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勘違い系○○  作者: 流音
第二章:高校生
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2-38文化祭Ⅴ


紗英が俺の手を握りしめて前を歩いている。

俺の謝罪に紗英から返事はなかったが、

手を握り返してくれたことで許してくれたことが分かった。


さっきは竜聖の仲間と一緒に談笑する紗英を見て

カッとなってしまった。

昨日は竜聖に紗英を取られて、

今日は仲間連中かと思うと我慢できなかった。

独占欲の塊の自分に嫌気がさす。


もう嫌だ…

このまま自分の気持ちを抑え込むことなんてできない。

紗英を自分だけのものにしたい。

もうこれ以上他の男に触らせるなんて嫌だ。


長期戦は覚悟していたけれど、

ずっとこの関係のままでいると

紗英に誤解されて嫌われてしまいそうだ。


俺は紗英の背中を見つめて、

色んな欲望が広がっていくのを感じていた。


「翔君、回るっていってたけど行きたい所あるの?」


俺の視線に気づいたのか、紗英が振り返った。

考えていたことが伝わったのかと思って、心臓が飛び跳ねる。


「えっ……と…、あ、そこの教室行ってみようか。」


咄嗟にすぐ傍の教室を指さす。

看板には風船宝探しと書いてある。

紗英は興味があるようで、つないだ手を引っ張って受付に近寄った。

係りの生徒に訊くと、たくさんの風船の中から当たりの風船を探すゲームらしい。

見つけるまでのタイムで景品が違うらしい。


「面白そうだね。やってみよっか。」


紗英が率先して教室の中へ入って行く。

俺は後について中に入ると、大量の風船が目に入った。

ガスが入っているので浮いてるやつもあれば、低空で浮いているものもある。

この中から当たりを探すのは難しそうだ。

当たりの風船には☆マークがついているらしい。


俺と紗英は手を放すと、それぞれ違う場所に立った。


「目指せ!15秒!!」


紗英が一等のタイムを俺に言う。

俺は頷くと一旦気持ちを胸に押し込めた。


係りの生徒の合図で俺と紗英は風船の海に飛び込む。

ガスの入った風船が顔にまとわりついて気持ち悪い。

こんな状況で☆マークを見つけられるんだろうか?

紗英は一つずつチェックしては後ろに放り投げている。


その方法を見習って、俺もチェックしては後ろに投げる。

あらかた目の前の風船を見終わったとき、

紗英が上を指さして声を上げた。


「翔君!あれ!!あれとって!!」


天井付近に浮いている青色の風船に☆が書かれているのが見えた。

俺は膝を曲げると、青色風船目がけて思いっきりジャンプした。

何とか手に掴み着地しようとしたとき、足元に風船が転がってきてバランスを崩した。


「おわっ!!」


風船を手に持ったまま紗英のいる方向に倒れこんでしまった。

紗英を下敷きにしてしまい、慌てて起き上がる。


「悪い!紗英!!」


俺の目の前に顔をしかめている紗英の顔があった。

目を開けた紗英と目が合った瞬間、俺は押し込めた気持ちが溢れた。

心臓がドクンと跳ね、顔に血が集結する。

吐息がかかる距離だということに体が勝手に動く。

紗英が目を見開いたのが分かった。


「はーい!当たりゲットですね。」


係りの生徒の声にハッと我に返った。

紗英の上からどくと、立ち上がって係りに風船を渡す。

顔の熱が引かない。

俺は今自分が何をしようとしていたのか、思い返して頭を振った。

やばい…体が勝手に動いた…。


「タイムは20秒!おしいですね~。

二等の商品を持って帰ってください!」


係りの生徒に支持された商品のエリアへ向かう。

二等と大きく書かれた段ボールの中にお菓子やキャラクターのグッズが並んでいる。

紗英の方を向けなかった俺は、段ボールの中を無駄にガサガサと漁る。

その中から首にペンダントをつけたテディベアを手に取ると、紗英に手渡した。

まっすぐ紗英を見れなかったので、横目で紗英の様子を伺う。


「…かわいい。私だけ商品もらっていいの?」

「いいよ。次行こ!」


今、紗英の笑顔を見るのは心臓に良くない。

紗英に背を向けたまま教室を出る。

落ち着け。

変に気持ちの高ぶっている自分を落ち着けようと試みる。

紗英の足音が俺の背中越しに聞こえる。

俺は無心を心掛けて廊下を歩く。

すると、紗英の足音が止まった。


「翔君!ここ何だかすごいよ!!」


振り返るとテディベアを大事そうに抱えた紗英が、

暗幕に囲まれた教室を指さしていた。

そこは暗闇迷路と看板があった。

暗幕に囲まれたおどろおどろしい雰囲気が異様だった。

紗英は係りの生徒に話を聞いている。


「あのね、中が真っ暗で見えないんだって!

