2-62お試し期間
ホワイトデーの日、
俺はチョコをもらった女子にお返しをして回っていた。
そのとき以前告白された浜口に呼び出された。
話の内容に俺は驚いた。
浜口は俺が紗英に振られたことを誰かから聞いたらしい…
だから私と付き合ってくれとの事だった。
俺は紗英をあきらめるつもりはないから断ったのだが、
浜口は食い下がった。
お試し期間で一カ月だけでも良いと言われ、
浜口の必死な様子に一カ月だけならとしぶしぶ受けることにした。
でも今受けたことを少し後悔している。
四六時中どこにでもついて来られる。
おかげでホワイトデーでお返ししに行った以降
紗英にまったく会えていない。
というか浜口が一緒だと会いに行けない。
浜口にずっと監視されているようで、だんだんストレスが溜まってきた。
紗英以外の女子っていうのは皆こうなのだろうか?
教室を出ようとすると「どこ行くの?」と必ずついてくる。
俺には自由の時間も与えられていない。
疲れる…
俺は大きくため息をついた。
もうすぐ春休みなので
こんな生活とはおさらばできるはずだ。
それを希望に俺は横にいる浜口を見た。
浜口はニコニコしながら俺の腕にしがみついている。
「何?お前ら付き合ってるわけ?」
哲史がベランダにいる俺たちのところへやって来た。
俺は少しでも爽やかな空気が吸いたくてここへ休憩しに来ていたのだが、
浜口に見つかり横にしがみつかれた現状だった。
「付き合ってねぇ!!」
「嘘!!付き合ってるよ!ラブラブなの!」
俺は全力で否定したが、浜口は俺の腕にしがみついたまま笑顔でピースしている。
哲史は首を傾げながら俺の隣に座った。
「どういう状況か知らねぇけど、
その感じだと付き合ってるようにしか見えねぇよ?」
「なっ!?」
それを聞き俺は浜口を引きはがそうとするが、さすがスポーツ科女子。
力が強くてまったく離れない。
「なんかお似合いじゃん?」
俺たちがもみ合っている様子を見てか哲史が言った。
心外だ!!俺は紗英一筋なんだからな!
哲史はお邪魔かな~と言って立ち上がると教室の中へ帰っていった。
くそ!この状況なんとかしなければ!!
「浜口!いい加減にしろよ!」
「へ?」
俺が浜口を睨んで声を荒げるが、浜口はしれっとしている。
「俺たち付き合ってるわけでもねぇのに…これはやり過ぎだろ!?」
「何?本郷君だって沼田さんにしてたじゃない?」
「うっ…!!」
自分のしてきた行いに口を噤む。
確かに似たような…いやもっと際どい事をやってきた。
浜口は勝ち誇ったような顔で俺を見ている。
「私は本郷君が好きだから、何されてもいいもの。
さ、早く私のこと好きになって?」
「わっ!!」
浜口に押し倒されキスされそうになる。
必死に抵抗しているとき、窓から哲史が覗き込んだ。
「おーい!ってうわ!!やべ!!」
「どうしたの?」
哲史が慌てて引っ込み、何やら隣にいる生徒と話している。
俺は聞き覚えのある声に冷汗が出る。
今の声…
浜口を本気で押しのけようと力を入れたとき、
紗英が窓から顔を出した。
「え…。」
紗英は驚いた表情で固まってしまった。
俺は全身の血の気が引いた。
「あ、…お邪魔しました。」
気まずそうに目を逸らすと、紗英の顔が窓の向こうに消える。
俺は全身の力を振り絞ると浜口を押しのけた。
その瞬間に立ち上がると、窓から教室の中を覗き込んだ。
窓際に紗英と哲史、それに山森さんが話をしていた。
「違う!!誤解だ!!」
俺は窓から手を伸ばして紗英の肩を掴んだ。
紗英は驚いて俺を見ると、また固まった。
けっこう大きな声だったので、一瞬教室内が静まり返り俺に視線が注がれた。
俺は周りに目を泳がせてどういう状況か考えた。
そんな空気を打ち壊すように圭祐が俺の伸ばした手に自分の手を重ねた。
「接触禁止!!」
圭祐はそのまま紗英から俺の手を引き離すとひねりあげた。
「あだだだっ!!!放せ!圭祐っ!!」
俺は体をねじって痛みを和らげながら、圭祐に懇願した。
圭祐はふうと一息つくと俺の手を放した。
なんて奴だ。まだ根に持ってやがる。
俺は痛む手をさすった。
すると今度は足元にいた浜口が起き上がって
俺の首に腕を回してきた。
「ぅぐっ!!は…浜口!!やめろっ!!」
「なになに?何の話してるの?」
俺は浜口を引き離そうとするが、またこいつ力が強い。
紗英は苦笑いを浮かべて俺を見ている。
そんな目で見ないでくれ!!
哲史が俺たちを無視するように話し始めた。
「じゃあ、沼田さんも来るんだね?」
「うん。吉田君に話してみる。」
「了解。やったな、涼華。」
「うん!」
哲史が自分の彼女の山森さんに笑いかけている。
俺は話がまったく見えない。
俺は近くにいた圭祐を捕まえると訊いた。
「なぁ、これ何の話?」
「ああ、春休みに遊びに行くんだと。
山森さんと哲史、それに紗英ちゃんとその彼氏で。」
「は!?」
俺は胸の中に嫉妬心が生まれ、じっと紗英を見つめる。
ずるいな…俺も行きたい…でも二人一緒の姿を見るのは…
行きたいと言おうか考えていたとき、隣の浜口が声を上げた。
「はいはい!!私と本郷君も一緒に行っていい??」
「へっ!?」
浜口の提案に俺は横の浜口を見て驚く。
当の浜口は手をあげて、哲史を見ていた。
「別に…いいけど。」
「やった!!デートだね!本郷君!」
「ばっ!!」
デートという言葉を紗英に聞かれたくなくて、俺は浜口の口を手で塞ぐ。
おそるおそる紗英を見ると、唖然としたまま渇いた笑いを浮かべていた。
こいつ…最悪だ…
「じゃあ、また集まって色々決めようか?」
「いや、俺と涼華で決めて連絡するよ。いいかな?」
「うん。わかった。じゃ、また。」
紗英は哲史と話を終わらせると、ちらっと俺を見てから教室を出ていった。
山森さんは哲史に笑いかけてついていった。
俺はそれを見送ってその場に項垂れた。
横の浜口だけがやたらとハイテンションで俺は気分が悪かった。
浜口さん再登場でした。
こういう押しの強い子がいてくれると助かります。




