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勘違い系○○  作者: 流音
第二章:高校生
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2-26報告


俺は一昨日の紗英の様子が気になって、授業に集中できないでいた。


悩み事があるんじゃないのか…って事は薄々感じていた。

ぼーっとグラウンドを見ている事もあったし、

考え事をしていて俺の話を聞いていなかったり、

紗英らしくない事ばかりだった。

でも、一昨日の紗英の態度は授業に関しての悩みじゃないように感じた。

取り繕った嘘ではないと思うけど、何かを隠しているのは確かだ。


隠し事をするなんて、竜聖の件以来の事で嫌な予感がしてくる。


また、あいつが何かしてきたか?

いや、あいつに紗英に会う勇気があるとは思えない。

考えれば考えるほど頭が痛くなってくる。

体もだるいし、イライラする。


「本郷!」


名前を呼ばれ、慌てて立ち上がる。

一瞬立ちくらみがして、頭を振る。


「お前、ぼーっとしてたな。

体調でも悪いのか?」


「いえ!大丈夫です。すみません。」


国語のじいさん先生に当てられるなんて、

今までなかっただけに礼儀正しく謝った。

国語の担当である矢田はもうすぐ定年の白髪頭のじいさん先生だ。

目が悪く、眼鏡を目に近づけながら人を見るくせがある。

あまり人を当てないので気を抜いていた。

「しっかりしろよ。」とお叱りを受けてから席に着いた。


隣の席の哲史が意地悪そうに笑っている。

どうみても面白がっている。

拳で哲史を小突くと黒板に視線を戻した。


それから俺はぼーっとすることもなく授業を終えた。

今から昼休みだ。

俺は大きく伸びをすると、

弁当を取り出して机の上に置いた。

でも食欲がなく開ける気にならない。

じっと弁当を見つめて動かない俺を

変に思ったのか浜口が俺に話しかけてきた。


「本郷君。食べないの?」


浜口は俺の前の奴の椅子に無断で座る。


「なんか食欲ない。」


「えっ?朝練あったよね?大丈夫なの?

やっぱり先生に言われてたみたいに体調悪いんじゃない?」


「う~…ん。違うと思うんだけどな…。」


俺は自分の額に手を当てて考えた。

熱はないし、少し頭は痛い気がするけど考え過ぎなだけだと思う。

体がだるいのも朝練のせいだろう。

浜口は顔をしかめると俺の腕をとって

立ち上がった。


「保健室行こう!もしかしたら体調悪いのかもしれないし、

診てもらった方がいいよ!」


俺は抵抗する元気がないので、引っ張られるままに立ち上がる。

体調悪いって言われたら、本当に悪い気がしてきた。

そのとき購買から戻ってきた哲史が俺を呼んだ。


「翔平!お客さん!」


俺は哲史がいる教室の扉に目を向けた。

そこには紗英がお弁当を持って立っていた。

俺はその姿を見た途端、体に力が戻った。


「翔君。お昼一緒に食べない?」


紗英からの初めての誘いに、俺は浜口の手を振り払って

自分の弁当を掴んだ。

そして浜口に「悪いな。」と言うと紗英の元に駆け寄った。


「急にごめんね?誰かと約束あった?」

「ないない!全くない!!」


俺は全力で否定した。

約束があったとしても紗英のお誘いなら

約束なんてどうだっていい。

紗英は「良かった」と微笑むと

俺を先導して歩き出した。

俺はそのあとに続いてついて行った。

さっきまでの体調の悪さはどこへやら吹っ飛んでいた。



***



俺と紗英は人目を避けるように、

中庭のベンチの中でも人通りの少ないベンチに腰掛けた。

紗英は膝の上にお弁当を広げると

手を合わせて「いただきます」と言った。

俺はなんとなくそれを見てから、紗英に倣って手を合わせた。


紗英のお弁当は色とりどりの手作り弁当だった。

女の子のお弁当って感じですごく可愛い。

俺のは昨日の晩御飯の残り物をつめられた

素っ気ないものだ。

まぁ、いつもの事なので気にしない。


俺が豪快にお弁当を口に運んでいると、

紗英がおもむろに口を開いた。


「あのね…実は…翔君に話さなきゃいけないことがあって…

それで…今日お昼に誘ったんだけど…。」


俺は口いっぱいに詰め込んでいたので

返事ができない。

紗英は一旦箸を置くと、俺をまっすぐ見つめる。


「…えっと…驚かないで聞いてね。」


俺は口の中のご飯を噛み砕きながら頷く。

紗英は一息吸い込むと言った。


「実は…吉田君と話せるようになったんだ。」


え…?

俺の聞き間違いかと思った。


「…私と話したいって言いに来てくれて…

そのときはまた拒絶されるのが怖くて…返事できなかったんだけど…」


俺は紗英を見つめて固まる。

手に持った箸が落ちそうになる。


「翔君に…楽しいときの事思い出してって言われたでしょ?

それで…吉田君と向き合う決心がついたんだ。」


俺は何とか口の中のご飯を飲み込んだ。

喉につまりそうになって少し焦った。


…竜聖のやつ…

なんで…何の変化だよ…意味分からねぇ…


紗英は俺を見て「ありがとう。」と言って笑った。


いやいや…俺はそんなつもりで

アドバイスしたわけじゃなくて…

あー…また頭が痛くなってきた…。

俺はめまいがして弁当に箸を置く。


「翔君には心配かけたくないし、

報告しとかなきゃって思ったんだ。」


紗英の言葉が耳に入ってこない。


「翔君は吉田君のことどう思ってるかわからないけど…

でも、吉田君変わったんだよ。本当だよ。だから―――。」


俺は自分の体が傾いていくのが分かった。

俺の膝から弁当が落ちる。

横向けに倒れる瞬間、紗英の俺の名前を呼ぶのが聞こえた。



目の前が真っ暗になったとき

中学時代のあいつの後ろ姿が見えた気がした。

俺がずっと羨ましかったあの背中が…




読んでいただきましてありがとうございます!

ここから翔平の葛藤に少しお付き合いください。

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