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勘違い系○○  作者: 流音
第四章:社会人
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4-61生まれる余裕

前回に引き続きR15です。お気をつけください。


俺は俺の横で小さくなりながら眠っている紗英を見て、顔が緩んだ。

昨夜は最高だった。

最初は怖がってると思って遠慮して別部屋で寝ることにしたけど、まさか紗英の方から来てくれるなんて思わなくて理性が吹っ飛んだ。

このチャンスを逃すものかと思って、俺は手加減ができなくなってしまった。

我ながら溜まってたんだと、自分で自分が情けなくなる。

でも紗英はすべて受け止めてくれて、俺は紗英がより一層俺に近くなったようで嬉しかった。

もう紗英を離さない。

一秒だって離れていたくない。

俺はそんな気持ちで寝てる紗英を強く抱きしめた。


すると紗英がうめき声を上げて、目を開けた。

俺が抱きしめたことで起こしてしまったようだった。


「おはよ。紗英。」


俺が声をかけると、紗英は目をパチクリさせた後真っ赤になった。

そして布団に顔を隠すと控えめに「おはよう…」と返してくれた。

そんな紗英の仕草が可愛くて、俺は紗英の頭の後ろに手を回すと、引き寄せて自分の胸に押し当てた。

すると紗英は照れているのか、明らかに焦り始めて俺の胸に手を当てて押し返そうとしてくる。

その手がくすぐったくて俺も紗英に触りたくなってくる。

しばらくは我慢していたけど、胸の奥がムズムズしてきて俺はさり気なく空いてる手で紗英の体に手を回してその肌に触れた。

その瞬間、紗英が思いっきり俺を突き飛ばして、布団から飛び出した。


「なっ!!なっ…!!朝から何すんの!!」


紗英は素っ裸で飛び出した事に気づいて、慌てて布団に手を伸ばして恥ずかしそうに自分の体を隠した。

俺はそんな初心な反応をする紗英をにやけながら見て、本音を口にした。


「俺は朝からでも平気だけど?もう一回する?」

「――――……っ!!しないから!!」


紗英は俺の言葉を真っ赤な顔で否定してから、転がっている衣服に目を留めて、驚いてそれをかき集め始めた。

俺は拒否されたことよりも、いつの間にか自分が紗英より優勢になっている事に笑みがこぼれた。

前までは紗英がどこかに行ってしまいそうで、繋ぎとめたくて不安で仕方なかった。

でも今は自信を持って、紗英には自分しかいないと思える。

ただの体の繋がりと言えばそうなのだが、俺にとって紗英が受け入れてくれた事実はすごく大きかった。


俺は仕方なく朝からすることは諦めると、体を起こして着替える事にした。

そのとき紗英に「早く服着て!!」と怒られたが、俺は真っ赤な顔の紗英が見ていたくて、あえてパンツ一丁で紗英に近付いて殴られることになったのだった。





***





そしてその日、俺は口の端に絆創膏を貼った状態で出勤した。

紗英…意外と咄嗟のとき力あるんだよな~…

俺は殴られたときの事を思い返して顔をしかめた。

すると前から店長がいつものようにニコニコ笑いながら歩いてきた。

俺は休みをもらったお礼を言おうと店長に駆け寄って、声をかけた。


「店長!おはようございます!昨日、一昨日と休みをありがとうございました!!」

「あ、桐谷君。おはようございます。その顔だと上手くいったようですね。」


店長は俺の親のように見透かしてきて、俺は恥ずかしさから頭を掻いた。


「はい。その節はご心配おかけしました。」

「いいんですよ。彼女とは会えたんでしょう?」

「あはは…はい。実は今、一緒に住んでて…。って言っても三日間だけなんですけど。」

「おやおや、それでそんなにご機嫌なわけですね。」


俺は以前話を聞いてもらった以上話しておかなければと事情を伝えた。

店長は自分のことのように嬉しそうに笑うと俺の肩をポンと叩いた。


「でも、休んだ分は働いてもらいますよ。今日は二時間残業をよろしくお願いしますね。」


店長の言葉に俺は行く前に交わした約束を思い出した。

そういえば…残業するって言ってたっけな…

俺は紗英が家にいる残り二日間だけでも早く帰りたくて、店長に詰め寄った。


「あの!残業って三日後からじゃダメですか?その…さっき言いましたけど、彼女が家にいるので…早く帰りたくて…。」


