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勘違い系○○  作者: 流音
第三章:大学生
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3-8手がかり


海からの帰り、俺は沼田さんを抱えて沼田さんのアパートの前にいた。


なぜこんな事になっているかというと…

海ではしゃぎつかれた沼田さんが車の中で爆睡。

昨夜あまり寝てなかったというのもあるのだろう。

声をかけても起きないので、俺が仕方なく車から抱えて降りてきたということだ。


伊藤君は吉岡さんを送るためもう行ってしまった。

俺は彼女の部屋の前で彼女に声をかける。


「沼田さん。部屋の鍵どこ?」


「――――うぅ…ん…。かぎ……」


ダメだ。完全に熟睡してる。


俺は彼女を一旦地面に下ろすと鞄を漁った。

だいたい鍵はこういう小さいポケットに入れる事が多い。

俺は小さいポケットを順番に開ける。

この鞄いったい何個ポケットあんだよ。


俺は見つからなくてだんだんイライラしてきた。

内ポケットに手を入れたときそれらしい物が手に触れた。

俺は取り出してみて鍵だと分かると一安心した。


彼女をまた抱きかかえて鍵を開けて部屋の中へ入る。


「お邪魔しまーす…。」


聞こえていないだろうが、一応挨拶しておいた。

彼女の部屋は小さな1DKだった。

俺は彼女をベッドに降ろすと一息ついた。

そして傍に座り込むと、ベッドにもたれかかって天井を見上げた。


この状況…翔平に言ったら殺されるな…


そう思ったときそれが伝わったのか、鞄の中に入っている沼田さんのケータイが鳴った。

俺は鞄を漁ってケータイを取り出して画面を見ると、着信は翔平だった。

出るか悩んでから、電話に出ずに画面を閉じた。

そして電源を落としてテーブルの上に置いた。


ホント…何やってんだ…俺…


俺は寝入っている沼田さんの顔を見てから、彼女に布団をかけた。

そのとき彼女の手が空を掴もうと動いた。

俺は自分の手を差し出すと彼女は俺の手を見つけて探るように掴んだ。

結構力強く握られて俺は首を傾げて彼女の顔を見つめる。


「……ぃで…。……いか…いで…。」


何か呟いたあと、彼女が顔をしかめた。

閉じた目から涙が流れて、俺はドキッとした。


何の夢みてるんだ…?


表情を見ているだけでも何だか苦しそうだ。

手の力は一向に弱まらない。

俺は座ってベッドに頭をのせると、彼女に語りかけた。


「…我慢しすぎなんじゃねぇの…?」


彼女の額にかかった髪の毛を触ってはらうと、額に汗をかいているのが分かった。


いつもこんな風に夢に見て苦しんでいるのだろうか?


