表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勘違い系○○  作者: 流音
第三章:大学生
87/218

3ー6山本君


海に来て二日目。

私は浜辺で荷物番をしながら、ケータイ画面を見てぼーっとしていた。

画面には昨日登録された山本君の番号が表示されている。


頼れって言われてもなぁ……


私は昨夜の事を思い出して、ふぅと息を吐いた。

昨日は私はどうかしてた。

ずっと隠し続けていた気持ちをあんな風に打ち明けるなんて…

それも久しぶりに会ったばかりの人に。

何だか吉田君に似ていて気が緩む。


私はケータイの画面を閉じて、鞄にしまった。

そして自分の頬をパンパンと叩くと気合いを入れた。

そこにちょうど交代の翔君が全身水浸しでやってきた。


「ふぃ~…つっかれた…。」

「お疲れ。それじゃ、交代ね。荷物番よろしく!」


私は来ていたパーカーを脱ぐと立ち上がって大きく伸びをした。

そのとき視線を感じて翔君を見下ろすと目が合った。

翔君は見てはいけないものを見たような表情になると、あたふたしながら目をそらした。


「何?」


「…何でもない。」


翔君はこっちを見ないままムスッとした声で言った。

私は行動の意味が分からないので、肩をすくめてから海へと向かった。



しばらく海で涼華ちゃん達とビーチバレーを楽しんだ後、

私はふと目に入った岩場に行ってみたくなった。


「ごめん。私、ちょっと休憩。抜けるね。」


そう言い残して岩場へ泳いで行く。

岩場は影になっていて涼しかった。

よく見ると小さな魚やヤドカリが岩の影に見え隠れしている。


なんか和むなぁ~…


私は岩場へ一旦上がると足だけ海に投げ出して一息ついた。

目を瞑ると波の音だけが聞こえてきて、すごく落ち着く。


なんだか、世界にひとりぼっちになったみたいだなぁ…


そんな事を思って一人で微笑んだ。

そろそろ皆の所に戻ろうかと思い岩場で立ち上がったとき、

私は思わず足を滑らせてしまい海へ落ちてしまった。


私は落ちた海の中で鼻に水が入ってしまって痛いなぁと冷静に考えていた。

幸いどこもぶつけてないので水面を探して上がろうと手を動かしたとき、誰かにその手を掴まれた。

そして、その手を引っ張られて私は水面に引き上げられる。


「…ッケホッ!…ッ…」

「何やってんだよ!!」


急に引き上げられて噎せていた私を山本君が怒鳴った。

私は怒っている彼の顔を見つめて、何で怒っているんだろうと考えていた。


「フラフラどっか行って…心配かけさすなよ!!」


「ご…ごめん…」


彼の気迫に押されて思わず謝る。

私は謝ってから首をひねった。

何でここに山本君がいるんだろう…?

彼の目をじっと見つめていると、山本君にサッと目を逸らされてしまった。


「何で私がここにいるって分かったの?」


山本君の表情が見えない。

私は顔を覗きこもうとするが、頑なに顔を逸らされる。


「…んなこと、どうでも良いだろ!早く戻るぞ!」


しまいには勝手に立ち上がって行ってしまう。

私は理不尽な物言いにその場を動く気になれなかった。

山本君の背から顔をそむけてふて腐れる。


せっかく気持ち良く寛いでたのに…


山本君の気配が消えた後、また足音が聞こえて戻ってきた。


「あーっ!もうっ!いい加減にしろよ!!」


山本君は私の腕を掴むと立たせるように引っ張りあげる。

私はムスッとしたまま立ち上がると、山本君を横目で睨んだ。


「なんで、私が怒られなきゃいけないの?何もしてないのに!」


「バカか!?こんな人気のないところに一人でいて何かあったらどうするんだよ!」


「何もなかったじゃない!」


売り言葉に買い言葉で山本君に歯向かう。

山本君は海を指差すと怒鳴った。


「さっき海に落っこちただろーが!」


私はここで落っこちたから何なんだと思ったが、山本君の様子が変わったのを見て口をつぐんだ。

彼は泣きそうな顔を隠すように腕を顔の前に持ち上げた。


「…心配したんだよ…」


かすれた声にドキッとした。

私はほんの少しだけ自分の行いを悔いた。

そんなに心配されてるなんて思わなかった。


「…ごめんなさい。」


今度はしっかり心をこめて謝った。

山本君は肩を震わせていて、私は泣いているのかと思って焦った。


「もう心配かけないから!約束する!」


少しでも安心させたくて出た言葉だった。

こんなに心配して泣いてくれるなんて、山本君の印象が変わりそうだ。

ちょっと見直そうかと思ったら、肩を震わせていた山本君が急に笑い出した。

私は不審者を見るような目で彼を見つめた。

あれ?泣いてない…?


「…っははっ!約束か。守ってくれるんだよな?」


山本君の顔が見えると悪戯っ子のような笑顔だった。


あれ…?


私は狐につままれた状態で現状を理解できない。


「何かあったら、必ず連絡しろよ?」


山本君は手で電話をかけるフリをして言った。

やられた!