店長はふっと息を吐くと、メガネの奥の細い目を鋭く光らせて言った。


「桐谷君、これ以上の私情はさすがに許せませんよ。約束…守ってくださいね?」

「………はい。」


俺は有無を言わせぬ迫力の店長に歯向かえなくなった。

こんな顔もするんだとそのとき初めて知った。



それから俺は残業の事は一旦忘れる事にして、黙々と仕事に取り掛かった。

お客さんが入ってくるたびに「いらっしゃいませー」と声を出して営業スマイルを浮かべる。

今日は営業スマイルを浮かべるのが楽だった。

家に帰れば紗英がいると思うだけで自然と笑顔になるからだ。


そして俺が棚の整理をしながら営業スマイルを浮かべたままでいると、小関が俺の横を通り過ぎながら言った。


「桐谷さん、顔…気持ち悪いですよ。」

「へ?そうかな?いい笑顔だろ?」


俺は自然と緩む顔を小関に向けた。

すると小関は持っていた商品を棚に戻しながら俺を見ると、げんなりした顔で言った。


「その緩みっぱなしの顔、どうにかしたらどうですか?彼女と上手くいってるのは分かりますけど、今の桐谷さんカッコ良さ半減です。」


緩みっぱなしと言われて、表情を普通に戻した。

そんなに分かりやすかったか…?

小関はムスッとすると、棚に顔を戻してふてくされたように言った。


「私、まだ声かけんなって言われた事、根に持ってますから。そのカッコ悪い姿、彼女にも晒せばいいですよ。」


言われてみて、そういえば以前、紗英絡みでそんな事を言ったなと思い出した。

すっかり忘れていたので、俺は素直に小関に謝ることにした。


「悪い。あのときは必死でさ。本気で声かけるなとか思ったわけじゃねーから。」


小関は商品を戻し終えると、じっと俺を見つめて口を開いた。


「なら、貸し一つで。私、相当傷ついたんですから。きっちり借りは返してもらいますから、覚えておいてください。」

「……分かったよ。一つ貸しな。」


俺はそれで気が収まるならと思って、小関に笑いかけた。

すると小関は少し赤くなったあと「約束ですからね。」と言って、背を向けて歩いていった。

俺はため息をついて、その背を見送るとまた仕事へと戻ったのだった。




***




そして仕事を終えて、家へと帰って来たのは九時を回った頃だった。

俺は全力疾走して家に帰って来ると、扉を豪快に開けて「ただいま!!」と声をかけた。

すると、テーブルに突っ伏して眠っていたのか、紗英が体を起こして俺を見て「おかえり」と言って笑った。

俺は紗英に「おかえり」と言ってもらえる事に自然と胸が弾んだ。

俺は急いで靴を脱ぐと、紗英に駆け寄って後ろから紗英を抱きしめた。


「いてくれて嬉しいよ。疲れが吹き飛ぶ。」

「大げさだよ。それよりお腹減ってるでしょ?ご飯食べよ。」


俺は紗英を抱きしめて安心感を得ていたのだけど、紗英はするっと俺の腕の中からすり抜けて立ち上がると、台所から料理を持ってきた。

俺はその料理を見つめてお腹が鳴り始めたけど、少し不服だった。

紗英ももっと俺に甘えてくればいいのに…

俺は自分だけが紗英に会いたくて仕方なかったんじゃないだろうかと思って不満だった。


「さ、ご飯食べよ。私も今日は色々あって疲れちゃった。」

「え…?色々あったって、いったい一人で何してたんだよ?」


俺は仕方なく立ちあがると台所で手を洗って、紗英に視線を向けて訊いた。

紗英は少し顔をしかめると、迷った後口を開いた。


「うん。今日、買い物行って帰って来たときに、このマンションに住むある奥さんとエレベーターで一緒になったんだ。」

「へぇ…俺、滅多にここの人に会わないけどな。」


俺は紗英の前に腰を下ろすと手を合わせて「いただきます」と言った。

紗英も同じように手を合わせると、眉間の皺を深くした。


「だよね。でね、その奥さんが私がこの階のボタンを押したのを見て話しかけてきたの。あなたの年でこの階に住めるなんて、どんなお仕事してるの?ってすごい敵意むき出しの目で。」


それを聞いて、俺は食べるのをやめて固まった。


「ねぇ、竜聖。その奥さんに聞いたんだけど、このマンション、上になるほど家賃高いんだってね。奥さんには何とか誤魔化して知り合いのお宅です~って言っといたんだけど…。竜聖、お給料そんなに貰ってるの?それとも家賃のために、危ない仕事してるとか?」

