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勘違い系○○  作者: 流音
第二章:高校生
58/218

2-52一触即発


翔君が壊れた。


翔君に告白されてからこの一カ月

気の抜けない日々が続いていた。


事の発端は、告白された次の日に起きた公開キス事件。

私は翔君の事がずっと気がかりだった。

吉田君と気持ちが通じ合って嬉しい反面、

罪悪感で胸がいっぱいだったのだ。


なのに、翔君は私の想像をはるかに飛び越えてきた。

諦めないからと宣言され、

公開キスをされたことで学校中に噂が広まった。

今では私と翔君が付き合っていることになっている。


そしてその噂に乗じて翔君の行動もエスカレートする一方だ。

突然現れて抱き付かれるなんてマシな方。

下手したら唇を奪われそうでハラハラしている。

あの日以来なんとか死守しているけど、突然現れるので気が抜けない。


私も嫌なら翔君を突き放してしまえばいいのだけれど、

やっぱり翔君が大事で傷つけたくなくて今一つきつく言えない。


ため息をつきながら、吉田君の事を想う。

彼の事を考えると、胸が温かくなって幸せな気持ちになる。

思い返した笑顔に元気をもらって、気合を入れる。


よし!頑張ろう!!




***



私はピアノのレッスンを終えると、

周りを気にしながらレッスン室を出た。

翔君には私の時間割を知られている。

どこから現れるか分からない。


外から野球部の練習する声が聞こえてきて

私は窓からそっと翔君の姿を探した。

グラウンドで守備練習しているようで、

その中に翔君の姿を見つけてほっとした。


あそこにいるなら、今日は落ち着いて帰れそう。


気分が明るくなって、浮かれ気分で校舎を出た。

グラウンドの横を通って校門へ。

行こうとしたところで腕を引っ張られて抱きしめられた。


「紗英っ!」

「しょっ…翔君!?」


私は練習中だと思って警戒を怠っていた。

翔君は私の首筋に顔を埋めている。

吹きかけられる息に背筋がゾクッとした。


「や…何でいるの!?」

「休憩中。こうしてると安心する。」


私は首筋にかかる息が嫌で暴れた。

抱きしめられてドキドキしている自分も嫌だった。

後ろに逃げようとして足がもつれる。


「ひゃっ!!」


後ろ向けに倒れてしまったが、あまり痛くなかった。

目を開けると翔君が私の下敷きになっていた。


「しょ…翔君!?」


私は起き上がろうとしたが、

抱きしめられていたのでそれができない。

翔君は態勢を変えると、私を地面に押し倒した。


「いたた…紗英、大丈夫だったか?」


私を見下ろす翔君の顔はいつものからかっている顔じゃなかった。

本気で心配してくれている様子に調子が狂う。


「大丈夫。」

「そっか。良かった。じゃあ、お礼して?」

「……へ?」


翔君はいつものお調子顔に戻ると顔を近づけてくる。

私は息を吸い込むと咄嗟に持っていた鞄でガードした。


「何すんのっ!?」

「あたたっ…お礼だってば…。」

「や…め…てぇー……!!」


鞄を思いっきり翔君に押し付ける、

それでも力が弱まらないのでなんてしぶといんだと思った。

とりあえずこの態勢を何とかしなければと足をバタつかせたとき

頭上から声がかかった。


「おい。何やってんだ。」


翔君の力が弱まり、私も力を抜いて声の主を見上げた。

そこには吉田君の姿があった。


「吉田君!」


助かった!と思ったけれど、吉田君の表情を見て喜べなかった。

吉田君は眉間に皺をよせていて、

額には青筋が見えそうなくらい怒っていたからだ。


「おい、翔平。そこからどけよ。」

「何で?」


翔君は怒っている吉田君を見ても態度を変えない。

むしろ挑発しているようで、私は息をのんで見守るしかできない。


「ってめぇ…ケンカうってんのか!?」

「…ふー…今日は仕方ないか。」


翔君は吉田君の怒声にやっと私の上からどいてくれた。

吉田君はそれを見て、私に手を伸ばす。

私はそれに甘えて手を取って立ち上がった。

すると急に引き寄せられて吉田君の胸に頭が激突した。


「紗英は俺のだ。手ぇ出すんじゃねぇ。」


私は吉田君に力強く抱きしめられていて、状況が見えない。

後ろで翔君の笑い声が聞こえる。


「俺の…ね…。前、俺に言った態度と全然違うじゃねぇか。」

「前と今じゃ話が違う。」

「まぁ、せいぜい手を放さないようにしておけよ。」


その言葉を最後に翔君のスパイクの足音が遠くなっていった。

それを見届けたのか、吉田君の腕の力が緩んだ。

私は吉田君から離れると、吉田君の顔がいつも通りに戻っていて安心した。


「吉田君…何で、いるの?」

「何でって…!!紗英!なんなんだ!?今の!!」


吉田君が西城にいることが不思議だったのだが、

逆にさっきの状況を追及される。


「えーっと…翔君が私に気持ち打ち明けてから壊れたっていうか…

よくああやってからまれるようになって…。」

「よく!?よくって今の一回だけじゃないのか!?」

「う…うん。」


私の返答に吉田君が頭を抱えてため息をついている。

何か言ってはいけないことを言った気がして不安になる。

私はおそるおそる吉田君の顔を覗き込んだ。

すると急に私の方を見て、詰め寄られた。

肩を両手で掴まれて、私はギュッと肩に力を入れる。


「紗英!翔平を調子にのらせちゃダメだ!!

今までにいったいどんな事されたのか教えてくれ!!」

「えっ!?」


どんなことと聞かれ目を泳がせる。

本当のことなんか言えない…。

吉田君より先に翔君とキスしてる現実に汗が出てくる。


「抱き付かれた…ぐらいかな…?」


キスの件は隠して伝えたのだが、

これだけでもショックが大きかったようだった。

私の肩を掴む手に力が入っている。

吉田君は私の肩から手を放すと、私の手を掴んで歩き出した。


「えっ…?吉田君??」


吉田君は校門に向かって帰るのかと思いきや、

校門から左に見える校舎の影に私を連れて行く。

木や草が多い茂っていて、人は滅多にこない。

そこで立ち止まると、振り返って私を抱き寄せた。

さっきの翔君と同じように私の首筋に吉田君の吐息がかかる。


「よ…吉田君…どうしたの…?」


吉田君の息がかかるのがくすぐったい。

でもさっきと違いそれが嫌じゃなかった。

吉田君は私の首筋に顔を埋めたまま、かすれた声で言った。


「紗英は…俺の彼女だろ…?」

「……うん。」

「他の男に触られるのが嫌なことくらい…分かってほしい…。」


吉田君の言葉に胸がギュッと鷲掴みされたようになる。

私は吉田君に辛い思いはさせたくない…と思った。

吉田君を抱きしめて心に誓う。


「誰にも触らせないよ…約束する。

私に触っていいのは…吉田君だけだよ。」


私の言葉に反応して吉田君が私から離れた。

私は驚いて目の前の吉田君を見つめる。

目をパチクリさせていると、吉田君は顔を真っ赤にさせて背を向けた。


「そんなこと…っだぁっ!!」


吉田君の大声にびっくりして肩をすくめた。

吉田君はまだ赤い顔をこっちに向けて手を差し出した。


「帰ろ。」


私は笑顔で頷くとその手をとった。


気まずそうに照れる横顔が何だか可愛くて、

私は隣でずっと見ていたかった。





読んでいただきましてありがとうございます。

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