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勘違い系○○  作者: 流音
第三章:大学生
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3-5彼女と俺の本音


ほぼ翔平に押し切られた形で俺は沼田さんと墓地を歩いている。


沼田さんは俺の後ろをゆっくりとついて来ていて、時折ちょっとした音に過剰な反応を見せていた。

俺が振り返ると、強がっているのか何でもない顔で目を逸らす。

本当再会したときから思ったが、扱いにくい女の子だ。


水着を褒めたときは女の子らしい可愛い反応を見せていたのに、何だか心ここに非ずって表情が俺の勘に触る。

再会した時も俺を見ていたんじゃなくて、俺を通して違う誰かを見ているような目だった。

俺は今まで女子にそんな態度をされたことはない。

好意以外の目で見られるのは初めてのことで、どう扱えばいいのか困る。


俺はとりあえず謝るかと思い、足を止めて振り返った。

そのとき茂みでガサガサッと音がして沼田さんが身を縮めて茂みから離れた。

明らかに怖がっている姿に俺は目を細めて言った。


「もしかして、こういうの苦手?」


沼田さんは縮めていた体を普通に戻すと、いたって平静を装って言った。


「別に…。平気だよ。」


またガサッと音がして肩をすぼめた姿を見て、強がりだというのが見て取れた。

何で…そんなに我慢してんだよ…

怖いなら怖いと言っていた方が女子として可愛気がある。

俺はため息をつくと、彼女に近寄って手をとった。


「とりあえず…ここ持っときなよ。」


彼女に自分のシャツの裾を握らせた。

俺はまた「大丈夫!」とか「ほっといて」とか言われると思っていたが、彼女は意外に素直に「わかった」と言って従った。

水着のときもそうだが変なところで素直なところにムズムズする。

俺は気を紛らわそうと、前を向いて歩き出した。

シャツが引っ張られていて歩みはさっきよりも遅くなった。

俺はここで謝っとくべきか…?と考えて口を開こうとしたが、彼女に先を越された。


「昼間は…ごめんなさい。私、自分勝手なこと言った。」


俺は足を止めると彼女を見た。

彼女は俯いたまま俺のシャツを握りしめて続けた。


「山本君には関係ないのに…本当にごめんなさい。」


「何で過去だと嫌なの?」


関係ないと言われてイラッとして昼の事を蒸し返した。

沼田さんはゆっくり顔を上げて俺を見ると少し迷っているようだった。

揺れている瞳を見つめて、俺は心の中の疑問をぶつけた。


「もう4年経ってるんだ。あいつはいないし、帰ってこない。

過去にしなきゃいけないと俺は思うけど、そこまで信じられる理由って何?」


俺の言葉に沼田さんの瞳が光るのが見えた。

瞳に涙が溜まっていき反射した光だった。


「……約束したから。」


やっと彼女が口を開いた。


「…吉田君が…東京に行っちゃったとき…待ってるって約束したの。

帰ってこないはずない…吉田君も私に一番に会いに来るって言った…」


沼田さんの瞳から涙が一粒落ちた。

俺は黙って耳を傾けて、竜聖の最後の姿を思った。

俺はあいつがいなくなった理由も人づてにしか聞かなかった。

父親が事故に合い、その父親に会いに行って行方不明。

その現場に居合わせた彼女はどんな気持ちであいつを見送ったのだろう。

後悔したのだろうか…

俺は彼女を見つめて、まだあいつに囚われているのだけは分かった。


「帰って来るよ…私が信じて待ってれば、いつかきっと…」


「帰ってこないよ。」


俺は残酷だが言わなければいけないと思った。

彼女は竜聖との約束に縛られている。

あいつの事を話している今がチャンスだと続ける。


「信じても無駄だよ。帰ってくるつもりなら、とっくの昔に帰ってきてる。

帰ってこないのが、あいつの答えだ。」


「帰ってくるよ!!」


沼田さんは俺のシャツから手を放して、胸の前で手を握りしめている。

少し肩が震えているのが分かった。


「約束したの!山本君には分からないかもしれないけど…吉田君は約束を破るような人じゃない!!」


「破るような奴じゃないから言ってるんだよ!」


俺の大きな声に沼田さんが目を見開いて俺を見つめる。

俺は言うのが躊躇われたが、彼女のためだと言い聞かせて告げた。


「正直なあいつが沼田さんの所に帰ってこないなんて…理由は一つだよ。

あいつには他に大事な相手ができたんだよ。」


沼田さんは眉間に皺を寄せて表情を崩すとその場に崩れ落ちた。


