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勘違い系○○  作者: 流音
第二章:高校生
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2-41父親


吉田君の家に来て、緊張でドキドキしていた。

何だかいつもと違う雰囲気で少し距離が縮まった気がして嬉しかった。

でも、吉田君のお父さんから板倉さんの名前が出てきたときに

嫌な気持ちが私の中に生まれた。

板倉さんと吉田君は幼馴染だ。

その関係は変わることはない…分かってるのに。

嫉妬している自分がいて嫌だった。


自分はこんなに心が狭かっただろうか?

いつの間にか吉田君の隣にいるのが当たり前になっていて

友達という関係性を忘れていた。

私の心に押し込めたはずの気持ちが少しずつ出てきている。


その気持ちを落ち着けるために帰ろうとしたのに、

吉田君に手を握られて振り払えない自分がいて複雑だった。

まっすぐ見つめられるとやっぱり心が動く。


そんなとき私の後ろの扉が開いて、吉田君のお父さんが帰って来た。

吉田君が目の前で口を開けたまま固まっている。


「……君は…?」


私は振り返って挨拶しようとするが、吉田君の手が私から離れない。

そんな様子を見てか、吉田君のお父さんが一喝した。


「竜聖!その手を放しなさい!」


吉田君は怒られた子供状態で

ビクッと肩を震わすと私の手を放した。

私はそれを見て、お父さんの方へ振り返り挨拶する。


「初めまして。吉田君の中学の同級生の沼田紗英といいます。

今日は、吉田君に誘われてお家にお邪魔しました。」

「礼儀正しいお嬢さんだ。竜聖の父です。

さっきお部屋におられなかったようですが…?」

「えっと…」


隠れてましたとはさすがに言えなくて、吉田君に助けを求めようと振り返る。

吉田君は顔をしかめて直立していた。


「竜聖。説明しなさい。」


お父さんの言葉に私は様子を見守ろうと玄関の端に寄った。

吉田君はちらちらとお父さんを見ながら、口を開いた。


「…さっきは、クローゼットの中に…」

「彼女を押し込んだのか?」

「…押し込んだわけじゃ!」

「隠したのは事実だろう!?彼女に申し訳ないとは思わないのか!」

「だ………だってさ。」

「だってもクソもない!!

悪さしなくなって真面目に学校に行ってると安心したら、これか!?」


吉田君は反論できなくて小さくなっている。

吉田君のお父さんはよく見ると、吉田君と目がそっくりだった。

まっすぐで汚れていない目。


「まさか後ろめたいことがあるから隠したんじゃないだろうな!?」

「は!?なんでそうなるんだよ!!

紗英は友達なんだからそんな事しねぇよ!!」

「素行の悪いお前の事なんか信用できるか。」


吉田君のお父さんは私の方を向くと、優しい表情で尋ねてきた。


「こいつが嫌なこととかしなかったかい?」

「あ、いえ。話してただけなので…。」


吉田君のお父さんはあからさまにほっとしていた。

そしてくしゃっと表情を崩して笑うと言った。


「また、何かあったら言ってくださいね。」


お父さんの顔と吉田君の表情がダブった。

私と仲直りしたときの吉田君の顔と一緒だった。


「もう!!俺たちの事はほっといてくれよ!!

紗英を送ってくる!」

「当たり前だ。しっかり送ってくるんだぞ。」


吉田君は表情に怒りを露わにすると、私の腕を掴んで引っ張って行く。

私はお父さんに急いで頭を下げると、玄関を飛び出した。

そのときのお父さんの目がすごく温かかったのが印象的だった。



***



吉田君は私の腕を掴んだまま、黙々と歩き続けている。

私はさっきまでの嫉妬なんて忘れ去って、

今は吉田君の様子が気になって仕方なかった。


「吉田君…?」


私が声をかけると、吉田君の足が止まった。

私の腕も放してくれる。

私の方を向かないまま、吉田君が口を開いた。


「さっきは父さんが悪い。」

「ううん。とても素敵なお父さんだね。

吉田君と一緒で優しい目をしてて、何だか親近感湧いちゃった。」


吉田君の表情が分からない。

何を考えているんだろう…?


「優しくなんかねぇよ。自分の評価ばっか気にしてる嫌な奴だよ。」

「そうかな…?吉田君のこといっぱい口出ししてて、

大切に思われてるんだなぁって思ったよ?」

「大切…まさか…」


吉田君の言い方に私はお父さんとの仲が良くないのかもしれないと思った。

近すぎるから気づかない事もたくさんある。

すごく大切な人ほど、その気持ちを伝えられない。

そういう気持ちがあることを私はよく知っていた。


「どうでも良いと思ってたら、あんな風に怒らないと思うけどな。

私たちが家を出てきた時もすごくあったかい目をしていたよ。」

「あったかい目…?」


吉田君が少し私の方に向いた。


「うん。見守ってるよっていう目。見てたら安心するんだ。」

「父さんが…?」


吉田君がお父さんの言葉に耳を傾けるきっかけになってほしい。

私の言葉がどこまで吉田君に響くかは分からないけど、

家族は仲良しでいてほしい。


「一回、お父さんとまっすぐ話してみたらどうかな?

今まで聞けなかったことでも、意外と視点が変わったら理解できるかも。」

「………。」


吉田君の返事はなかった。

でも、きっと伝わったと思う。

勇気を出して、吉田君。



親子って何かと色々ありますよね…

次で解決します。

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