2-20親友
あいつがあんな顔をしてるなんて思わなかった。
昨日の学校帰り、道で偶然竜聖に会った。
前から歩いてくるあいつの顔は中学時代のあいつを思わせた。
悩んでるときの鼻と眉間の間のしわ。
まだあの顔をするんだと懐かしかった。
中三のとき、あいつはよくこの顔をしていた。
中二の終わりごろから、あいつは翔平との仲が悪くなった。
今まで俺と翔平、そしてあいつは親友と呼べるぐらい仲が良かった。
何でも気軽に話せる…心の通じ合う友。
少なくとも俺はそう思っていた。
でも、中三になった頃ぐらいから二人は全く会話をしなくなった。
理由は…二人から聞いたわけではないが、なんとなく分かった。
中三になってから竜聖と翔平の立場が逆転したからだ。
今までずっと竜聖の影に隠れて、何でも遠慮してきた翔平が
好きな女の子に平気で話しかけられるようになった。
それをきっかけに色んな面でも目立ち出して、中二までの竜聖のように
クラスのムードメーカーになっていった。
一方竜聖は昔の姿が嘘のように遠慮するようになった。
何でもそうだった。
全力で取り組まないようなると、全てが悪循環で悪い方へ転がり出した。
その度にあの鼻なのか眉間なのかの間にしわが入る顔をするようになった。
あの顔は悩んでいたり、我慢しているときにする顔だというのは見てて分かった。
主に翔平に話しかけようとしては、無視されたときにこの顔になっていた。
あとはある女の子を遠くから見てるときだ。
俺は昔のように竜聖と翔平には正面からぶつかってほしいと思う。
一度は親友だったんだ。
わだかまりのあるままでいて欲しくない。
ましてや好きな子のために二人が仲違いするなんて、間違ってる。
俺はいつか昔のように三人で笑いあえる日が来るのを願うからこそ、
竜聖をこうやって見守っていると言ってもいい。
早く立ち直れ、竜聖。
お前にならできるさ。
そんな俺の思いもよそに、竜聖は今日もまたあの連中とつるんでいる。
いい加減気づけよ。
お前はそんな奴じゃねぇだろ…。
俺は廊下を通り過ぎて行く竜聖の集団を見てため息をついた。
昨日は懐かしい顔をしてたくせに今日は元に戻っている。
昨日のあいつは何だったんだろう…
今日の様子を見ると幻のようにさえ感じられる。
そんな考え事をしていたとき、俺のクラスに竜聖が入ってきた。
まっすぐ俺に向かってくる。
何だ…?
珍しいな…あいつから来るなんて…
「竜也。ちょっといいか?」
竜聖は周りの視線を気にしているようだった。
俺は「ああ。」と答えると立ち上がった。
このまま教室じゃ話せない内容のように感じたからだ。
竜聖は俺に背を向けて歩き出す。
俺はその後について、教室を出た。
教室を出て向かった先は、特別教室棟の裏だった。
人気が少なく、滅多なことでは来ない場所だ。
竜聖はそこで立ち止まると、俺に向き直った。
「少し…聞きたいことがあって…。」
振り返った竜聖の顔は昨日のものに戻っていた。
俺は何を言われるんだろうと身構える。
「…謝っても…許してもらえない場合、どうしたらいいんだ?」
ん?
質問の意図が上手くつかめない。
俺に対して聞きたいことではないのは分かったが、
なぜ俺に聞くんだ?
まさか…相談されてるのか?
「…っぶっ…!はははは!!!」
相談されるなんて中学以来で思わず吹き出してしまった。
竜聖はそんな俺を見て「何だよ!」と恥ずかしそうにしている。
俺は笑いを抑えると、竜聖に尋ねた。
「…っひっそれ…どういう状況なんだよ?
誰に対して謝って許してもらいたいわけ?」
竜聖は名前を言うのが嫌なのか口をもごもごして答えようとしない。
俺に言えない相手って誰だ?
俺は首をひねって考えた。
こいつが許してもらいたいねぇ…
「翔平のことか?」
「っち…!ちげーよ!!」
すぐさま否定され
俺は他に思い当たる人物が思い浮かばない。
ふと竜聖の顔を見ると、耳まで真っ赤になっていた。
何だ…?
「………紗英…だよ。」
竜聖は俺から視線を外したまま答えた。
あー………納得した。
こいつが懐かしい顔をし始めたのも、彼女のおかげだったのか。
俺は女の子一人の事でこんなに悩む竜聖が可愛く見えた。
「…っふ…。それで、彼女に何して許してもらえないわけ?」
バカにしたわけではないが、自然に笑いが漏れる。
「…夏休みに会ったとき…話したくない…って言っちまって…
で…昨日、謝りに行ったら『吉田君はずるいよね』って…
どうすれば許してもらえるのか…わかんなくて…」
何となく状況は見えてきた。
こいつの事だから、
何かがあって話したくないなんて言ってしまったんだろう。
その何かが自分の中で解決され、昨日謝りに行ったが拒絶されたと
そういう事か…と理解した。
ほんと…昔から変わらねぇなぁ~…
「お前は何で謝って許してもらいたいの?」
竜聖は一瞬俺を見たが、またすぐ視線を逸らす。
「それは………また…紗英と話したいから…。」
答えお前の中にあるじゃん。
「それ、そのまま彼女に言え。」
俺は笑顔を浮かべて続ける。
「話したくないと言われた相手が何で謝りに来るのか…
彼女は考えてるはずだ。お前が話したいと言えば、許してくれるかは分からねぇが
話ぐらいは聞いてくれるんじゃねぇ?」
竜聖がまっすぐ俺を見てきた。
こいつがこうやって自分から動こうとしてるんだ。
昔のこいつに戻すチャンスかもしれない。
俺は竜聖に自信をやりたかった。
「大丈夫だよ。竜聖。
お前の知ってる彼女は話も聞いてくれないほど、冷たい奴なのか?」
竜聖はすぐ首を横に振った。
「そうだよな…。俺の気持ち伝えて、話を聞いてもらうよ。」
竜聖の顔がいつの間にか中学の頃のように明るい雰囲気を纏っている。
俺は嬉しくなり「おう。」と頷いた。
「ありがとな。竜也。」
竜聖はそう言うと、俺に背を向けて歩いて行ってしまった。
俺はその背中を見つめて応援した。
頑張れ。竜聖。
初めての竜也視点でした。
次で紗英の気持ちが変わっていきます。




