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勘違い系○○  作者: 流音
第二章:高校生
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2-56バレンタインデー(番外編)



紗英…上手くいったかな…


私は吉田の教室のある校舎を見上げていた。


3日前、紗英から電話をもらったときは驚いた。

中学のときのやり直しをしたいから、

吉田の教室の場所を教えてほしいって

何だか紗英らしい。


他校に来るなんて緊張するだろうに…

紗英はよほど後悔していたのかもしれない。


公開告白のことも驚いたけど、

紗英は吉田のことになると本当に大胆な行動に出るなぁ…

私は心の中で紗英を見直した。


私は顔を前へ向き直すと

今度は自分の番だと気合を入れた。


今日はバレンタインデー。

私だって誠一郎さんにチョコを渡すんだ!!


私は高校を背に西城へ走った。




***




私が西城へ着いたとき、ちょうど野球部の練習が終わる所だった。

本郷君たちがゾロゾロと部室へ向かっていくのが見える。

向こうも私に気づいたみたいで、

本郷君が友達に何かを言ってこっちに向かってくる。


「安藤、一体何しに来たんだ?紗英はもう帰ったぜ?」

「紗英のことは知ってるわよ。

あ、そういえば紗英に振られたんだってね?一緒の高校なのにねぇ?」


私はちょっとからかってやるつもりだったのだが、

本郷君は屁でもないようでふんぞり返って偉そうにしている。


「人間振られてからが本番なんだよ!

今日だってちゃんとチョコ貰ったしな!!」

「義理でしょ。」


私の言葉が効いたのか、少し落ち込んでいる。

でもそんな浮き沈みの激しい本郷君は初めて見た。

何か心境の変化でもあったのだろうか?

私は今の本郷君の方が親しみやすくて好きかも。


「まぁ、私は紗英の味方だからさ!ごめんね、応援はできないから。」

「はっきり言う奴だな。お前も振られてしまえ。」

「縁起でもないこと言わないで!!」


私は本郷君を蹴とばすとグラウンドに向かって走った。

後ろで「精々頑張れよ~」と本郷君の声が聞こえる。

優しいんだかなんだか分からない奴だ。


私はグラウンドに入ると、

監督さんと話をしている誠一郎さんを見つけた。

真剣な横顔に私は首をつっこまないでおこうと様子を見守る。

仕事に一生懸命な男の人の横顔っていいなぁ…

誠一郎さんをぼーっと見つめる。

何だか会うたびに好きになってる気がする。


誠一郎さんとは九月に告白してから休みに何度か会っている。

まぁ、デートってわけじゃなくて

あくまで公園で体力トレーニングみたいな事してるけど…

筋肉のつき方、正しいトレーニング方法を語る

誠一郎さんはすごくキラキラしてて輝いてる。

それを見ているのも好きなんだけど、

もっと前に進みたくて欲張りになる自分がいる。


やっぱり女としての魅力が足りないのかな?


