2-48三学期
三学期・始業式―――――
私はクリスマス以来、翔君に会っていなくて緊張している。
クリスマスの後、私は寒空にずっといたのがいけなかったのか
風邪をひいてしばらく寝込んでしまった。
気が付いたら年が明けていて、
気まずいし会いたいのに会いに行けない気持ちで屑ぶっていたら
あっという間に冬休みが終わってしまった。
クリスマスに渡せなかったプレゼントを手に
スポーツ科の教室までやってきて立ち止まる。
足が震える、またあの顔をされたらどうしよう。
不安に胸が押しつぶされそうだ。
教室に顔を出せずにいると、
偶然にも教室から翔君が出てきた。
翔君の顔を見て息が止まりそうになる。
「あ、紗英。久しぶり。」
翔君は笑っている。
私は普通の反応に拍子抜けした。
「久しぶり…あのね…これ。
渡し損ねたプレゼントなんだけど…」
差し出されたプレゼントの袋を受け取ると、
翔君は中をちらっと見てからお礼を言った。
「ありがとな。用事ってこれだけ?」
いつもと同じ翔君…なんだけど…
何だか違う気がするのは気のせいなんだろうか…?
私は翔君の目を見て考えた。
「えっと…その、クリスマスの事なんだけど…。」
クリスマスの話を振ったとき、翔君の目の色が変わった気がした。
笑ってるんだけど、なんだか怖い。
「ああ。竜聖大丈夫だったのか?」
「う、うん。あの、それで――――」
「なら良かった。じゃ、これありがとな。」
強引に話を終わらせて翔君は教室に戻ってしまった。
私は取り残されて、確信した。
翔君は私の事が嫌いになったんだと…。
***
その日から私と翔君は話さない日々が続いた。
会えば笑って挨拶はするけど、それ以上の会話はしない。
私は気持ちのはっきりしない自分にイラついていた。
翔君と話したいと思うけど、拒絶されるのは嫌だ。
少し距離をとってみて気づく。
やっぱり私は翔君が好きだ。
恋愛感情かどうかは分からないけど、本当に大切で失いたくない。
この気持ちは贅沢なものなんだろうか?
そしてその反面、吉田君にこの悩みを打ち明けてしまいたかった。
翔君と友達の吉田君なら何かアドバイスをくれるんじゃないかと思ったからだ。
でも、あの日の翔君の様子がひっかかって吉田君に話してしまうと
もっと翔君との距離が離れてしまいそうでそれができない。
やっぱり翔君本人から嫌いになった理由を
聞くしかない結論に至る。
私は勇気を出して、
翔君を人気のない使われていない教室の前に呼び出した。
翔君はなんだか機嫌が悪そうだった。
私と目を合わせようとしない。
私は気持ちを落ち着けるために息を細く吐き出すと
翔君をまっすぐ見つめた。
「翔君に聞きたいことがあるの。」
「…何?」
「私…翔君に何かしてしまった?嫌われるようなこと…
ずっと考えてるけど、私分からなくて…」
「…嫌ってなんかないよ。」
目を逸らしたまま答える翔君に悲しくなる。
嫌ってないなんて、嘘にきまってる。
目の奥が熱くなりそうで、必死に我慢する。
「嘘だよ…。だって今も私と目も合わせようともしないのに…
口だけで言わないでよ。」
翔君がやっとこっちを向いた。
一瞬目が合って、またすぐ逸らされてしまった。
翔君は頭を掻きむしってその場を歩き回ると
空き教室に入っていってしまった。
私は後を追いかけて教室に入る。
「はっきり言ってくれたら、もう話もしないから…
でも、そうじゃないなら理由を教えてほしい。」
翔君は歩き回っていて何も言ってくれない。
今、話をするのも嫌なのかもしれない。
そう思うと我慢していた涙がゆっくりと目に溜まってくる。
「もう…話をするのも嫌なんだね…。」
私はあきらめて帰ることにした。
翔君に背を向けたとき目に溜まっていた涙が落ちた。
手で涙を拭っていると、後ろから手を引っ張られた。
その勢いのまま壁に押さえつけられて、思わず目を瞑った。
目を瞑ったとき何かで口が塞がれて、慌てて目を開ける。
目の前に翔君の顔があって
キスされていると気づくと心臓がドクンと大きく跳ねる。
「――――っ!!」
私は突然の事に頭が真っ白になる。
翔君は私から顔を離すと今度は力強く抱きしめてきた。
私は力が強くて息をするのも苦しかった。
「なんでっ…なんで、いつもあいつなんだよ!!」
翔君の辛そうな声に胸が痛む。
あいつって…誰のこと…?
翔君の腕が微かに震えている。
「紗英のこと嫌いになるわけない…俺は…ずっと…
ずっと…紗英だけ見てきたんだ…。」
まさか…
翔君の言葉に一つの予想が頭を過っていく。
どんどん心臓の鼓動が速くなっていく。
「…俺は紗英が好きだ。」
私は告げられた想いに足から力が抜けていく。
壁からズルズルとへたりこむとまっすぐ前を見つめていた。
目の焦点が合わない。
翔君に好かれているといいなとは思っていた。
でもこういう好きだとは思わなかった。
どうしよう…
自分の気持ちもはっきり分からない私には
翔君のまっすぐな気持ちに応えられない。
翔君は腕の力を緩めると私の顔を見つめた。
翔君の顔が赤かった。
それを見て本気だと思った。
「……ごめん。困らせるつもりじゃなかった。
忘れてくれていいから。」
翔君の表情がいつか見たあの寂しいような悲しいような表情になるのを見たとき
私は咄嗟に翔君の服を掴んだ。
翔君が驚いて私を目を丸くして見ている。
反射で今この手を放したらダメだと思った。
翔君がどこか遠くに行ってしまいそうで、不安で怖かった。
何かを言おうと思うのに言葉が出てこない。
代わりに目に涙が溜まっていく。
私は翔君をつなぎとめたい一心で必死に言葉を探す。
翔君の目が私に向いている内に…何か。
「……っ行かないで。」
心の叫びがそのまま口から飛び出した。
「……いかないで…っ。」
服を掴む手に力が入る。
泣いて行かないでなんて子供みたいだと思った。
ただの駄々をこねる子供だ。
私の気持ちの一部が伝わったのか、
翔君は泣きそうに顔をしかめると、私の顔に触れてきた。
指で涙を拭うと、また顔を近づけてきてさっきとは違う優しいキスをした。
お互いの吐息が顔にかかる、翔君は唇を少し離すともう一度確かめるように触れてくる。
その優しい時間は嫌じゃなかった。
でも、胸の中は何か大きな錘が落ちてきたようで苦しかった。
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