2-35文化祭Ⅲ
俺はクラスの出し物であるお化け屋敷の前で受付をしていた。
あと十分で休憩になる。
休憩になったら紗英のクラスを見に行こうと思っていたとき
受付前にガラの悪い男子が三名やって来た。
一人は金髪、一人はメガネ、一人は目つきの鋭い強面の高校生ぐらいの男子達だ。
俺を見下ろす三人を見上げ笑顔をつくる。
「お化け屋敷の受付ですが、入られますか?」
「ああ。」
「入るッス~!」
目つきの鋭い男子に睨まれて、笑顔が凍り付く。
金髪の男子は見た目よりも軽そうだ。
「あ!竜聖さん!!こっちッス!」
俺は竜聖の名前が出て、耳を疑った。
そういえば紗英がチケット渡しに行くって言ってたな。
目つきの鋭い男子の背後にちらっと竜聖の姿が見えた。
でも俺は竜聖の隣にいる紗英に気づいて、思わず立ち上がった。
「紗英!」
「「紗英?」」
「あ、翔君。受付やってるんだ。」
「よう。翔平。」
俺が紗英の名前を呼ぶと、三人の男子が俺をマジマジと見てきた。
竜聖は勝ち誇ったような顔で俺を見てくる。
何なんだ…?
俺は紗英を見て、紗英のコスチュームに驚いた。
これって…チアの衣装??
下短すぎだろ…上はパーカー着てるからいいとして…
そうして紗英の衣装を見て、顔を赤らめていたとき
ふと手をつないでるのが目に入った。
竜聖と紗英が手をつないでいる…
その光景に俺は頭に血が上った。
竜聖を睨んで、手をあげかけて…やめた。
勝ち誇ったような顔はこういう事か…!!
奥歯を噛みしめて、我慢する。
「お前のクラスをわざわざ見に来てやったんだ。
入ってもいいんだよなぁ?」
上から目線の竜聖に俺は仕方なく「どうぞ。」と営業モードで返事をした。
それを聞いてかあの三人組がゾロゾロと教室の中に入って行った。
竜聖は紗英の手を引いて、教室の中へ。
紗英は少しためらっていたようだが、
俺に「また後で」と言い残して入ってしまった。
俺はそんな二人の様子が気になって、受付なんかできない。
傍にいたクラスメイトに無理をいって変わってもらうと、
俺は教室の中に入った。
教室の中は薄暗く、前を歩いている人の姿さえ見えにくい。
俺はお化け係が待機するクラスメンバーだけが通れるスペースに入り込むと
待機中のクラスメイトを押しのけながら、段ボールの壁の隙間に目を凝らして紗英の姿を探す。
クラスメイトから小声で叱られたが、俺は捜索をやめなかった。
ドライアイスをたいているエリアに紗英と竜聖の姿を見つけた。
紗英はお化け屋敷が苦手なのか、へっぴり腰で怯えている。
竜聖はそれを見ながら楽しそうにしてやがる。くそっ!
「紗英。大丈夫だって。全部作り物だよ。」
「う~……分かってるんだけど…っ!」
紗英は竜聖の後ろにくっついて、竜聖の服を握りしめている。
だーーー!!変われ!竜聖!!
紗英と回るのは俺の予定だったんだよ!!
俺は段ボールのカベをガリガリ引っ掻いた。
それがいけなかったのかもしれない。
紗英はその音に怯えて、もっと竜聖に密着してしまった。
次のエリアに入ると、俺のクラスのアーティストが丹精込めてメイクした
お化けがたくさん出てくるゾーンになる。
俺も紗英たちに合わせて段ボールのカベの裏を移動する。
まず、最初のお化けである包帯ぐるぐる巻きの哲史の登場だ。
「うおっ!?」
「―――――っひ……!!!」
紗英は声が出ないようで、竜聖を盾にしている。
竜聖は最初こそ驚いていたが、慣れると笑っている。
もっと怖がれよ!!
俺は心の中で哲史を応援した。
次はフランケンの圭祐だ。
頭に刺さるボルトは本物ように出来ているとクラスメイト大絶賛だ。
「おおぅっ!!」
「―――――っ!?……!!!」
「あ、あれ?紗英ちゃん?」
竜聖の背中に隠れていた紗英が圭祐の声に顔を出した。
おい、何でしゃべってんだ。圭祐。
「あ、何だ。圭祐君か。びっくりしたぁ…。」
紗英は圭祐と分かって安心したようだった。
「紗英。知り合い?」
「うん。翔君のチームメイトの伊藤圭祐君。」
竜聖は圭祐を見定めるように上から下まで見たあと
フレンドリーに自己紹介している。
一方圭祐は紗英が男と一緒でショックを受けたようだ。
明らかに情けないフランケンになっている。
その上挨拶を済ますと、あっさりと道を譲っている。
頼りなさ過ぎるだろ!だから竜聖に舐められるんだよ!!
俺はイライラしながら圭祐を睨む。
紗英と竜聖は、フランケンこと圭祐と別れると順路に戻る。
最後のお化けは貞子だ。
出口までの一直線追いかけてくる。
そして段ボールのカベに穴が開いており、
そこから手をだしてダメ押しして終了だ。
さて、竜聖の奴はビビらずにゴールできるのだろうか。
二人が一直線に辿り着いた時、ダンボールの穴から貞子が顔を出した。
顔というか頭だけど…長い黒髪を地面に流しながら手だけで追いかけてくる。
「おわぁっ!!」
「――――――!!!…ひっ!!」
さすがの竜聖も突然の登場に驚いたようで
紗英の手を引いて走り出した。
紗英は声も出さずに手を引かれて走る。
俺は貞子の出来栄えに大満足だった。
そして最後のダメ押し、壁から手がたくさん飛び出す。
「!?!?」
紗英は驚きすぎてその場に転んだ。
竜聖は手が離れたのに気付くと、慌てて紗英の所に戻ってくる。
竜聖は紗英がすぐ立ち上がれないのが分かると、
なんと軽々と抱き上げて教室を飛び出していった。
何!?
俺はクラスメイトをかき分け、竜聖たちを追って教室を出る。
出たところに竜聖にしがみつく紗英と
肩で息をしている竜聖の姿があった。
廊下の生徒たちが二人を呆然と見つめている。
先に出ていたあの三人組も状況を理解できないようで
二人を見下ろしたまま固まっている。
「りゅ…竜聖?」
俺は二人のビビりように言葉が出ない。
竜聖は俺に気づくと掴みかかってきた。
「なんだ!最後の!!
マジびびって心臓がどうにかなりそうだったぞ!!」
「う~~~~………。」
竜聖の目は血走っていて恐怖を語っていた。
紗英は竜聖にしがみついたまま、泣いているようだった。
え…?そこまで…?
まさかそんなに怖がられるとは思わなかったので
ひきつった顔で「わりぃ」としか返せなかった。
竜聖は大きくため息をつくと紗英の背中を優しく叩いた。
紗英は顔を上げない。
竜聖ににしがみつく手がかすかに震えていた。
俺はお化け屋敷の本分が成功したのは嬉しかったが、
この二人の距離が近づくのに協力してしまったようで内心複雑だった。
そしてこの二人のおかげもあってか、
俺のクラスのお化け屋敷は怖いと噂が広まり大盛況になった。
そう休憩時間が無くなるほどの客の入り用になり
俺は紗英と話す時間さえも奪われた。
竜聖イケメンな回でした。
次は少し番外編になります。




