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勘違い系○○  作者: 流音
第二章:高校生
27/218

2-21前へ


昨日、吉田君がいて…本当に驚いた。


『話したくない』

って言ってたはずなのに、何で私に会いに来たんだろう。

謝りたいって何に対してなのか…分からない…。


私は『話したくない』って言われて悲しかった。

仕方ないな…私のただの押しつけだったんだって

無理やり納得させたのに…


なのに…今更ずるいよ…


私の中の吉田君は特別。

会ったら心が揺れるし、名前を呼ばれたら今でも嬉しい。

話したくないなんて嘘だなんて言われたら

期待してしまう自分がいる。


また拒絶されたらどうしよう…。

会う度に昔と違う吉田君に拒絶されてきた。

私はそんなに強くない。

また言われたらと思うと心が震える。


「沼田さん!!」


私はハッと顔を上げる。

今は授業中だった。

先生に当てられていたようで、慌てて立ち上がる。


「この問題分かるかしら?」


数学の問題が黒板に書かれている。

私は考え事をしていて全く聞いていなかったので

分かるはずもない。


「すみません…聞いてませんでした…。」


「沼田さん…最近、身が入ってないわよ。

ぼーっとしてたらついてこれなくなりますからね。」


「はい。」


また『身が入ってない』と言われてしまった。

私は自分が情けなくて俯いた。

先生は「座りなさい」というと違うクラスメイトを指名した。


私は着席して、膝の上の手を握りしめた。



***



家への帰り道、

私はしっかりしない自分の心にイライラしていた。

最近何もかもが上手くいかない。


この間の麻友は本当にかっこ良かった。

自分の気持ちに正直でまっすぐな麻友。

私は吉田君の事も中途半端。

話したいのに…避けてしまう…

自分の気持ちが分からない。

私はため息をつくと前に目を向けた。


道の先に吉田君の姿があった。

そういえば昨日、また来るって言ってたっけ。

私は足を止めて違う道から帰ろうかと考えた。


「紗英。」


立ち止まった私に吉田君は気づいた。

まっすぐ私を見つめる吉田君を見て、私は顔をそむけた。


「俺の話を聞いてくれ。」


私は期待と不安で胸の中でごちゃ混ぜになった。

何を言われるんだろう…そればかりが頭の中を占める。

吉田君は私の気持ちにお構いなしに続ける。


「昨日言ったことは本当なんだ。紗英に許してほしいけど、

でもそれだけじゃない。昔みたいに紗英と話したい。」


話したい…?

私は勇気を出して吉田君の顔を見た。

吉田君は何だか懐かしい顔をしていた。

言葉では説明できないけど…中学のときに雰囲気が似ている。


「中学のとき隣の席で変な話して盛り上がったり、

俺が教科書忘れて見せてもらったあのときみたいに…」


私の目の前に中学の思い出が蘇った。

何でもない話が楽しかった。居眠りしている吉田君を見て笑った。

隣にいるだけで幸せだった。


「…紗英。すぐにとは言わない…。

話してくれると…嬉しい。」


吉田君は少し微笑むと「また明日も来る。」と言って背を向けた。


吉田君が笑った…

私は声をかけて引き留めようと思ったが、声が出なかった。

中学の苦い思い出がそれをさせてくれなかった。

楽しい思い出もあった。

でも…それと同時にまだ治らない傷が少し開いた…

そんな気がした。



***



次の日の放課後


私は野球部のグラウンドの前に来ていた。

昨日の事を思い出しながら、色々考える。

昨日の吉田君の言葉は本当だと思う。

でも、以前の吉田君や板倉さんと一緒にいる吉田君の姿が

浮かんで私の期待を邪魔してくる。

思ってるよりも自分は臆病だったことに気づいた。


「紗英ー!」


名前を呼ぶ声に顔を上げた。

すると翔君がグラウンドを出て、こっちに走ってきていた。

私は笑顔を作りながら、翔君に相談すべきか迷った。


そういえば…翔君って吉田君とすごく仲が良かったはずなのに…

いつから仲が悪くなったんだろ…

私は中学の記憶を思い出そうと考えた。


「どうした?変な顔して。」


考えている間に翔君がいつの間にか横に来ていた。

彼は私の隣に腰を下ろすと私の顔を覗き込んだ。


「う…ううん。何でもないよ。

ただレッスンが上手くいってなくて落ち込んでただけ。」


前みたいに心配させたくなくて隠す事にした。

翔君は「ふぅん。」というと私の言い訳に突っこんできた。


「上手くいってないってどんな風に?」


翔君の態度から私の相談にのってくれるようだった。

言い訳だったのだが、悩んでるのも本当なので言ってみる。


「最近…音楽が楽しくなくて…好きでこの学校に来たのにね。

『身が入ってない』って先生に言われて、

どうしたら前みたいに弾くことができるのかな~って。」


私は自嘲気味に笑うと前を向いた。

翔君は少し考えたあと、真剣に答えてくれた。


「俺さ、紗英が中学のとき吹奏楽してるのすごく楽しそうに見えたよ。

好きなんだろうなーっていうのが分かったし、応援したくなった。

難しく考えないでさ、楽しかった時の事思い出して、その気持ちで向かってみたら?」


楽しかったときのこと…

そのときの気持ち…

確かに…言われたことばかり気にして、

一番大事な気持ち忘れてたかも…


このときふと昨日の吉田君の顔が浮かんだ。

まっすぐに私を見て「話したい」と言っていた。

雰囲気が中学のときに似ていた…。

もしかしたら、吉田君は変わろうとしてるのかも…


それなのに…


私…逃げてただけだ…


私、自分がされて悲しかった事…

吉田君にしちゃった…


私は涙が出そうで思わず俯いた。


「さ…紗英?」


翔君の声が慌てているのが分かる。

私は俯いたまま、翔君に尋ねた。


「…仲直りしたい時って…どうすればいい?」


私は翔君の返答を待った。

きっと翔君だったら当然の答えをくれるはず。


「そんなの決まってるよ。

ごめんって謝って、仲直りしようで笑顔と握手だろ。」


「…だよね。」


私はその言葉がほしかった。

顔を上げると翔君に「ありがとう。」と言って立ち上がった。

その場で大きく体を伸ばす。


「元気もらった。行ってくるね。」


翔君の顔を見ると、少し顔をしかめていたが

すぐ笑顔になって「おう。」と言ってくれた。


私はそんな翔君に何度助けられただろう。

笑顔を返すと、私は校舎に向かって歩き出した。





読んでいただきありがとうございます。

次でひと段落つきます。

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