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勘違い系○○  作者: 流音
第三章:大学生
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3-1足踏み



「さ・え・ちゃん!!」



後ろからドンっと背中を叩かれ驚いて振り返る。

そこには高校からの親友の涼華ちゃんがいた。


涼華ちゃんはたくさんの楽譜を抱えながら、肩には大きな鞄を下げていた。

一方私は小さな鞄を肩からかけ、手には一冊の本だけだ。

何でそんな大荷物なのか気になった。


「すごい荷物だね…どこに行くの?」

「ふふっ…今からてっちゃんとお昼食べるんだ!この鞄はお弁当だよ。

てっちゃん大食らいだからこれだけないとダメなんだよねぇ~…。」


てっちゃんとは木下哲史君の事だ。

二人は高校卒業してからもずっと仲良しで、私は羨ましかった。


私たちは今、西城大学の広場脇にいる。

夏の日差しが眩しくて、立っているだけで汗が肌を流れていく。

私は汗を拭うと言った。


「この暑さだとお弁当早く持って行った方がいいんじゃない?」

「そ、そうだよね!!じゃ、紗英ちゃんまた講義で!!」


涼華ちゃんは鞄を背負い直すと私に小さく手を振って走って行った。

私はその背を見送って、食堂へ足を進めた。



私は今、大学四年の夏を迎えている。

大学では音楽学を専攻していて、就職先はもっぱら楽器店や教室の講師といったところだ。

就職試験は終わっていて、あとは結果を待つだけだった。

就活が終わりホッとしている所だった。

でも落ちていたら話にならないのだけれど…


私は食堂で冷麺の食券を買い、列に並んだ。

おばちゃんから冷麺を受け取って適当なテーブルに一人で座る。

声に出さずにいただきますをして、麺をすすった。


やっぱり夏は冷麺だなぁ~


この暑い中、外でしゃべっているカップルやグループを見ながら、私はもうすぐだな…と物思いにふける。


今は7月14日――――

吉田君がいなくなってから、もうすぐで4年が経つ。


4年前の7月16日に吉田君の背中を見送ってから、彼は帰ってこなかった。

何かあったのかもしれない…

始めはそう思って色んな手を使って探し回った。

学校に聞けば何か分かるかもしれないと思ったが、学校は頑なに口を閉ざした。

そしていつの間にか退学処理をされていた。

東京に行けば会えるかもしれないと、東京まで行ったこともある…


でも…何の手がかりも得られなかった…


吉田君と関わりのあった人は自然に彼の話題を避けるようになって

この四年で疎遠になってしまった人もいる。


私は彼の姿を時折思い出しては、懐かしさに目を閉じる。


誰も話をしなくなっても、私だけは彼を忘れたくなかった。

今も耳に残る彼の言葉が私の支えになっている。



私は冷麺を完食した後、食器とトレイを下げて講義がある教室へと向かった。

教室はまだ時間があるので、席はたくさん空いていた。

私はその中でも冷房の当たりやすい席で外の見える所を選んで座った。

教科書を机にのせてから、大学入学と同時に買ったケータイをいじる。

メールが二件届いていた。


一通目はお母さんからだった。

内容はお盆は帰ってくるの?だった。

私は今、大学の近くのアパートに住んでいる。

私は帰るとだけ打って返信した。


二件目は翔君からだ。

一斉メールで送られてきていて、最初にレッツゴー!海!!と書かれている。

翔君らしい第一声だな…と思いながら内容に目を通す。

要は7月19日、20日で海へ海水浴に行こうというものだった。

交通費はなし。誰かが車を出すのかもしれない。

旅費は5千円。安い…。


心惹かれる内容だったが、今や私の周りは彼氏、彼女持ちのカップルだらけだ。

一人身の私は浮いてしまうのではないかと思った。

なので返信には参加者見てから考慮しますと打って返した。


私はふうとため息をついてケータイを閉じた。


そして周りを見るとだいぶ生徒が増えてきていた。

早めに来て正解だったなと心の中で微笑む。

そして周りの生徒たちの顔を見ながら、涼華ちゃんの姿を探す。

彼女はまだ来ていないようだった。


木下君と離れがたくなっているのかもしれない。

私たちの科と木下君や翔君の科はキャンパスが違う。

そのため大学に入ってからは高校のときほど気軽に会えなくなっていた。

木下君のキャンパスは私たちのキャンパスから電車で4駅ほど離れている。

そのため時間をしっかり約束しておかないといけないのだ。


鐘が鳴り、先生が入って来る直前に涼華ちゃんが入って来たのが見えた。

でも私のところまでは来れず、入り口付近に座っていた。

私は教科書を開いて、先生に目を向けた。




***




今日の講義が終わり、私は家に帰るため中庭を歩いていた。

歩きながら晩御飯は何にしようかと考える。

この暑さにやられて食欲がないのでサラダとか爽やかなものがいいなと思い、帰りにスーパーに寄ることにした。

大学の敷地を出たところで私は呼び止められた。


「紗英!!」


私を呼び止めたのは翔君だった。

わざわざこんな所で待ってたのかな…と考える。


「メール返事しろよ!!暑い中結構待ったぞ!」

「メール?」


言われて初めて講義が終わってからケータイを見てない事に気づいた。

私は鞄を漁ってケータイを取り出す。

メール受信のランプが点灯していた。

私は翔君の顔を見てへらっと笑ったあと、メールを確認した。


また二通来ていて、一通目はお母さん。

これは後回しにして…二通目…あ、翔君からだ。


内容は…

『参加者はいつものメンバー。

海の事話し合いたいので大学まで行く!

終わる時間を連絡して!!』

とあった。


ケータイを閉じて、怒っている翔君を見て手を合わせた。


「ごめんなさい。見てなかった。」


「またかよ~。ケータイの意味ねぇじゃん!」


翔君は怒ってるようだったけど、ちゃんと許してくれるのを私は知っている。


「じゃあ、お詫びに家で晩御飯ご馳走する。それじゃあ、ダメ?」


私が首を傾げて訊くと、翔君は目線を逸らして仕方ねぇな~と言った。

やっぱり翔君は扱いやすい…。

私は歩き出してから翔君に訊いた。


「今日、私のところに来てること浜口さん知ってるの?」

「んあ?…あ、あー…一応言って来た…。」


変な返事。

翔君は浜口さんと変わらず付き合ってるみたいだ。

はっきりと聞いたわけじゃないけど、二人の雰囲気を見てれば分かる。

気を許し合った最高のパートナーって感じで二人で一緒にいるときが一番輝いている。

二人はずっとこうであってほしい。



私と違って皆前に進んでいく。


私だけが過去としっかり向き合えていなくて、ずっと足踏みしているみたいだ。


私にも前へ進めるときが来るのだろうか…




大学生編開始です。

社会人編へ向けた合間の話になると思います。

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