ここが入り口であっちが出口。私と翔君で勝負しよう!!」

「……あぁ。いいよ。」


変に明るい紗英に気を使われていることが分かった。

あまりしゃべらない俺を心配していたんだろう。

紗英は微笑むと入り口の扉を開けて中へ入っていってしまった。

俺は慌てて後を追いかける。


「じゃ、先にゴールした方が勝ちね!」


紗英はそう言うと小走りで迷路に入っていく。

中に入って、俺はあまりの暗さに驚いた。

俺のクラスのお化け屋敷も暗くするのに結構努力したが、

ここは本当に真っ暗闇だ。どうやって窓を塞いだんだろう?

紗英の後ろ姿があっという間に見えなくなる。

俺は手探りで中へ入るとすぐ突き当たってしまった。

左右に曲がれるようだが、真っ暗で何も見えない。

これじゃあ、迷ってしまいそうだ。

段ボールのカベを触りながら行くことにして、まずは右に曲がった。

しばらく進むとまた左右に分かれている。

少しずつ目が暗闇に慣れてきた。

何となく道の先が見える。

右は行き止まりみたいだな…。

左に曲がって道をゆるやかに曲がっていくと、何かが足に当たった。

俺は手探りでそれを手に持って顔に近づける。


さっき紗英に渡したはずのテディベアだった。

何でここに落ちてるんだ?

俺は急に不安になり、足を速めて紗英を探した。

小声で紗英の名前を呼ぶ。

「紗英!!紗英!!」

心臓が大きく音を鳴らす。

じんわりと汗をかきながら、迷路の中を早足で進む。

俺はあまりにも焦っていたので、

しゃがんでいる人に気づかずに、

俺はつまずいてその人を押し倒してしまった。


「すっ!すみません!」


俺は慌てて床に手をついた。


「あれ?翔君??」


声で俺の下にいるのが紗英だと分かった。

俺はほっと胸をなで下ろした。

よく考えればこの中で何かあるわけはないのだが…

紗英は俺の下で目を細めると、俺の顔に触れてきた。

触れられた瞬間、びくっと俺の体が震えた。


「汗かいてる。そんなに必死だったの?」


俺の下で紗英は「ゲームなのに」と楽しそうに笑っている。

俺の頬に触れている紗英の手の温かさが

俺の抑え込んだ気持ちを破裂させた。

さっきは我慢できたが、今は無理だ。

俺は紗英の頬に触れると顔を近づけた。

一瞬触れるか触れないかで唇に口づける。

そしてそのあとすぐ入れ替わるように

手に持っていたテディベアを紗英の顔に押し付けた。


「っふむっ!!」

「落ちてた。」


俺は紗英の上からどくと、横に座り込んだ。

紗英はテディベアを顔から持ち上げて、

俺の横で起き上がると俺を見つめているのを肌で感じた。

キスしたのバレたかな…

暗かったし…気づいてないでくれると…

俺は手を握りしめて目を瞑って祈る。


「…このテディベア探してたんだ!!翔君が見つけてくれてたんだね!」

「…あ、あぁ。うん。道に転がってたから。」


さっきと変わらず笑っている紗英に俺は安心した。

気づかれてない…

紗英は「お先!」というとまた迷路の中を小走りで進みだした。

俺は慌てて追いかける。

紗英の背中が見えたり、見えなくなったりを繰り返して

何とかゴールへたどり着いた。


「やったー!私の勝ち!」


明るい廊下へ出た紗英が嬉しそうに俺に振り返る。

俺は急に明るい所へ出たので目が眩んだ。

紗英は俺に近寄ってくると、テディベアで俺を小突いた。


「今日終わったら、ジュース奢ってね。」


俺は自然と紗英の口元に目が行き、

自分のしたことに急に恥ずかしくなってきた。

紗英の姿を見れずに、上に視線を向ける。


「わ、分かった。」


彼女の笑い声が俺の気持ちを擽る。


俺は自分を制御できなかった。

手を出すつもりなんかなかった。

でも、俺の気持ちにも限界が近い。

今すぐ気持ちを打ち明けてしまいたい。

紗英を俺のものにしてしまいたい。

そんな俺の想いで紗英を押しつぶしてしまいそうで怖くなった。



ここから翔平の想いが加速します。

次で文化祭編終了です。

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