2-23幼馴染
最近りゅーの様子がおかしい。
授業が終わったらすぐ帰ってるみたいで、
私は三日連続一緒に下校できていない。
すぐ下校するなんて、
家にいるのが嫌いなりゅーにしては珍しかった。
何かあったのかな?
また授業にも真面目に出てるみたいだった。
りゅーと同じクラスの友達情報だけど。
本当に何があったんだろう?
気になっていてもたってもいられない。
私は校内を歩き回って、
りゅーの取り巻き連中を見つけると声をかけた。
「ちょっとごめん。りゅー知らない?」
取り巻きの一人である
一年の加地雄介が背筋を伸ばすと私の方に体を向けた。
「梓さん!ちゃっす。」
こいつはいつも私を梓さんと呼ぶ。
『竜聖さんの彼女さん』としてのさん付けらしい。
「あずさ。竜聖さんなら帰ったぞ。」
私の事を呼び捨てにするこの男は
私と同じクラスの美合建造。
切れ長の目が危ない雰囲気を醸し出している。
ときどき私にちょっかいを出してくる鬱陶しい奴だ。
りゅーの取り巻きの中で一番危険で腕っぷしの強い奴でもある。
「そう、帰ったのは知ってるんだけど、
りゅーがすぐ帰る理由に心当たりない?」
「…さぁ…?そんなに俺らべったり一緒にいるわけじゃねぇし…。」
「竜聖さんが来るなって言ったら、俺はそれを守るっス!」
加地はドンと胸を叩いてふんぞり返った。
美合は面倒くさそうにあくびしてやがる。
取り巻き連中のくせに使えないな…
心の中で悪態をついたが、表情には出さなかった。
「あ、そういえば。俺竜聖さん見たかも。」
加地や見合いの後ろから口を出したのは、
メガネに黒髪のいかにも優等生風の相楽啓太だ。
私は詳しく聞こうと、加地を押しのけて相楽の前に立った。
「昨日、こいつらと別れて駅前から西中方向へ向かってたときに
見た気が…。ただ西城の女子と一緒だったから違うかも。」
「「西城!?」」
加地と美合が驚いて声をそろえた。
私は驚きすぎて声が出なかった。
「ないだろー。
竜聖さんが秀才揃いの西城女子に何の用があんだよ?」
「そうッスよ!俺たちバカと話が合うわけないっス!!」
「だよな~?見間違いか。」
美合達は笑い話にしていたが、
私は西城女子に心当たりがあった。
駅から…西中って私たちの出身中学の方向…
その辺りに確か沼田さんの家があったはずだ。
詳しい場所は知らないけど、西城女子でりゅーが話をするなんて
彼女しか考えられない。
私は焦る気持ちを抑える。
「情報ありがと。またりゅーには直接聞いてみるね。」
私はなるべく勘付かれないように笑顔を作ると
その場を足早に立ち去った。
今更沼田さんと何の話をしてるの…?
りゅー…
「あずさ。」
後ろから肩を掴まれ、振り返った。
そこには美合が怖い顔で私を見ていた。
「何?」
「……西城女子のこと知ってんのか?」
ギクリ。
背中に冷汗がつたう。
美合はヤバい奴だ。
りゅーの少しの弱みも見せたくない。
「知らないよ!美合、勘ぐり過ぎ。」
私は平静を装って笑った。
美合はあまり納得してないようだったが、
片眉を器用に上げると息を吐いた。
「そうか。でも…俺は竜聖さんも大事だけど…お前も大事なんだ。
本当に何かあるなら言えよな?」
恥ずかしい事よく平気で言えるなぁ…
私は感心した。
いつもは危ない雰囲気を出しているのに
今は何だか柔らかい感じだった。
美合…なんか…変わった?
「じゃ、私りゅーに話聞きに行くから、また明日ね!」
私が場の雰囲気を打ち消すように手を振ると
美合も同じように振り返した。
手を振り返すなんて…本当意外…
私は美合に背を向けて小走りでその場を後にした。
***
その日の夜、
私はりゅーが帰って来るのを
りゅーの家の前で待っていた。
私とりゅーの家はななめ向かいだ。
家で待ってても良かったのだが、落ち着かないので
こうしてりゅーの家の塀にもたれかかる。
中学のとき
沼田さんはりゅーにチョコレートを渡した。
それで二人の仲は壊れたと思ってた。
あの日をきっかけにりゅーは変わった。
イライラすることも多くなったし
笑ってるのに心ここに非ずなのは見てて分かった。
ちょうどその頃、りゅーの両親の仲が悪くなったのもあって
りゅーは人前で自分の心を見せなくなった。
辛くたって、悲しくたって独りで我慢していた。
私だけが知ってる。
りゅーは本当は弱くて、泣き虫なこと。
私の前でだけその姿を見せること。
今更、沼田さんにそれが理解できるはずがない。
りゅーの事を分かってるのは私だけだ。
「板倉?」
声をかけられハッと我に返った。
声でりゅーだと分かった。
りゅーは私を怪訝そうに見ている。
「おかえり!りゅー!」
「何してんの?」
私はりゅーに体を向けると、
笑顔を崩さないようにして今日聞いた事を尋ねた。
「りゅー。西城の女子と会ってるのを見た人がいるんだけど。
まさか沼田さんじゃないよね?」
りゅーは私の質問に驚いた様子もなく
ただ黙って私を見ている。
私は笑顔のまま、りゅーの返答を待った。
「……会ったよ。……話もした。」
私は笑顔が張り付いたまま固まった。
話もした…って……どういう事…?
「…沼田さんと…なんで…今更?
話す事なんか…何もないよね!?」
「俺が昔みたいに話したいって言ったんだ。
ずっと、後悔してたから…。」
「後悔って…」
私は頭に血が上ってきた。
「私はりゅーの彼女だよ!?
他の女の子と一緒にいるなんて嫌だよ!!」
私はりゅーに掴みかかった。
りゅーの制服のシャツを持って体を揺らす。
「ごめん。」
りゅーは私を見下ろして謝ってくる。
「ごめんって何?
会いに行くから許してのごめん?」
「ちがう…。その…」
りゅーは言いにくそうに私を見てくる。
何?その顔……何が言いたいの…?
「俺…板倉のこと…彼女なんて…その思ってなくて…。」
私はりゅーから手を離して固まる。
何……言ってるの…?
彼女じゃない…って……どういうこと…?
「…りゅー……私との事…あれ何だったの…?」
「ごめん。謝って許されるなんて思ってない。
気を持たせた事も謝る。
でも…自分の気持ちに正直になって…変わろうって思ったんだ。」
りゅーの雰囲気が中学の頃に戻っている事に気づいた。
私を必要としてなかったあの頃に…
「変わる…って…」
「板倉には感謝してる。
弱かった俺のことそばで支えてくれて…嬉しかった。
でも、これからは自分の力だけで頑張りたいんだよ。」
私はりゅーの前向きな言葉が耳に入ってこなかった。
息を吸い込み拳を握りしめると、まっすぐりゅーを見た。
「私はりゅーの彼女だよ!!
これからもそばで支え続けるから!
彼女じゃないなんて…別れるなんて承知しないから!」
それだけ吐き捨てると私は自宅に走った。
りゅーの引き留める声が聞こえたけど、家に駆け込むと
階段を上って自室に飛び込んだ。
勢いよくドアを閉めると、その場にへたり込んだ。
そのとき中学時代のりゅーと沼田さんの姿が、
浮かんでは消えていった。
読んでいただきましてありがとうございます!
竜聖の仲間たち初登場でした。




