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勘違い系○○  作者: 流音
番外編
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番外編13 大好きだった:本郷翔平

竜聖、紗英の親友、翔平視点です。


「もう竜聖ったら、山本君とのことばっかりでウンザリする!翔君だってそう思うでしょ!?」


紗英が珍しく荒れていて、俺は呼び出された居酒屋で話を聞きながら苦笑いを浮かべる。


「まぁまぁ、紗英が竜聖以外を好きになったのが竜也だったから、竜聖も気が気じゃねぇんだろ?気持ちくみ取ってやれよ。」

「そ…、うかもしれないけどさ!!もう、説明して何回目!?って感じなの!こっちは!!」


紗英は飲んでいた日本酒のグラスをダンッとテーブルに置くと、赤ら顔で俺を睨んでくる。


「だって竜聖は記憶ない間、たくさんの女の子と遊んでたわけでしょ!?数えきれないぐらい!それを棚に上げてさ、私ばっかり…。もうイヤだ!!何回も説明するの疲れた!!」


紗英は相当参ってるのか感情の起伏が激しくなっていて、今は少し目が潤んでいる。

俺はそんな紗英の背を撫でて落ち着かせてやろうと思いながら、何か良いアドバイスはないかと考え込んだ。


あいつが紗英と竜也のこと、こんなに口出すなんて…

かなり竜也のことを危険視してるってことだよな

それも、紗英に一時期気持ちがあったって知ってしまったら、気持ち分からなくもないけど…


これから結婚式の相談ってなってくるはずなのに、こんだけ紗英を怒らしちゃダメだろ…


俺は竜聖の方と話をする必要がありそうだな…と思った。


でも今はとりあえず紗英の気持ちを宥めるのが先決だ。


「紗英、竜聖のヤキモチ妬きは今に始まったことじゃねぇだろ?これから結婚しようってのにさ、竜聖の一挙一動にそんなに怒ってたら上手くいかなくなるよ。」


俺が現実を踏まえて優しく諭すと、紗英は「う~。」と唸ったあとにちらっと俺を見て不満そうに言った。


「私ばっかり我慢してる。」

「え?」

「私ばっかり…今までずーっと我慢してきて…、これからも我慢しなきゃいけないなんて不公平じゃない?」


紗英は人が変わったかのように不満を言ってきて、俺は酒のせいか?と空のグラスを盗み見た。


紗英は普段あまり酒を飲まない。

というか、酔いやすいってのを知ってるからセーブしてたんだと思うけど

今は怒りのあまりセーブもせずにかなり飲んでいた気がする。


だからかもしれないが、紗英は酒の勢いで普段は抑えてる気持ちを打ち明けてる。


「私の事、好きだからだって…いうの、分かってるよ?でも、もっと私を信じて欲しい…。私の竜聖への気持ちを信じて欲しいよ。なんで…こうなっちゃうの…?」


紗英は悲しそうに眉をしかめると、潤んだ瞳から一滴涙が零れた。

俺はその涙を見て一瞬焦ったけど、ふと紗英は過去もこうして心の中で泣いてたのかもしれないと思い、我慢させないように涙には触れないことにした。


「紗英はずっと中学のときから竜聖一筋だもんな?」

「……うん。」


紗英は鼻をすすると涙を手で拭う。


「竜聖もさ、中学からずっと紗英一筋だよ?」

「え?」


紗英は俺に顔を向けると大きく目を見開く。

俺はその顔に微笑みかけると、竜聖の気持ちを分かる限り代弁した。


「あいつさ、複雑な人生辿ってる分、すっげー臆病で寂しがり屋なんだよ。その上、誰かのためとかかこつけて、自分の気持ちを押し込んじまう性質だから、本当厄介でさ。あと、他人の気持ちにも鈍感だし、自分に自信ないし、良いとこなし!!」


俺は中学の頃からイライラしてきたあいつの性格を思い返した。


「でもさ、あいつの根っこの部分には紗英がいるんだよ。」


俺は竜聖が紗英のことで一喜一憂する姿、振り回されてる姿を何度も見てきたので、キッパリと言い切った。

紗英は何度も目を瞬かせてじっと話を聞いている。


「中学の時、あいつは紗英のこと好きじゃないって言ってたけど、俺の目には大好きだって言ってるようにしか見えなかった。野球部の練習しながら、あいつは吹奏楽部の部室ばっか見上げてさ。紗英のこと見かける度、話しかけに行くんだぜ?こんなの好きな相手にしかしねぇだろ?」


俺は生き生きとしていた頃の竜聖を思い返していた。

あの日、俺が紗英をとられたくなくて邪魔して言ったあの言葉がなければ…二人は中学であんな苦しい思いをしないで済んだ。

もしかしたらあれがなければ、竜聖もこんな厄介な性格になってなかったかもしれない。

俺が邪魔しなければ上手くいっていた二人の道を分断してしまったんだ。


今ならそれを告白できると思って、俺は紗英に頭を下げた。


「紗英、中学のとき…紗英からのチョコ受け取った竜聖を挑発して、あいつに紗英の事、好きじゃないって…言わせるよう誘導したの…俺なんだ。上手くいってたはずの…二人の気持ちを踏みにじったのは…俺なんだ…。本当に、…ごめん。」


