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勘違い系○○  作者: 流音
番外編
204/218

番外編1 半同棲?


吉田君の婚約者になって一カ月が過ぎて、私たちの関係はだいぶ近くなったと思う。

それは心の距離の話なんだけど…最近はそれ以外も近い気がして心の落ち着かない日々が続いている。



「紗英っ!!一番に会いに来たぞ!!」



記憶が戻ってから、吉田君はこれを第一声にして私の家にやって来るようになった。

あの日の約束を守れなかった事を後悔してのことだと思うんだけど、そんな律儀な姿に私は笑顔を浮かべるしかない。

吉田君は靴を脱いで部屋に入って来ると、晩御飯を作っていた私を後ろから抱きしめてきた。


「おかえり。晩御飯食べてから帰るんだよね?作ってるから、邪魔しないでね?」


私がそう言ってるにも関わらず、吉田君は「ちょっとだけ。」と艶っぽい声を出して耳元で囁くと私の体に触ってくる。

それが本当に気持ちよくて、私はいつも逆らえなくなって料理を中断してしまう。

何だか最近毎日これの繰り返しで、吉田君の欲の深さに体がついていかない。

するってなったら一回じゃ済まないし、下手したら朝まで要求される。

要求されるのは嫌じゃないだけに受け入れてしまって後で後悔する。




というのも―――――



「あれ?沼田さん、また首のところ怪我してる。」


村井さんに指摘されて、私は心臓が飛び跳ねた。

私はなんとか笑顔を作ると誤魔化そうと言葉を探す。


「あははっ!今度は怪我じゃなくて虫刺されなんだ~。」

「え?今、冬だけど。どんな虫に刺されたの?」

「えっ!?どっ…どんな虫かな~?寝てる間に刺されてるから分からないや!あははっ!!」


私は「ふ~ん」と言って納得してくれた村井さんを見て、ホッとした。

すると野上君が横から椅子を転がしてやってきて、耳元で言った。


「虫って竜聖だろ?」

「なっ!?」


野上君の言葉に心臓が飛び上がって、野上君を凝視した。

野上君はヘラヘラと笑っていて、私は体温がグワッと上がっていく。

野上君はそんな私の反応を面白がっているのか、意味深に笑うと顔を前に戻した。


「いつまで経ってもお熱い事で。」

「何の話?」


村井さんが野上君の言葉に食いついてきて、私は思わず立ち上がった。


「何もないから!!野上君!!ちょっといいかな!?」


私は口止めしなければと思って、野上君を見下ろして睨んだ。

野上君は話の内容を分かってるだけに面倒臭そうな顔で立ち上がった。

私は怪しんでいる村井さんに愛想笑いを向けると、足早に職員室を出た。

そして人目のない階段したのスペースに来ると、しらっとしている野上君を見据えた。


「あのさ、気づいてるのは分かるんだけど…村井さんの前で口に出すのやめてくれないかな?」

「何で?」


野上君が半眼で私を見てきて、私は一瞬言葉に詰まった。


「だ…だって…、女子はこういうの好きじゃないと思うから…。」

「そんなん分かんねぇじゃん?キスマークの一つや二つで大げさな―――」

「わーっ!!!!だから言わないでってば!!」


私は恥ずかしげもなく言う野上君に焦った。

野上君は腕を組むとふっと息を吐いて、ニヤッと笑った。


「その様子だと、絆創膏の場所以外にもありそうだよな?」

「―――っ!?!?」


私は見透かされて顔に熱が集まった。

野上君の言う通り、服で隠れている部分にもたくさんつけられている。

もう吉田君には本当に参る。

やめてって言っても、聞いてもくれない。


「図星か。竜聖って相当独占欲強そうだよなぁ~。そんなんで体もつの?」

「なっ!?そんな事聞かないで!!」


私は何で同僚とこんな話をしなきゃならないのかと、声を荒げた。

黙っててもらおうと思ってここまで連れてきたのに、これじゃあ逆効果だ。

根掘り葉掘りほじくり返されて、私の立場が危うい。

もう口止めは諦めて逃げようと、心に決めた。


「もう!!とりあえず思ってても口にしないで!恥ずかしいから!!」

「ははっ!墓穴ったら逃げるんだ~?」


私が踵を返して職員室に戻ろうとすると、野上君に挑発される。

もう腹が立つやら悲しいやらで、私は頭の中がぐちゃぐちゃだった。

私は野上君の挑発を無視して、職員室に足を進めたのだった。





