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勘違い系○○  作者: 流音
第二章:高校生
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2-64沼田家


私たちは喫茶店を出ると自宅に足を向けていた。

なぜかお兄ちゃんを真ん中にして並んでいる現状に不服だった。

お兄ちゃんを挟んで反対側にいる吉田君が見えない。


話しかけようと顔を出すと、お兄ちゃんに前を向けと邪魔される。

さっきだってお兄ちゃんばっかり吉田君と話してしまって

私は口を挟めなかった。

何だか喧嘩腰なのが気になったけど…


本当何で今日に限って家にいるんだろう…?


私がムスッとしながら歩いている内に家についた。

門の前に来ると待ちわびていたのか

玄関が開いてお母さんが顔を出した。


「お帰りなさい。遅かったから心配してたのよ。」


お兄ちゃんがお母さんの横を通り過ぎて家に入って行く。

吉田君はお母さんを見て姿勢を正すと頭を下げている。


「はっ初めまして!吉田竜聖です。

紗英さんとお付き合いさせていただいています!!」


緊張している吉田君を見て悪いなと思いながらも

きっちり挨拶する真面目な姿が嬉しかった。


「初めまして。紗英の母です。どうぞ。」


お母さんに促されて吉田君が顔を強張らせて家に入って行った。

私は吉田君に続いてお母さんの横を通り過ぎて中に入る。

玄関の扉を閉めるときに母が笑顔で私を見て呟いた。


「思ってた以上に素敵な彼ね。」


私はその言葉に嬉しくなって、思いっきり頷いた。

私はさっさと靴を脱ぐと、吉田君をリビングに案内した。

リビングにはこれまた緊張しているお父さんが不自然に雑誌を見ていた。

吉田君はそれを見てまた頭を下げて挨拶しようとしていたが、

母に挨拶はいいから座ってと言われて

おそるおそる父の前の椅子に座っていた。

私は少しでも不安を取り除いてあげたくて、吉田君の隣に座った。


「お父さん。吉田竜聖君。

昨日も話したけど、今付き合ってるんだ。」

「吉田竜聖です!!紗英さんとお付き合いさせていただいてます!!」


焦って頭を下げた吉田君にお父さんは変に咳払いして雑誌を置くと

メガネを指で上げて口を開いた。


「紗英の父です。竜聖君はここに来るの嫌じゃなかったかい?」

「いえ!!せっかくご招待していただいたので…

ちょっと緊張はしてますけど嫌ではなかったです。」


私は二人の会話を聞きながら、何だか不思議だった。

お父さんと吉田君が一緒にいるなんて変な感じ。

そこへ母が4人分のお茶を持ってきてテーブルに置く。

母はお茶を出し終えると、話したくてうずうずしていたようで会話に加わった。


「竜聖君はどこの高校だったかしら?」

「近くの公立高校です。西ケ丘ってご存知ですか?」

「あら、すぐそばね!何か部活はしているの?」

「中学の時には野球をしていましたが、高校では何もしていません。」


お母さんはスポーツマンねぇと目を輝かせている。

話の主導権を奪われたお父さんが咳払いして口を開いた。


「単刀直入に聞くが、君は紗英とどういうつもりで付き合っているんだい?」

「お…お父さん!?」


この質問には私も黙って聞いていられなかった。

高校生にする質問じゃないでしょ!?

お父さんは目で黙ってろと言っている。


「…俺は…ただ好きだから一緒にいたいんですけど…それじゃあダメでしょうか?」


吉田君のまっすぐな答えに私はドキッとした。


「正直…将来どうなりたいかなんて想像もつかないですけど…

でも、この気持ちがずっと続くならずっと死ぬまで一緒にいたいです。」


吉田君の言葉に感動してしまった。

こんなにまっすぐで正直な人が他にいるだろうか?

私はお父さんとお母さんに吉田君を分かってもらいたかった。


「素敵ね……ねぇ、一ついいかしら?

