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勘違い系○○  作者: 流音
第四章:社会人
180/218

4-62お詫びする

引き続きR15です。お気を付けください。


朝――――


私は気持ちよく目を覚ますと、同じベッドに吉田君が半裸で寝ていて驚いた。

思わず自分の服を確認して、ちゃんと着ていることにほっと胸を撫で下ろした。

そして昨日眠るときの記憶があやふやで覚えていないことに顔をしかめた。

……先に寝るねって言ったところまでは覚えてる…けど…

何がどうなって、吉田君がここに寝てるの?

私は考えたが、思い出せそうにもなかったので諦めて朝ごはんを作るためにベッドから立ち上がった。

そして寝ている吉田君に布団をかぶせて、その場で大きく伸びをした。


そのまま洗面所に向かって、私は吉田君と寝ていてもそこまで取り乱さなかった自分が不思議だった。

昨日はあんなに恥ずかしかったのに、今日は全然大丈夫だった。

あ、そっか…今更一緒に寝てても、あの日より恥ずかしい事はないもんね…

私はあの夜の経験で、吉田君にはすべて見られているので、そこからくる慣れかと理解した。


そして一昨日の事を思い返しながら、私は鏡の前で赤面した。

あの夜は本当に幸せだった。

あんなに幸せで嬉しい夜は初めてだった。

そして…吉田君に触られるのがあんなに気持ちいいものだと、初めて知った夜でもあった。

思い返すだけで、体がムズムズしてくる。

恥ずかしかったけど、もっともっと…と吉田君に溺れていって、自分がおかしくなっていくようだった。

こんな経験してしまったら、またしたくなってくる。

私はいけない考えを振り払うと、顔を洗ってから気を引き締め直した。


ダメダメ!!流されてばかりじゃ、自分を見失うから冷静に!


私は自分に大人なんだからと言い聞かせて、朝ごはん作りに取り掛かることにした。





***





私が朝ごはんの準備を終えて、テーブルにサラダと卵焼きを運んでいると、ふと視線を感じて顔を上げた。

すると部屋の入り口の所に吉田君がぼーっと立って、こっちを見ていた。

吉田君は私が起きた時と同じ半裸姿で、少し目のやり場に困って目を逸らした。


「お…おはよう。竜聖。」

「……うん。」


吉田君はそれだけ返事すると黙ってしまって、何の反応も見せないので私は顔を上げて吉田君の様子を窺った。

吉田君はじっとこっちを見つめたまま、動こうとしない。

寝惚けてるのかな?

私はもしそうなら起こしてあげようと思って、吉田君に近付いて声をかけた。


「竜聖?起きてる?」


私が吉田君の目の前で手を振って確認していると、その腕を掴まれて部屋の中に引っ張られた。


「わっ!!えっ!?」


私は引っ張られるままに足をもつれさせていると、吉田君にベッドの上に座らされた。

そして吉田君はベッドに手をついてしゃがむと、私と目を合わせた。


「何で、待っててくれなかったんだよ?」

「え…?何の話?」

「昨日の夜!!」


吉田君は見るからに不機嫌で声を荒げた。

私は昨日の夜と言われて、待っててなんて言われた記憶がないと思ってそのまま返す。


「夜って…私、先に寝るよって言って寝ただけだよね?待っててなんて言った?」


覚えてる事をそのまま返したのだが、吉田君の勘に触ったようでみるみる眉間の皺が深くなった。

あ…何かいけない事言ったみたい…

それだけは分かって、私は吉田君を見つめて姿勢を正した。


「……言ったよ。何回も起こしたのに…。信じらんねぇ…。」

「……ご、ごめん。」


私は怒らしたようなので、とりあえず謝った。

すると、吉田君はずいっと私に身を近づけると言った。


「謝るならお詫びしてくれよ。」

「…お詫び?」

「俺が喜ぶことしてくれたらいいんだよ。それぐらい彼女なら分かるだろ?」


寝起きだからなのか、吉田君がすごく俺様に見えて私は言葉を失った。

……要はご機嫌とれって事だよね?

それから私は吉田君が喜ぶことなんて、思いつかなくて私は目を泳がせて悩んだ。

吉田君は変わらず鋭い目で射抜いてくるし、だんだん居た堪れなくなってきて、私は咄嗟に手を出して頭を撫でた。

泣いた子供を宥めるように頭をよしよしと撫で続ける。


「…何…してんの?」

「へっ!?あ…と、だから喜ぶことをしてるんだけど…違った?」


吉田君の眉間の皺が更に深くなって、違った事が伝わってきた。

私は手を引っ込めると腕を組んで考え込んだ。

一番喜ぶことか…吉田君が良い笑顔をしてたときって、いつかなぁ?

