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勘違い系○○  作者: 流音
番外編
210/218

番外編7 嫉妬深い男

山本竜也視点の話です。


俺はせっかくの休みだというのに、竜聖に呼び出されてこいつの部屋に来ていた。

それも竜聖の奴は何だか不機嫌で、俺の事を睨むようにジロジロと見てくる。

今度は何なんだ…

俺は度々意味の分からない行動をするこいつに頭が痛かった。

記憶が戻ってからは沼田さんと順風満帆だっただけに、絡まれなくなったと安心していたのに…


俺はただ睨まれるのも癪だったので、じとっと睨み返すと訊いた。


「一体何なんだよ?人の事、ジロジロ見てきやがって。」

「……いや、お前の良い所はどこかと思ってな。」

「はぁ?」


俺はますます意味が分からなくなって、頭を抱えた。


「お前の良いところなんか、俺にはさっぱりだ。」

「お前に言われたくねぇよ!!毎回、無駄にグダグダ悩みやがって。人の事巻き込むなよ!」


俺には竜聖の良いところが見当たらなくて、沼田さんは何でこいつが良いのかと思いたくなってくる。


「悩んでるわけじゃねぇんだけど、ちょっと気になってる事があってさ。お前さぁ、前、紗英の事好きだったって言ってたな。それはいつからいつの事なんだよ?」

「はぁ!?今更、そんな事聞いてどうしようってんだよ?」


昔の事をほじくり返してくるこいつが不思議で尋ねた。

竜聖は真剣な目で俺を見て口を開いた。


「気になっただけだって言ってるだろ。さ、教えてくれ。」


物凄く上からの態度で言われて、俺はカチンときた。

ソファの背もたれにもたれると、投げやりに答えた。


「あー、いつだったかなぁ~。大学4年の頃だったのは覚えてるんだけどなぁ~。」

「そこを詳しく思い出せよ。具体的にいつからいつなんだ?」


やけに突っ込んでくるなぁ…

仕方ないので正直に答えて満足してもらおうと思って続けた。


「確か夏に再会して…気づいたのは冬だったかなぁ…。俺、それまで女の子に本気で好きになった事なくてさ。沼田さんが初めて恋を教えてくれた相手だったってわけ。まぁ、初恋ってのは実らないものだからさ。今となっちゃ良い思い出だよ。」


「俺…紗英が初恋なんだけど、嫌なこと言うなよ。」


俺の言葉に真剣な目で返されて、俺は口を噤んだ。

竜聖はますます目を鋭く細めると、俺を睨んできた。


「で、冬から一体いつまでなんだよ。」

「しつこい奴だな。お前と再会した頃までだよ。沼田さんにはお前しかいないって分かって身を引いたの!!これで納得したかよ!!」


ったく人の傷口抉ってそんなに楽しいのかね…

俺は人の気も知らないで、何やら考え込んでいる竜聖を睨みつけた。

竜聖は顎に手をやったままで俺に目だけ向けると、思わぬ事を口にした。


「その好きだった期間に、キスしたりとか手を出した事はあったのか?」

「はぁっ!?お前、なんつー事聞いてんだよ!!」


俺は恥ずかしげもなく聞くこいつにむせそうだった。

これ以上、根掘り葉掘り聞かれるのが嫌でこっちから追及することにした。


「一体なんなわけ!?俺が大学のとき沼田さんと何してよーとお前には関係ねーだろ!?」

「関係あるんだよ!!」

「はぁ!?お前、そんときいなかったんだからいいじゃん!!」


俺は本音をぶつけた。

大学4年のあの時間は俺にとって幸せな時間だった。

たとえ想いは身を結ばなかったとしても、二人で過ごした時間は消えない。

俺はそれを竜聖に話すのは嫌だった。

すると竜聖は意を決して立ち上がると、俺を上から見下ろしてきた。


「紗英が大学のとき、お前のこと好きだったって聞いたんだよ!!これを婚約者としてほっとけるかっつの!!」


竜聖の発言に俺は目を見張った。

沼田さんが…俺のこと好きだった…?


