2-33文化祭Ⅰ
文化祭当日―――――
私は涼華ちゃんが持ってきた衣装を前に立ち尽くしていた。
「やっぱり紗英ちゃんはこれしかないよね!!
本郷君に応援するって言ってたし、そこから導いてのコレです!!」
白とピンクのゴスロリ衣装に身を包んだ涼華ちゃんが
腰に手をあてて自慢げにふんぞり返っている。
私は目の前に置かれたチアリーディングの衣装を見て
ため息をついた。
「涼華ちゃん…今、十月だよ。
肌をこれでもかと露出するこの衣装はどうかな…?」
「いいから、いいから!!一回着てみてよ!!可愛いから!」
涼華ちゃんは私に衣装を手渡すと、
即席のフィッティングスぺースに押し込んだ。
私は手に持った衣装を見て、再度ため息をつく。
自分で考えなかった私が悪い。
覚悟を決めて、着替えることにした。
「やっぱりかわいーい!!!」
着替えて出てくると、涼華ちゃんが飛び跳ねて喜んでいた。
私は白のスコートの丈が短いのが気になって、
なるべく長くしたくて下に引っ張った。
黄色と青色のノースリーブのシャツにはご丁寧にローマ字でSEIJYOUと印刷されている。
髪は大きなリボンのゴムでポニーテールにした。
ポニーテールなんて麻友みたいだ。
「応援するならチアリーダーよね!
ナイス私!!自分で自分を褒めるわ!!」
涼華ちゃんは暖かそうなゴスロリ衣装ですごく羨ましい。
そんな恨めしい目に気づいてか、
佳織ちゃんと美優ちゃんが私のそばにやってきてくれた。
「ちょっと前からずっと紗英ちゃんには
チアリーダーがいいって盛り上がってたんだ。」
佳織ちゃんは女教師風のコスプレで
ぴっちりタイトスカートにワイシャツのボタンを少し開けて
赤い縁のメガネに変えていた。
「私、止められなくて…ごめんね?」
美優ちゃんは頭にウサギ耳をつけてもこもこした白いドレス姿だ。
ふわふわってのはこういう事か…と納得した。
気遣う二人に私は仕方なく笑った。
二日の我慢だ。なんとかなる!!
前向きに考えることにした。
そして十時になると、校門が開けられ
次々とお客さんたちが入ってきた。
私のクラスは交代で宣伝隊が二人、接客部門と調理部門、会計部門と分かれている。
会計と調理には男子生徒が割り振られていて、女子数名が手伝う形になっている。
私たちは接客と宣伝を交代ですることで上手くタイムテーブルを決めていた。
休憩時間まで自分の仕事をしようと衣装を気にせず働く。
コスプレにインパクトがあってか、客足は上々。
お昼前には外まで行列ができていた。
私は接客しながら、たびたび大学生のお兄さんにからまれたが上手く躱していた。
これは涼華ちゃんたちも同じようで、相手を不快にしないように上手く言葉であしらっている。
休憩まであと一時間というところで、
教室の扉で立ち止まっている人に気づいた。
「――――!!吉田君!」
吉田君は真っ赤な顔で呆然としていた。
私は自分の姿を思い出して恥ずかしくなった。
持っていたトレイで顔を隠す。
そうだ!チケット渡したんだった!!
自分の姿がこんなんだと知ってたら誘わなかった。
「紗英ちゃん接客!!」と涼華ちゃんに怒られて、
私は慌ててトレイを下げて吉田君のもとへ歩いて行く。
反応が怖くて顔が見れない。
「…いらっしゃいませ。どうぞ。」
何とか声をかけると席に案内しようと背を向ける。
すると肩を掴まれた。
驚いて振り返るとそこには知らない男の子たちが立っていた。
「あんたがそうか?」
「わー!!その衣装可愛いッスね!」
「……意外と普通だ。」
私の肩を掴んでいたのは目つきの鋭い男の子だった。
急に三人の男の子に囲まれて、その場に緊張で固まってしまう。
するとその男の子たちを押しのけるように吉田君が顔を出した。
「何やってんだよ!!紗英、どこに行けばいいの!」
男の子たちを押さえつけて吉田君が訊いてきた。
私は「こちらです。」と4人掛けの席へ足を向けた。
びっくりした~…
吉田君のお友達かな…?
