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勘違い系○○  作者: 流音
第二章:高校生
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2-67遊園地Ⅲ


俺は紗英と竜聖を追いかけていった観覧車の中で

二人がキスしているのを目撃してしまった。


勢いのまま二人の後の観覧車に乗ったは良いものの

まさか観覧車がてっぺんに着くころに見えるとは思わなかった。

ショックで観覧車の中で項垂れる。

隣に座っていた浜口が空気をぶち壊す声を上げる。


「気持ち悪いっていう私を置いてどこに行くのかと思ったら

あの二人のストーカーなんて、本郷君て分かんない人だね~。」

「うっせぇよ…。」


いつものように言い返す元気もなくなり、脱力感だけが俺を襲う。

浜口はため息をつくと、俺の肩に頭をのせてきた。


「そんなに沼田さんがいいの~?」


決まってる。

あんな二人を見ても、俺の気持ちは変わらない。

紗英の姿が見えるだけでグイッと気持ちを持っていかれる。

何でこんなに好きなんだろう…

あいつがいるってわかってるのに…何で…


諦められない自分が苦しい

いつになったら普通になるのか想像もできない


黙っている俺を見て浜口は俺の顔を覗き込むようにしゃがんだ。


「私を利用してよ。本郷君。」

「は…?」


意味が分からず顔をしかめる。

浜口は俺の頬を両手で包むと笑った。


「沼田さんのことを諦めるために、私を利用して?」

「何言って―――――」


浜口が俺の顔を引き寄せ、強引に唇を重ねる。

俺は反射的に体を離すと観覧車の壁に背中をくっつけて下がる。


「なっ……!!」

「こうでもしないと前に進めないでしょ?」


しれっと答える浜口に俺は戸惑った。

なるべく浜口と距離をとりたくてじりじりと後ろ…いや横に下がる。

女子っていうのは自分からこういう事はしないもんだろ!?

何でこいつは…!!

肉食系っていうのか、浜口のこういうところが俺は苦手だ。


「私は利用されてもいいの。でも、沼田さんを見つめて落ち込む本郷君を見るのはイヤ。」

「…そ…そんなの俺の勝手だろ!?」

「勝手でもイヤなの!そんなに沼田さんに執着して良い事あるの!?」


執着…?

俺は浜口が言ったその言葉がひっかかった。

俺は紗英に執着してるのか…?

諦められないわけじゃなくて……?


浜口は俺の向かいに座ると不機嫌そうな顔で告げる。


「沼田さんはあの男の子と付き合ってる。

その現実を知ってて諦めないなんてただの執着でしかないじゃん!」


「…執着して何が悪い…。」


浜口に向かって言葉を返す。

浜口が驚いた顔で俺を見た。

俺はさっきの二人の様子を思い出して苦しい胸を掴んで吐き捨てる。


「…姿を見たら心が持ってかれるんだよ!諦められるならそうしてる!!

できないから…できないから執着してんだ!お前にとやかく言われる筋合いはない!!」


丁度観覧車が地上に着いたので、俺は浜口を置いてさっさと降りた。

早足で歩く。

言葉に出してはっきり分かる気持ち。

諦められない!諦められないから、こうするしかないんだ!!

