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勘違い系○○  作者: 流音
第二章:高校生
57/218

2-51前を向け


紗英と話した日の放課後――――


俺は部活に行く気もおこらず、

中庭のベンチに腰掛けてぼーっとしていた。


自分の手を見つめては握りしめて考える。

本当に正しかったのか…

もっと他にできることはなかったのか…

手を放してしまって良かったのか…


空を見上げて、白い息を吐き出す。


そのときスパイク特有の足音が聞こえてきた。


「翔平!!」


俺を探しに来たのか圭祐が俺を見下ろした。

俺は頭を戻すと、圭祐を見て口を開いた。


「何だよ?」

「何だよじゃねぇよ!部活始まってんぞ!!

監督に見つからないように早く来い!!」

「今日は行かねぇ。」

「はぁ!?」


圭祐は怪訝な目で俺を見て、首を傾げている。

俺は膝に肘をつくと前かがみになって打ち明けた。


「紗英に振られた。」


圭祐が息を飲むのが反応で分かった。


「紗英には別に好きな奴がいたんだよ。

俺はもう紗英に必要ない。」


「―――――っ!!!バカかっ!!」

「って!」


頭に圭祐の拳骨が降ってきて、

俺は頭を押さえて反射的に顔を上げて圭祐を見た。

圭祐は顔をしかめて泣きそうな顔でこっちを見下ろしている。


「必要ないなんて事ない!!

俺がっ…紗英ちゃんをあきらめたのはお前がいたからだ!!」


圭祐の胸の内を聞いて、目を逸らせない。


「俺が見てきた紗英ちゃんは、お前の横で笑っていて幸せそうだった。

羨ましかった…俺にはあんな顔をさせることはできない…。」

「…圭祐…。」


圭祐は俯いて拳を握りしめている。


「俺にはまったく振り向いてくれなかったけど、お前は違うだろ。

少なくとも紗英ちゃんはお前のこと大事に思ってるはずだ!自信を持てよ!!」


圭祐の言葉に最後の紗英の言葉を思い出した。

『翔君のこと大好き』

紗英は確かにそう言っていた。

去っていく紗英の後ろ姿も一緒に思い出して、目の奥が熱くなる。

涙が出そうで手で顔を隠した。

圭祐に見られたくなかった。


「何だよ…翔平。振られたっていっても、

まだ全然諦められてねぇじゃねぇか。」

「……うっせぇ…。」

「俺が見てきたお前は、振られたからって諦める性格だとは思わないけど…

そこんとこどうなわけ?」


諦める…

考えても考えてもその結論にはならなかった。

それが俺の答えだ。


俺は大きく息を吸い込んで、手で涙を拭って前を向いた。

いつも通り俺を挑発するような圭祐の顔に笑いかける。


「諦められるわけねぇだろ。片思い歴5年だぞ。なめんな!!」


「ははっ!それでこそお前だよ。」


俺に差し出される手を握って立ち上がると

その場で大きく伸びをした。


紗英は俺の事を大好きだと言っていた。

あの言葉は絶対嘘じゃない。

今は竜聖の存在の方が大きいだけで、まだ負けたわけじゃない。

人生長いんだ。

高校時代をあいつに譲ったって、最後に勝てばいい。

野球でいう逆転ホームラン目指して

俺は前を向く決心をした。



***




次の日


俺は偶然廊下で紗英に出くわした。

紗英は俺を見て少し戸惑っているのが分かった。

話しかけようとしているけど、声が出ないみたいで慌てている。

そんな紗英を見て自然に笑顔がこぼれた。


「紗英、竜聖と話せた?」


紗英は一瞬泣きそうに顔をしかめたけれど、

それを覆い隠すように笑うと頷いた。


「うん。私の気持ち分かったよ。

吉田君にも伝えることができた。

…本当にありがとう…翔君。」


嬉しそうな紗英の笑顔が胸に刺さる。

まださすがにきっついな…


「翔君に背中押されてなかったら、いつまでもウジウジしてたと思う。

私が正直になれたのも、全部翔君のおかげだよ。」


紗英は柔らかい目で俺を見て言う。

態度から俺にかなり気を許しているのが分かると

何かが俺の中で吹っ切れた。


俺は紗英に顔を近づけて、紗英の肩に自分の腕をのせた。

紗英が至近距離で目を見開くのが見える。


「俺、諦めたわけじゃないから。」

「へっ!?」


俺はにやっと笑うとグイッと顔を近づけて唇を合わせた。

紗英が息を吸い込んで止まったのが分かる。

周りから悲鳴のような叫び声や騒ぎ声が聞こえる。

俺は唇を離すと、目を細めて紗英を見た。


「もう好きだって言ってあるし、

チャンスがあったら今みたいに手を出すから。

俺のこと大好きなんだよね?紗英?」


「……っ!!!っバカ!!」


紗英は顔を真っ赤にして俺を殴ろうと手を振り上げた。

俺は余裕でそれをよけると紗英の手をとって握りしめた。

にや~っと笑って紗英をからかう。

紗英の顔がみるみるゆでだこのように耳まで赤くなる。


「もうっ!嫌いっ!!」

「ははっ!!嫌いじゃないのは知ってるよ!」


そのあと何度も俺にパンチや平手を繰り出してくる紗英をかわして

ちょっかいをかけるのが楽しかった。

最後は怒り憤慨した圭祐に殴られて、教室まで連行されたんだけど…


気持ちを押し隠していたときよりも、

今の方が清々しくて世界が輝いて見えた。


紗英との関係は壊れていない。

まだまだこれからなんだ。

紗英が振り向いてくれるまで絶対に諦めない。




翔平は男前ですね。

まだまだこの関係は延長戦に入っていきます。

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