2-32お誘い
昼休み――――
俺は今、仲間たちといつものたまり場である
教室棟と中庭の角の植え込みで建物の壁にもたれかかりながら
昼ご飯を食べていた。
「竜聖さんがこうして
俺たちのところに来てくれて嬉しいッス!!」
ニコニコしながらパンをかじっている加地が俺にひっついてくる。
相楽は黙ったままコンビニ弁当を食べていたが、
心なしか表情が柔らかい…喜んでいるんだろうか?
美合だけが俺をまっすぐ見て、眉間にしわを寄せている。
睨まれているようで落ち着かない。
「そうか。なら、来て良かったよ。」
いつもはこいつらから誘われるが、今日は自分から誘ってみた。
紗英や翔平の事もあって、
俺は色んな奴とまっすぐ向き合いたくなったからだ。
俺らしくない行動に美合の奴は怪しんでいるんだろう。
パンをかじりながら、俺から視線を外そうとしない。
「…美合…。俺を見るのをやめてくれ…。」
俺は耐え切れずに言った。
それでも美合は態勢を変えようとせず、見続ける。
「…いや…本物の竜聖さん…かなと思って。」
「本物って…。」
「あ、でも俺もその気持ちわかるッスよ!
竜聖さん、何だか変わったッス!!」
「確かに、授業に真面目に出る竜聖さんなんて見たことありません。」
美合の言葉をはじめに、加地、相楽まで口を出してきた。
仲間たちからそんな風に見られていたなんて、若干恥ずかしい。
「でも、今の竜聖さんも嫌いじゃないッスよ。」
加地が子犬のように俺を見て目を輝かせている。
「ありがとう」と言うと、加地は嬉しそうに笑った。
「あずさ…も変わったんですけど…何か関係ありますか?」
美合が遠慮がちに訊いた。
俺は美合の気持ちを知ってるだけに、正直に話すことにした。
「板倉とは別れたんだ。」
「「えぇっ!?」」
加地と相楽は驚いて声を上げていたが、美合は息を飲み込んでいた。
「別に好きな奴ができて、あいつを傷つけちまったんだよ。」
「竜聖さん…」
「もしかして…別に好きなやつって…西城高校の女子ですか?」
相楽の言葉に俺は驚いた。
頬に徐々に熱が集まってくる。
「な…なんで…それ…。」
「当たりっスか!?マジッスか!!」
「見間違いじゃなかったのか…。」
加地が目を爛々と輝かせ、
相楽はメガネを指で持ち上げて信じられないという顔をしている。
俺はなぜこいつらが知っているのか気になってしょうがなかった。
「俺、以前竜聖さんとその女子が一緒にいるところを目撃しまして…
なにぶん西城の女子だったので、見間違いだと思ってました。」
「いつからッスか!!いつから片思いなんスか!?」
嬉しそうに詰め寄って来る加地の背後で
ずっと黙ったままの美合が動くのが見えた。
「あずさは、それ…知ってるんですか?」
美合の声に騒いでいた加地が大人しくなった。
俺は微笑むと頷いた。
「知ってるよ。あいつには助けられてばっかりだ。
強いやつだし、いつか俺よりいいやつ見つけるよ。」
美合は俺を見てきたので、俺は見つめ返し目で伝えた。
板倉を支えてやれんのはお前だ…と。
伝わったかは分からないが、美合は口の端を持ち上げると俯いた。
俺はそれを見て少しほっとした。
いつか美合と板倉が上手くいけばいい…そう願った。
「俺!!竜聖さんの想い人見に行きたいッス!!」
「は!?」
「あ、確かに。俺も近くで見たわけじゃないから気になる。」
「…あずさ以上の女。確かに気になるな。」
黙っていた美合まで話にのってきた。
俺はこいつらを紗英に会わせるのは嫌だった。
絶対余計なこと言うに決まっている。
「あ、そういえば。もうすぐ西城の文化祭ですよね?」
「そうだ!!竜聖さん、チケットもらってないんスか!?」
文化祭のチケット…確かに昨日紗英にもらった。
お友達と来てねと多めに貰っている。
それを使えばこいつらも行けるが…どうしよう…。
黙って考えている俺を見兼ねて、
加地が俺の制服に手をつっこんできた。
ポケットの中を物色される。
「ちょっ!!やめろ!!」
「あ、あったッス!!」
加地は俺のポケットに入っていたチケットを探し当てると
相楽や美合に分配した。
俺は唖然とそれを見ているしかなかった。
「はい。竜聖さんの分ッス。」
「お前なぁ~………。」
悪気のない笑顔でチケットを手渡す加地に何か言ってやろうと思ったが
その無邪気な笑顔に毒気を抜かれた。
チケットを受け取り大きくため息をつく。
なんか、こいつ少し紗英に似てるんだよなぁ…
「文化祭明日じゃないですか!!」
「わっ!本当だ!!楽しみッスね~。」
「じゃ、明日は駅前に集合だな。」
着々と仲間内で進められる予定を聞きながら
俺は不安で胸がいっぱいだった。
竜聖の仲間たち再登場です。
けっこう好きなキャラ達なので今後も出てきます。




