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勘違い系○○  作者: 流音
第二章:高校生
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2-40冬到来


紗英の高校の文化祭が終わって、

季節はあっという間に冬に突入した。


あれから紗英とは何度か遊びに出かけた。

なぜか翔平も一緒にだけど…

紗英を誘ったはずなのに毎回どこから情報を得るのか、

待ち合わせ場所に翔平のやつも決まってやって来た。

邪魔者以外の何者でもない。


もう紗英と遊んでいるんだか、翔平と遊んでいるんだか分からない。


でもそんな翔平も紗英に対しての態度が、以前とは少し違って見えた。

話はするんだけど、遠慮してるっていうのか…少し距離を感じる。

それは紗英も気づいているようで、少し寂しげな顔をすることがある。

俺に対しては今まで通り挑発的なのに、意味の分からない奴だ。


もうすぐクリスマスになる。

クリスマスこそは翔平抜きで紗英と二人で過ごしたい。


その約束を取り付けようと、俺は駅前で下校する紗英を待っていた。

寒さに鼻の頭が赤くなる。

マフラーに顔をうずめて、雪の降りそうな空を目だけで見上げる。

クリスマスはホワイトクリスマスになりそうだなと

ロマンチックなクリスマスを妄想する。

自然に顔がにやけてきて、周りから不審な目で見られた。


いかんいかんと気を引き締めると、改札を出てくる紗英を見つけた。


「紗英!!」


俺が手を振ると、紗英は慌てて俺に駆け寄って来た。

マフラーで顔が隠れているのが可愛い。


「吉田君!待ってたの?寒くなかった?」


紗英は心配そうに俺を見上げてくる。

また顔の力が抜けそうになって、顔に力を入れる。


「大丈夫、大丈夫。

今日は紗英とまた遊ぶ約束したくてさ。」

「何?あ、その前にどこかであったまろうか?」

「いいよ。俺、今日金持ってないし。」


紗英は俺の制服を触って顔をしかめた。


「冷たいし、ダメだよ。じゃあ、私の家に来て!」

「へ!?」


紗英は俺の制服の裾を掴むと、俺を引っ張って歩き出した。

突然のお宅訪問に俺は焦る。

女の子の家に行くとか無理だから!!


「いや、本当いいって!!」

「風邪ひいちゃうよ!」


やばい、頑固モードの紗英だ。

彼女はたまにこういうときがある。

何を言ってもてこでも譲らない。

俺は苦渋の選択である提案をした。


「じゃあ、俺の家に行こう!」

「えっ?」


さすがに紗英も嫌がるだろうと踏んでいたのだが、

意外に彼女はすんなり受け入れた。


「吉田君の家どっち?」

「えっ!?本当に行くの??」


まったく譲らない紗英に俺は仕方なく折れることにした。

俺の家へ向かいながら、父親が帰ってこないことだけを祈っていた。



***



俺は家へ着くと紗英を自分の部屋へ通した。

居間では父親が帰ってきたときに気まずいからだ。

紗英は俺の部屋に入ると、部屋の中を見回して嬉しそうだ。


「男の子の部屋ってこんなんなんだねぇ。

私、初めてでドキドキする。」


初めてという単語に急に緊張してきた。

いやいや、話をするだけだから…

変な事を考えそうな自分を戒める。

俺は暖房を入れると、上着とマフラーをハンガーにかけて

部屋のドアノブに手をかけて言った。


「飲み物、何がいい?」

「何でもいいよ。ありがとう。」


紗英にハンガー勝手に使ってと言い残して、

下に飲み物を取りに行く。

冷蔵庫には牛乳しか入っていない。

俺はやかんの中のお茶を火にかけて温め直すと

カップを二つ用意した。

温まったお茶を手早く入れそばに転がっていたトレイに乗せて、階段を駆け上る。

玄関の紗英の靴を見て、

板倉以外の女の子が俺の家に来るのは初めてのことに気づく。

さっきよりも速くなってきた鼓動を気にしないようにして

部屋の扉を開けた。

部屋に入ると紗英がベッドの下に隠しておいたはずの雑誌を持っていた。

俺は慌ててお茶を机の上に置くと、雑誌を奪い取った。


「これはダメッ!!」

「あっ…。」


紗英は雑誌を目で追って、俺を見上げてきた。

俺は雑誌をクローゼットの中に放り込むと机のそばに座った。

奪い取った雑誌はただのマンガだけど、

最初にグラビアがついていて紗英に見られたくなかった。


「マンガ…読んでたのに…。」


紗英の呟きに俺は驚いて顔を上げる。

普通女の子ってこういう雑誌持ってたら嫌がるものじゃないのか?

