2-31文化祭準備
私と翔君、そして吉田君が仲直りしてから
一か月が経とうとしていた。
季節は十月、ここ西城高校では
二日後の文化祭に向けて準備が進んでいた。
私のクラスは女子が多いクラスというのもあって
コスプレ喫茶をやることになった。
女子が様々なコスチュームで接客するというものだ。
ゴスロリ衣装が着たいという涼華ちゃんの発案だ。
コスチュームに関しては自由にしようという事で
コスプレと銘打った。
出すメニューは簡単なドリンクと
サンドイッチやパンケーキの軽食だけに留めた。
お嬢様の多いこのクラスで出すにはこれが限度だった。
着々と進む内装を見ながら、
私は自分のコスチュームが決まっていないことに焦っていた。
涼華ちゃんはゴスロリ衣装を作ってるそうだ。
業者に頼んだらしい…すごい…
佳織ちゃんはクールに決めるって言ってたし、
美優ちゃんはふわふわしたやつにするらしい…
皆どんなのにするのか構想が決まっていて羨ましい。
「紗英ちゃん!また悩んでるの?」
内装を手伝っていた涼華ちゃんが休憩のためか
私の前の椅子に座った。
私はふうと息をつくと、頷いた。
「何にしたらいいのか…全くわからない…。」
「そっか…。じゃあさ!私が決めてもいい?」
「え?」
「紗英ちゃんにぴったりのコスチューム思い浮かんでるんだよね~。」
「…ちなみに…どんなやつ?」
私は唾を飲み込んでまじまじと涼華ちゃんを見た。
涼華ちゃんは意地悪く笑うと椅子から立ち上がった。
「当日までの秘密!楽しみにしておいて!!」
涼華ちゃんはそう言い残して、また内装の手伝いに戻っていった。
あの顔…なんだか不安だ。
恥ずかしくないものであることを願った。
***
私は準備をひと段落させると、
スポーツ科の様子を見に行こうと向かっていた。
廊下は準備中の生徒で溢れかえっていて、歩きにくい。
宣伝用の幕を描いている生徒、
資材の切り出しをしている生徒と様々だ。
やっとの思いでスポーツ科の教室を着くと
そこは暗幕に囲まれて中が覗けなくなっていた。
外の看板を見るとお化け屋敷と
何ともおどろおどろしい字で書かれている。
覗いてもいいのだろうかと考えていると
中から圭祐君が姿を現した。
「あれ?紗英ちゃん!」
「あ、お疲れ様。準備どう?」
圭祐君は段ボールを脇に抱えたまま
私に駆け寄ってきてくれた。
「準備はまぁまぁかな。紗英ちゃんとこは?」
「私のところは順調。明日のお昼には完成しそうだよ。」
「そっか。そういえば紗英ちゃんとこ、コスプレ喫茶だっけ?」
「うん。そうだよ。」
圭祐君は「へ~。」と言うと何だか言いにくそうに私を見た。
「その…紗英ちゃんはどんな服…着るの?」
「えっ!……えっと~実は涼華ちゃんにお任せしてて…
私も当日まで分からないんだぁ…。」
「そ、そうなんだ!何だか当日が楽しみだな~。
絶対見に行くから!!」
見に来てくれるのは嬉しかったが、内心複雑だった。
私の衣装…本当にまともなやつでありますように!
「圭祐君のクラスはお化け屋敷みたいだね。
本格的な感じになりそう?」
「それは保障するよ!クラスメイトですっげー絵の上手い奴がいて
そいつがお化けメイクとか担当するから…かなり怖いと思うよ。」
「へ…へ~…。」
圭祐君の自身たっぷりな様子に、お化け屋敷の苦手な私は
中に入りたくないなと思った。
けど当日は涼華ちゃんたちに連れてこられるんだろう…
今から覚悟しておかなければ。
私が細くため息をついたとき、
圭祐君が真面目な顔でこっちを見ていることに気づいた。
「紗英ちゃん。文化祭当日さ…俺と一緒に回ってくれない?」
「えっ?」
「休憩時間教えてくれたら合わせるから…ダメかな…?」
圭祐君は私に手を合わせてお願いしてくる。
なんだかそんなに必死に頼まれると断れない。
「いいよ。」
「へー!!いいなぁ。俺も一緒に行ってもいいよなぁ?」
急に横から声がして、私は顔を声の方に向けた。
圭祐君も驚いたようで、手を合わせた状態のまま顔を向けた。
そこにはバケツと段ボールを両手に抱えた翔君が立っていた。
翔君は大股で一気にこっちへ来ると私たちに顔を近づけた。
「俺も一緒に回ってもいいよな?」
私は圭祐君をちらっと見てから、頷いた。
翔君は満足そうに笑うとやっと顔をはなした。
圭祐君を見ると横で固まっていた。
「じゃ、そういう事で。
紗英、俺のクラス少し遅れてるから先帰ってていいぞ。」
翔君はそう言うと圭祐君の肩を押して、教室の中に押し込んだ。
私はここに来た目的を思い出して、慌てて口を開いた。
「あっ!今日、吉田君に文化祭のチケット
渡しに行こうと思ってたんだけど、翔君忙しいなら
私、帰りに渡してくるね。」
「え!?」
「じゃ、準備頑張って。」
一緒に渡しに行けたら一番良かったんだけど、
遅れてるなら邪魔できないよね…
何だか翔君は私の言葉を聞いて焦ってるみたいだったけど、
私は手を振るとその場を後にした。
読んでいただきましてありがとうございます!
文化祭編突入です。しばらくお付き合いください。