吉田君たちを席に通すと、
メニューを渡してその場を立ち去った。
私は調理場に逃げてくると、ふうとため息をつく。
そこへ同じように涼華ちゃんが料理を取りにやってきた。
「あの人たち知り合い?」
「うん。でも、知ってるのはあの黒髪の人だけだけど。」
「へぇ~なんかちょい悪でかっこいいよね。西城にはいないタイプ。」
涼華ちゃんの見立てに私は渇いた笑いで返す。
涼華ちゃんは料理を受け取ると意味深な目で私を見ていった。
「えーっと、そこの紗英さーん!!」
急に大声で名前を呼ばれて、私は振り返る。
そこには吉田君のお友達のあの目つきの鋭い人が手を振っていた。
注文かな…と思い、私はしぶしぶ用紙を持って向かう。
「ご注文ですか?」
「うん。俺はサンドイッチとコーラ。」
「俺、パンケーキにオレンジジュース!」
「サンドイッチとコーヒー。」
私はその人の印象とメニューを用紙に書き込む。
目つきの鋭い彼がサンドイッチとコーラ。
金髪で可愛い感じの男の子がパンケーキにオレンジジュース。
メガネの真面目そうな人がサンドイッチとコーヒー。
書き終えて、私は吉田君の注文を待つ。
「俺は…パンケーキと…アイスコーヒーでいいかな。」
私は書き留めると、注文内容を復唱した。
「こちらでよろしいでしょうか?」
「はーい!大丈夫ッス!!」
私は笑顔で頭を下げると、注文内容をを調理場へ伝えた。
注文がそろうまでの間、私はちらっと吉田君の方を向く。
すると同じように私を見ていたのか、吉田君とばっちり目が合ってしまった。
私は慌てて視線を逸らす。
何だかこんなやり取りに覚えがあった。
中学のときの事だ…と思い出しかけて、やめた。
気持ちの蓋が開きそうだった。
ふーっと息を吐き出すと、揃ったメニューをトレイに乗せて運ぶ。
私一人では無理だったので、調理場の子に手伝ってもらった。
「お待たせしました。」
私はさっきメモした用紙を見ながら、間違わないようにメニューを並べた。
間違いがないかを尋ねると「ないでーす!」とあの明るい男の子が言ってくれてほっとした。
私はその場を立ち去ろうと頭を下げると、男の子たちに話しかけられた。
「ねぇねぇ、竜聖さんとはどこで会ったの~?」
「えっ?」
吉田君が竜聖さんと呼ばれている事に驚いた。
吉田君は慌てて金髪の男の子の口を塞ごうとしている。
「俺も教えてほしいな。」
「確かに気になる。」
大きな口で料理を平らげた目つきの悪い人とメガネの人が言った。
話さなければこの場から逃げられそうになかったので、ちらっと吉田君を見た後口を開いた。
「吉田君とは中学の同級生なんです。」
「「吉田君!?」」
私の言葉に吉田君以外が爆笑している。
机に突っ伏して、お腹を抱えられたら自分の言ってることが恥ずかしくなってきた。
そんなにおかしな事言ったかな…?
「お前ら!いい加減にしろ!紗英気にすんなよ!!」
吉田君が三人の頭を順番に叩いていく。
私はその光景を半笑いで眺めた。
「…ぶふっ…じゃあ、昔から知る仲なんだ。へえ~。」
「竜聖さんの昔ってどんなんッスか!!知りたいッス!」
「えぇっと…」
話してもいいものか…と吉田君に助けを求める。
吉田君はアイスコーヒーを一気飲みすると立ち上がった。
「もういいから!行くぞ!!」
「「えぇ~!!」」
まだ食べていない吉田君以外の三人は
文句を言いながら食事をあっという間に平らげた。
そして、しぶしぶ立ち上がるとなぜか私の腕を掴んだ。
「へっ!?」
私は突然両腕を掴まれて、両脇にいる目の鋭い彼と金髪の彼を交互に見た。
これには吉田君も驚いたようで二人の顔を見つめている。
「まだ話聞きたいから、一緒に回ろうぜ。」
「案内をお願いするッス!!」
「おい!お前ら!!」
「えっ!?でも、私接客が…。」
私が無理です!!と言おうとすると、
目つきの悪い彼が私のクラスメイトに向かって訊いた。
「紗英さん、いないと困る?」
私はクラスメイトに助けてと目で訴えた。
クラスメイトは彼らの気迫に押されているのか、
どうしようかと困っているようだった。
でも、ただ一人涼華ちゃんだけが違った。
「大丈夫ですよー!連れてってくださっても!
紗英ちゃん、もうすぐ休憩なんで!」
「涼華ちゃん!?」
どうみても面白がっている涼華ちゃんに私は愕然とした。
涼華ちゃんはニコニコと笑いながら私に手を振っている。
裏切り者~~~!!!
最後の砦である吉田君を見ると悪いと手を合わせている。
うそ!?
私は最後の望みも断ち切られた。
「じゃ、行こっか。」
「よろしくね。紗英さん。」
「よろしくッスー!!」
私は両脇を抱えられて、教室から連れ去られた。
文化祭スタートです!
次は竜聖との仲が少し進展します。




