2-50本当の気持ち
私は学校を早退して、家のそばの公園に来ていた。
ベンチに座ったまま、さっきまでの事を思い出す。
翔君の気持ちに応えられない自分。
彼にあんな事を言わせてしまうなんて…
思い出しただけで涙が出てきそうだった。
私は自分の気持ちが分からない事を理由に逃げただけだ。
翔君と向き合うことも
吉田君と向き合うことも…
自分が悪者になりたくなかった。
誰かを選ぶことで他の人を傷つけたくなかった。
最低な人間だ。
でも、私の事を想って背中を押してくれた
翔君の気持ちを無駄にしないためにも
私は吉田君に会って確かめなければならない。
気持ちの蓋を開けるときは来た。
私は時計を見て、下校時刻だというのを確かめると
立ち上がって歩き出した。
西ケ丘高校へ向かって…
***
私は勇気を出して、
西ケ丘高校の校門の前で吉田君を待っていた。
下校する生徒が私をもの珍しそうに見ていく。
見られての緊張なのか吉田君に会うための緊張なのか
分からなくなってきた。
手に汗が滲む。
気持ちを落ち着けようと大きく深呼吸する。
そのときふと視線を感じて、
横を向くと見たことのある男の子が立っていた。
金髪に子犬みたいな目の…確か吉田君のお友達の加地君。
「あっ!!」
加地君は私を見ると走って学校に戻ってしまった。
吉田君を知らないか聞こうと思ったけど、
あっという間にいなくなってしまったので
仕方なくまた校門にもたれかかる。
だんだん西ケ丘高校の生徒のもの珍しい顔にも慣れてきた頃、
走って来る足音が聞こえて顔を上げた。
すると校門を抜けて吉田君の顔が見えた。
「吉田君!」
私が声をかけると、
吉田君は息を荒げたまま私に駆け寄ってきてくれた。
「紗英…どうしたの?加地が慌てて俺を呼びに来て…」
その言葉を聞いて私は加地君に感謝した。
そして私は吉田君の顔をまっすぐ見て、あるお願いをした。
「吉田君。私の手、握ってくれないかな!?」
「へぁ!?」
自分でも恥ずかしい事をお願いしているのは重々承知している。
顔がだんだん熱くなってくる。
吉田君は驚いて一歩下がったまま、固まっている。
そんな吉田君に近づくともう一回言った。
「お願い!私の手、握って!!」
私は吉田君から目を逸らさずに、両手を差し出す。
吉田君はしばらく迷っていたようだった。
でも周りに目を泳がしてから、しぶしぶ私の手を握ってくれた。
吉田君の手が私に触れた途端、
私は自分の血が逆流するように体温が上がるのを感じた。
足元がふわふわ浮いてるように現実感がない。
私の押し込んでいた気持ちの蓋がゆっくり開いていく。
手を握る吉田君は照れているようで、俯いていて表情は分からない。
でもそんな姿が胸をキュウッと締め付ける。
今、ここで吉田君のそばにいられる事が嬉しい。
人に見られていても構わない。
吉田君を抱きしめてしまいたかった。
心に広がる熱くて、ムズムズするこの気持ち。
中学のときと一緒の気持ち。
私は自分の気持ちが見えた。
私は吉田君の事が好き…
受け入れた途端、私の中の欲求が堰を切ったように出てきた。
隣で笑っていてほしい。
ずっとそばにいてほしい。
紗英って呼んでほしい。
好きだって思ってほしい…
私の目の前で人目を気にする吉田君を見て、
自然に笑顔になる。
「私…やっぱり…吉田君が好きだなぁ…。」
吉田君が驚いて顔を上げるのが見えた。
私は思っていた事が声に出ていたことに、自分で自分に驚いた。
そしてその場にいられないくらい恥ずかしくなり
吉田君の手を放して、逃げ出すように走り出した。
気持ちを確かめに行っただけで、
告白するつもりじゃなかった。
私は走りながら、吉田君がどう思ったかが気になっていた。
でも聞くのは怖い。
必死に吉田君から逃げたくて、坂を走った。
「紗英!!」
でも元野球部の吉田君から逃げきれるわけがなかった。
追いつかれて腕を掴まれた。
引っ張られる反動で、私は振り返りながらその場に尻餅をついた。
「――――った!!」
掴まれていない方の手をアスファルトに擦ってしまい痛みが走った。
痛みに目を瞑ったとき、体に重みがのしかかるのを感じた。
「俺も紗英が好きだ!!」
吉田君の言葉に驚いて目を開けた。
目を開けて瞳に映ったのは吉田君の姿ではなく、
私たちを見下ろす西ケ丘の生徒の姿だった。
吉田君が私を強く抱きしめているのが後から分かった。
私は突然の事に耳を疑って、声が出てこない。
「紗英が好きだ。」
繰り返される言葉に私は胸が熱くなって涙がこぼれた。
私も吉田君の背に手を回して抱きしめると、
ずっと伝えたかった言葉を告げた。
「…私も吉田君が好き。大好き…。」
私の言葉に吉田君の力が強くなった。
私は吉田君の肩に顔を埋めて伝わる体温に安心していた。
私は中学の時にこうなることを望んでいた。
すごく遠回りしてしまったけど、
吉田君に気持ちが通じたことがすごく嬉しかった。
大好き…
心の中で何度も繰り返す。
相手がいて、相手も自分を想ってくれるってことが
こんなに晴れやかな気持ちになるなんて知らなかった。
吉田君の力が弱まって、私から体を離す。
吉田君の顔が見えると吉田君の顔は真っ赤だった。
きっと私も同じ顔をしているだろう。
それがおかしくて笑みがこぼれる。
吉田君は私の目の涙に気づいて、手で拭ってくれた。
そんな仕草にドキドキする。
目と目が合って笑いあった。
この瞬間は世界に二人だけしかいないような気持だった。
でも、そんな事はあるはずもなく。
後でたくさんの生徒に見られていることに気づいて
すごく恥ずかしい思いをしたのは言うまでもない。
読んでいただきましてありがとうございます。
やっと紗英の気持ちに決着がつきました。




