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勘違い系○○  作者: 流音
第二章:高校生
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2-61ホワイトデー


3月14日ホワイトデー―――――


私は吉田君に会うのにすごく緊張していた。

昨日駅前に加地君がいて、

今日の放課後あの公園で待っていてほしいと吉田君からの伝言を聞いた。

そのときは何で自分で言いに来ないのだろうかと思ったけれど、

ちゃんと話ができる機会なので従うことにした。


大丈夫。

きっとあれはただの勘違いだから…


私は公園のベンチに座って、自分に言い聞かせる。

前向きに考えていないとあの時の事が思い返されて

悪い考えへ持っていかれそうだからだ。

手を握りしめてふーっと細く息を吐き出したとき、

砂を踏みしめる音が聞こえて吉田君がやって来た。


私は吉田君と目が合うと胸がギュッとなるのを感じた。

やっぱり…あんなことがあっても…気持ちは変わらないや…

自分の気持ちに正直になろうと今までの考えを頭の中に押し込んだ。


「紗英。」


吉田君が私の前まで来て足を止めた。

吉田君は両手を後ろに隠していて、変な感じだ。

私はなるべく冷静に話そうと息を吸い込んで口を開いた。


「吉田君。…今まで会いに来なかったのは何で?」

「そ…それは…紗英に嫌われたんじゃないかって…色々考えてて…

でも分からなくて…会いに行けなかった。」


吉田君が眉間に皺を寄せて少し下を向いた。

私は吉田君の不安が伝わってきた。

それを感じて自分の気持ちを打ち明けることにした。


「私は…吉田君に好かれてる自信がなかった。

香水の匂いがして、私より好きな人ができたんじゃないかって思った。

別れたいのに…言い出せないんじゃないか…って…。」


「そんなことあるわけない!!」


吉田君は声を張り上げると一歩私に近づいた。

そして後ろに隠していた手を私の目の前に出した。

手には小さな花束が握られていた。

甘い香りが私の周りに漂う。


「これ……」


私はその花束を見つめてから吉田君の顔を見上げた。

吉田君の顔が少し赤く染まっていた。


「ホワイトデーだから!その…この花束は俺の中の紗英だ!」


私は言葉の意味が上手くつかめなくて、吉田君を見つめ続ける。


「あのきっつい香水の匂いは俺だって大嫌いだ!

