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勘違い系○○  作者: 流音
第二章:高校生
31/218

2-25決意と決着

紗英が俺の腕の中で震えている。


まさか板倉の奴が紗英のところに行くとは思わなかった。

昨日もっとちゃんと話をするべきだった。

俺の今までの行いのツケが紗英に回ったことが

何より苦しかった。


あいつ一体紗英に何を言ったんだ…


「…よ…吉田君…ちょっと苦しい…。」


俺は自然と腕に力が入ってしまっていたようで

慌てて紗英を放した。

紗英の涙はいつの間にか止まっていたようだった。


「……ごめん…紗英…。」


紗英の顔の涙の痕を見て、また心が苦しくなる。

なんで俺は…紗英を傷つけてばっかりなんだ…

笑顔にしたいのに…

それができないことが歯痒い。


「謝らないで…吉田君。

私、悲しくて泣いてたわけじゃないから…

本当にほっとしただけなの。」


紗英は優しく微笑んでいる。

俺は明らかに強がっている紗英を見て、

自分がすごく情けなくて反吐が出そうだった。


「紗英…板倉から何聞いたんだ?」


俺は聞くのが怖かったが、思い切って訊いてみた。

紗英の顔から笑顔が消える。


「え…えっと…」


紗英は言うのを躊躇っている。

俺はじっと我慢して紗英の言葉を待った。


「…その…今の吉田君は昔と違う…とか…

よく嘘をつくって…あと板倉さんと…

その…付き合ってるって本当?」


俺は聞いているうちに眩暈がしてきた。

よくもまぁ…この二年話もしていない紗英に

色んな事並べ立てたな…


「板倉とは付き合ってないよ。

あいつが勝手に言ってることだ。

あと、今と昔が違うのなんて皆一緒だろ?

ずっと昔のまんまではいられないよ。」


「そ…そうだよね…。」


「俺は今の俺で紗英と向き合いたい。」


紗英の顔が一気に赤くなるのが見えた瞬間、

俺は自分が恥ずかしい事を口に出したことに気づいた。

何が今の俺だよ!

いつの俺も俺しかいねぇだろ!!詩人か!

紗英につられて俺も顔が赤くなる。


「ふふっ…今の…俺か…。」


紗英が楽しそうに笑っている。

俺は自分の言葉を繰り返されて更に恥ずかしい。


「うん。今の吉田君を見ていくよ。

吉田君の言葉を信じる。」


紗英が笑っている、

それだけで恥ずかしい事を言った甲斐があった。

悲しい顔をさせてばかりだった俺にも

紗英を笑顔にすることができた。

信じると言ってくれた紗英の言葉に報いるためにも

俺は板倉との事を決着をつけなければならない。


その日紗英を送った足で、俺は板倉の家へと向かった。



***



板倉の家を訪ねるなんていつ以来だろう。

いつも向こうから押しかけてくるので

あまり板倉の家に行った記憶がない。


俺は緊張する指先でインターホンを押した。

『はーい。どなた?』と軽い口調で板倉の母親の声が

インターホンのスピーカーから聞こえてきた。


「お久しぶりです。吉田ですけど…板倉いますか?」

『やっだー!竜聖君?話すの久しぶりねー。

梓ね。呼んでくるわ!』


板倉のお母さんはいつもこんなテンションなんだろうか?

女子高生のようなはしゃぎっぷりに板倉と並んだ姿を想像して

まるで姉妹みたいな親子だな…と思った。


しばらく待ったが板倉は出てこない。

玄関の扉越しに何だか言い争う声が聞こえる。

じっとその扉を見ていると、ガチャとカギの開く音がした。

そして扉から出てきた板倉はすごく不機嫌そうな顔をしていた。


「何?」

「少し…話いいか?」


板倉は大きくため息をつくと、

扉の前から俺のいる門まで歩いてきた。

門を挟んで俺と板倉が向かい合う。


「今日、紗英に会ったんだろ?」


板倉の表情が変わる。

目を見開いて悪さがバレた子供のような顔になった。


「お前が向き合うのは俺だろ?

何で紗英のとこに行くんだよ。」


「だ……だって…」


「だってもくそもあるかよ。

言いたいことがあるなら俺に言え。紗英を巻き込むな。」


少しきつく言いすぎたのかもしれない。

板倉はみるみる泣きそうな顔になった。


「だって!りゅーに言ったって変わらないもん!!

私のこと好きになってくれるわけじゃない!

だったら沼田さんがりゅーの事嫌いになってくれたらって

思って…」


板倉は泣くのを我慢しているようで、

眉間にしわを寄せて捲し立てた。


「俺は…お前にそんなことしてほしくなかったよ。」


板倉とは小さい頃からの幼馴染だ。

ずっと一緒にいた。

こいつの良いところも悪いところも知ってる。


「俺は恋愛感情と違う部分でお前の事、好きなんだよ。

俺はお前を幸せにはできないけど…、違う誰かと幸せになってほしい。

そう願うぐらい大事な幼馴染だから…。」


俺の言葉を聞いて板倉が勢いよく俺に抱き付いてきた。

門が間にあるので、俺の首に腕を回してきただけだったが。


「りゅー!大好きだよ!!ずっと、ずっと…

きっと死ぬまで大好きだから!!」


板倉が泣いている。

俺は「うん。」と頷いていることしかできない。

気持ちに応えてやることができないからだ。

板倉は腕を放して、泣き顔のまま俺を見ると言った。


「…沼田さんのこと好きなんでしょ?」


『好き』という単語に心臓が跳ねた。

きっとこれが答えだと思った。

紗英と仲直りしたいと思ったのも、

隣を歩きたいと思ったのも、

まだ俺が紗英のことが好きだからだ。


自覚する気持ちと共に俺は頷いた。

それに満足したのか、板倉は手で涙を拭うと笑った。


「やっぱりね…女の子のために

こんなに必死になるりゅー初めてだもん。」

「悪い…。」

「…応援なんかしないよ。

りゅーなんか振られちゃえばいいよ。」


「そしたら私が付き合ってあげる。」と冗談のように笑う板倉に

俺は救われた。

今まで何度板倉に助けられてきただろう。

折れそうな俺を支えてくれたのは、紛れもなく彼女だ。

そんな板倉の想いに応えることのできない俺は

本当に最低な奴だ。


ありがとう


彼女の強さを見習って、

俺は紗英にいつか想いを伝えようと決心した。





読んでいただきましてありがとうございます!

次は翔平視点に移ります。

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