「お…おい…。それ本当なのか…?」

「こんなんで嘘ついてどうするんだよ。紗英が大学4年の冬ぐらいからお前が好きだったって言ってきたんだよ。何で、お前なんだか意味が分からねぇ…。」


冬と聞いて、俺はあのクリスマスの日を思い出した。

あのとき感じた初めての気持ち…

同じように沼田さんも感じてくれてたのか…?

俺は気持ちが通じ合ってた事に嬉しくなって、竜聖の前にも関わらず顔がニヤけた。


「何ニヤけてんだよ!!」

「いや…悪い…。すっげ…嬉しいっていうか…。マジで両想いだったんだと思うと…あの雰囲気は勘違いじゃなかったと思ってさ…。」


俺は冬以降、彼女の気持ちが近いと感じていた。

今もケータイに残っている彼女の写真がその証拠だ。

俺はあのとき勇気を出して早めに告白しておけば良かったかなと思った。


「あの雰囲気って何だ!?お前ら何やったんだよ!!」


明らかに嫉妬から焦っている竜聖を見て、今だけは優位に立てるなと感じた。

少しからかってやるかと思い、少し際どい話をした。


「俺さ、一回だけ沼田さんの家に泊ったことあるんだよね。」

「はっ!?とま…泊った…ってお前!?何しやがった!!」


竜聖は俺に掴みかかってきて、必死な様子に笑いが漏れる。


「ははっ…!!…なあ、竜聖。沼田さんの体って柔らかいよな?」


俺が挑発するように告げると、竜聖はカッとなって拳を振り上げかけたが、なぜか我慢して俺から手を離してへたりこんだ。

実際泊っただけで何もなかったので、こいつに殴られたら何か奢ってもらおうと考えていたのだが、意外な大人な対応に驚いた。


「…その場にいなかった俺が殴るとか…ねぇよな。…お前だって、紗英のこと好きだったんだもんな…。」


素直に落ち込む竜聖を見て、ちょっとやり過ぎたかなと思った。

嘘だと言おうかと口を開きかけると、竜聖が涙目で俺を睨んだ。


「でもな、紗英は俺のもんだからな。過去何があろうと、紗英の中からお前の存在を追い出してみせるからな!!紗英の…紗英の…初めての相手だからって調子にのんなよ!!バーカ!!」


何かを誤解させたのか、竜聖は子供のように吐き捨てると自分の家を飛び出していってしまった。

俺はそれを見送って、唖然としながら固まった。


「これ…俺にどうしろってんだよ…。」


一人竜聖の部屋に残され、帰るに帰れなくなり、俺はケータイを取り出した。

そして竜聖の行先であろう人物に電話をかけた。

その人はすぐに電話に出て、上機嫌で声を上げた。


『もしもし、山本君?どうしたの?』

「あー…ちょっと俺、やらかしちゃってさぁ…。そっちに竜聖が行くと思うんだよね。」

『え!?竜聖がここに来るの?どっ…どういう事?』


竜聖が来ると聞いて、沼田さんが急に慌てだした。

俺は自分のせいだと言うことを伝えようと、罪悪感を抱えながら言った。


「俺が大学のとき沼田さんが好きだったって言ってさ、部屋に泊った事があるって言ったら、飛び出して行っちまって…。その、挑発した俺が悪いんだけどさ…。」

『そ…れ…言ったんだ…。私…竜聖に隠すのが嫌で、山本君の事好きだった時期があったって言っちゃったんだよね…。だから…打ち明けた私も悪いんだけど…。まだ竜聖…気にしてたんだ…。』


