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勘違い系○○  作者: 流音
第二章:高校生
81/218

2ー75誓い


『紗英を俺にください』


私は目の前の吉田君を見つめて信じられなかった。


確かに言ったよね…?

これってプロポーズ…!?


理解した瞬間全身の血が沸騰するようだった。

吉田君の手のひらにある私の手が熱を持ってきて汗が滲む。

吉田君は私と同じように顔から耳まで熱を帯びて真っ赤だった。

その表情はいたって真剣で本気だというのが読み取れた。

返事をしなきゃと思うのに気持ちが高ぶって上手く声が出ない。

嬉しくて、言葉に表せなくて涙になってこぼれ落ちる。

空いている方の手で目を擦って、涙を拭っても次から次に溢れてきて止まらない。


「……紗英、俺のそばにいてくれるか?」


吉田君が私を熱い視線でみて言った。

私は涙が溢れて止まらない目を細めて、精一杯の笑顔を作ると頷いた。


嬉しい……

最高のプレゼントだよ…


吉田君は私の左手の薬指に口づけすると、その手を引き寄せて私を抱き締めた。

私の涙が吉田君のシャツを濡らしていく…

私も吉田君を抱き締めて、吉田君の温かさを感じた。

私は首を動かして吉田君の首筋に顔を埋めた。

そのときに吉田君の首に赤い痕がついているのが目に入った。


それを見たとき宇佐美さんの言葉を思い出した。


『見れば私達の関係が分かりますよ』


きっと私と吉田君の関係を壊したくて言っていたんだ…と今なら理解できる。

私がこれを見る事で吉田君との仲を壊そうとしたんだろう。


でも、目の前の吉田君は私だけを見てくれていて、そんなことするはずないのは伝わる体温で分かる。


宇佐美さんはどうしたいのだろう…?


吉田君と一緒にいる時間が幸せな反面、一つの疑問が浮かんで染みとなって私の中に残った。



私は涙がやっと収まってきたとき、吉田君を抱き締めている手を強くして言った。


「今日は帰りたくない。」


吉田君は体を一瞬震わせたあと、私の体を引き離して私の顔を覗きこんだ。

吉田君は顔の筋肉を不自然に動かしていて、複雑な表情をしていた。

私の体を支えてくれている手が熱い。


私は迷っている吉田君にもう一度言った。


「こんな気持ちのまま帰れない。一緒にいたい…」


吉田君は泣きそうに顔をしかめると、俯きながらゆっくりと頷いた。

私は吉田君の顔を両手で触れて私の方に向けると、自分から吉田君の唇に口づけた。


大好き…


私の気持ちが伝わってほしいと願った。


それが通じたのか吉田君の腕が私の体に回されて、強く抱き締められる。

次第に口づけが強く熱を持っていく。

息が苦しくなってきて、少し唇を離して薄く目を開け吉田君を見つめると、吉田君が私の頬に軽くキスをした。

そして私にはにかむような笑顔を向けた。

私は同じように笑うと吉田君の首に抱きついた。


その反動で吉田君の方向に倒れたあと、横向けに転がる。

顔を見合わせて笑って、また抱きついた。


ずっとこうしていたい…


私は吉田君の匂いと体温の温かさを感じながら、目を閉じた。

そして彼といる安心感の中で眠ってしまった。





私は鳴り響く電話の音に目を覚ました。

最初に起きたのは私で目を開けたとき、目の前に吉田君の顔があって驚いた。

状況を理解してから、自分が吉田君の腕を枕にしていることに気づき急に恥ずかしくなった。

でも静かに寝息を立てている吉田君を見て愛おしくて頬に手を当てて軽く唇を合わせた。

ちょっとした悪戯心だった。


そして私は電話の音に気づいて吉田君を起こす。


「吉田君!吉田君、起きて!」


私の声に吉田君は顔をしかめてから、ゆっくりと目を開けた。

私は目の前で微笑んだ。


「おはよ。」

「……え…?…紗英…?」


吉田君は寝惚けてるみたいだった。

目を擦って私を見つめる。


「あのね、電話鳴ってるんだけど…」

「……ぅえ!?」


やっと目覚めたのか慌てて起き上がる。

私は体を起こして、吉田君を見上げた。


「あ、本当だ。」


それだけぼそっと言うと立ち上がって、部屋を出ていってしまった。

何だかまだ寝惚けてる…?


