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勘違い系○○  作者: 流音
第二章:高校生
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2-44クリスマスイブ


24日・午後三時――――――


俺は家で倒れていた。


今朝から体がだるいと思っていた。

昼を過ぎた頃から熱が上がってきている。

今日は紗英と遊ぶ日なのに、運が悪すぎる。

なんでこの日に限って風邪なんて!!


外を見ると雪が降っている。

昨日からずっとこの調子だ。


そうだ、昨日雪が積もったことに興奮して

仲間と雪合戦したのがいけなかったのかもしれないと思い至った。

加地の口車にのって本気でやるんじゃなかった。


紗英との約束は四時。

俺は意地でも行く!と心に決めると、のろのろと立ち上がり着替える。

着替えると薬だけでも飲んで行こうと下に降りて、薬箱を漁る。

熱・風邪・のどと書いてある薬を掴むと

水をコップに注いで薬を口に流し込んだ。

よし、これで薬が効けば今日一日ぐらい何とかなるはず。

台所の机に置手紙が置かれており、

父さんの字で『急に出張になった。帰宅は三日後』と書かれている。

それに目を通したあと、もう待ち合わせの駅へ向かおうと玄関へ向かった。

紗英を寒い中待たせるわけにはいかない。


足元がフラフラする中、俺は家を出た。




***




駅に着いたのは三時半だった。

いつもの倍ぐらい時間がかかってしまった。

思いの外、体調が悪いのかもしれない。

外は寒くて、俺の熱が下がった気がしてくる。

でも服の下は熱いので、きっと熱は下がっていないんだろう。

雪や冷たい風の来ない柱を見つけて、もたれかかっていると少し楽だった。

意識がぼーっとしてくる…薬の副作用かもしれない。

駅を通って行く人の波を見つめてぼーっとしていると肩を叩かれた。

俺は意識を取り戻すと目の前に立つ紗英に気づいた。


「吉田君。早いね。」


俺は紗英の私服を見て、更に体温が上がった気がした。

マフラーからふわっと出ている紗英の長い黒髪のシルエットがすごく可愛い。

服装はベージュのダッフルコートに紺のスカート、

履いているブーツにはファーがついている。

今日のために選んでくれた服装だと分かる。


紗英の言葉が気になり、腕時計を見ると今は三時四十五分だった。

やはり早く出てきて正解だった。


「紗英も早いな。」

「うん。楽しみで家にいても落ち着かなかったんだ。」


紗英の笑顔に心がグイッと持っていかれそうだった。

熱のせいで体温が高いのか紗英のせいなのか分からない。

バクバクする心臓を抑えて、笑顔を作る。


「俺も。じゃあ、行こっか。」

「うん!」


俺たちは並んでショッピングモールへ歩き出した。




ショッピングモールには様々なイルミネーションが施されていてすごく綺麗だった。

足を踏み入れた瞬間から、電飾の山に目をやられそうだ。

紗英は目をキラキラさせて喜んでいる。

ここに来て良かった。

ショッピングモールでは紗英の買い物に付き合った。

俺は色んなものに目を輝かせてる紗英を見てるだけで良かったんだけど、

男性もののお店に入った紗英に着せ替え人形のようにさせられそうになって焦った。

すごく楽しいんだけど、その度に頭がクラクラしてくる。

せっかくのムードを壊すわけにもいかないので、

紗英に気づかれないように必死に隠し続ける。


時間も六時を回り、

俺たちは食事をするためモールの中にあるレストランに入った。

店内は外に比べるとかなり暖かい。

熱のある俺には暑いくらいだった。

席に案内されて、上着を脱いだ。

そのとき自分の体が少し汗ばんでいることに気づいた。

汗をひかすために紗英にお手洗いに行くと告げて、席を離れる。


トイレまでくると急に体が重くなった。

紗英の前では気を張っていたからだろうか…

何度か息を吸って吐いてを繰り返す。

若干吐く息が熱を持っている気がする。

しばらく経つと汗もひいてきた。

鏡に映る自分の顔を確認して、いつもと変わらない笑顔を作る。

よし、大丈夫だ。

いつも通りを心に決めるとトイレを出て、紗英の元へ。


「吉田君。大丈夫?」

「ああ。平気、平気。もう頼んだ?」


紗英の心配そうな顔を見て、怪しまれないように笑顔で返す。

