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勘違い系○○  作者: 流音
第四章:社会人
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4-75支えになる言葉


私は宇佐美さんから数々の言葉を浴びせられて、中庭のベンチに俯いていた。

言われっぱなしだった事が悔しくて、私は涙が止まらなかった。


高校のときと同じ、宇佐美さんは私を敵視している。

だから、わざわざこんな所まで会いに来たんだ。

彼女の言葉のどこが嘘でどこが本当かなんて私には分からない。

でも、吉田君が私に向けてくれている気持ちだけは本物だと信じたい。

別れたいなんて嘘に決まっている。


それよりも宇佐美さんが毎日吉田君と一緒にいるって事の方が耐えられなかった。

私だって毎日会いたいのを我慢しているのに、何であの人が傍にいるんだろうと思った。

ついこの間までは隣にいたのに、今はその居場所を奪われたようで辛い。

会えない内にどんどん気持ちは大きくなって、独り占めしたい嫉妬が顔を出す。

竜聖は私のものなんだから!!

私は頭の中に浮かぶ宇佐美さんに心の中で叫んだ。


顔を覆っていた手を下ろして、拳を作って膝を叩いた。

するとどこかへ行っていた野上君が村井さんを連れて戻ってきた。


「ひでー顔してるなぁ?」

「沼田さん大丈夫?」


村井さんがどこかで貰ってきてくれたのか、ハンカチに保冷剤をくるんで渡してくれた。

私はそんな気遣いに嬉しくなって、また泣きそうになったけど何とか堪えて受け取った。

それを瞼に押し当てて上を向くと、野上君と村井さんが隣に座ったのが分かった。


「何があったか知らないけど、そんなになるなんて竜聖絡みなんだろ?」


野上君に言い当てられて、私は口を噤んだ。

野上君はいつも何でもお見通しで参ってしまう。


「前言ってた、距離をとってるっていうのと関係あるとか?」


村井さんまで心配してくれているようで、私は黙っている事ができなってきた。

黙ってたら、きっともっと心配させるよね…

私は一旦瞼から保冷剤を外して二人を見ると、二人とも同じように眉をひそめていて胸が苦しくなった。


「…うん。さっき、竜聖の家の秘書やってるっていう…昔の知り合いが来て…。それで、竜聖と毎日一緒にいるのは自分だから、別れろ的な事を言われて…。」

「はあ!?そんなのその女が勝手に言ってる事だろ!?」

「そうだよ!竜聖さんは心変わりするような人じゃないよ!!」


二人は私以上に怒り出して、その姿を見ているとふっと笑みがこぼれた。


「それは信じてるんだけど…。今、一緒にいられるのが何で自分じゃないんだろうって思って…。悔しくて…要は嫉妬したって話なんだけどね。」


私の言葉に二人は何か安心したのか、肩を下ろして微笑んだ。


「なんだ。また竜聖の気持ちでも疑ってんのかと思ったよ。」

「私も、自信なくなって別れるって言いだすんじゃないかと思った。」


私は自分が二人にどういう風に見られてきたのか伝わってきて悲しくなってきた。

そんなに自信がなくて竜聖を疑ってばかりいただろうか?