私はあんな吉田君を見たことがなかったので、おかしくて笑いが漏れた。

そして今何時だろうと時計に目をやると、夜の9時過ぎだった。

それを見てやっぱり家に帰らないと…と思い、制服を整えて立ち上がると鞄を持って部屋を出た。


今の時間ならギリギリ怒られないはず…いや怒られるか…

言い訳を考えながら階段を下りると、吉田君の驚く声が聞こえた。

私は話し声の聞こえる居間に目を向ける。


何かあったのかな…?


私は心配になって居間に向かった。

そして顔だけで居間を覗きこむと、話し終えたのか受話器を置く吉田君が見えた。

吉田君は受話器を置いた態勢から少しも動かない。

不思議に思った私は吉田君に声をかけた。


「吉田君?大丈夫……?」


私の声で我に返った吉田君は驚いた表情のままでこっちを向いて告げた。


「父さんが…事故にあって…運ばれたらしい…。」


「えっ!?」


私は驚いて吉田君に駆け寄った。

吉田君は一瞬フラつくと頭を押さえて言った。


「行かないと…」


吉田君は引き出しの中を漁って何か封筒のような物を取り出すと、部屋へ向かって走り出した。

私は後を追いかけながら、どうすればいいのか分からなかった。

事故にあったなら、病院だよね…

どこの病院なんだろう…?

吉田君はとりあえず鞄だけ下げると玄関へ向かって走る。

後に続きながら胸が不安でいっぱいになる。

私はその背中を見て、思った事を口に出した。


「吉田君!私も行く!!」


吉田君は靴を履きながら、振り返らずに言った。


「父さんは東京まで出張に行ってて、そこで事故にあったんだ。

気持ちは嬉しいけど…連れてはいけないよ。」


東京!?

私はそこまで行くお金も持っていない。

だいたい今から電車に乗ったら着くのは深夜じゃないだろうか?


「でも…」


お金はないし、足手まといになるのは目に見えているけど吉田君一人で行かせるのは嫌だった。

何か方法はないか考えを巡らす。

吉田君は靴を履き終えると、私に振り返って手を差し出した。

私はつられて手を伸ばすと、手のひらに何かを渡された。

それを見ると鍵だった。


「家の鍵。紗英に預けるよ。」

「えっ?鍵って…」

「紗英なら安心して任せられるし…それに帰ってきたとき一番に会いにいけるからさ!」


その言葉を聞いて私が不安になっているのを安心させようとしてくれているのが分かった。

吉田君が一番不安で心配だろうに、私は気を使わせてしまって情けなかった。

私は鍵を握りしめると頷いた。


「うん。待ってるから、必ず帰ってきて。きっとお父さんも大丈夫だよ。」


吉田君はいつものくしゃっとした笑顔を浮かべると玄関を出ていく。

私は後を追いかけて外に出ると吉田君の背中を見つめて叫んだ。


「私も誓うから!ずっと吉田君を待ってる!」


吉田君は振り返ると口の横に手を当てて言った。


「必ず一番に会いにいく!」


そして吉田君は手を振って走っていった。

私はその背中を消えるまで見つめて願った。


どうか、お父さんが無事てありますように…

吉田君と二人でこの家に帰ってきますように…と…




でもその願いは空に登って、消えてなくなってしまった…


なぜなら、


吉田君は二度と姿を見せることはなかったからだ。



彼は今どこにいるのか…



大人になった今も分からないでいる






高校生編 完


高校生編おしまいです。

次からは大学生編になります。

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