表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勘違い系○○  作者: 流音
第二章:高校生
43/218

2-37文化祭Ⅳ

文化祭二日目・最終日―――――


私は昨日の事を思い出してぼーっとしていた。

吉田君とあんなに笑いあって話したのはいつ以来だろう…。

二人三脚障害物のとき、全部頼れって言ってくれて嬉しかった。

手をつないだり、密着したことを思い出したら恥ずかしくなるけど

吉田君が本当に私を支えてくれている気がして心強かった。

お化け屋敷のときは怖がりな私を守ってくれた。

お姫様だっこには驚いたけど、

吉田君に抱きかかえられていたときは本当に安心した。

あんなことばかりあって

吉田君に心が動いていないって言ったら嘘になる。


大好きだった人だし、意識するのは当然だ。

閉じ込めたはずの気持ちの蓋が開きそうで、なんだか怖い。

好きだとか考えるのはやめたはずだ。

考えるな…考えたらダメだ。


「紗英ちゃん?」


トレイを持ったままぼーっとしてた私に、

涼華ちゃんが不安そうに顔を覗かせていた。


「あ、ごめん。ぼーっとしてた。」

「もうすぐ開場だよ。今日一日頑張ろうね!」

「うん。」


私は気合を入れ直そうと顔を叩く。

そこへ佳織ちゃんが人目を気にしながらやって来た。

明らかにいつもと態度が違う。


「紗英ちゃん…私、昨日見ましたよ。」

「え?」

「スポーツ科のお化け屋敷から…その…お姫様だっこで出てきた所…。」

「――――っ!!」


佳織ちゃんの言葉に私の体が一気に体温が上昇する。

まさかクラスメイトに目撃されていたとは、恥ずかしくて隠れたい。

佳織ちゃんは少し頬を赤らめながら尋ねてくる。


「昨日の方、どなたなんですか?」

「え!?…えっと…中学の同級生で…。」

「同級生ですか!高校生になっても仲がいいなんてすごいですね!」

「あはは…そうかな…?」


佳織ちゃんの追及がまだまだ続きそうになってきた時、

教室の扉が勢いよく開いて今日一番のお客さんが顔を見せた。


「紗英さ~ん!今日も来たッスよ!!」


昨日吉田君と一緒に来たあの三人組だった。

私は慌てて接客に向かう。


「いらっしゃいませ!

あれ?今日は吉田君は一緒じゃないんですか?」

「俺たちだけで来たッス!

昨日は紗英さんとあんまり話せなかったんで!!」

「竜聖さんは来るか分かりません。約束してないので。」

「空いてる席でいいのか?」


一番背の高い目つきの鋭い方に言われ、私は急いで席に案内する。

さすがに会うのも二度目なので、お名前だけでも聞こうと口を開いた。

すると順番に自己紹介してくださった。

金髪で語尾にッスとつく方が加地雄介さん。一年生らしい。

背が高く目つきの鋭い方が美合建造さん、二年生。

メガネに真面目そうな方が相楽啓太さん、同じく二年生。

皆さん吉田君と友達というより、

尊敬しており『竜聖さん』と呼んでいるそうだ。

どういう尊敬かは分からなかったが、慕われているのは確かなようだ。


三人は飲み物だけ注文すると、

私に話があるそうで席に座ってほしいと言ってきた。

今はお客さんも少ないので、クラスメイトの許可をもらい同席することになった。


「紗英さんは竜聖さんと同級生って言ってたッスけど、

同級生って関係だけには見えなかったんスよねぇ~。

竜聖さんと何かあるんスか?」


加地君が私をまっすぐ見てズバッと切り込んできた。

昨日少ししか一緒にいなかったのに、なんて観察眼だろう。

私は過去のことなので、正直に話すことにした。


「私、中学の時に吉田君にバレンタインチョコ渡したことがあるんです。」

「えっ!?」

「告白はできてないんですけど、それが元で吉田君との関係が断ち切れちゃって…

また話せるようになったの最近の事なんです。

だから普通の同級生とは違って見えるかもしれないですね。」


なるべく明るく話したつもりだったのだが、三人はジュースを片手に黙り込んでしまった。

そんなに重い話だっただろうか…と不安になり始めたとき

加地君が目をキラキラさせて言った。


「じゃあ、紗英さんは竜聖さんのことが好きなんスか!?」

「え~…と…中学のときは好きだったんですけど、

今はそういう感じの好きとは違う感じですね。すごく大切なお友達です。」


嘘は言ってない…昨日の事が少しひっかかったが、自分の心に言い聞かせる。

加地君は私の返答を聞いて、少しシュンとしてしまった。

それと入れ替わるようにジュースのグラスを置いた美合さんが言った。


「今は…他に好きな奴がいるとか?」

「………私……もう恋はしないって決めたんで。

そういう好きな人はいないです。」


美合さんが少し目を見開いて驚いてるのが分かる。

そこへ相楽さんが突っこんできた。


「恋しないってそれ本心?」

「え…?」


相楽さんの問いにドキッと胸がざわめく。


「だって、好きって感情なんてコントロールできないでしょ?