私ははめられた事に気づいた。


「…男のくせに、泣き落としなんて…ずるい!」


私は目をつり上げて怒った。

心配したとか言って、私に電話させる口実だ。

私は絶対電話なんかかけないと心に誓った。


山本君は私の反応を楽しそうに眺めてから、歩き出した。

私はまた条件を出されても困るので、距離をとってしぶしぶついていく。




そして岩場から出てやっと浜辺へ着いたとき、山本君の姿は結構遠くにあり足を早めた。

するとそのとき私は3、4人の男性グループに取り囲まれた。


「君、一人?」


私と同じくらいか少し上くらいの年齢のリーダーっぽい人が話しかけてきた。

私はこの状況を見てナンパだと分かった。

私は初めてのナンパに少し感激してしまった。

不謹慎なんだけど、マンガでしか見たことがなかったので仕方ない…


「あの、すみません。連れがいるんです。」


笑顔で断りながらも、内心私も捨てたもんじゃないなと鼻が高かった。

するとリーダーっぽい男の人の隣にいた耳にたくさんピアスをつけた人が私に顔を近づけてきた。


「その連れと何かあったから、あんな人気のないところから出てきたんだろ?

いいじゃん、一緒にご飯でも食べよーぜ?」


勘違いもいいとこだ。

私は「結構です。」と言って立ち去ろうと人垣の隙間に向かったが、

その隙間を塞がれ私の後ろにいた香水臭い人に肩を組まれた。


「まぁまぁ、奢るからさ。楽しい事しようぜ?」


さすがにイラついてきて大声でもあげようかと思ったとき、私の目の前の人が吹っ飛んだ。

突然の出来事に私は目を見開いて固まった。


「人の連れに手ぇ出してんじゃねぇよ!」


私の目の前の人を殴って吹っ飛ばしたのは山本君だった。

山本君は私に肩を組んでいた人も殴り飛ばすと、私の手を掴んで引っ張った。

私は勢いで山本君の胸に頭をぶつけた。


「てめぇ、何しやがんだ!!」


おそらくリーダーっぽい男の人が殴りかかってきたんだろうが、山本君は器用に躱してカウンターを決めたみたいだ。

グゴッとすごい音がした。

その後も何度か殴りかかってきたみたいだけど、山本君は私を抱えたまま立ち回って一発ももらわずに四人組を伸してしまった。


「まだやんなら、相手になるけど?」


山本君は四人組を鋭い目で睨んでいる。

この人は私の知っている山本君だろうか?

こんなにケンカが強い人は見たことがない。

私は山本君を見上げて目を細めた。


四人組は何か悪態をつきながら、お互いを支えて逃げていったみたいだ。

私を抱えていた山本君の手が離れた。

私はお礼を言おうと口を開いた。


「あの、ありがと―――」


「こんのアホ!約束したばっかだろが!!」


山本君はまた怒った。


「すぐ後ろにいるかと思ったら、一体何やってんだよ!?

ホント危なっかしい!!見ててハラハラする!」


私の悪口を並べ立てて捲し立てる山本君を見て、私はだんだん慣れてきた。

目を薄く閉じて、聞く姿勢に撤して怒りが収まるのを待った。


そしてしばらく無我の境地で聞いていると、怒鳴り声が収まりそれと同時に手を掴まれた。


「もう、放さねえからな!」


山本君の何だか必死な様子に私は笑いが漏れた。

私の事にこんなに必死になってくれるなんて思わなかった。

からかっているかと思ったら、真剣に叱ってくるし本当に面白い。

私は掴まれた手を握り返すと訊いた。


「ねぇ、何であんなにケンカが強いの?」


山本君は怒っていた表情を崩して複雑そうな顔をすると前を向いて答えてくれた。


「俺、ボクシングジムに通ってんだ。高校の頃からずっと。」


「え!?すごいね!試合とか出てるの?」


私が褒めると山本君は嬉しそうだった。

満更でもないらしい。

野球しているイメージはあるけど、ボクシングなんて意外だ。


「少しな。でも、体鍛えるのが目的だからそこまで本格的にはやってないよ。」


体を鍛えると聞いて、私は山本君の体を見た。

確かに腹筋割れてるし、胸や腕の筋肉もガッシリしていて逞しい。

私は触りたくなって、割れてる腹筋に手を伸ばした。

腹筋に触れた瞬間、山本君が身を捩った。


「――――っうふぉっ!何すんだよ!!」

「えへへ…つい…触りたくなって…ちょっとぐらいいいでしょ?」


私はココが彼の弱点だと分かって、妙に攻めたくなってしまった。

手を伸ばしては触ろうと奮闘する。

でも、さすがにボクシングの反射神経…

なかなか触らせてもらえない。


「ちょっとぐらい、いいじゃない!」

「うるっせー!こしょばいんだよ!!」


私はどうにか触りたくて、山本君の片腕を抱き込んで押さえると手を伸ばした。

するとその手を捕まれて真剣な目で言われた。


「これ以上やると、襲うぞ。」


その言葉に私は体中の体温が上昇して、咄嗟に山本君から離れた。

彼はそれを満足そうに見て鼻で笑った。

そして山本君は私の手を掴んだまま歩いていく。


私はその背を見つめて、この微妙な空気間が気になった。





読んでいただきましてありがとうございます。

次は竜也視点になります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