2-68恭輔の対談
どうも、紗英の兄の沼田恭輔だ。
聞いてくれ…
俺の大事な妹にとうとう男ができた。
しかも父も母もその男を気に入ってしまった。
俺が彼女を紹介した時はあんなに反対されたのに…何でだ!?
これは由々しき事態だ。
俺が頼りない父と母に変わって、あいつを見定めようと思う。
でも時間がなく俺は明日には寮に戻らなければいけない。
今日中にあいつを捕まえて話を聞くことにする。
あいつと二人で話をするためには紗英に何も聞けない。
なのでとりあえず人通りの多い駅前で張ってみた。
ああいうチャライ男は必ず姿を見せるはずだ。
うん。待つのも飽きてきたな。
仕方ない…ブラブラ探すことにしよう。
お?今カラオケから出てきたのは奴じゃないか!?
俺は4人組の男子高校生の集団に奴を見つけた。
近寄って驚かしてやろう。
「よう!」
「きょ…恭輔さん!?」
はは!驚いてやがる!
ひとまず成功だな!!
お?俺と似た体格のごつい奴がいるな目つきも悪い。
「竜聖さん、こいつ誰なんすか?」
こ…こいつ…中々鋭い目をしてやがるな…
少しビビっちまった。
「紗英のお兄さんの恭輔さんだよ。睨むな。」
目つきの鋭い奴はこいつの言う事に従って大人しくなりやがった。
こいつ…初めて会ったときも思ったが何者だ?
「紗英さんのお兄さんッスか!?うわー大きいッスね!」
うお!?何だ、この子犬みたいな男は!!
しっかり食べてんのか!?
それに横のメガネ!じろじろ見るんじゃねぇ!
「絡むな、お前ら。ところで恭輔さん、俺に何か用ですか?」
「あぁ。少し話を聞きたくてな。」
「二人の方がいいですか?」
「ああ。」
あいつは友達なのか手下なのか分からねぇ奴らに帰れと命令している。
またそいつらも素直に帰っていきやがる…
ただもんじゃねぇな…こいつ…
「それで、何の話ですか?」
そいつは俺の目をまっすぐ見て訊いた。
俺は一度咳払いすると、言った。
「お前…どうやって親父たちに取り入った?」
「取り入ったなんて人聞き悪くないですか?俺は普通に話をしただけですよ?」
「普通なんて信じられるか。俺が彼女を普通に紹介したときは大反対だったんだよ!」
「へぇ~…それ、ほんとに普通だったんですか?」
こいつ…ケンカうってんのか…!?
あいつのまるで俺を尊敬していない目に腹が立ってきた。
「お前なんか俺のこと怒らそうとしてねぇか?」
「してませんよ!!俺は恭輔さんと仲良くなりたいんです。」
こいつ…裏のある笑顔なんて見せやがって…
そんな言葉信じられるか!?
紗英はこんな奴のどこがいいんだ?
俺が悶々と考えていると、横からトーンの高い声が聞こえてきた。
「あ、竜聖君だ!竜聖君!!」
声の方を見ると女子が二人走ってやってきた。
紗英とは正反対のギャル系女子だ。
うん…なかなか可愛い。
「春休み中に会えるなんて思わなかった~!これって運命だよね?」
「本当!本当!!嬉しいなぁ。」
女子二人があいつの腕にすり寄っている。
なんて羨ましい奴だ!!変われ!
でも奴は顔をしかめると腕を引き離して、俺の後ろに移動してきた。
そして手振りでシッシッと追い払っている。
「お前ら…俺に近づくなって言っただろ!?来んな!!」
何てひどい物言いだ!!可愛い女子高生に向かって最低だな!!
「えぇ~!ひどーい!!」「私たち何かした!?」と女子たちは口ぐちに言っていたが、こいつが本当に迷惑そうにしているので仕方なくその場を立ち去って行った。
あからさまに奴は俺の後ろでほっとしていた。
俺はそれを見て黙っていられなかった。
「お前!可愛い女の子に失礼だろうが!!」
「は!?」
「もっと言い方があるだろう!?」
俺が怒りを露わにしているというのに、こいつは俺をじとーっと見てからため息をついた。
「……あいつら面倒なんですよ。以前あいつらのせいで紗英に誤解されましたし。
それとも、俺が紗英以外の女と遊んでてもいいんですか?」
「――――んうぬぁに!?」
紗英以外の女と聞いて頭に血が上った。
こいつ紗英と付き合いながら、あの女の子にも手を出しやがったのか!?
「紗英以外の女子なんてどうでもいいんですよ。だから言い方なんて気にしてられませんって。」
その言葉に俺は怒りの拳を少し収める。
うん?紗英のためにああいう言い方したってことか…?
少し見直したついでに聞きたかったことを聞いてみた。
「…お前モテるんだなぁ。それじゃあ、紗英以外にも言い寄る女子いただろ?何で紗英なんだ?」
「……紗英しかいないですよ。言葉で説明なんてできないです。」
奴は俯いて頬を赤く染めていた。
その横顔に不覚にもドキッとしてしまった。
ううん…こいつなりにちゃんと紗英の事は想ってるんだよなぁ…
じゃあ、その心構えを試させてもらうとするか。
「そういえばこの間家で紗英のこと押し倒してやがったが、あれから紗英に手ぇ出したりしてねぇだろうな?」
奴は俺の顔を見て目を見開いたあと、気まずいのか口元を手で隠している。
手で隠された頬から耳にかけて真っ赤な肌が嫌な予感を引っ張ってくる。
「……出して…ないとは…言い切れない……です。」
「はぁ!?!?」
しどろもどろに答える奴の服を持って、締め上げた。
奴は苦しそうに顔をしかめていたが、薄く目を開けて言った。
「すみません!でも、大事にしようと思ってます!!」
「おい!!どこまでやりやがった!?また押し倒したのか!!」
「聞いてください!!!」
怒り心頭していた俺の手をあいつが掴む。
その力が思っていたよりも強くて、少し力を抜いて奴の体を下におろした。
奴はまっすぐ迷いのない目で言った。
「すみません。キスを一度だけ…でも、決してそのあとは何もしてません!
今後も嫌がることはしないと誓います!!」
俺は曇りのない奴の瞳を見て、少し考えたあと奴を放した。
「今後手を出してみろ。俺がお前をぶち殺しに行くからな!!」
奴は俺を見つめてしっかりと頷いた。
くそ…そんな正直に打ち明けられたら何も言えねぇよ…
こいつのまっすぐで正直な性格は嫌いじゃなかった。
紗英がこいつを好きな理由が少し分かった気がした。
でも、認めるなんてことは絶対にねぇ!!
俺は奴を睨んで一指し指を突きつけると言った。
「あと紗英を泣かせるような事してみろ。今後沼田家には関わらせねぇからな!」
奴は挑戦的な目で笑うと頷いた。
次は意外となかった二人のお話です。