俺はあいつがいない4年の間の彼女の気持ちを思うとグッと胸が苦しくなった。

彼女は苦しんで悲しんで…それをきっと長い間我慢してきたんだ。

あいつのために生きている彼女から竜聖を忘れさせることなんて無理じゃないのか…

俺は珍しく自分に自信がなくなった。





***




俺は次の日の朝、彼女が飛び起きた気配で目を覚ました。


「な…な…なんでいるの!?」


彼女の驚愕した声が聞こえて、俺は体を起こして重い瞼を持ち上げた。

大きくあくびをしてから何度か瞬きしてベッドの上の彼女を見た。


「……おあよう……。」


とりあえず挨拶しておく。

目が完全に開かず、半目で見た彼女の顔は口をわなわなと動かしてまっすぐ俺を見ていた。


「や…山本君!これ…どういう…ちょ…ちょっと待って…私、どうやって家に帰って来たの!?」


彼女は明らかにパニックになっていた。

俺はやっと目がきっちり開いてきて昨夜からの事を説明した。


「車の中で沼田さんが爆睡してしまって、俺がここに連れてきた。

俺も疲れていたのでベッドに運んだあと眠ってしまった。以上。」


若干事実を隠ぺいしたが、彼女は絶句したまま固まっている。

そんな彼女を見て俺は微笑んだ。

昨日のしんどそうな顔じゃなくなってるな…。

そう思うと少し安心した。


「………ご…ごめんなさい…。山本君には連日醜態を…!!もう、ヤダ!」


沼田さんは謝った後、布団で顔を隠した。

俺は首を回してから立ち上がると固まった体をほぐしたくて大きく伸びをした。


「いいよ。もう慣れた。とりあえず俺は一旦帰るよ。」


俺は肩を回しながら玄関へ向かう。

それを見た沼田さんはベッドから飛び出して言った。


「山本君!何かお礼する!だから、何でも言って!!」


俺は何でもと聞いて振り返った。

少し考えたあと、沼田さんを見て笑顔で言った。


「貸しにしておくよ。何かあったときに使わせてもらうことにする。」


「え…?貸し?」


「―――そ!だから、俺の言うこと何でも聞いてくれよ?」


沼田さんは少し考えたあと、覚悟を決めた顔で頷いた。

こういう単純で素直なところは可愛いんだけどなぁ…。

そう思ってから頭を振ってその考えを打ち消した。


俺は靴を履くと自分の荷物を持って扉を開けた。


「じゃ、また。」


それだけ言うと彼女の部屋を出た。

彼女は最後まで『ありがとう』と『ごめんなさい』を繰り返していた。



俺は女の子の事を、こんなに扱いにくくてやっかいだと思ったのは初めてだった。

それと同時に女の子のために何かしてあげたいと思ったのも初めての事で、

これがどういった気持ちからくるものなのか…今の俺には分からなかった。




***




海から帰って来た次の日。

俺は元カノから呼び出されて、大学の最寄にある喫茶店にいた。

目の前には泣きじゃくる元カノ。

俺は腕を組んでそれを見つめる。


「……何で…私じゃダメなの?」


俺は彼女を見てため息をついた。


「そういうところだよ。」

「冷たい!!より戻したいって言ってる女の子にそれはないでしょ!!」


よくある話だ。

別れた元カノがよりを戻したいと言ってきて、泣いて懇願する。

女のこういうところが心底面倒くさい。


「俺はより戻したいなんて思ってない。」

「ひどい!ここは普通俺もお前とより戻したかったんだ!でしょ!?」

「気持ちの押し付けは鬱陶しいだけだぞ。」

「うぅ~…だって…私はまだ好きなんだもん…。」


彼女はわざとらしくハンカチで顔を拭いながら涙を流している。

それを見てなんて軽い涙だと思った。

沼田さんの涙に比べたら、こいつの涙は嘘泣きレベルでしかない。

何も心に響いてこないので、さすがに苛立ってきつい事をこぼした。


「俺は好きじゃねぇよ。泣けばいいと思ってる女なんか。」

「―――っ竜也のバカー!!!いつか女に刺されろ!!」


彼女はそう吐き捨てると席を立って喫茶店を飛び出していった。

さすがの捨て台詞に店内の注目を集めた。

俺はこのまま居続けるのも嫌だったので、伝票を取ると席を立った。

レジに向かって店員に伝票を渡すと店員が話しかけてきた。


「中々壮絶な別れ話でしたね。」

「もう別れてるんで、別れ話じゃないっすよ。」


店員の言葉に渇いた笑いで返す。

店員は何がそんなに興味を持ったのか俺に話を続けた。


「私、大学一年のときに同じような場面に出くわしたことがあって、何だか懐かしかったです。」

「へぇ…そりゃ貴重な体験で。」

「あなたと似た雰囲気の男の子だったんです。すごく人気者で…私も憧れてた。」


突然の話に俺は今まで見てなかった店員の顔を見た。

店員は俺と同じくらいの真面目そうな女の子だった。

彼女は俺を見て言った。


「あなたを見たとき他人事とは思えなくて…変な話すみません。」

「いえ。構わないですよ。」

「あの…お名前なんて言うんですか?」


いたって普通な態度の彼女を見て、俺は口説かれようとしているのか量った。

変にバリア張るのも性に合わないので、名前だけ答えた。


「竜也です。」

「竜也さん?もしかして竜っていう字を書くんですか?」

「はい?そうですけど…?」


俺の返答を聞いて彼女は急に笑い出した。

俺はそんなに変な名前だろうかと彼女の様子を見る。

彼女は笑いを収めると懐かしそうな表情で言った。


「ごめんなさい。名前まで似ていて驚きました。

私が言ってた似てる人って竜聖君っていうんですよ。竜の字が一緒なんてすごいつながり。」


俺はその言葉に頭が真っ白になった。

竜聖…?…竜聖って言ったか…この人…?

俺はあいつと二人でドラゴンズと呼ばれていた事を思い出した。

彼女は俺の様子の変化に気づいたようで、心配そうに俺を覗きこんでいる。

俺は口だけを動かして訊いた。


「……その…竜聖って奴…年とか…名字ってわかりますか?」


同名の別人かもしれない。

俺は心臓の音が大きくなってきて、息が苦しかった。

彼女は少し考えたあと嬉しそうに言った。


「年は大学4年なんで21か22だと思いますよ。名字は桐谷です。桐谷竜聖君!」


「……桐谷……?」


年は一緒だけど名字が違う事がひっかかった。

あいつの失踪と何か関係がある気がしてならなかった。

俺は真剣な目で彼女を見つめると言った。


「そいつに会わせてもらう事はできますか?」


彼女は何だか悲しそうな顔をすると首を横に振った。


「私…色々あってこっちに越してきたので…彼が今どうしてるかは知らないんです。」

「…そうですか…。」


俺はあいつの手がかりが消えた事に落胆した。


「あの…竜聖君とどういうご関係なんですか?」


彼女は遠慮がちに訊いてきた。

俺はちょっとした手がかりのお礼のつもりで答えた。


「中、高と同じ学校で、一応友人です。」

「え……?」


彼女は俺の答えを聞いて驚いているようだった。

そして彼女の放った次の一言に今度は俺が驚くことになったのだった。




読んでいただきましてありがとうございます。

竜也の気持ちの変化が少しずつ表れていきます。

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