気が付いたら目で追ってたり、何気ない事が嬉しかったり…

それが好きってことじゃないの?」


コントロールできない…


「恋しないなんて自分に言い聞かせてるだけで、

実際恋してたらさきっと苦しいと思うよ。

意外と自分で受け止めて認めちゃった方が楽になると思うけどな。」


相楽さんの言葉は妙にストンと私の中に入ってきた。

頭では理解できる…でも、受け入れるには覚悟がいる。

気持ちの蓋を開けるには、私の勇気が足りない気がした。


「相楽…いい事言うな…。」

「相楽先輩…なんか大人ッスね。」

「え?だって普通の事でしょ。」


私は恋愛談義で盛り上がる三人に向かって、言った。


「私、しっかり自分と向き合ってみます。

時間はかかるかもしれないけど、相楽さんの言葉受け止めて考えます。」


さっきまで真剣な顔をしていた三人は、

少し嬉しそうな顔をして頷いてくれた。

吉田君の仲間の方だけあって、すごく素敵な方達だと思った。

こんな素敵な仲間の方達に囲まれている吉田君は幸せ者だ。


少しこの三人と打ち解けられたかな、という頃

今度は翔君が私のクラスにやって来た。

翔君は三人としゃべっている私を見つけると、

私たちのテーブルまで来て私の腕を掴んだ。


「紗英!今日は俺と回るんだろ!!」

「えっ!?」


私は今日まったくクラスのお手伝いをしていなかったので

このまま抜けて、文化祭を回るなんてできない。

私は翔君を見上げると、口を開いた。


「翔君、もうちょっと後にできないかな?

私、今日の仕事終わってないし…午後からなら回れるから…。」

「いいから!!今じゃないとダメなんだよ!!」


翔君は私の腕を掴んだまま、

ずんずん教室の出口に向かって歩いて行く。

私は腕を振り払おうとするが、力が強くて離れない。

涼華ちゃんたちに翔君を止めてもらおうと顔を後ろに向けたとき、

急に体が持ち上がった。


「紗英さん困ってますけど。」


美合さんが私の体を軽々と持ち上げていた。

持ち上げたときに翔君の手が私の腕から離れた。

翔君は私越しの美合さんを睨んでいる。


「紗英を放せよ。」

「だから、彼女仕事があるって言ってるじゃないですか。」

「お前には関係ないことだろ!?」

「いや、関係ないですけど困ってたら助けるでしょ?」

「いいから!!紗英を放せばいいんだよ!」


翔君は私と美合さんの間に手を入れて、引き離そうとしている。

背の高い美合さんは私を軽々と左右に動かして躱しているようだった。

私は高い高いされているようで、少し恥ずかしくなってきた。

そんな騒ぎを見兼ねてか、涼華ちゃんがブチ切れた。


「接客の邪魔なんで、皆さん出てってもらえますか!?」


私たちの目が涼華ちゃんに注がれる。

涼華ちゃんは出口を指さすと今まで見たことのない形相で睨んだ。


「紗英ちゃん連れてっていいんで。今すぐ出てってください。」


彼女の気迫に負けて美合さんたちは私を抱えたまま、すごすご出口に向かう。

私は涼華ちゃんに「ごめん!!」と叫ぶと、

「キリが着いたらすぐ戻ってきて!」とご叱咤を受けた。

これからきっと彼女には頭が上がらないことだろう…

先のことを考えて、私は気分が落ち込んだ。


廊下まで追い出されると、美合さんはやっと私を下ろしてくれた。

翔君は機嫌が悪いようで窓の外を見ていて、こっちを向かない。


「すみません。せっかく来てくださったのに…」

「いいよ。騒いだのは確かだし。」

「違う所回るッスから気にしないでください!」

「紗英さんこそ、この後大変でしょうけど頑張って。」


三人に気を使われ、私は頭を下げた。

三人は「じゃ!」と手を振ってその場を立ち去って行った。

私はその姿を見送ると、翔君の背中を小突いた。

翔君が罰の悪そうな顔で振り返る。


「何で、こんなことするの?」


翔君は黙ったまま視線を逸らしている。

少しずつムカムカしてきた私は翔君に背を向けて歩き出した。


最近の翔君は本当、自分勝手。

修学旅行以降、意味が分からない。

せっかくの文化祭なのに気分最悪。


流石に私が怒ってるのが分かったのか、

翔君が私の手をとって引き留めてきた。


「…ごめん。紗英。」


謝ってくる翔君の表情に見覚えがあった。

保健室で寝ていて、寝言を言ったときの顔だった。

あのとき翔君は「行くな」と言っていた。

彼は私に何か言えないことでも抱えているのだろうか?


そんな姿に少し情が湧いてしまった私は、

簡単に許すことにしてしまった。


何だかんだ私は翔君に対して甘い。


笑顔を作ると、手を握り返して

翔君をの手を引いて歩き出した。



文化祭二日目スタートです。

竜聖のお仲間お気に入りです。次は翔平との話です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