電話の向こうから沼田さんのため息が聞こえた。

俺は好きだった事が真実だと分かって、顔がニヤけてきた。

やっべ…本人から聞くとマジで嬉しいな…


『地元にからこっちに帰ってくる新幹線の中でもおかしかったから、まさかとは思ってたけど…。どうしようかな…。』


沼田さんが黙ってしまって対策を考えていると分かった。

嫉妬深いあいつだから、このまま沼田さんの家に行ったとなると、彼女があいつの嫉妬心に巻き添えになるのが目に見えている。

俺が引き起こした事だけにそれは回避したかった。


「沼田さん。今からこっち来れる?俺、竜聖の家にいるんだけどさ。二人で説明した方がいいと思うんだ。」

『…そう…だよね…。分かった。今からそっちに行くよ。』


沼田さんは出る準備をし始めたのか、電話に雑音が聞こえてきた。

俺は自分が向こうに行っても良かったが、頭にきているあいつが沼田さんの家に俺を入れるわけがないと思って、彼女を呼び寄せる事にした。


「それじゃ、竜聖の家で待ってるな。」


俺は彼女の返事を聞くと、電話を切った。

まったく…何で俺があいつの事でこんなに頭を悩ませなけりゃならないんだよ。

俺は竜聖に電話をかけながらため息をついた。




***




それからしばらくして、沼田さんがここにやって来た。

彼女は合鍵を持っていたのか、インターホンを一回鳴らしただけで、中に入ってきた。


「ごめん。山本君に迷惑かける事になっちゃって…。あんなの過去の話なのに…。」


沼田さんは走ってきたのか、少し大きく息をついている。

俺は彼女を隣に座るように手で示すと、安心させるように笑顔を作った。


「俺はいいんだけどさ。あいつの嫉妬心にはホント振り回されるよ。お互い大変だよなぁ。」

「そだね。まぁ、嫉妬してくれるのは嬉しいんだけど、できれば回りを巻き込まないようにしてほしいかな。きっと竜聖がひどい事言ったんじゃない?」

「はははっ!やっぱり沼田さんはよく分かってるなぁ~。あいつ子供みたいな捨て台詞言っていったよ。」


俺はさっきの言葉を思い出して笑けてきた。

すると沼田さんのケータイが着信を知らせて、彼女が俺に一度画面を見せてから苦笑した。

電話の相手は竜聖だった。


「はい。もしもし。」


彼女が電話に出ると、俺の耳にまで聞こえる大声で「今、どこにいんの!?」と言ってきた。

俺が事の経緯を説明しようと電話をかけたのに、出なかったのはこいつだ。

俺は電話に出てれば、ここに引き返せただろうになと思って天井を見上げた。


「竜聖の家だよ。山本君と一緒にいるから、今すぐ戻ってきて。」


沼田さんの言葉に竜聖は驚いた声を上げると、どうやら俺に電話を変われと言ったようで、沼田さんがケータイを差し出してきた。

俺はそれを受け取って「はい。」と声を出した。


『竜也!!てめえ、俺が行く前に紗英に手ぇ出したら、ぶっ殺すからな!!覚悟しとけよ!!!』


竜聖はそれだけ言うと一方的に電話を切った。

俺はこんな状態で話を聞いてくれるのだろうかと不安が過った。


それからしばらくすると、ガタタッと激しい音が玄関で聞こえて竜聖が息を荒げて帰って来た。

俺は沼田さんと最近の近況について話をしていたので、竜聖が顔を見せると会話をやめて手を上げた。


「よう。遅かったな。」


「ちっ…ちっ…!!ちけーっよ!!離れろぉっ!!」


竜聖は並んで座っていた俺と沼田さんの間に割り込んでくると、沼田さんを抱え込んで俺から引き離した。

その独占欲丸出しの姿に俺は頭が痛くなってきて、自然とため息が出た。


「はぁ…何もしてねぇだろうが…。ちょっとはこっちの話を聞けよ。」

「うるせぇっ!!今も紗英に好かれてるからって、調子のってんじゃねぇよ!!」

「好かれてるって…お前、婚約者のクセに何言ってんだよ…。」


俺が何度も出そうになるため息を抑えると、竜聖に抱きかかえられて目を丸くしていた沼田さんが動いた。


「竜聖!離してっ!!前も言ったけど、昔の話なんだってば!!私が竜聖に言った言葉忘れたの?」


沼田さんは竜聖の腕から抜け出すと、竜聖を説得しようとまっすぐに竜聖を見つめた。

竜聖はずっとムスッとしたまんまで、怒りが収まっていないのが見て取れた。


「忘れてねぇよ…。でも、紗英の中に竜也がいるのがイヤだ。」


マジで子供だな…こいつ…

俺はもう開いた口が塞がらない状態で、どう説得しようとも無理な気がしてきた。

沼田さんは少し考えたあと、俺を振り返ってから口を開いた。


「私の中にいるのは山本君だけじゃないよ。翔君だって、理沙だって、お兄ちゃんに麻友や夏凛、涼華ちゃんに今まで関わってきた人皆がいるよ。だって、みんな大好きだから。」