「あ~…えっと…これには色々事情があって…。」


紗英は心配そうに見てくるので、俺はこんな事を言うのは嫌だったのだが説明することにした。


「その…俺の親父…金持ちだって話は前にしたよな?」

「うん。竜聖の嫌いなお父さんだよね?」

「そう…その親父の持ち物なんだ…このマンション。」

「え……。」


俺の返答に今度は紗英が固まってしまった。

当たり前の反応だと思う。

東京の結構良い場所にマンションを持ってる親なんて、俺だって信じられない。

本当は一人暮らしするときに自分で家を決めるつもりだったのだが、母さんを盾にとられて住む場所を決められてしまったのだ。

あいつの世話になったままの状態のようで気分は穏やかじゃないが、強制されれば仕方ない。


「だからさ、俺…家賃は払ってないんだ。親父に強制されて、ここに住んだって…流れだからさ…。」

「そ…うだったんだ。なんか…思ってた以上にすごいお父さんだね…。」


紗英は渇いた笑顔を浮かべて食事を再開した。

何だか壁のある返しに、俺はやっぱり言うべきじゃなかったなと思った。

親の言いなりになってるカッコ悪い俺を、紗英にはなるべく知られたくはなかった。


「でもさ、嫌いだとか言っててもお家大事にしてるんだね。」

「え?」


紗英に意外な事を言われて、俺は食べるのをやめて紗英を見つめた。

紗英はちらっと窺うように俺を見て言った。


「じゃなきゃ、ここに住んでないでしょ?お家と本当に離れるつもりなら、自分の住んでる所を知らせないのが一番だと思うから…別の所に引っ越すよね。でもお父さんの言う通りにここに住んでるのは、やっぱり家族が大事だからだよ。」


俺は紗英に指摘されて、自分の中にある気持ちを疑い始めた。

俺は親父なんか嫌いだ。桐谷の家なんかどうでもいいと思ってる。

母さんさえ不自由なく暮らせるならと思って、今まで我慢してきたんだ。

でも…紗英は俺が家族を大事にしてるって言う…

俺は自分自身の気持ちが分からなくなりそうで、目を瞑って考えないことにした。


俺はあいつが嫌いなんだ。

それでいいんだ。


俺はそう思う事に決めると、振り払うようにご飯をかけこんだ。



そして食事の終えた俺は風呂に入ることにして着替えを持って部屋を出ると、紗英が大きく欠伸をして「おやすみ~」と入れ違いに部屋に入って行った。

それを見て、俺は思わず振り返って紗英に声をかけた。


「紗英!!もう寝るの!?」

「うん。なんかおばさんに気を遣って疲れちゃって…。竜聖、帰って来るのも遅いし、眠たくって。先に寝るね。おやすみ~。」


紗英はそれだけ言うとベッドに入ってしまって、俺は焦ってベッドに駆け寄った。


「紗英!俺が風呂あがるまで待っててよ!!一緒に寝たいんだけど!!紗英!!」

「え~?一緒に寝たら狭いよ?それに、昨日一緒に寝たんだからいいでしょ?」

「昨日は昨日!今日は今日だよ!!紗英!明日帰るんだろ!?」

「うん。そうだね~…。」


紗英は話している今にも寝てしまいそうで、俺は紗英の体を揺すった。

せっかく昨日初めて一緒になれたのに、今日はなしとか拷問だろ!?

俺はこんなに近くにいられるチャンスを一回だって逃したくなかった。


「紗英!!起きろって!!」


俺が諦めずに揺すっても、紗英は目を閉じてしまって寝る態勢を変えようとしない。

俺はしばらく悩んだ末、紗英をそういう気分にさせようとお風呂は後回しにすることにした。


「紗英、紗英。」


俺はベッドに足をかけると、紗英の耳元で声をかけてそのまま首筋に唇を這わせた。

紗英は「う~…ん。」と唸ると、両手で俺を突き飛ばした。

俺はベッドから転がり落ちて変な態勢で床に倒れ込んだ。


「竜聖…汗くさい。」


紗英はそれだけ言うと、寝返りをうって俺に背を向けてしまった。

俺は呆然としてその背を見つめてから、ガバッと起き上ると紗英に吐き捨てた。


「すぐ!!すぐ風呂入るから、待ってろよ!!」


俺は全力で脱衣所まで走ると、服を脱ぎ捨てて素早く風呂に駆け込んだ。

そして汗臭さが落ちるように石鹸多めで体と頭を洗うと、ものの5分ほどで風呂から出て、パンツだけ身に着けて紗英のところに走った。

でも、さっきだいぶ寝惚けてきていた紗英が起きているはずもなく。

すやすやと寝息を立てて眠る紗英を見下ろして、俺はその場にがっくりと項垂れたのだった。







ラブ度MAXですが、どこかから回ってる竜聖を見守ってやってください。

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