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勘違い系○○  作者: 流音
第二章:高校生
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2-24凶器の言葉


吉田君と仲直りした次の日。

私は翔君にこの事を報告すべきか迷っていた。


最後に吉田君と話す勇気をくれたのは翔君だ。

…話さなきゃいけないと思うのに

以前吉田君に食って掛かっていた翔君の姿が

思い返されて…話せない…


私の事心配して怒ってくれたのは分かってる。

でも…二人の仲があんなに悪いなんて思わなかった。


中学のときはすごく仲が良かったはずなのに…

何かケンカして仲直りできずにいるんだろうか?


色々考えるが、結論なんかでるわけがない。

これは翔君と吉田君の事だ…

私が首をつっこんでいいことではない。


グラウンドで練習中の野球部を見てはため息がでる。

今日は翔君に話せない。

私はどんよりと暗くなる気持ちを抱えて、

学校を後にした。



***



私は家への帰り道、

まっすぐ帰る気にはなれず駅近くの公園に来ていた。

周りには鬼ごっこで遊んでいる小学生の集団が走り回っている。

ベンチに座ってぼーっとしていると、

私の前に一人の女子高生が歩いてきた。


「沼田さん!久しぶり!!」


私が中学のときに憧れた板倉梓さんだった。

私はあまり話した記憶もなかったので、

声をかけられて戸惑った。


「板倉さん…」

「うわー中学卒業以来だね!元気だった?」

「あ…うん。板倉さんも元気そうだね。」


板倉さんは私の横に座ると、何だか含みのある表情で笑った。

この顔…中学の時に見たことある…

いつ見たのかは思い出せなかったが、

良い思い出でないことは確かだった。


「ふふっ…元気も元気。

だって大好きな人と一緒にいられるし。」


彼女の言葉が凶器のように感じた。


「私、りゅーと付き合ってるんだよね。」


え……?

昨日吉田君から聞いたときは違うって…

私…やっぱり吉田君と話しちゃいけないんじゃ…


「そういえばりゅーから聞いたよ!

沼田さんと話せるようになったって。

りゅー中学のときの事、後悔してたから私安心しちゃった。」


話さないで欲しいと言われるかと思ってドキドキしていたので、

私は少しほっとした。


「うん…私も話せるようになって嬉しい。

板倉さん…ありがとう。」


私の言葉に板倉さんの表情が少し険しくなった気がしたが、

すぐにあの笑顔に戻ったので見間違いだったのだろう。


「お礼言われることなんて、何もないよ~。

でも、今のりゅーは昔のりゅーと違うから

沼田さんには理解できないことも

多いんじゃないかって心配なんだけど…」


「今の吉田君って…?」


「りゅーさ、高校入ってからすごい悪くなったんだ。

暴力上等で逆らう奴を皆自分の手下にしちゃって、

今じゃ西ケ丘のはみ出し者のトップ。」


夏休み前に見かけた集団リンチの事を思い出した。

そういえば…あそこに吉田君いたっけ…

あのときの吉田君と、昨日の吉田君が重ならない…。

同じ吉田君のはずなのに、私の中で同一人物にならない。


「それに平気で嘘つくし。手出してるくせに、

私も何回付き合ってないって言われたことか…」


嘘…?


私は昨日の会話を思い出しながら、

どこかに嘘が混じってたのかと考えを巡らす。

そういえば付き合ってないっていうのも嘘なのかな…

板倉さんは付き合ってるって言ってるし…

手を出さ…

ここまで考えて私は驚いて板倉さんを凝視した。


板倉さんはそんな私を見て照れ臭そうに言った。


「あはは…口すべっちゃったね。

そ、私りゅーとしたことあるんだよね。」


私は聞きたくないことを聞かされたようで

気持ち悪かった。

昨日話したはずの吉田君の姿が遠くなっていく。

昨日本当のことを言ってくれていたのかも、

信じられなくなってくる。


ダメだ!


