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勘違い系○○  作者: 流音
第二章:高校生
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2-63お兄ちゃん


春休み突入―――――


今日は紗英のお宅訪問の日だ。

俺は紗英からこの話を聞いたとき、どうしようかと思った。

正直真面目に生きてきた人間でもない。

腐ってた時期もあった。

そんな俺が紗英のご両親に会ってもいいものなのだろうか?


緊張して喉が渇いてきた。

俺は紗英と待ち合わせている駅で

落ち着かなくてうろうろしていた。

すると紗英が一人の男と一緒にやって来た。

俺は誰だろうとその男を見つめた。


「吉田君!お待たせ!ごめんね、遅れちゃって…。」


紗英が謝っているのを聞きながら、俺は横に立つ男を見上げた。

俺より10cmくらい高い背に体格の良い肩幅。

ラグビーでもやってそうだなと思った。

表情は険しく俺を睨んでくる。

俺は立ち向かおうかとガンを飛ばす。


「お兄ちゃん!!吉田君を睨まないで!」


お兄ちゃん!?

紗英の言葉を聞いてガンを飛ばすのをやめて頭を下げた。


「は…初めまして!!吉田竜聖です!紗英さんとお付き合いさせて…」


挨拶している途中に大きな手で顔を掴まれた。

下げてた頭を無理やり前に向けられる。

俺は目の前にあるお兄さんの姿に固まった。


「こいつが彼氏か?ひょろっちいなぁ?あ!?」


ガンをつけられ顔がひきつる。

こうもあからさまにケンカを売られると、買いたくなるのが俺の性分なのだが

紗英のお兄さんという事もあってグッと我慢する。


「ばかー!!」


紗英がお兄さんを鞄で叩いた。

紗英は涙目でお兄さんを睨んでいる。

それを見たお兄さんはしぶしぶ俺から手を放した。

紗英は俺に近寄ると、手を出して俺の頬に触れた。

俺は突然のことに全身に電流が流れたようにビクッと反応して顔を紅潮させた。


「痛くなかった?お兄ちゃん、すごく乱暴なんだ。ごめんね。」


紗英の手が俺の頬を撫でているのが、くすぐったくて首をすくめる。

するとお兄さんが紗英の首に腕を回して俺から引き離した。

俺を見下ろす怒りの目に、俺は愛想笑いを返す。


「もう!放して!!」


紗英はお兄さんの腕から逃れると、

俺の横に立ってやっとお兄さんを紹介してくれた。


「私の兄の恭輔です。いつもは寮に入ってて家にいないんだけど…

なぜか昨日帰ってきて…ついてくるっていうから…本当にごめんね。」


紗英の説明とお兄さんの態度でだいたい察した。

お兄さんは俺のことを認めてなくて、

紗英に近づく俺を排除するためにここにいるんだろう。

ずっと睨まれているその姿に俺は立ち向かう覚悟をした。


「お兄さん、よろしくお願いします。」


俺が手を差し出すと、お兄さんは不服そうに片眉を吊り上げて俺の手を叩いた。


「お兄さんじゃねぇよ。恭輔さんと呼べ。」


そう言うと恭輔さんは背を向けて歩き出した。

俺と紗英は顔を見合わせると、後についていった。




***



恭輔さんは家に向かうと思いきや、近くの喫茶店に入って行った。

俺と紗英は慌てて後に続く。

恭輔さんは席を見つけると、さっさと座ってしまった。

俺と紗英は恭輔さんの座った席に向かい、同じように腰掛ける。


「紗英、何でも好きなもの頼んで来い。」


恭輔さんが紗英を追い払うように手でシッシッと命令した。

紗英は頬をふくらませて不服そうな顔をすると立ち上がって

カウンターに向かって行った。

紗英が去ると恭輔さんはテーブルに肘をついて

俺の顔をマジマジと見てきた。


「な……なんでしょう?」


そんなにじっと見られると恥ずかしくなる。


「お前、紗英とはどこで会ったんだ?」


恭輔さんの態度は取り調べのようだった。

俺は息を吸い込んで気分を落ち着けると、まっすぐ恭輔さんを見た。


「中学です。一年のとき隣の席になったのがきっかけで…。」

「もしかしてあいつの中二のバレンタインチョコの相手、お前か?」

「え?ご存じなんですか?」

「あぁ…あいつひどく悲しんでたからなぁぁ??」


最後の方の語気が荒くなり、まずいと思った。

案の定、恭輔さんの機嫌が悪くなる。


「てめぇ…一回紗英のこと振ってるってことだよなぁ?あぁ?」

「いや、あのときはすれ違いがあって、正確には振ってない――――」

「んなことはどうだっていいんだよ。悲しませたのは事実だからなぁ。

そんな奴がなんで今頃ホイホイ出てきやがったんだ?」

「やっぱり紗英さんが好きだからですよ。」


俺の正直な気持ちに恭輔さんの表情が少し柔らかくなった。


「恭輔さんだってそうですよね?

好きじゃなかったら、付き合ったりしないじゃないですか?」


恭輔さんは黙って俺の話を聞いている。

俺は認めてもらうためには、紗英への想いをぶつけるしかないと思った。


「紗英の笑顔とか泣き虫なところとか心配性なところとか…

全部守ってあげたくなるんですよ。だから一緒にいるんです。」

「へぇ…。」


俺の言葉に恭輔さんはにやっと笑った。


「じゃあ、守るってんなら俺と勝負しろって言ったら、俺と闘えるか?」

「はい。俺で良ければ」


俺は勝つ自信はなかったが、闘えと言われればいつでもやれると思った。

即答した俺に恭輔さんはテーブルに肘をつくのをやめ、椅子にもたれかかった。

腕を組んで俺を見定めているようなそんな顔で言った。


「お前…ひょろちいのに度胸だけはありそうだな。なんか悪い空気を感じるぜ?」

「はは…俺のこと認めてくれたんですか?」


俺は恭輔さんの扱いに少し慣れてきていた。

恭輔さんは出会ったころの美合に似ている。

こういうタイプには弱みを見せたらダメだ。

真っ向勝負しかない。

恭輔さんはふっと口を緩ませると、目を瞑った。


「紗英は…何でも我慢するやつで…。

欲しいものがあってもダメだと言われれば諦めてた。」


俺はカウンターに並ぶ紗英を見て、お兄さんの話に耳を傾けた。


「でも、お前のことは諦めなかったんだな。

あんなに悲しんでたのに…紗英が変わったのはお前のおかげかな。」


少し寂しそうに笑う恭輔さんの表情と紗英の表情が重なった。

よく見ると目元と顔のパーツの位置がそっくりだった。

俺は少し分かり合えただろうか…とほっと息をついた。

そこへ三人分のコーヒーをトレイにのせた紗英が戻って来た。


「何話してたの?」

「何でもないよ。」


紗英に笑いかけたとき恭輔さんの平手が飛んできた。


「――――った!!」

「気持ち悪い顔で紗英を見るな。」

「はぁ!?」


理不尽な物言いに俺は恭輔さんを睨んだ。

さっきは少し分かり合えたかと思ったのだが、

この人紗英を前にすると別人のように俺を敵視しやがる!

俺は紗英が持ってきてくれたコーヒーを飲んで、

恭輔さんと目線でバトルを繰り広げた。




兄の恭輔初登場です。

恭輔と竜聖のコンビは気に入っているので今後も出てくる予定です。

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