***





私はこの悩みを打ち明けるなら理沙しかいないと、仕事終わりに翔君の家へと逃げ込んでいた。

理沙から今日は翔君の家にいると聞いたためだ。


「理沙っ!!」


私は理沙に抱き付くと、久しぶりに安心感を感じていた。


「紗英、どうしたの?急に?仕事のある日に来るなんて珍しいよねぇ?」

「だな。また竜聖と何かあったわけ?」


理沙と翔君に聞かれて、私はちょっと悩んだ末に話すことにした。

私はシャツのボタンに手をかけると翔君に「あっち向いてて!」と言って、彼が反対を向いたのを確認してからシャツのボタンを外して理沙に体を見せた。


「うっわぁ…。」


理沙は口をポカンと開けると、言葉を失っている。

私は恥ずかしくなってきてボタンをとめてシャツをきちんと着ると言った。


「最近…日に日にこんな状態で…。怪我が治ったからかもしれないんだけど…。その…理沙的にどう思う?」

「う…うぅん…どうかなぁ?ちょっと行き過ぎかな?」

「だよね!!だよねぇ!?」


私はその言葉が欲しくて理沙にすがりついた。

やっぱり異常だと確認できただけでも救われる。

すると後ろを向いている翔君が「行き過ぎってなんだよ!?」と言って地団太を踏み始めた。

仕方ないので私は「こっち向いても大丈夫だよ。」と声をかけた。

翔君はそれを聞いて私たちに近付いてくると「何の話だよ!?」と食いついてきた。

私は翔君に話すのは嫌だったので、「何でもない。」と言って誤魔化した。


「それさぁ…前にも似たような事なかった?」

「え?」


理沙はいつのことを思い出しているのか、腕を組んで言った。

私は良いアドバイスをくれそうで、理沙を見つめる。


「いつだったかは忘れたけど…要はそれは竜聖君の愛情表現でしょ?それだけしてくるって事はそれだけ愛が深いって証拠だから、喜ぶべきところじゃない?」

「……喜ぶ…かぁ…。」


私は野上君にからかわれた事を思い出して、素直に喜べない。

愛の深さと聞くと嬉しいんだけど、誰かに知られるという状況は避けたい。


「どうすれば見える所にはやめてくれるかな!?」

「うえっ!?それをあたしに聞くの!?」


理沙はものすごく驚くと、翔君をちらっと横目に見て真っ赤になった。

そんな反応に私は首を傾げる。

何だろ?理沙も経験ぐらいあるだろうに…変なの…


「う~…っ!ダメ!!女の私には分からない!!本郷君タッチ!!」


理沙は耳まで赤くなると、翔君の肩を叩いて奥に引っ込んでしまった。

翔君は話の筋も見えてないので、タッチされても目をパチクリさせている。

そんな翔君を見て、私は口を引き結んだ。


え…これ…翔君に話す流れ…?


私は能天気そうな翔君を見て、死んでも話したくないと思った。


「なぁ、何の話なんだよ?」

「えっ!?え…っとぉ…その…。」


私が何とか上手い言い回しはないかと目を泳がせて考えていると、私の鞄に入っているケータイが震えた。

私は話を逸らすチャンスだと思って、鞄をひっつかんでケータイの画面を見た。


「わーっ!!!」


私は電話をかけてきた相手を見て、思わず大声を上げてしまった。

タイムリー過ぎて心臓が飛び上がって、ケータイを取り落す。

するとそれを翔君が拾って、画面を見てから出てしまった。


「あ、もしもし。竜聖?紗英なら俺ん家にいるぜ?」

「わーっ!!!」


私は翔君からケータイを取り返そうとするけど、翔君が立ちあがってしまって取り返せない。

吉田君に翔君の家にいるとか言ったら、帰ってからどうなるか分からない。

吉田君がヤキモチ妬きなのは付き合ってから痛いほど味わっている。

それだけにこれ以上の刺激はやめてほしかった。


「あん?何でいるのかって?そりゃ、来たかったからじゃねぇの?」

「ちょっ!!翔君!!その言い方やめてーっ!!」


私は冷汗が背中を伝った。

翔君はそんな私をお構いなしでケータイを返そうとしない。


「あぁ、分かった。伝えるよ。じゃあな。」


翔君は吉田君と話が終わったのか、電話を切って私にケータイを手渡してきた。


「はい。竜聖、迎えに来るってさ。良かったな。」

「え!?ここに来るの!?」


私は一緒に帰ったりしたら、また一緒に部屋に帰ることになると思って鞄を持った。

吉田君が来る前に家に帰ろう!