俺はこの花束みたいな甘い香りのする紗英が大好きなんだ!!」


『大好き』

欲しかった言葉が聞けて胸が震える。

私はゆっくり手を出すと吉田君の手の上から花束を持った。

吉田君が少し潤んだ瞳で私を見た。


「ありがとう。私も吉田君が大好き。」


吉田君は安心したような顔で笑った。

私は吉田君から花束を受け取ると、匂いを嗅いで微笑む。

これが…吉田君の中の私…か…

吉田君と花束の組み合わせが似合わなさすぎて笑いが漏れる。

吉田君はそんな私が気になったのか、横に座ると私の顔を覗き込んだ。


「何で笑ってるんだ?」

「だって…こんな花束想像してなかった。」

「…俺だって…まさか自分が花束買うことになるなんて思わなかった。

でも、花屋さんの前に立ったらいい匂いがしてきて、紗英の顔が浮かんだ。」


「それが決め手だったかな」と笑う吉田君の顔は赤い。

彼が私のために選んでくれた事が嬉しかった。

嬉しさが募り、今までの不安がなくなっていく。

こんな単純なことだったんだと思った。

吉田君が目の前にいて、話をするだけでいつも通りに戻る。

考えていた時間がバカみたいだった。


「でも俺、板倉の友達の香水の匂いで紗英を不安にさせたんだよな?ごめんな。」


一瞬あの女の子と並んで歩く吉田君がちらついたが、笑顔で誤魔化した。

友達だったんだよね…信じていいんだよね…

胸に残る一つのひっかかりが消えてくれない。


「だからキスしてなんて言ったんだろ?俺、びっくりしたよ。

紗英との初めてはロマンチックにしなきゃって思ってたからさ!」


乙女チックな事を言う吉田君が意外だった。

手を出してこないのって…そういう理由だったんだ…

胸の中のもやもやが少し晴れる。

でも同時に、吉田君の中の理想に少し反抗してみたくなる気持ちが芽生える。

ロマンチックなシチュエーションを色々思い浮かべて

熱く話す吉田君の横顔を見て、私は思い切って行動を起こした。

吉田君の横顔目がけて自分の顔を近づけて、ほっぺたに軽くキスをする。


「――――っ!?」


吉田君が驚いてこっちを向いた。

私は微笑むと心の中でガッツポーズした。


「ほっぺチューだからいいよね?」


いたずらした子供のように笑いかけると、

吉田君の顔が真っ赤になっていく。

吉田君は口を開けたり閉めたりして何か言おうとしていたけど、

私は顔を前に戻してもう一度花束の香りを嗅いだ。


吉田君が私を好きなのは分かったし、何だかほっとした。


少し残る不安なんて、いつかきっと消えてくれるそう信じることにした。




***




あの後、吉田君は気疲れしたとかでフラフラしていたので

早めに別れることになり、私は家に帰って来た。


私は持って帰ってきた花束を母に見せようと、

ダイニングへ向かった。


「ただいまー。」

「あ、おかえりなさい。あら!?」


母は台所で何かしていたが、

私の持つ花束を見て慌てて近寄って来た。


「まぁ、綺麗なお花。どうしたの?」

「今日もらったんだ。花瓶ある?」


母は何か考えたあと、真剣な顔になって私を見た。

私は何だろうと首を傾げる。


「もしかしてこの間の男の子じゃないの?」

「ぅえっ!?」


私は吉田君と付き合っている事を親に話していなかったので

どう返そうか迷った。

母は何か確信めいたものがあるようで、追及の手を止めない。


「あなたの様子おかしいと思ってたのよ。

すごくニコニコしてるときもあればずっと落ち込んだり…情緒不安定だったもの。」


母の目にはそんな風に映っていたのかと驚いた。

親っていうのはすごい…。


「バレてたんだ…。実は2か月ぐらい前から付き合ってる人がいて…

今日ホワイトデーでしょ?それで貰ったの。」

「どんな子なの?」


母は興味津々といった表情で私を見ている。

私はすこし恥ずかしかったが、吉田君を思い浮かべて説明した。


「背が高くて、笑うとこうくしゃって可愛い笑顔になるの。

すごくまっすぐで真面目な性格で…すごくほっとする人…かな。」


何だか話していると良い所ばかりが浮かんできた。

母は嬉しそうに微笑むと私の手から花束を取って、台所に戻って行った。


「すごく素敵な人なのね。安心したわ。

今度お父さんがいるときにお家に連れていらっしゃい。」

「えっ!?」


まさかの話に私は母を見つめる。

母は花瓶に水を入れて、花束を花瓶に挿している。


「だってどんな人か見てみたいじゃない!

お兄ちゃんが彼女を連れてきた時も思ったけど、

本当に素敵な人か見てみないと分からないもの。」


「あ~…。」


私はお兄ちゃんの彼女を思い出して納得した。

私には兄が一人いる。

今は大学生で寮に入っているので滅多に帰ってこないが、

あるとき彼女ができたと連れて帰ってきたのがすごいギャルだったのだ。

素敵な人だと聞いていただけに、あのときの家族の衝撃といったらなかった。

母は卒倒して、父は新聞を握りしめてずっと震えていた。

私はそのギャルに絡まれていたのだが…

今は別れたのかどうなのか知らない。


母もアレを想像して不安なのだろう。

仕方ないかな…とため息をついて頷いた。


「わかった。来れる日を聞いて連れてくるね。」

「ふふっ。楽しみにしているわ。」


母は花瓶を私に渡して笑った。

さすが母だ。すごく綺麗に挿してある。

花束のお礼を言って、自室へ戻る。


私は吉田君にどう言って家に来てもらうか考えていた。



仲直りしました~。

次からはほっこりした話が続きます。


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