紗英はしばらく俺の顔を見て黙っていたが、

笑ってメニューを見てる俺に安心したのか少し表情が柔らかくなった。

店員さんのおすすめがあるらしく、

それを二つ頼んでからテーブルの上の水に手をつけた。

体が熱くて喉が渇く。


「こうして吉田君とクリスマスを過ごすなんて、

一年前には考えられなかったなぁ。」


紗英はグラスに入っている水を見つめている。

俺はグラスを置くと、頷いた。


「俺も。去年なんかすっげー腐ってたから、

こんなイベントなんか興味もなかったし、今の自分が嘘みたいだ。」

「ふふふ…今の吉田君だもんね。」


以前俺が言ったことを繰り返してくる紗英に

俺は恥ずかしくなる。


「紗英って意外と意地悪だよな。そんな昔のことさぁ。」

「この言葉、印象に残ってて。結構好きなんだ。

吉田君が近くにいるみたいで安心するから…。」


紗英の表情が少し寂し気だった。

いったいいつの事を思い出しているんだろうか?

俺はそんな紗英の顔は嫌だった。


「近くにいるよ、紗英。今、俺は目の前にいるだろ?」

「……そうだね。だから、すごく嬉しい。」


紗英は頬を赤く染めて微笑んだ。

俺はテーブルの上の紗英の手をとって、自分の手を重ねる。


「約束するよ。ずっと紗英の近くにいるって。

姿が見えなくたって、必ず近くにいるよ。そうできるように努力する…。」

「………ずっと?」

「ずっと。」


紗英は笑いを抑えていたが、ふっと息を吐き出すと笑い出した。

真剣だった俺は、なんだか拍子抜けした。


「……っふふ…ありがとう。心強いよ。」


何だかバカにされてるような反応に気まずくなって、重ねていた手を戻した。

そのとき丁度料理がテーブルに運ばれてきた。

クリスマスメニューらしく、ワンプレートにサラダやご飯も一緒にのっている。

全体的に赤、緑のクリスマスカラーでまとめられているようだった。

あまり食欲はなかったのだが、紗英と話をしながら食べると意外とお腹に入った。

食後のデザートまできっちり平らげて顔を上げると、

レストランの入り口には長蛇の列ができていた。

ディナータイム真っ只中のせいだろう。

食後のお茶を飲みながら、紗英が食べ終わるの待つ。

ふっと気が抜けそうになったとき、忘れかけていた体のだるさが戻ってきた。

なんだか目が霞んで焦る。

何度か目を瞬かせて目の焦点を合わせる。

目の焦点が合ったとき、目の前の紗英の不安そうな顔が見えた。

気づかれたかと焦った俺は、紗英が食べ終わっているのを見て席を立った。


「混んできたみたいだし、出ようか。」

「う、うん。」

「ツリー見に行こう!」


なるべく明るく声をかけて、上着を着てレジに向かう。

紗英の分も一緒に支払いを済ませると外に出た。

紗英は払うと言ってくれたが、男のプライドで断固として断った。

外はイルミネーションやツリーを見に来たお客さんでいっぱいだった。

はぐれないように紗英の手をとると、ツリーまで人をかき分けて進む。

人にぶつかる度足元がフラついたが、何とかツリーの前まで来ることができた。

何メートルあるだろうか?二階建てくらいの大きさはありそうだ。

紗英と並んで様々な色に光るツリーを見上げる。


「わぁ~すごく綺麗だね。」


紗英の瞳にツリーのイルミネーションの光が反射していて、すごく綺麗だった。

その瞳を見つめたまま、頭がぼーっとしてきた。

ヤバい…そろそろ限界かも…

足で踏ん張ってふらつくのを耐える。

霞む目の前で紗英がで何かごそごそしているのが分かる。


「はい。クリスマスプレゼント。」


紗英が赤と緑の包装紙に包まれたプレゼントを渡してきた。

俺は手を出して受け取ると、自分が家にプレゼントを忘れてきたことに気づいた。

風邪に気をとられて机の上に置きっぱなしにしてきてしまった。

どうしようかと考えたとき、急にフラつきがきつくなり紗英の肩を掴んだ。

紗英の驚いた声が聞こえてくる。

せめて紗英にお礼を言わなければと顔を上げると、

俺の目に紗英の顔が大きく映った。

口を開けたとき、そのまま意識が遠くなっていく。

急な浮遊感を感じて自分が倒れたのだけ分かった。

倒れたとき痛くなかったのが、なくなる意識の中で不思議だった。




読んでいただきありがとうございます。

波乱のクリスマスの始まりです。

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