考えてはため息が出る。

だって向こうは大人で、きっと何人もの人と付き合ってきたんだろう。

私は子供で恋愛経験もなくて…

きっと向こうは私にドキドキすることなんてないんだろう。

それがすごく寂しかった。


「あれ?麻友ちゃん?」


私は声をかけられハッと顔を上げる。

すると監督さんといつ話が終わったのか、

誠一郎さんがこっちに歩いてきていた。

私は慌てて駆け寄ると誠一郎さんに笑顔を向けた。


「お疲れ様です!今日バレンタインデーなんで、チョコレート持ってきました!!」


私は持っていた袋を差し出した。

誠一郎さんはそれを受け取ると、いつもの笑顔で言った。


「ありがとう。わざわざ。部活後で疲れてるでしょ?」

「いえ!平気です!!」


チョコレートをあげても顔色一つ変わらない誠一郎さんに不安になる。

私は渡すだけでドキドキしているのに、何だか一方的っていうか…

考えていると気分が落ち込んできて俯く。


「麻友ちゃん?」


誠一郎さんが不思議そうに声をかけたとき、

急に水が飛んできた。


「っひゃっ!!」


思いっきりかけられ、びしょびしょになる。

やっと放水が止むと男の子の声が聞こえた。


「すみませーん!!ホースが暴れて!大丈夫ッスか!?」


声の方を見るとグラウンド整備をしようとしている野球部員が見えた。

水道場でホースを持って声を張り上げている。

私はこれで大丈夫に見えるか!!と睨みつけた。

コートだけじゃなく中まで濡れている気がして、急に寒くなってきた。


「こら!!お前たち!彼女にきちんと謝れ!!」


誠一郎さんもびっしょりと濡れていたが、

私にそばにあったスポーツタオルをかけると野球部員を捕まえに走っていった。

私はさり気ない優しさに胸がギュッと掴まれたようだった。

野球部員を捕まえて戻って来る誠一郎さんを見て、顔が熱くなる。


「ほら!!ちゃんと謝れ!!」


「水をかけてしまい申し訳ありません!!」


誠一郎さんに頭を叩かれた部員たちが、

そろって帽子をとって頭を下げる。

私は一糸乱れぬ部員たちの姿に驚いて「いえ!」と返す。

誠一郎さんは満足したようで「戻ってよし!」というと私の腕をとった。


「こっち。着替えしないと、風邪ひくよ。」


私は手を引かれて、誠一郎さんの後についていく。

つながれた手の温かさがが気になって、どんどん顔が熱くなる。

ギュッと目を瞑ったとき、教官室と書かれた部屋の前に着いた。

階段を上って部屋の中に入ると、中はストーブがあってとっても暖かかった。


「とりあえず上脱いでて。着替えとってくる。」


誠一郎さんは私の手を放すと、奥へといってしまった。

私は靴を脱いで入ると、ストーブのそばに鞄を置いて上着を脱いだ。

あーあ…せっかくのコートがしっとりしてる…。

コートをそばにあった椅子にかけると、ブレザーとセーターも脱ぐ。

さすがにシャツは脱げないので、乾かそうとストーブに寄る。

手をプラプラと振りながら暖まっていると、誠一郎さんがジャージを持って戻って来た。


「こんなのしかなかったって…うぇ!?」


誠一郎さんは私を見た後、奇声を上げて私に背を向けた。

私は行動の意味が分からなくて首を傾げた。


「え?どうかしたんですか??」


「服!!早く着て!!透けてるから!」


誠一郎さんに言われて自分の姿を確かめる。

透けてるって…下キャミソール着てるしなぁ…

下着が見えてるわけでもないのに変なの。

初めて見る誠一郎さんの慌てっぷりが気になって、

上を着ずに誠一郎さんに近づく。


「あの~…透けてないですよ?下着てるし。」

「いや!女の子がまずいでしょ!!」


誠一郎さんの後ろ姿を見ると耳が赤くなってるのが見えた。

それを見て私の心臓が大きく跳ねて痛くなる。

誠一郎さんが照れるなんて初めてだ。

私はもっと見たくなって、思い切って前に出た。

そこにいた誠一郎さんは少し赤い顔で私を見て、すぐ目を逸らした。

何だかそれが可愛くて、体が勝手に誠一郎さんに抱きついた。


「ま…麻友ちゃん!?」

「……これで見えないですよ。」


我ながら大胆な事をしたと思う。

誠一郎さんに抱き付いたとき、誠一郎さんの早い鼓動が聞こえてきて

自然に笑顔がこぼれた。

私だけなんてことないんだ。

嬉しくなって腕に力をこめて抱きしめる。

誠一郎さんの胸に顔をくっつけて

冷たいシャツから伝わる温かい体温を感じる。

安心するなぁ~と思ったとき、誠一郎さんに引きはがされ

持っていたジャージで上半身をくるまれてしまった。

突然のことに目をパチクリさせて誠一郎さんを見上げると

誠一郎さんは照れた顔を手で隠していた。

そして大きく息を吐いてかすれた声で言った。


「麻友ちゃん…僕も男だから…そういうことされると困る…。」


何だか弱々しい誠一郎さんを見て、口から自然に出る。


「私は誠一郎さんが好きだから、いいんです。」


誠一郎さんが驚いて顔を上げる。

誠一郎さんをまっすぐ見ていた私と視線が交差する。

誠一郎さんはふっと笑顔になると諦めたように言った。


「やっぱり君には敵わないな。いつか本当に好きになりそうだよ。」


誠一郎さんの言葉に私は挑戦的に笑った。


「そうなってもらわないと私が困ります。」


そして二人で濡れたまま笑いあった。


誠一郎さんに気持ちは通じてる。

まだ好きって言わせることはできないけど

いつか必ず言わせてみせる


今日少しだけ誠一郎さんに近づけたみたいですごく嬉しかった。



麻友のお話でした。

彼女も頑張ってほしいと思います。

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