でも、好かれてる自信と一緒にそうじゃないかもしれないという不安も抱えていたので反論できない。

それにお母さんの言う通りに別れる事を考えているかもしれないという疑念は消えてくれない。


「つーかさ、嫉妬するぐらいなら、こっちから会いに行けばいいじゃん。」

「え?」


野上君は当然という顔でさらっと言った。


「その秘書の女の前でさ、ラブラブっぷりを見せつけてやればいいんだよ。逆に嫉妬させるって事だよ。良い考えだと思わねぇ?」

「そうだね。今までのストレスも解消できるし、一石二鳥かも。竜聖さんに会えないわけじゃないんでしょ?」


乗り気な二人に期待に満ちた目で言われて、私は反射的に頷いた。


「うん。家か仕事場に行けば…会えると思うけど…。」

「なら、善は急げだよ!!今日か明日にも会いにいってきなよ。」

「……うん。」


私は二人に背中を押されて、悩んだ後とりあえず返事だけした。

それを見て二人は嬉しそうに笑ってくれて、私も作り笑顔を浮かべた。

会わない、連絡もしないと言ったのは私だ…。

でも、姿を見るだけなら…

私は仕事場まで様子を見に行こうと思って、保冷剤を握りしめた。





***





それから私は仕事の帰りに竜聖の働くスポーツ用品店まで足を運んでいた。

ガラスの自動ドアの前に立って、中の様子を窺う。

お母さんが退院するまでは会わないって言ったのは私だ。

なら、その約束は守らないとと思うけど、どうしても会いたいという気持ちもあって、どうすればいいのか分からない。


翔君と山本君に抱えていた事を打ち明けてから、吉田君に対する不満や怒りはどこかに消えていった。

翔君の言葉が今は私の支えになっている。

いつか私の想いは吉田君に届く。

お母さんが元気になればきっと…

私はそう思う事にして、やっぱり会うのは我慢しようとお店に背を向けた。


すると目の前で見たことのある黒塗りの車が止まった。

車をじっと見つめていると、運転席から鴫原さんが姿を見せた。

鴫原さんは私に気づいて車を止めたようで、ガードレールを跨いで私に駆け寄ってきた。


「こんにちは。沼田紗英さん。」

「…こんにちは…。」


私は鴫原さんの笑顔につられて挨拶を返した。

鴫原さんがここにいるって事は…吉田君がここに来るってことだよね…

私はそれに気づいて、焦って立ち去ろうと口に出した。


「あの、私ここで失礼します!!」

「あ、待ってください。竜聖さんならここには来ませんから。」

「え…?」


私の心の中を読み取ったのか鴫原さんが笑顔を浮かべて言った。

私は背を向けようとしていた体を鴫原さんに向き直すとじっと鴫原さんを見つめた。


「竜聖さんはさっき本社にお送りしてきたところなので、今日はこちらにはいらしてないですよ。安心してください。」

「…そうなんですか…。」


私はホッとして緊張を緩めた。

すると鴫原さんが一歩私に近付いてきて、私と視線を合わせるように屈んできた。


「桐谷の家の事情にあなたを巻き込んでしまって申し訳ありません。私もまさか竜聖さんが、継ぐと言い出すとは思わなかったもので…。」


切なげに目を細めた鴫原さんを見て、私は慌てて首を振った。


「いえ!巻き込まれたなんて思ってないので、気にしないでください。その…竜聖…元気にしてますか?」


私はずっと気になっていた事を口に出した。

鴫原さんはふっと微笑むと頷いた。


「はい。元気にされてますよ。少しお疲れではあるようですが…。あなたはお優しいですね。」


さらっと褒められ、私は照れ臭くなって鴫原さんから目を逸らして下を向いた。

元気なら良かった…

でも、私が言ったことを気にしてないといいけど…やっぱり傷つけちゃったよね…

元気だと聞いても、吉田君の様子が気になってきて、私は鴫原さんにお願いをすることにした。


「あの、もし少しでも時間があったら…毎日じゃなくてもいいので、竜聖の様子を教えていただけませんか?私の番号とアドレスをお伝えするので…お願い…できませんか?」


私は鞄からケータイを取り出すと、鴫原さんに手を合わせて頭を下げた。

鴫原さんは少しの間黙って考えていたようだったけど、ふっと息を吐き出すと頷いてくれた。


「いいですよ。私の知ってることで良ければお教えします。」

「あ…ありがとうございます!!」


私は鴫原さんに頭を深く下げると、鴫原さんと連絡先を交換した。

そして登録された鴫原さんの名前を見て、ちらっと鴫原さんに目を向けた。


「鴫原さんって『まこと』さんっていうんですね。ちょっと意外です。」

「…そうですか?性格と名前がぴったりだとよく言われますが…。」

「えっと、そういう意味じゃなくて…何となくもっと長い名前だと思ってたんです。真って一文字じゃなくて…竜聖のお父さんがそうだから…なんとか太郎とか…そういう系の名前を…。」

「っふ!なんとか太郎ですか…。それは初めて言われました。」


鴫原さんは初めて顔をクシャっとさせて笑っていて、こうして笑うと意外と若く見えた。

いつも敬語を使ってるからすごく年上だと思っていたけど、意外と年が近いのかもしれない。

そう思っただけで鴫原さんが近く感じられて、今日ここに来たきっかけを鴫原さんに尋ねてみる事にした。


「あの…鴫原さんは宇佐美麻里さんって方をご存知ですか?」

「…宇佐美ですか?宇佐美は桐谷の秘書ですが…。もしかしてどこかでお会いになられましたか?」


私は鴫原さんの答えに嘘じゃないんだと確認して、しぶしぶ頷いた。


「……実は…今日、宇佐美さんに会ったんです。…私…彼女に会うの高校以来で…何で今頃、私の前に現れたのか気になって…。竜聖と仲が良いっていうのは本当なんですか?」


私は宇佐美さんと竜聖の関係が鴫原さんの目にどう映ってるのか気になって尋ねた。

鴫原さんは面を食らったように目を瞬かせていた。


「えっと…仲が良いかと言われましたら、YESと答えなければならないかと思います。あの二人は高校時代からの友人だと聞いてますので…。竜聖さんは知らないようですが、確か中学の同級生でもあるんですよね?」


鴫原さんは尋ね返してきて、私は仲が良いという言葉にもやもやを抱えながらも頷いた。


「はい。私は話した事もないので友人に教えてもらうまで知らなかったんですけど…、中学から同級生で…竜聖とは高校も一緒だって聞きました。…あの、鴫原さんがいう宇佐美さんが高校時代からの友人っていうのは、こっちの高校でって事ですか?」

「ええ。私が知ってるのは桐谷の家に来られてからの竜聖さんなので、こっちの高校になります。と言っても半年間だけだったと思いますが…。大学は確か別だったので…。」


こっちの高校で一緒だと聞いて、私は顔をしかめた。

宇佐美さんは私の知らない竜聖を知ってるんだ…。

私はその事実がショックで、宇佐美さんに言われた事がすべて真実だと思ってしまいそうになる。


「何を心配されてるかは分かりませんが…。あの二人に恋愛感情はなかったと思いますよ。」

「え…?」


鴫原さんは私の考えている事を読み取ったのか、安心させるように優しい声で言った。


「宇佐美は桐谷家の秘書であって、竜聖さんのご友人というだけです。私が知っているのは、そういうお二人ですよ。」

「…そうですか。分かりました。」


私は鴫原さんが嘘を言ってないと信じて、笑って返事をした。

今はやっぱり吉田君を信じるしかできないや…

私との事…どうするのか考えてるのかもしれないけど…

吉田君の出した答えに従おう。

私はそう決めて、吉田君を見守る道を選んだ。


どんな結論を出そうとも、私は吉田君が幸せになるなら、笑顔で彼の答えを受け入れる。


私はケータイを握りしめると、鴫原さんに向かってお礼を告げた。







鴫原は紗英の味方っぽいですね。

今後、彼が良い仕事をしてくれます。

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