2-39文化祭Ⅵ
クラスに帰ってからは大変だった。
休憩なしで涼華ちゃんに接客以外でもこき使われた。
迷惑をかけたんだから当たり前だ。
私は素直に働くことで許してもらおうと尽力した。
そしてやっと終了時刻の四時になった。
「やっと終わった~……。」
私は片付けた机の上に突っ伏した。
そこへ涼華ちゃんと佳織ちゃん、それに美優ちゃんがやって来た。
涼華ちゃんの目が険しかったので、
私は姿勢を正して涼華ちゃんを見つめる。
「紗英ちゃん、この文化祭はさぞ楽しかったでしょうね?」
「え…?」
涼華ちゃんが私をみおろ…いや見下している。
顔の影が怖い。
「昨日は4人の男の子たちと今日は本郷君と…
その青春っぷりに笑いが巻き起こるわ!!」
「女の子の友達はいないわけ!?」と指をさされ、
私は麻友と夏凛に断られたことを思い出した。
だって、麻友は大会があって練習抜けられないって言ってたし、
夏凛はコンクールに出す絵が完成してないからって話だったから…
言い訳できずに口をつぐむ。
涼華ちゃんのお怒りももっともなんだけど、私情がからんでいそうな気もする。
私は一つの可能性に気づくと尋ねた。
「もしかして…木下君と文化祭回ってないの?」
図星だったのか涼華ちゃんの顔が真っ赤になった。
先程までの表情と180度違う。
「なっ!!か、関係ないわよ!!」
顔そむけて赤い顔を隠す涼華ちゃんが可愛い。
私は微笑むとアドバイスする。
「後夜祭あるよ。誘ってみたら?」
「む、無理よ!!」
「どうして?」
「だって…こんな私といたいわけないし…」
涼華ちゃんは自分で言ってしょぼんとしている。
美優ちゃんは涼華ちゃんと木下君の関係を初めて知ったのか
驚いて口を出そうとしていた所を、佳織ちゃんに塞がれている。
「大丈夫だって。いつもみたいにお疲れ様って言って、
後夜祭に行こうって誘ったらきっと一緒にいてくれるよ。」
「…そうかな…?」
涼華ちゃんの瞳にいつもと同じ力が宿るのが分かった。
その姿を見て私は安心した。
「私も一緒に行こうか?」
「いい!!私、自分で誘うね!!」
涼華ちゃんは急に元気になると慌てて着替えを持って、
フィッティングルームで着替え始めた。
残された私たちは顔を見合わせて笑うと
教室を片付けようと、それぞれ最後の一仕事に取りかかった。
***
後夜祭はグラウンドで行われる。
スピーカーから音楽が流れて、
放送部の放送で文化祭の賞が発表されるのだ。
ジュースも皆に配られるので、
それぞれそれを手に持ちクラスごとに固まって結果を待つ。
遠くに涼華ちゃんと木下君の姿を見つけて、私はほっとした。
上手く誘えたんだね…
嬉しそうな涼華ちゃんの横顔に私まで嬉しくなる。
その二人の向こうに翔君の姿を見つけた。
翔君とは後夜祭前に少し話したんだけど、
約束していたジュースだけ渡すとさっさと戻っていってしまった。
確か迷路の中でぶつかって倒れて、顔がぶつかったと思ったらテディベアを押し付けられて…
そのあとぐらいから様子がおかしくなった。
私の顔を見ようとしない。
見ても保健室のときみたいな、何だか寂しい気持ちになる顔になる。
私が何かしたんだろうか…?
その場にしゃがんでふぅとため息をついたとき、
ふと校門に人影が見えた。
だいぶ暗くなってきたので見間違いかと思ったけれど、
やっぱり校門の横にもたれかかっているのは吉田君だ。
私はまだ発表が始まらないのを確認すると、
皆に見つからないようにそっちへ走った。
「吉田君!」
なるべく抑えた声で呼ぶと、吉田君が振り向いた。
私を見る顔が何だかすごく嬉しそうで、心臓がギュッと掴まれた感じになる。
私が校門の影にしゃがむと、吉田君もそれに合わせてくれた。
「どうしたの?今日はもう終わっちゃったよ?」
「あぁ。文化祭はもういいんだ。
疲れてるだろう紗英を迎えに来ただけだからさ。」
さらっと言われて私は何だか照れてしまう。
昨日も送ってもらったのに、何だか待ち合わせて帰るカップルみたいだ…
考えてから私は慌ててその考えを胸に押し隠す。
そのとき今朝相楽さんに言われた言葉が頭に浮かんだ。
『実際恋してたらさきっと苦しいと思うよ。
意外と自分で受け止めて認めちゃった方が楽になると思うけどな。』
吉田君をじっと見つめて、その言葉を考えた。
吉田君と目が合う、心臓の鼓動が速くてだんだん胸が苦しくなってくる。
この苦しさは嫌じゃない…
「昨日紗英と一緒に文化祭回れて、中学のときのこと思い出したんだ。」
「中学のときのこと?」
「うん。文化祭回ったことはないけどさ、
紗英が隣にいて何でもない事で笑って、ふざけあった事が楽しかったなって。
それが戻って来たみたいですごく嬉しかった。」
吉田君は照れたような笑顔になった。
私も吉田君と同じことを思っていた。
昨日、吉田君と一緒にいて中学のときみたいだった。
横で笑っていられることが嬉しかった。
思い出しただけで自然に笑顔になる。
「私も嬉しかったよ。」
吉田君は真剣な顔になると、
私の膝の上の手に自分の手を重ねてきた。
「紗英…。これから色んなことして一緒に遊ぼうな。」
『一緒に』と言ってくれるのが何より嬉しい。
私は笑顔で「うん。」と返した。
そのとき放送で結果発表が聞こえてきた。
私は吉田君に「また後で」と言うと、急いでグラウンドへ戻った。
戻ってからも心臓がドキドキしていた。
ちらっと吉田君がいる校門に目をやる。
吉田君はさっきの態勢のまましゃがんで空を見上げていた。
私もそれに倣って空を見上げる。
夕焼けと夜空の間の空に星が少しだけ瞬いていた。
文化祭編終了です。
次から季節は冬に入ります。




