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勘違い系○○  作者: 流音
第二章:高校生
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2-71図書館


だんだん気温も上がってきた五月――――


私のクラスは三年になってもクラス替えはないので、二年と変わらない学校生活を送っていた。

ただ進路の事だけが頭を過っていく。

このまま西城の大学に進むにしても学部をどうするか考えなくてはならない。

もう二年の間に演奏分野は諦めてしまっていた。

私はプロになったりする器じゃない。

ただ音楽が好きなだけなので、音楽関係の仕事には就きたいけど分野が色々あって決められない。

はぁとため息を吐き出して、私はいつも通りの時間に駅に降り立った。

するといつもと同じ場所に吉田君が待っていた。


吉田君を見ただけで進路がどこかに飛んでいって、頭の中が吉田君一色になる。


「吉田君、お待たせ!」


吉田君は私を見ると目を細めて笑った。

吉田君は私を見ると最初いつもこの笑顔になる。


「いつも通りだな。今日はどっか寄って帰る?」

「う~ん…どうしようかな…。あ、勉強しよっか!!」

「勉強?」


私は吉田君が大学を目指していることを知っているので、できるだけ協力したかった。

吉田君は少し考えたあと頷いた。


「うん。いいな。紗英に教えてもらうとか楽しくなりそう。」

「じゃあ、家来る?」

「いや…平常心で勉強できないから…」


私の家だと緊張するってことかな…?

考えてリラックスできる場所を口に出す。


「じゃあ、吉田君の家にする?」

「へ!?あ…と、今日父さん帰ってこないから…図書館にしようぜ!!」


お父さんがいないと聞いてちょっともったいない気がした。

何だか二人っきりがイヤみたいに聞こえる。

ムスッと吉田君を見ていると、吉田君は私の気持ちに気づいたのか焦って言い訳してきた。


「二人っきりが嫌なわけじゃないんだ!!本当!!」


じゃあ何で…とじとーっと吉田君を見ていると

吉田君は真っ赤な顔になって、消え入りそうな声で言った。


「…その…二人っきりだと…我慢できなくなりそうで…」


その言葉に私は全身の体温が上昇した。

鞄を持つ手に汗をかいて気持ち悪い。

真っ赤な顔で俯く吉田君を見て、私は焦って言葉を返した。

声が裏返る。


「じゃ…じゃあ、図書館行こ!ね!!」

「そ…そうだな!!」


二人で焦っている姿が何ともおかしい。

でも、私にはそこまでの勇気はなかった。

ぎこちない歩き方で二人並んで図書館に向かう。


そのとき、私はふと視線を感じて振り向いた。

辺りを見回したとき、一人の女子高生と目があった。

吉田君と同じ高校の制服をきた女の子だった。

私は吉田君の知り合いだろうかと首を傾げたとき、その子は鋭い目で私を見た後立ち去っていった。

隣の吉田君は気づいていないようで、さっきと変わらず視線を上に向けて気を紛らわそうとしている。

少し気になったけれど、誰かも分からないので見なかった事にした。




***




図書館につくと、私達は読書している人の邪魔にならないように端の方の席に並んで座った。


「紗英、俺最初は自分で勉強するよ。分からなくなったら教えてくれるか?」

「うん。わかった。」


私は自分も勉強をしようと問題集を鞄から出す。

吉田君は問題集、ノート、筆記用具を出すと、手慣れた様子で問題集のページを開いて勉強し始めた。

すごい集中力で黙ったままシャーペンを動かしている。

私も負けられならない!と気合いを入れると問題集に目を落とした。



しばらくの間ノートにシャーペンを走らせる音だけが響く。

私は手を止めて上に大きく伸びをすると、横の吉田君を見た。

彼は問題集のページを捲りながら、動かす手を全く止めない。

すごく真剣だなぁ…

私は机に頭をつけて吉田君の横顔を眺めた。

吉田君はそんな私を気にも止めない様子だった。

質問もこないし、吉田君と一緒にいるのに何だか寂しいなぁ…

私はまた勉強をする気も起きず、吉田君の横顔を見つめたままでいるといつの間にかゆっくりと目を閉じて眠ってしまった。




何だかくすぐったい…


気づいたとき最初にそう思った。

私は誰かが私の首元を触っている感触がしてゆっくり目を開けた。

ぼやける視界の先に吉田君がこっちを見てるのが分かった。

何度か瞬いて視界をはっきりさせると、私を触っているのが吉田君の手だと認識する。


「吉田君…?」


私は私の首元を触っている吉田君の手に自分の手を重ねた。

触れた瞬間、吉田君の手がビクッと震えた。

それが伝わって少し顔を動かして吉田君を見ると吉田君の頬が紅潮していて、私を見る目が見開かれていた。


「ごめっ…!!」


吉田君はすばやく手を放すと、視線を問題集に戻してシャーペンを動かし始めた。

私は彼の横顔を見たままゆっくり体を起こすと、さっきまで吉田君の手があった首元を触る。

くすぐったかったけど…気持ち良かったな…

私はまだ熱を持ったままの吉田君の横顔を見て手を伸ばした。

頬から首筋にかけての場所に優しく触れる。

触れた瞬間吉田君のペンを動かしていた手が止まって、視線だけが私の方を向いた。


「くすぐったいけど、気持ちよくない?」


私が感じたことを尋ねた。

すると吉田君は少しだけ私の方に顔を向けて、私の手を肩との間に挟むように首を傾げて目を瞑った。

私の手が吉田君の体温を感じる。

それが私の体に伝わって嬉しくなる。


「紗英。お願いがある。」

「…何?」


吉田君は少し目を開けて言った。


「俺も触りたい。」


吉田君の熱い視線にドキッとしたが、「いいよ」と答えて微笑んだ。

吉田君は私に手を伸ばすと、私と同じように首筋に触れてきた。

大きくて渇いた手が触れてきて自分の鼓動が大きく聞こえる。

私の手にも吉田君の速い鼓動が伝わって一緒になるようだった。


「…ふふっ…やっぱりくすぐったい…。」


私がそう言って笑うと吉田君も同じように笑った。

そのとき誰かの咳ばらいが聞こえて図書館だったことに気づいた。

吉田君も同じだったようで、手を放して問題集に目を落として言った。


「勉強するか。」

「う…うん。」


私は問題集に目を落としてから、公衆の面前でなんてことをしてしまったんだと自己嫌悪していた。

熱い頬を両手で押さえて、さっきまでの事を頭の隅に追いやる。

目をギュッと瞑ってから目を開けたとき、私の視線の先に見たことのある女の子がいるのが目に入った。


あれ…あの子…?


駅前で見た西ケ丘高校の制服を身にまとった女の子だった。

視線を逸らさずにこっちを見ている。

私はさすがに怖くなって目線を逸らした。


誰…?


心臓がさっきとは違う動悸を奏でる。

私はおそるおそる顔を上げると、その子の姿はなくなっていた。

ほっと胸をなで下ろして、言いようのない不安が広がっていく。


ただの女の勘でしかないけれど、

あの子はヤバい…そう思った。




図書館デートは作者のただの憧れです。


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