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勘違い系○○  作者: 流音
第二章:高校生
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2-43似ていて違う


昨日の部活のときに25日は休みになると連絡があった。

俺はクリスマスが休みになるなんて、天の導きだと思った。

紗英を誘おうと昼休みに音楽科のクラスに足を運んだ。

クラスで山森さんたちと談笑している紗英を見つけて、呼び出した。

さすがにクラスの入り口で話はできないので、階段前まで紗英を連れて歩く。


「あのさ、俺25日休みになったんだ!

それで、もしその日空いてたら、俺と遊ばないか!?」


俺の誘いを聞いて一瞬驚いたようだったが、紗英は急に笑い出した。

俺は笑っている意味が分からなくて、紗英を見ているしかできない。


「あははっ!ごめん。まさか同じ誘いを受けるなんて思わなくて…

実は24日に吉田君と遊ぶことになってて。でも25日は大丈夫だよ。」


紗英はまだ笑いが治まらないようで、声に出さないように我慢している。

俺は竜聖の名前が出て、先を越されたことに腹が立った。

あいつ…ちょっと釘を刺しに行った方がいいな…

二人きりのチャンスに告白なんてされたらたまらない。

ただでさえ最近の二人を見ていると、仲が良くて焦る。

紗英を困らせたくないから我慢しているが、今すぐ気持ちを打ち明けてしまいたい。


「じゃあ、25日に駅前集合にする?」

「あ、ああ。俺、朝早いと起きられないかもしれないから、一時集合でもいいか?」

「うん。いいよ。楽しみにしてるね。」


紗英はいつの間にか笑いが治まっていて、手を振って教室に戻ってしまった。

俺はクリスマスに勝負をかけようとこの時に決めた。




***




その日の部活のときにクリスマスの話を圭祐にしたら

いつもと違う反応が返ってきた。


「そうか…頑張れよ。」


いつもだったら「何だと!?」とか「ずるいぞ!!」とか言ってきそうなのに

こんなに元気がないのは珍しい。


「な、何だよ。お前らしくないな。応援してくれるなんて。」


圭祐は俺を羨ましそうに見て、大きくため息をついた。

何なんだ、その悲壮感は…


「俺はさ、紗英ちゃんのことをあきらめたんだよ。

この間の文化祭も一緒に回るタイミングがなくて、回れなかったし。

それにあの背の高いお前の同級生見てたら、勝ち目ないだろ。」


「文化祭回れなかったのは仕方ないとしても、なんで竜聖が出てくるんだよ?」


「その竜聖君?だっけ?立ってる時の雰囲気とか紗英ちゃんに対する態度とか

お前そっくりで、でもお前とはちょっと違うっていうか…

なんか男の俺でもかっこいいなって思っちまったんだよなぁ。」


男から見てもかっこいい…

俺も中学のときに思ったことだった。

圭祐が同じことを思ったことに驚いた。


「お前はさ、なんか情けないとこもあるじゃん?そこが親近感湧くんだけど

あの人はそれとは違う。なんか惹きつけられるもんがある気がする。

そんな人がそばにいるなんて、俺霞むだろ!?だから、あきらめたんだよ。」


圭祐は最後は自嘲気味に笑っていたが、俺は圭祐の心の痛みが伝わってきた。

その気持ちは俺だってずっと心の中にある。

俺はずっと嫉妬してた…

あいつの持つ光みたいな人を惹きつける何かに…

憧れて、憧れて、追い抜かしたくて今まで努力してきたんだ。

二年経って肩を並べたと思っていたけど、圭祐の言い方だとまだあいつの方が上だ。


目の前の地面を睨みつけながら、俺は拳をずっと握りしめていた。

爪が食い込んでいるのがわかる。

悔しい…

いつになったら、あいつに勝てるんだろう…


俺は監督から号令がかかるまで、ずっと竜聖の姿を思い浮かべては

追いつけない背中に嫌な気持ちになっていった。




***





俺は今、竜聖の家の前に来ていた。

ここには夏に来て以来だった。

以前来たときには真っ暗だった家に、今は明かりが灯っている。

お父さんがいるのかもしれないと思い、インターホンを押した。

中から「はーい!」という声が聞こえて、玄関が開く。

出てきたのはやはり竜聖のお父さんだった。

俺は会釈すると、言った。


「夜分にすみません。あの、竜聖いますか?」


「君…もしかして翔平君か?」


俺は竜聖のお父さんが俺を覚えていた事に驚いた。

中学時代、確か数回しか会った事がないはずだ。


「いや~立派になったな。野球続けてるのか?」

「はい。今は西城高校で野球部に入っています。」

「あの西城か!!すごいな!甲子園、楽しみにしているよ。」


何だかすごくフレンドリーだ。

竜聖のお父さんってこんな感じだっただろうか?

確か竜聖との関係が上手くいってないって話だった気がするんだが…

笑顔で「竜聖呼んでくるな。」と中に戻る姿を見たら、そうは思えない。

竜聖が変わったことで、お父さんとの関係も良い方向へ変わったというのだろうか?


しばらくすると、竜聖が玄関から姿を見せた。

靴をひっかけながら、寒そうに肩を上げている。


「何だよ。翔平?」

「クリスマスのこと紗英から聞いた。」


竜聖の表情が変わる。

寒そうにしていた肩を下げ、無表情でまっすぐ俺を見ている。


「告白するつもりか?」

「しねーよ!お前が恋愛対象外とか言ったんだろうが。」


竜聖の言葉に少し安心している自分がいる。

俺の言葉を信じるなんて、単純っていうか騙されやすいタイプだな。


「俺もクリスマスに紗英と遊ぶことになった。

お互い何があっても恨みっこなしでいいよな?」


「何があってって…お前、何するつもりだよ?」


「何もしねーよ。でも場合によったら分からねーだろ?」


竜聖の奴はこういう揺さぶりに弱い。

せいぜい考え過ぎて自滅すればいいと思った。


「まぁ…何もなければいいけどよ。紗英を困らせるなよ。」


本当に単純な奴だ。

俺が告白しようと思ってるとは知らずに。


「お前もな。じゃあ、それだけだ。またな。」


竜聖に背を向けて、あいつのまっすぐで単純なところが俺とは違うところだと思った。

圭祐の言葉が耳の奥の方でエコーのように繰り返される。


俺とは違う…


俺はあいつとは違うんだ。






読んでいただきましてありがとうございます!


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