沼田さんの言葉を聞いて、俺は翔平の姿が頭を過った。

確か…翔平の奴も似たような事を浜口さんに言ってたな…

友達の好きがあるとかどうとか…

何だかんだ翔平と沼田さんは考え方が似てるのかもしれないなと思った。


「でも…竜聖だけは、その好きとは違うの。」


沼田さんはそう言うと、しかめっ面の竜聖の手をとって、自分の胸に押し当てた。

それを見て、俺もされた本人である竜聖も驚いて目を剥いた。


「前、竜聖が私にやってくれたでしょ?私だって一緒だから。目の前にいる竜聖にだけ、私の心臓はこうなるの。心臓の速さ…分かるよね?」


言ってる意味は分かるけど、俺は見てはいけないものを見てる気分で帰った方が良いかと思い始めた。

竜聖は沼田さんの意図とは大きくずれて、いらぬ事を考えている顔をし始めていて、沼田さんに注意しようかと一歩近づいた。


「ぬ…沼田さん…そろそろ、手を放したほうが…。」

「山本君、ここは私に任せて。」


沼田さんは竜聖の説得を優先させようとしているのか、俺の注意を聞き流してしまった。

いや…男にあれをやっちゃダメだろ…

俺はこの後起こることを予想して、逃げるかやめさせるかの選択に迫られていた。


「竜聖だって言ってくれたじゃない?私が一番だって。それは私も同じなの。竜聖が私の中で一番だから。だから、私を信じてよ。」


沼田さんの言葉に竜聖は顔をピクつかせながら、頷いた。

それを見て沼田さんがホッと安堵の表情になると、やっと竜聖から手を放して俺に顔を向けた。

俺はそんな沼田さんに笑いかけてから、横目で竜聖を見ると明らかにスイッチの入った表情をしているのが見えた。

このままでは邪魔者だろうと察すると、俺は立ち上がって声をかけた。


「じゃあ、話もまとまったみたいだし。帰るよ。」

「え…帰るの?じゃあ、私も。」


俺に続いて沼田さんも立ち上がってきて、俺はその行動に驚いた。

いや…沼田さんは帰ったらダメだろ…

口には出さずに心の中でそう思うと、沼田さんは何も分かってないのか首を傾げた。


「…紗英…今日は泊っていけよ。」


竜聖が期待に満ちた目で沼田さんを見上げて告げた。

彼女は意味が分かっているのか、顔を赤らめると俺の影に隠れてきた。


「きょ…今日は帰る。明日仕事だし。またね!!」


沼田さんはそういう気分じゃなかったのか、俺を盾にすると玄関へ走った。


「紗英!!待てって!!この間もそんな事言って、二週間以上も放置してさ!!もう我慢できないんだけど!!」


竜聖が俺を押しのけると、玄関に沼田さんを追いかけていく。

俺は我慢できないという言葉に我慢していたのかと他人事のように思った。

こいつの事だからやりたい放題だと思っていた。


「そんなこと山本君の前で言わないで!!竜聖ってば、そればっかり!!今日は帰るから!!」


沼田さんの怒った声が聞こえてきて、俺は助けに行くかと玄関に足を進めた。

すると沼田さんが扉から飛び出していって、竜聖が慌てて靴を履いていた。


「待てって!!泊るのが嫌なら、一回だけでいいから!!紗英!!」


竜聖は恥ずかしげもなく大声でそう言うと、沼田さんの後を追いかけて出て行ってしまった。

それを見て、俺はまた帰るタイミングを逃したことに気づいた。



「…おい…俺はいつまでここにいればいいんだよ…。」



家主が帰るまで、またここに留守番しなければならないのかと、俺はその場に項垂れた。







山本君とのいざこざは一応これで解決です。


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