私は今までの事を思い返して、あるときの事を思い出した。

それは高校時代のことだったけれど、きっと喜んでもらえると信じて行動に起こした。

吉田君の頬に手を触れると、空いてる方の頬へ唇を寄せた。

軽く触れてからすぐ離すと、吉田君の表情を窺った。

吉田君から眉間の皺がなくなっていて、満足してくれたことが伝わってきた。

ほっぺチューなら、大丈夫なはずだもんね。

私は自分で行動に起こせるギリギリのラインだったのでホッとした。

機嫌が直ったことに安心して、私はご飯を食べるために吉田君の肩に手を置いて押し返した。


「さ、朝ごはん食べよう?」


そう告げて立ち上がろうとするのだけど、吉田君は固まったまま動かなくて私は不審な目で彼を見つめた。

すると吉田君はバッと顔を上げてきて、また怒った顔に戻っていたので私は息を飲み込んだ。


「これで終わり?そんなわけないよな!?」

「え…終わりだけど。まだ、怒ってるの?」

「当たり前だろ!?俺は子供じゃない!!」


声を張り上げる吉田君を見て、子供みたいだと思った。

どう見ても駄々をこねる子供だ。

本人は違うと言うけど、私にはそうにしか見えなかったのでじとっと見つめた。


「あーっ!!もう我慢できねぇ!!」


吉田君はイライラしながら頭を掻きむしると、キッと私を睨んでから思いっきり口付けてきた。

いきなりのことに息をする余裕もなくなった私は、目をきつく閉じて吉田君の肩を掴む手に力を入れた。

息が苦しくなってきて、軽く鼻から息を吸いこんだとき、背中に回っていた吉田君の手が服の中に入ってきた。

その手がなんとブラジャーのホックを外してしまって、私は目を剥いた。

思わず吉田君を全力で押しのけると、ベッドの上に駆け上がって壁に背をつけて吉田君と距離をとった。


「なっ!?何で!!」

「何で!?何でなんてこっちが聞きたいよ!!」


吉田君は肩を怒らせてベッドに乗ってくると、私の逃げ場を塞ぐように壁に手をついた。

私は心臓がドッドッと速くなっていて、これから起こるだろう事を想像してしまった。


「先に寝てさ!俺を我慢させた紗英が悪いんだから、責任とってくれよ!!」

「責任って…――――っ!!」


吉田君は言うだけ言うと、私の反論の言葉を遮るように首筋に口を寄せてきて、私はゾクッとして口を閉じた。

そして触られるのが嫌じゃなかった私は、抵抗することもできず、吉田君のされるがままに初めて朝からしてしまったのだった。





それから私はベッドで寝転びながら、隣でニコニコと上機嫌な吉田君を見てため息をついた。

流されないようにって思ってたのに…ダメだ…

もう吉田君に逆らえる気がしない。

吉田君はそんな私の心境お構いなしで、私に体を寄せるとギュッと抱きしめてきた。

その温かさに嬉しくなる自分がいて、また流されるなぁ…と思ってふてくされた。


「あー…離れたくねぇなぁ…。仕事なんかなけりゃいいのに…。」


吉田君が私に頭を寄せて言ったのを聞いて、私はハッと我に返って時計に目を向けた。

時刻が八時を回っているのを確認して、私はベッドから起き上がった。


「仕事!!遅刻するよ!!」

「えぇ~…。今、すっげー感慨にふけってたのに…。」


私が慌てて服を着ていると、吉田君がブツブツ文句を言いながら起き上がった。

そして私は何とか着替え終えたのだが、吉田君はベッドに座ったまま動こうとしなくて声をかけた。


「何してるの!?早く着替えないと!ご飯も食べてないのに。」

「う~ん…ご飯はいいからさぁ…。」


吉田君は頬に肘をついて私をちらっと見ると、何だか言いにくそうに口をもごつかせた。

それを見て私は首を傾げながら近寄ると、吉田君が私のシャツの裾を掴んで見上げてきた。

そのおねだりする子供のような瞳に胸がギュンっと苦しくなる。


「紗英の事、食べたいな?足りなくてさぁ。」


飛び出した発言は子供のものじゃなくて、私は思わず吉田君の横にあった枕を手に取ると吉田君に叩きつけた。


「竜聖、最近そればっかり!!それはいいから!早く仕事行かないと嫌いになるっ!!」


私は爽やかな笑顔に騙されないように、声を張り上げた。

言われた事に反応して胸はドキドキとしていたけど、今度は流される訳にはいかなかった。


それからも食い下がってくる吉田君に何とか着替えてもらい、朝ごはんをサンドイッチに変えることで、それを持ってもらって仕事へと無理やり送り出した。



送り出した後、私は言い様のない疲労感に襲われて、その場にへたり込んだ。


「つ…疲れた…。」


何でこんな朝から疲れなければいけないのか…

その理由は決まってる。

吉田君だ。

今まで拒否してきた事を受け入れてから、吉田君の中で何かが変わったように感じる。

遠慮がなくなって、自分の欲望のままに動いている気がしてならない。

求められるのは嫌じゃないだけに、吉田君の要望通りにしてしまって彼を増長させているような気もする。


このままだと吉田君の生活に支障が出てくる。


そう感じた私は、吉田君が家に帰って来る前に自分の家に帰ろうと心に決めた。








ラブラブ同棲生活はこれにて終了です。

そろそろ物語の山場に突っ込んでいきます。

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