「…そんなことないっ…きっと……きっと…帰って来る…」


彼女は自分に言い聞かせるように呟いた。

へたりこんだ彼女は俯いたまま力が抜けたようにだらんと腕を横に垂らしている。

俺は彼女の前にしゃがみこむと細かく震えている肩に手を置いた。


「あいつに言いたいことあるだろ?俺が代わりに聞くから言いなよ。」


沼田さんは両手で顔を覆って俯いた。

彼女は嗚咽を堪えながら言った。


「…何で…帰ってきてくれないの…?ずっと待ってた…待ってたんだよ…

あのときの言葉…信じて…っ…私の支えだった…なのに…何で会いにきてくれないのっ…――――!!」


彼女の泣きじゃくる姿を見て、俺は彼女の背をポンポンと叩いた。

きっと今出てきた言葉は彼女の中の抑え込んでいた想いの一部でしかない。

ギュッと固く閉じていた蓋をほんの少し開けただけだ。

でも、出したことが重要だった。

泣いて少しずつ思い出に…過去にしていくことが必要なんだ。


あいつは帰ってこない…


現実から逃げていた彼女を見ながら、俺も胸が痛んだ。

俺だって、信じていたい気持ちは痛いほど分かるからだ。


俺はまた翔平と三人で話せる日がくるのを願ってた。

あと少しで叶うはずだった。

沼田さんを通じてあいつは変わったから…

高3のあのとき、もう少し早く三人で会っていたら…

そう思うと俺だって彼女と同じで後悔ばかりだ。


俺も彼女のこと言えないな…


俺の目の前で小さくなって泣いている彼女を見ながら、

俺は一緒になって涙ぐんだ。

もちろん気づかれないように堪えたが、どうしようもない苦しさが胸を締め付けた。





***





肝試しの結果はドローだった。

あまり怖くもなかったので、どのペアも悲鳴を上げなかったためだ。

翔平は悔しそうにしていたが、こればかりは仕方がない。


沼田さんはあの後、俺に何度も謝って笑顔を取り繕っていた。

俺はそんな健気な姿を見て、自分はなんて小さい人間なのかを思い知った。

俺と彼女は同じ喪失感を抱えている。

でも、彼女の方が何倍も強いと思った。

いや強いわけじゃないのかもしれない。

強く見せているんだ…普通に振る舞う彼女を見てそう感じた。



その後、俺たちは肝試しで疲れたためか、夜騒ぐこともなくあっけなく就寝した。



夜中―――俺は人の気配に気づいて目を覚ました。

俺は俺の布団に足を突っ込んできている翔平を足蹴にした後、部屋の窓辺の椅子に座っている沼田さんを見つけた。

彼女は窓の外を見上げていた。


俺はだるい体を起こして沼田さんの傍に近寄った。


「寝れない?」


俺が声をかけると沼田さんは俺を見て微笑んだ。

俺は返事しない彼女の隣の椅子に座った。

すると彼女は空を見上げたまま口を開いた。


「……こんなに綺麗な月を…一緒に見たかったなって思って…」


俺は言葉の意味を汲んだ。


「……竜聖と…?」


彼女は顔を少ししかめると、瞬きしてから頷いた。


「…私が今、山本君と見てるように…吉田君も…誰かと見てるといいな。」


彼女の強がりだろう言葉に俺は、咄嗟に傍にあった彼女のケータイを手に取った。

開いてアドレス帳を開くと自分の番号を打ち込んだ。

そしてそれを沼田さんに見せると言った。


「寂しくなったり、辛いとき、俺に電話して。」


彼女は目を瞬かせて首を傾げた。

俺は恥ずかしい気持ちを抑えて、分かりやすく伝える。


「翔平には言えないこともあるだろ。そういうときに頼れってこと。」


沼田さんはやっとわかったようで、ケータイを俺から受け取ると笑った。


「ありがとう。…今日、私の話を聞いてくれたのも嬉しかったよ。

醜態をさらして恥ずかしかったけど…気持ちが楽になった。本当にありがとう。」


彼女の素直な言葉と笑顔に俺は思わず目を逸らした。

こんなに誰かのために動くなんて自分らしくないと思い、茶化すように誤魔化した。


「ま、あれは俺の本音だったし。ウジウジされても迷惑だからさ。」

「……せっかく素直に言ってるのに…。」


彼女はムスッとして前を向いた。

俺はそれを横目で見てから立ち上がった。


「そんじゃ、俺はもう寝るよ。沼田さんもほどほどにして寝なよ。」


彼女の「分かった」という声を聞いて布団に戻る。

俺は月明かりに照らされた彼女の姿を見てから、寝転んで目を閉じた。






読んでいただきましてありがとうございます。

この話から山本君と紗英の距離が近くなります。


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