんな話をするんスかね?
「紗英さん、高2のとき竜聖さんが浮気してるんじゃないかって思ってた時期ありましたよね?」
「……あ、…うん。…あったよ。確か…ホワイトデーの前。」
「その原因って板倉さんの友達の香水の匂いですよね?」
「…よく知ってるね…。」
紗英さんは驚いているッス。
でも、その話は俺たちの間では有名なので皆知っているッス。
確かにあの話は面白いッス。
「紗英さんに香水の匂い一つで誤解された竜聖さんは、あのとき以降香水のきつい女子には近づかなくなったんですよ。それも徹底的に。少しでも匂うものなら、3メートルぐらい離れて会話するほどですよ。その動きがまた、ツボにはまると言うか…誰かが傍にいたら、必ずその人を盾にするんです。あの竜聖さんがですよ?」
「……そうだったんだ…。」
紗英さんから笑顔が漏れて、俺も相楽先輩も少し安心したッス。
あのときの竜聖さんは犬並の嗅覚だったと思うッス。
まぁ、誤解された理由が分かったときの竜聖さんが一番面白かったッスけど。
ブレザー投げ捨てて、板倉さんの友達に怒鳴ったときは何が起きたのかと思ったッス。
それだけ竜聖さんにとっては一大事だったって事ッスよね?
「あ、他にもあるぞ?竜聖さんの面白い話。」
「え?どんな話?」
今度は美合先輩がのってきたッス。
紗英さんはさっきまでの暗い表情が消えていて、話を聞く姿勢も前向きになったッス。
「春休みに入る前だったと思うんだけど、竜聖さんが妙にソワソワしてたんだよ。
何でそんなに挙動不審なのか気になって、どうしたんスか?って聞いたら…」
「聞いたら?」
「俺は真面目に見えるか?って聞かれて、俺は正直に今は真面目に見えますよって答えたら、世間一般的にって言われて…。真面目なんじゃないッスか?って言ったら、すげー安心してて。理由を聞いたら、紗英さんのご両親に会うから、自分がどういう風に見えるか心配だって…。会う何日も前からずっとそんな状態だったんスよ。」
「あははっ…吉田君らしい…。そっか…そんな事気にしてたんだね…。」
紗英さんが声を上げて笑うなんて、それこそ竜聖さんと一緒にいたとき以来、久しぶりに見たッス。
少しは気が紛れてきたッスかね。
「あ、その話!私の知ってるのも関係あるかも!」
板倉先輩が話に混ざってきたッス。
「春休みのいつだったか忘れたけど、家の前でりゅーに会ったの。そしたら、急に俺が真面目に見えるかって聞かれて、りゅーはいつもかっこいいよって答えたら、そういう事じゃないって怒られて。
服装とかが真面目に見えるか聞いてるって言われて、私…投げやりに見える見える~って言ったの。
そしたら、やたら気合いれてて、肩にすっごい力入ってるし、緊張してるのが伝わってきて…
りゅーが緊張してるのなんて、野球の試合でも見たことなかったから珍しくってさ!戦争でも行くのかと思ったよ!!あの日がきっと沼田さんのご両親に会う日だったんだね。」
「そっか…そんなに…頑張ってくれてたんだ…。なんか嬉しいな…。」
紗英さんは笑っていたッスけど、少し目が潤んでいるのが見えて、
俺はこのまま竜聖さんの話をしても良いのか迷ったッス。
でも、竜聖さんがどれだけ紗英さんの事を想ってたか、伝えておきたかったから俺も話すことにしたッス。
「紗英さん、俺たちの知ってる竜聖さんはずっと紗英さんを想ってたッス。
付き合い始めたときも、毎日会いたいけど、さすがに毎日はうっとおしいかなって言って遠慮したり…
バレンタインの日は紗英さん以外の女子からのチョコレートは全部断ったり…、紗英さんに誤解されて距離が開いたときは抜け殻みたいになってたり…、ホワイトデーに何返そうか悩んでいたり…、竜聖さんは本当に紗英さん一色だったんスよ!!」
「……うん。」
紗英さんの目からとうとう涙が零れ落ちたッス。
ちょっと躊躇ったッスけど、俺の知ってる事を全部伝えたくて話を続けたッス。
「宇佐美先輩のこと…確かに気になるッスけど…、でも竜聖さんは絶対紗英さんを裏切ったりはしないはずッス!!それはどこにいても、そうだと思うッス!!俺は、自分の見てきた竜聖さんを信じるッス!
だから、竜聖さんはいつか帰ってくるッス!!これは絶対ッス!!」
「うん……私も…信じてる…。ずっと…信じるよ。」
紗英さんは手で涙を拭いながら、いつもの優しい笑顔で俺を見たッス。
その瞳にはさっきとは違い、希望の光が射しているように見えたッス。
俺たちの言葉はしっかり紗英さんに届いたッス。
「ありがとう…。話してくれて…すごく嬉しかった。」
紗英さんは俺たちを見回して、軽く頭を下げてからはにかむように微笑んだッス。
俺たちは自然に笑顔になって、何だか高校時代に戻ったような和やかなムードになったッス。
ここに竜聖さんがいてくれたら…完璧だったッスけど…
竜聖さんがいなくなって4年…
俺たちはやっと笑って竜聖さんの話ができるようになったッス。
それが諦めなのか、未来への希望なのか…分からないッスけど…
でも、俺は紗英さんと同じで竜聖さんを信じて待つッス。
それが何年後か何十年後かは予測できないッスけど…
今の自分には待つことしかできないッスから。
竜聖さん!
どこにいるのか分からないッスけど、早く帰ってきてくださいね!!
息抜き回です。
また竜聖を交えた三人との絡みを書きたくなりました…