俺がドキドキしながら謝ると紗英の手にグイッと顔を引き上げられて、真剣そのものの紗英と目が合った。


「なんで謝るの!?」

「え…、え?」


紗英は怒ってるようで、両頬を掴む手に力がこめられるのを感じる。


「今はそんな話どうでもいいの!!なんで竜聖がずっと私一筋なのか知りたいだけ!!」


どうでもいい!?


俺はずっと昔から胸にしこりのように残っていた罪を、たった一言で流されて面食らった。

すごく悩んだ時期もあったというのに、この扱いはなんだろう…?

俺は紗英との温度差にぽかんとするしかない。


「竜聖は高校のとき板倉さんと付き合ってて、その…体の関係もあったって言ってた。」

「は!?」


何の話だ!!


俺は急にあいつの女性関係を聞かされ顔が熱くなる。

紗英も恥ずかしいのか、それとも酒のせいか赤い顔のままだ。


「大学でも彼女らしき人がいたみたいだし…、他にも何人も遊んでて…そういう関係の人、いっぱいいたんだよ!?それなのに、なんで私一筋なの!?どう考えてもおかしいよ!!」

「いや、男ってさ…気持ちなくてもそういうことできるっていうか…。」

「え?翔君もできるの?」


「え!?俺!?いや、俺は無理だけど!!」

「じゃあ、なんで竜聖はできるの?」


なんでと俺に言われても!!


俺はそんなこと知るはずもなかったので、答えられなくて困った。

すると、紗英は俺から手を離して「やっぱり翔君の勘違いだよ。」とぼやいて、俺はちょっとでも竜聖の株を回復させようと口を開いた。


「なんか話ずれてるけどさ、今の竜聖は紗英のこと大好きなんだって。竜也のことに口出ししちまうのも、紗英がいなくなるんじゃって思って怖がってるだけで。」

「怖がる…?ってなんで?」

「え、それは。だから、あいつ母親にも家出て行かれたりとか、父親を事故で亡くしたりとか、大事な人を失うって経験ばっかしてきたわけじゃん?だから、紗英のこと失うのが怖くて仕方ないんだよ。そこは分かってやろうよ。」


紗英がふっと視線を下げて考え込んで、俺は我ながらナイスフォローだと自画自賛した。


竜聖の激しい嫉妬心と束縛の根底にはきっとこれがあると思う。

後は、紗英と一度離れるって経験もしてるから尚更失うってことが怖いんだろう。

竜也の事をなかなか受け入れられないというのも、竜聖のそういうトラウマ的なものが絡んでる気がする。


ホント厄介な男だよ…


俺はグラスに入った日本酒を飲み切ると、紗英の返答を待った。


すると紗英はふーっと長いため息をついて、諦めたように笑顔を見せた。


「翔君の言いたい事は分かった。私も竜聖がしつこ過ぎてイラついて、竜聖の気持ち理解できてなかった。今回は大目に見ることにする。」


「ありがと、翔君。」と紗英はやっと笑顔を見せたことにほっとして、俺は自然と頬が緩んだ。


「役に立てて良かったよ。竜聖と仲良くやれよ?」

「うん。分かってる。」


さっきまで荒んでた空気がやっと和やかなものに変わり、俺はふとさっき流された話を蒸し返した。


「紗英。あのさ、さっき話した俺が中学やっちまったことなんだけど…。」

「あ、その話?そんな昔のこと、全然気にしてないよ?今まで翔君にはたくさん助けられてるんだし、というか私の方が迷惑かけっぱなしだから謝らないと。」

「え!?いや!!そんなの謝らなくてもいいよ!!」

「そう?じゃあ、お互い様ってことで。」


紗英は本当に何でもないというように話を終わらせてしまって、俺は長年の苦悩の結末に呆気をとられた。


こんなものか?

こんなあっけない終わりでいいんだろうか…?


俺はニコニコと枝豆をつまむ紗英を見つめて、笑みが漏れた。


俺、ちゃんと紗英に返せてたんだな…


紗英の傍に居続ける選択は間違ってなかった

俺はちゃんと紗英の力になれてた


それだけで、もう十分だ


俺は大好きだった初恋の相手という立場から、今は大事な親友の一人になった紗英を見て、すごく晴れやかな気持ちだった。




紗英


竜聖と幸せになれよ


絶対、絶対幸せにならなきゃ許さないからな









大親友となった紗英と翔平の話が書きたかっただけです。

過去の過ちが綺麗に清算できました。

今後も絆の強い友人関係でいられると思います。

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