紗英のどこがそんなに良いのかしら?」


お母さんの問いに吉田君は私の方を向いた。

私は目が合ってドキッとしたけど、吉田君はすぐに前に視線を戻すと言った。


「一緒にいて安心するところ…だと思います。

俺、全然真面目じゃなくて…腐ってた時期もあったんですけど…

紗英…紗英さんと出会って気持ちが丸くなって前向きになったんです。

そういう人を優しい気持ちにさせてくれる所も好きな所です。」


「上手く言えないですけど…」と照れている吉田君を見て、

私は胸がギュッと締め付けられて苦しかった。

そんな風に思ってくれているなんて知らなかった。

嬉しくて…嬉しくて顔が自然に笑顔になる。


お父さんが「よく見てるな…」と呟いてお茶を飲んだ。

お母さんなんか私に匹敵するぐらい感動してるみたいだった。

目をキラキラさせて吉田君を見つめている。


「君はしっかりしているな。

きっと将来のこともきっちり考えているんだろう?」


お父さんが将来…要は進路のことを聞いていて、

私も気になって吉田君に注目した。

吉田君は少し悩むと口を開いた。


「まだはっきりとは決めていないんですけど、大学には行こうと思っています。

そしてできれば将来はスポーツ関係の仕事に就ければと…

簡単な道じゃないのは分かってるんですけど…」


吉田君の進路を初めて聞いた。

吉田君が大学に行くと聞いて、私は一緒の大学に行きたいと思ってしまった。

でもうちは大学まである私立校なので、きっとこのまま西城にいるだろう。

それが少し悲しかった。


お父さんは満足したようで、珍しく笑顔を浮かべていた。

「そうか」と言うとお父さんは私を見た。


「紗英。良い青年だな。隣を歩けるようにお前も頑張らないとな。」

「うん。負けないように頑張る。」


お父さんに認めてもらえた事が嬉しかった。

お母さんは思い出したように手を叩くと明るい声で言った。


「そうだ!晩御飯食べていってもらいましょう!

準備するから…紗英、あなたのお部屋で待っててもらって。」


ご飯まで一緒に食べられると私は嬉しかったけれど、吉田君はどうかと顔色を伺う。

吉田君は笑顔で頷いてくれたので、私たちは立ち上がって部屋に移動することにした。

お父さんが何か言おうとしていたけれど、

お母さんに手伝って!と言われてしぶしぶ台所に向かって行った。



私は二階にある自分の部屋まで吉田君を案内した。

隣のお兄ちゃんの部屋から音楽が聞こえているのがうるさかった。


「どうぞ。」


吉田君はもの珍しそうに部屋に入ると、部屋の中を見回した。

私はおかしなものを置いてなかったか確認する。

アニメのDVDや大量のマンガはクローゼットの中なので大丈夫なはずだ。

表向き可愛い女子の部屋を装っているので、平気なはずと部屋を見て

パソコンの前に置かれているゲーム機に目が留まった。

私は慌てて隠そうと走ったが、手遅れだった。


「あ、ゲーム置いてある。」


吉田君の目に入ってしまい私は恥ずかしくて真っ赤になる。

ゲームと吉田君の間に割り込むとひきつる笑顔で言い訳する。


「えと…これはお兄ちゃんので…決して私のものでは…。」

「俺、ゲーム好きだから紗英が好きだって知れて嬉しいけど?」


吉田君は私を安心させるように笑った。

もしかして…何か見透かされているのかな…

バレたものは仕方ないので、諦めてその場に座った。

隣に吉田君がため息をついて座る。

けっこう大きなため息だったので、気になって尋ねた。


「やっぱり…緊張した…?」

「当然だろー…。あー良かった。変なこと言わないですんで…。」


頑張ってくれた姿が嬉しくて、腰を上げて吉田君と距離を詰めた。


「ありがとう。私、ただ喜んでただけだった。」


吉田君はいつものクシャっとした笑顔になると私の肩に頭をのせた。

突然の行動に驚いたけど、首にあたる吉田君の毛がくすぐったくて目を閉じた。


「はぁー…やっぱ紗英の隣が一番安心する…」


本当にほっとした言い方に笑いが漏れる。

私が笑っているのが気に入らなかったのか吉田君は頭を上げると

私の顔をじっと見てから頬に口づけてきた。

急なほっぺチューに驚いた私は吉田君を見て目を見張った。


「はははっ!この間のお返し!」


子供っぽい仕返しに私はいたずら心が擽られて、

両手で吉田君の頬を掴むとグリグリと揉みくちゃにした。


「お返しのお返し!!」


すると吉田君ものってきて

私の頬を手で挟んで同じように仕返ししてくる。


「…っふふ!くすぐったーい!!」


吉田君の手は大きくて首の方まで擽られて

逃げようとして後ろ向けに倒れる。

押し倒された形になり、吉田君を見上げて動きを止めた。

吉田君も今の状況に戸惑っているのか動きを止めて私を見下ろしている。

お互いが頬に手を当てたまま硬直する。

静かな時間が流れた。

吉田君の頬に触れている私の手が熱を持ってきたことが分かったとき

吉田君が顔を赤くさせていた。

私の頬から手を放して、床に手をついた吉田君はゆっくり私に顔を近づけてきた。

私は期待して目を閉じたとき、部屋の扉が大きな音を立てて開け放たれた。


「何やってる!!」


私たちはそろって扉に顔を向けると、

そこには仁王立ちしたお兄ちゃんが立っていた。

私も吉田君も全身の血の気が引くのを感じた。

慌てて起き上がると、お互い距離をとる。


お兄ちゃんは吉田君に近づと吉田君を羽交い絞めにして引きずって行く。


「お前、ちょっと来い!」


あまりの剣幕の様子に私はその場を動けなかった。

吉田君は抵抗していたけど、体格の良いお兄ちゃんには敵わないようだった。

私はというと吉田君がお兄ちゃんの部屋に連れていかれるのを見送ってから

我に返るとお兄ちゃんの部屋に走った。


お兄ちゃんの部屋にはカギがかかっていて入れなかった。

私は何度も扉の前で懇願したけれど、

結局吉田君は晩御飯のときまで返してもらえなかった。



読んでいただきましてありがとうございます。

次からはデート編です。

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