浜口に当たったって仕方ないのは分かってる…

でもこの苦しさをぶちまけるしかできなかった。


早足で歩いている内に、前を歩いている紗英と竜聖を見つけた。

俺は紗英の背中目がけて足をさっきより早める。

後ろ姿に追いつくと、俺は腕を出して紗英を後ろから抱きしめた。


「――――へっ!?」


「翔平!?」


竜聖の驚いた声が聞こえたが構わずに紗英を力強く抱きしめる。

紗英の顔が動いて俺を振り返ったのが分かった。

回している手を紗英が掴む。


「翔平!何やってる!!離れろ!!」


竜聖に肩を掴まれた瞬間、俺は紗英を放すと竜聖を蹴とばした。


「―――――っだ!!」

「吉田君!?」


竜聖が転んだのを見て、紗英の手を掴んで走る。


「翔君!!翔君、やめて!!」


紗英が足を止めて抵抗してするので、俺は紗英に振り返ってギュッと力強く紗英の手を握った。


「少し…少しだけでいい…一緒にいてくれ…。」

「……しょ…翔君…?」


俺の懇願に紗英の抵抗する力が弱まった。

それを感じて紗英を引っ張ってまた走り出す。

背後で竜聖の怒鳴り声が聞こえる。


「待て!!翔平!」


人の多い所を目がけて突っ込むと、人をかき分けて前に進んだ。

アトラクションを右に左に曲がり、竜聖の追跡を避けるように進む。

紗英の足がゆっくりになってきた事を感じたときに

建物の隙間に身を隠すようにすべりこんだ。

壁に背をつけて竜聖が来ていないか様子を伺う。

傍で紗英が息を荒くしている。

竜聖が来ないことを確認すると紗英の前にへたりこんだ。


「ごめん…紗英。こんなことして…。」


俺が謝ると、紗英は息の上がった苦しそうな表情で首を横に振った。


「…はぁっ…いいけど…。何か理由があるんだよね?」


理由と訊かれて、俺は理由なんかないことに口を噤んだ。

ただ紗英と一緒にいたかっただけだ。

竜聖と一緒にいる姿を見たくなかっただけだ。

苦しい…

しんどい…

一体どうしたらいいんだ…

目の前の紗英が心配そうに俺を見つめる。

その目に姿に心が全部持っていかれる…

――――――体が勝手に動く。


「翔君!?」


俺は自分の心に従って紗英を抱きしめていた。

紗英が動揺して俺の腕の中で暴れている。


「お願いだ…少しの間でいい…このままでいさせてくれ…。」

「…翔君…。」


紗英なら受け入れてくれる…そう思っていた。

でも紗英は俺を引き離すとまっすぐ見つめて言った。


「翔君…ごめんね。それはできない。」


紗英の目は真剣だった。


「私は吉田君が好きなの。傷つけたくないし、吉田君の嫌がることはしたくない…

きっと今も必死で探してると思う。だから放して。」


俺は紗英を見つめたまま動けなかった。

目の前にいるのは紗英なのに…

以前の紗英とは違っているように感じた…

紗英はあの柔らかい笑顔を浮かべると言った。


「翔君は大事な友達…大好きだけど、吉田君とは違う…。

私の気持ち…分かってくれる?」


俺は紗英の優しい目を見て、暴走していた気持ちを胸の中に押し込んだ。

苦しいけど…受け入れないと…

紗英が困ってる…

俺はなるべくいつも通りの笑顔を浮かべて頷いた。

それを見て紗英がほっとしたように笑う。


「ありがとう。翔君。」


紗英が立ち上がるのに合わせて俺も立ち上がった。

建物の隙間から出ると、紗英を探す竜聖の姿が目に入った。

辺りを見回してキョロキョロしている。

紗英が竜聖に手を振って呼んだ。


「吉田君!!」


竜聖は俺たちに気づくと走って来た。

竜聖の俺を見る目が鋭く冷たかった。

俺は視線を下に向けて少し俯く。


「紗英!」


竜聖は紗英を自分の後ろに隠すように手を引くと

俺の前に立ち睨んできた。


「お前、何したか分かってんだろうな?」


今にも殴りかかりそうな竜聖に俺はため息をつくと謝った。


「悪い。もうしねぇよ。」


竜聖は拳で俺の胸を小突くと「男上げろよな」と言って背を向けた。

俺は竜聖の上からの物言いに拳を握りしめて言った。


「今は手を引くだけだからな!お前が隙をみせたら遠慮はしない!!」


あいつに対する最後の強がりだった。

竜聖は顔だけで振り返ると「バーカ、隙なんてねぇよ」

と嫌味ったらしい顔で吐き捨てていった。


悔しい…

でも今は二人の間に入り込むなんてできない…

それが分かっただけでも、この悔しさを乗り越えていけそうだった。


俺は遠くなっていく二人の背を見つめてから

顔をしかめて夕焼け空を見上げた。







遊園地編終了です!

次はお気に入りのタッグが出てきます。

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