2-12修学旅行Ⅲ
「ダメだ!!あの姿はダメだー!!」
俺は風呂の後、部屋に戻って叫んだ。
今も目を閉じると紗英のあの姿が浮かんでくる。
「確かに男子高校生には強烈だった。」
「何そのナレーション!!」
真面目に言う圭祐、茶化す哲史を睨んだ。
大地に至っては黙ったまま真っ赤になって座り込んでいる。
よほど衝撃が強かったようだ。
「お前らは忘れろ!!いいな!」
俺が命令すると、「忘れられるわけねーだろ!!」と返されてしまった。
当然だ。
忘れるどころか鮮明に蘇って来る。
紗英のあの抜けたところは何とかしなければ…
二次被害がひどい。
今まで抜けたところも可愛いと思っていたが、そうも言ってられない。
しっかり見とかないと、また何かしでかしそうでハラハラする。
大きくため息をつくと、悶える奴らを叩いてご飯に行くことにした。
***
大宴会場に着くと、入り口でばったり紗英たちに会ってしまった。
ついさっきの出来事だけに仲間達が目をそらすのが分かった。
紗英は恥ずかしそうにしていたが、一歩俺たちに近づくと手を合わせた。
「さっきの事忘れてくれないかな…?」
紗英は俺たちを上目づかいで見つめてきた。
うわー…上目づかいはやめてくれ…
傷が深くなる…
それは奴らも同じようで、ぼけーっと紗英を見て赤い顔をしていた。
でも紗英のお願いを無下にもできず、皆頷いた。
紗英はほっとした顔をしたが、俺も含め奴らの返事は嘘に決まっている。
さっきまで忘れられないと騒いだばかりだ。
そして紗英は友達に「先に行ってて」と言うと、俺の腕を引っ張った。
ついて来てほしいとの意味だとわかり、俺は仲間に「行ってて。」と言い残してついて行った。
ロビーまで来ると、紗英は俺に向き直り思いつめた顔で頭を下げた。
「さっきは隠そうとしてくれてたのに、ひどい事して…ごめんなさい。」
紗英の謝る意味が分からなかったので、俺は数秒思考停止してしまった。
紗英が顔を上げたときの赤い顔を見て、あぁと合点がいった。
さっきの捨て台詞のことか…
「美優ちゃんから聞いたの…隠そうとしてくれてるなんて気づかなくて…」
「いいよ。気づいたときは心臓飛び出たけど。」
俺の笑顔が気に入らなかったのか、紗英はまた顔を赤くさせてそっぽを向いた。
何とかご機嫌をとろうと、いつも思ってる事を言った。
「どんな紗英の姿でも可愛いよ。」
これには紗英も予想外だったようで、俺を驚いたように見つめて耳まで真っ赤になった。
可愛いなぁ…
抱きしめたいな…
と思ったときには行動に出していた。
紗英の腕をとって俺の方へ引っ張った。
紗英の細い肩に手を回すと、腕に力を込めた。
髪の毛からシャンプーの香りがする。
頭より体が先に動くとはこういうことかと思った。
紗英は硬直しているのかピクリとも動かなかった。
これ以上強く抱きしめると壊れてしまいそうなぐらい柔らかかった。
どのくらいそうしていただろう。
数秒が数時間に感じるぐらい幸せだった。
俺は紗英の体がビクッと動いたのをきっかけに我に返った。
紗英の手が俺を押し返した。
俺は夢から覚めたように紗英を見つめた。
紗英は真っ赤な顔のまましばらく瞬きをすると俺と視線を交わした。
「な…なん…。」
何でという言葉が紗英が発しようとしてると思った。
告白するチャンスかと思ったが、戸惑っている紗英の目を見ていつものように笑った。
「ごめん。何か修学旅行だからかな?そんな気分になっちゃって。」
はははっと冗談のように笑うと、
紗英は何かを考えてから気まずそうに言った。
「…さ…さっきの言葉取り消す。…やっぱり、最低。」
そして俺に背を向けて走り去ってしまった。
俺は超が何個もつくぐらい後悔した。
くそっ!!
俺は紗英の後を追いかけて走った。
何で誤魔化した!!
大宴会場を覗いたが、紗英は戻ってないようだった。
三人だけが俺の仲間たちと会話しているのが見える。
どこだ!?
俺はホテル中を探し回った。
売店、エレベーター前、浴場、トイレ前(さすがに女子トイレには入れない)…
でもどこにも見つからず、上の階へ行こうとしたところで教師に見つかり大宴会場へ連行された。
大宴会場に戻ると紗英の姿を遠くの席に発見した。
宴会場に入ってきた俺と一瞬目が合った気がしたが、逸らされてしまった。
俺は席につくと「何やってたんだよ。」と仲間たちに茶化されたが、答える気にはなれなかった。
そして教師の注意事項の説明が終わると食事が始まったが、
どれだけ美味しくても中々喉を通ってくれなかった。
しまいには箸をおいて、「ごちそうさま」と席を立った。
ほとんど残ってる食事を見て哲史が「もう食べねーの!?」と言ったが、
俺は無言でフラフラと宴会場を後にした。
ロビーのソファに腰かけていると、どんどん気分が悪くなってきた。
悪い方へばかり考えるからだ…
紗英に謝らないとと思うが、軽蔑されてしまった
いっそのこと告白しようかと思ったが、勝算は薄い。
関係が悪化するなら、仲直りを優先するべきだと思う。
とりあえず話しかけないととの結論になり、
宴会場に戻ろうと腰を上げかけると誰かが横に座った。
俺は驚いて横を見ると、同じスポーツ科のクラスメイトの女子、浜口理沙がこっちを見ていた。
突然のことに俺は声が出なかった。
彼女とはクラスの連絡事項を伝える以外話したことはない。
「ねぇ、本郷君。明日、私たちの班と一緒に回らない?」
彼女はショートカットの髪を耳にかけながら言った。
俺は突然の申し出に戸惑った。
紗英たちの班と回る約束がある。
断ろうと口を開きかけたとき、彼女が俺にズイッと詰め寄ってきた。
「音楽科の子達と回ってるのは知ってるんだけど、
私たちをそこに混ぜてくれない?ってことよ。」
「いや、でも俺だけで決めるわけには…」
「大丈夫。後で他のメンバーにも確認とるから!
じゃあ本郷君はオッケーってことね。」
彼女は一重の目をより細めて笑うと、手を振って行ってしまった。
俺は有無を言わせぬ雰囲気に全く反論できなかった。
さすがスポーツ科の女子…肉食系というか…たくましい。
今日接した音楽科の子達を思い出して……
あまり変わらないかと考えを改めた。
ただ紗英と仲直りできていない状況での乱入だけは避けたいと
そのあと紗英を探したが、部屋に戻ってしまったのか残念ながら会うことはできなかった。
読んでいただきありがとうございます!
修学旅行編半分終わりました!!
もう少しお付き合いください。