板倉さんの言葉に耳を傾けちゃダメだ。

反射的に考えにセーブをかける。

私は悪く考えてばかりで、

吉田君とすれ違ってきたはずだ。

翔君にもらったアドバイスを思い出す。

楽しかったときの事を思い出して、

その気持ちのまま信じるんだ。


それに吉田君のことを板倉さんから聞くのは

間違ってる気がする。

吉田君のことは吉田君から聞きたい。


私はまっすぐ板倉さんを見据えると

覚悟を決めた。


「こういう話はしない方がいいと思うよ。」

「え?」

「私が板倉さんの立場だったら、

大事にしたい思い出だし話さないと思う。

それに…吉田君の事は、吉田君から直接聞くよ。

せっかく話せるようになったのに…

話したいことを板倉さんから聞くのは違う気がするから。」


私は鞄を持って立ち上がった。

そのとき板倉さんの顔に笑顔はなかった。


「久しぶりに会えて良かった。

でも、こんな形で吉田君の話はしたくなかったよ。

それじゃあ。」


言うだけ言って彼女に背を向けて歩き出す。

何か言い返されるかとドキドキしていたけど、

板倉さんから声がかかることはなかった。


公園からしばらく歩いて、だいぶ家の近くまで来たとき

私は自分の手が震えていることに気づいた。

怖かった…

板倉さんの言葉は凶器みたいだった。

私の心に容赦なく突き刺さってくる。


きっと板倉さんは嘘を言っている。

どれが嘘なのかは分からないけど、

私が吉田君と話すことを良くは思ってない事が分かった。

どうしよう…

私は震える手を両手でギュッと握りしめる。


「紗英。」


私の名前を呼ぶ声に顔を上げると、

道の少し先に吉田君が立っているのが見えた。

私はさっきの話を思い出してしまい

その場に立ち止まってしまった。


近づいてくる吉田君の顔が少し赤い気がしたけど、

夕日を背にしていたので夕日の色かもしれない。


「昨日の今日だけど…話したくてさ…。

やっぱり、今まで会えなかった分聞きたいことも多くて…」


無邪気な笑顔を向ける吉田君を見て、

私は胸が熱くなった。

今の吉田君も…昔の吉田君と一緒だよ…

吉田君の笑顔が中学のときと重なり、

目から自然に涙が出た。


「え…っ!?……紗英!?」


急に泣き出した私を見て、吉田君が戸惑っている。

私は困らせたいわけじゃないのに涙が止まらなかった。

きっと吉田君を見て安心したんだと思う。


「わ!手も震えてるし、何かあったのか?紗英?」


吉田君は私の震える両手を

自分の手で優しく包み込んでくれた。

私は泣き顔のまま、吉田君を見て口を開いた。


「ごめっ…泣きたかったわけじゃなくて…

その…さっき…板倉さんに会って…」


「板倉?」


吉田君の表情が険しくなる。

私の手を掴む力が強くなった。


「…その…吉田君のこと…聞いて…

でも…今、…安心して…その涙だから…気にしないで…。」


上手く説明できていないことは分かっていた。

でもこの涙が吉田君のせいじゃないことは伝えたかった。

吉田君は何か察したのか、私と同じ泣きそうな顔になった。

今にも吉田君の目から涙が出そうになったとき、急に抱きしめられた。


「…ごめん…っ…紗英。」


吉田君が謝っている。

何で吉田君が謝るのか…私には分からない。

私を抱きしめる手は強かった。

でも、目の前の吉田君は子供みたいに

鼻をすすって泣いている。


吉田君の体温の温かさを感じて

私はまた涙が溢れてくる。


私たちは抱き合って涙を流した。


少なくとも目の前の吉田君は私の知らない吉田君だったけど

何だか少し近づけた気がして嬉しかった。




読んでいただきましてありがとうございます。

この話は次回で決着がつきます。

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