ここに逃げてきたのに、来られたら意味がなくなる。


「私、帰る!!竜聖には明日会おうって言っておいて!!」

「えっ!?紗英!!」


私は引き留める翔君の声に構わず、部屋を飛び出した。

吉田君に会わずに家に帰る。

それだけを考えて、私は駅に向かって走った。




***





そして私は何とか吉田君に会わずに家に帰って来ると、鍵をかけてふうと息を吐いた。

良かった…今日は安心して寝られそう…

私はホッとすると、走って帰って来て汗をかいたのでお風呂に入ることにした。

久しぶりにゆっくりお風呂に入ってリラックスしていると、インターホンが鳴って、私は出られる状態じゃないので無視することにした。

鍵もかかってるし大丈夫だよね。

それからインターホンは鳴らなかったので勧誘か何かだったんだと思って、体を拭いてからお風呂から出た。そして、バスタオルで髪と体を拭いていると、洗面所の扉が開いて目を剥いた。


「紗英!!」


私は洗面所の入り口にニコニコと立つ吉田君を見て、唖然とするしかなかった。

な…何でいるの…?

私は反射的にバスタオルで体を隠すと吉田君を押しのけて玄関を確認しに行った。


「鍵!閉まってたはず…何で!?」


「あー鍵だったら、ここに。」


吉田君が手の中で合鍵を転がしていて、私は目を疑った。


「何で!?」

「何でも何も…婚約者なんだから合鍵ぐらい持ってないとかあり得ないでしょ?」


当然のようにさらっと言われて、私は言葉を失った。

いくら…婚約者でも…これは犯罪じゃないの…?

私は吉田君という人が怖くなってきた。


「はい。紗英にも俺の家の鍵。」

「え…。」


私は手を掴まれると、手のひらに鍵をのせられてそれを見て固まった。

吉田君の家の合鍵にピアノのキーホルダーがついていて、私のために用意してくれたものだと分かった。


「これで、いつでも来てくれたらいいからさ。」


吉田君の笑顔と特別な証の鍵で、私は胸がギュンとした。

婚約者という実感が湧いてくる。

嬉しい…。


「ありがとう。」


私は鍵を握りしめると、ギュッと目を瞑った。


そうして喜びに浸っていると、急に抱きしめられて我に返った。

吉田君の手がバスタオルをはぎ取ろうとしてくる。


「ちょっ…ちょっと何してるの!?」

「え…?だってもうお風呂入って準備してくれてたんだろ?」

「違うから!!」


私は体を寄せてくる吉田君を引き離そうと必死に抵抗する。

何でまたこの流れに!!

私は最後の手段だと思って、吉田君の急所を蹴り上げた。

吉田君は相当痛かったのか、私から手を離すとその場にへたり込んだ。

それを見下ろしてひとまず安心した。


「最近そればっかり!!盛ってる竜聖なんて嫌い!!ちょっとは反省して!」


私はそう言い残すと、洗面所に着替えに戻った。

内心ドキドキしていて、足に変な感触が残ってるのが気持ち悪かった。

私は考えないようにして着替え始めると、外から笑い声が聞こえてきて耳を澄ました。


「…っふ…だから、紗英がいいんだよなぁ…。」


意味が分からない!!

私はまったく反省してない言葉を聞いてげんなりした。

でも鍵をくれたのは嬉しかったので、心の中で感謝した。


そしてそれと一緒に5年前預かった鍵のことを思い出して、今度の休みの日に二人で故郷に帰ろうと決めたのだった。









竜聖の家の鍵の話です。

しばらく番外編が続きますが、お付き合いください。

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