2-27お返し
これは幻か…?
私は家族連れやカップル、
同性同士の友達グループが多く集まるショッピングモールに
なぜか吉田に連れられてやって来ていた。
吉田は黙々と前を向いて歩いている。
なぜこんな状況になったかというと、
今日休み時間に吉田が私のクラスにやってきたことに始まる。
「安藤。ちょっといいか。」
教室の入り口に仁王立ちする吉田に
クラス中のの視線が集まる。
名指しされた私は友達に押されて
しぶしぶ話を聞きに駆け寄った。
「…何?」
「…今日、時間あるか?」
「へ…?…えっと…部活後なら…大丈夫だけど…。」
「そうか…迎えに行く。」
それだけ言うとサッと立ち去ってしまった。
私は何かの冗談かと思った。
吉田に誘われるなんてありえない。
今のは白昼夢でも見てたんだとなかった事にしたのだが、
部活後本当にあいつは迎えに来た。
まさか…本気?
私は鞄を持ったまま立ち尽くした。
吉田は動かない私を見兼ねて近づいてくる。
「ちょっと付き合ってくれ。」
「へ?」
私の口から情けない声が出る。
吉田は私の腕を掴むと歩き出した。
私は引っ張られて無理やり連れていかれる。
な…なんだ、この状況は…!?
そして今に至る。
学校からずっと無言のまま、
吉田はショッピングモールの中を歩き続ける。
掴まれた腕は離してもらったものの、
何で私をここに連れてきたのか謎だ。
吉田はふと一軒のお店の前で立ち止まると
中に入っていた。
私はそのお店を見て唖然とした。
女の子向けのファンシーショップだったからだ。
私は慌てて吉田を追いかけた。
可愛い雑貨の立ち並ぶ店内に吉田は不釣合いだった。
いや…佇まいが異様だ。
女子高生が吉田をちらちら見ているのが見える。
私は吉田に駆け寄ると声をかけた。
「あんた何したいの?こんなとこ用ないよね?」
吉田はやっと私の方を向くと、
少し気恥ずかしそうにしている。
そして少し悩んだ素振りを見せたあと言った。
「…女の子って…どういうのが…いいんだ?」
「………は?」
まさか私に買ってくれるというのか?
何の罰ゲーム!?
誰かに脅されてんの???
私は意味が分からなくて目を白黒させた。
「いや……私…いらないよ?」
私の返答に吉田の表情が変わる。
大きく息を吸い込むと何かを言いかけたが、
店内という事に遠慮したのか小声で呟いた。
「…お前にじゃねーよ。……紗英に…。」
吉田は少し赤い顔を隠すように
私から顔をそむけた。
私はここで全部理解した。
ははーん…なるほど。
紗英にね。
好みが分からないから私を連れてきたんだ。
可愛い所あるじゃん。
私は少しからかってやろうと吉田と距離をつめる。
「何で紗英にプレゼントするの?」
吉田は私から離れようと横に移動したが、
私はついて行ってあいつの顔が見えるように覗き込む。
「選ぶの手伝うから、理由を教えてほしいなぁ。」
吉田は観念したようにため息をついた。
「…中学のときのお返しだよ。
俺、チョコ貰ったのにお返しできてなかったから。」
意外と真っ当な理由に拍子抜けした。
茶化す気分でもなくなってしまう。
そういえば、吉田と仲直りしたって紗英が電話で言っていた。
こいつの中でどんな心境の変化があったかは知らないけど
紗英のことを傷つけるようなことはしないようで安心した。
少しは認めてやってもいいかなと棚に手を伸ばす。
「紗英は可愛いものだったら、何でも喜ぶと思うよ。
紗英が好きなもの…あんたの中で何か思い当たらないの?」
紗英を見てきたなら、自然に好きなものは分かるはずだ。
吉田は黙ったまま棚を見つめて考えている。
そしてふと何かに思い当たったのか、
店内を歩き回り始めた。
私は吉田の様子をついて見ていると、
ある棚の前で立ち止まった。
私は吉田の見つめる先を見て、驚いた。
そこには音符やト音記号などの
音楽の記号をモチーフにした雑貨が並べられていた。
私は吉田を見直した。
ちゃんと紗英のこと分かってるじゃん。
熱心に選ぶ吉田を見ながら、自然と笑顔になる。
吉田は悩んだ末、パスケースを手に取ると私に見せてきた。
「どうかな?」
「いいんじゃない?きっと喜ぶと思うよ。」
私の言葉に安心したのか、吉田は少し微笑むと
レジへと向かっていった。
私はそんな吉田の姿をみて考えを巡らした。
どう見ても…紗英のこと好きだよね…?
あいつ自分の気持ちに気づいてんのかな?
う~ん…紗英も吉田のこと一度は好きだったわけだし
仲直りした今の心境ってどうなんだろう?
考えながら吉田を見ると、
レジのお姉さんにラッピングのことを聞かれているのか
焦っているのが見えた。
私は噴出すと笑いを堪えながらレジへと駆け寄った。
まぁ、今は二人の成り行きに任せよう。
ちょっとした小休止の回でした。
次から紗英の本心に迫っていきます。