板倉だったら絶対スケベーとかエロいとか言ってきそうなのに…


「さっきの…その、嫌じゃなかった?」

「へ?マンガのこと?私、家にもマンガあるよ?

むしろ単行本より先が読めて嬉しかったんだけど…。」


紗英は何だかがっかりしている。

清純そうに見えて、紗英は意外と分からない。

話を変えようと、俺は紗英にお茶を勧めた。

紗英は「ありがとう」と言うと、

息を吹きかけて冷ましてから一口飲んだ。


「あのさ、話っていうのがクリスマスのことなんだけど…」

「うん?」

「その……予定とか入ってる?」


勇気を出して聞いてみたものの、返事が怖くて顔が見れない。

紗英はお茶のカップを置くと笑ったようだった。


「今は特に予定は入ってないよ。

部活やってる翔君や麻友は部活で空いてないだろうし…家族でするぐらいかな?」

「じゃ、じゃあ。24日!俺とどっか行かないか?」


予定はないと聞き、勢いで口に出した。

紗英は少し照れると嬉しそうに笑った。


「うん。私も行きたい。」


俺は心の中でガッツポーズを作ると机の上のお茶に手を伸ばした。

緊張して喉が渇いた。

そして一気に流し込み、熱いというのを忘れていた。


「――――っ!…っぅえほっ!!」


喉を火傷してお茶を噴出してしまった。


「わっ!!大丈夫!?」


紗英が慌てて鞄の中からハンドタオルを出して、

俺のこぼしたところを拭いてくれる。

俺は喉がイガイガしており咳き込んでいた。

紗英が俺の背中をさすってくれる。

タオルで俺の服も拭いてくれて、

紗英が俺の顔を覗きこんだとき妙に距離が近い事に心臓が跳ねた。


「喉火傷しちゃった?」


紗英の声がすぐ近くで聞こえて、俺は不自然に何度も頷いた。

この距離はヤバい!!

かろうじて理性で我慢する。


「う~ん…喉の火傷ってどうしたら直るのかな…?」


紗英は俺にお構いなしに目の前で考え込んでいる。

もう我慢も限界になってきたとき、玄関の開く音がした。

俺は反射的にドアを見つめて、耳を澄ました。

玄関に鞄の置く音が聞こえ、父親が帰って来たことが分かった。


「ご家族帰ってこられたのかな?」


俺は紗英の腕をとると、立ち上がってクローゼットを開けた。


「紗英。少しの間ここに隠れてて!」

「えっ!?」


俺は驚いている紗英をクローゼットに押し込むと、

証拠隠滅のためカップをベッドの下に隠す。

階段を上ってくる音が大きくなってきた。

紗英の学生鞄を見て、咄嗟にそれを手にとりどこに隠そうか考えたとき

部屋のドアが開いた。


「竜聖。お客さんでも来てるのか?」

「い…いやっ!?」


父親はいつもノックもせず、俺の部屋に入って来る。

俺は紗英の鞄を自分の後ろに隠すと声が裏返った。


「玄関に女の子の靴があったんだが…梓ちゃんの忘れ物か?」

「あ…ああ。そうかもしれねぇ。」


紗英の靴の存在にドキッとしたが、

勝手に板倉のものと思ってくれたようでほっとする。

父親はまだ少し怪しんでいるようで、部屋の中を見回している。

俺は努めていつも通りにしていた。

するとやっと納得したのか、俺を見ると言った。


「少し出てくる。留守番頼んだぞ。」

「おう。」


変に笑顔で返したもので、

父親は眉間にしわを寄せた顔のまま出て行った。

俺は思いっきりため息をつくと、紗英のいるクローゼットを開けた。

中の紗英は少し様子が変だった。

俯いていた顔を上げると無理に笑顔を作った。


「私、帰った方がいいね。」


紗英は俺の手から鞄をとると、

ハンガーのコートとマフラーを取って急いで身に着けた。

俺は急に「帰る」と言われ反応が遅れた。


「えっ!?紗英!」


紗英はドアを開けると、さっさと出て行ってしまう。

俺はコートだけ取ると、その後ろ姿を追いかけた。

まだ下に父親がいるかもと思ったが、もう出て行ったようで姿はなかった。


「紗英!送るよ!!」

「大丈夫。一人で帰れるから。」


何だか様子がおかしい。

このまま帰したらダメだと思った。

俺は紗英の手をとると握りしめた。


「俺に言いたいことがあるなら言ってくれ!!」


紗英の瞳が震えるのが見えた。

紗英は口をつぐんだまま、答えようとしない。

何か隠してる…さらに追及しようと口を開くと

玄関の扉が開いて父親が戻って来た。


俺は口を開けたまま、その場に固まった。




読んでいただきましてありがとうございます!

竜聖の父親との確執編です。

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