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勘違い系○○  作者: 流音
第四章:社会人
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4-56乱入する


紗英の故郷に来たはいいけど、場所が分からなくて俺は駅前で立ち尽くした。

翔平や竜也に電話をかけるけど、あいつらは一向に電話に出ない。

紗英の実家の場所はもちろん。

紗英が今日何をしているのかも知らない。


俺はしばらく駅前のベンチに腰掛けて、頭を抱えていた。

衝動的に会いに来たはいいけど、もっと詳しく予定を聞いておけば良かった。

俺はもう一度翔平に電話をかけようと思ってケータイを開けると、ふと今日の日付に目が留まった。


13日…


そういえば、紗英が同窓会に行くとか言ってた日だ!!


俺は最後に会った日の会話を思い出して立ち上がった。

でも場所が分からないので、またベンチに腰かける。


紗英の出身高校の近くのバーって言ってたな。

紗英の出身高校ってどこだ?

この駅の近くなのか?

俺はとりあえず、この近辺の高校を探すことにしてまた立ち上がった。


それから俺は少しだけ着替えの入った鞄を肩にかけて、駅前の案内板を見て一番近くの高校へ向かうことにした。

西ケ丘高校か…なんか聞いた覚えがあるな…

俺は足が勝手にその西ケ丘高校へ向かうので不思議だった。

体が知っているというかのように、迷うことなく西ケ丘高校の前の通りに出た。


「…ここか…?でも、近くにバーなんてなかったような…。」


俺は辺りを見回して首を傾げた。

すると高校の校門から出てきた人が俺を見て足を止めた。

俺はその反応が気になって、なんとなくその人を見て足を止めた。


「…お前は…吉田…吉田じゃないのか!!」


革鞄を手にもった先生らしいその人は、俺をまっすぐに見て駆け寄ってきた。

白髪交じりの頭髪はボサボサで黒縁メガネが印象的な先生だった。

俺は聞き慣れない吉田という名前にどう反応していいのか迷った。

確か紗英も最初の頃は俺のことをそう呼んだことがあった。

それを思い出して、俺の過去の関係者だということが分かった。


「吉田。いったいどこで何をしていたんだ?今は元気にやっているのか?」

「あ…とその…。俺…その…。」


俺は目の前の先生の名前が分からなくて、曖昧に答える。

記憶がないということを伝えるべきか悩んだ。

すると、先生は綻ばせていた表情のまま俺の肩を叩いた。


「話せないなら、何も言わなくていい。お前が元気だと分かっただけで、良かったよ。」


その言葉を聞いて、俺はこの人ならすべて受け入れてくれそうな気がした。

紗英が受け入れてくれた事もあって、少し信じてみようと口を開いた。


「あの…、俺実は…事故で記憶がなくて…。高三の夏より前の事…覚えてないんです。だから…そのあなたの事も…分からなくて…。」


俺の告白に先生は驚いていたようだったけど、またさっきまでの笑顔に戻るとポンと肩に手を置いてきた。


「そうか。そういう事情があったんだな。話すの辛かっただろう?話してくれて、ありがとな。」

「あ…いえ…。」


俺は広い心で受け止めてくれた先生の反応に救われるようだった。

同情するでもなく、素直に受け止めて俺の事を気遣ってくれる。

先生の目は過去の俺ではなく、しっかりと今の俺を見えくれていると分かって嬉しかった。

だから、先生の事が知りたくなって口を開いた。


「あの、俺とあなたはどういう関係だったんですか?」

「あぁ、そうだな。言ってみれば、高校の担任と生徒って感じだな。お前はここ西ケ丘高校の生徒だったんだよ。」


俺の出身校と聞いて、俺は横に見える校舎を見上げた。

だから足が勝手にここに向かったのか…

俺は体が勝手に反応したことを理解して、嬉しくなる。

記憶はなくなったわけじゃない。

体が勝手に動いたんだから、きっと思い出す日がくる。

俺は希望が見えた気がして、心が弾んだ。


「ところでお前は何をしにここへ来たんだ?」

「あ…えっと、ちょっと彼女の出身高校を探してて…。」


俺は先生が知るはずもないと知りながら、口から勝手にここへきた理由をこぼした。

けれど先生は俺の思惑とは反対の事を口に出した。


「彼女って西城高校の彼女のことか?」

「えっ!?知ってるんですか?紗英のこと!!」


俺はさらっと口にした先生に食いついた。

先生は目をぱちくりさせながら、教えてくれた。


「そういう名前の子だったかな…お前がここの高校に通ってたとき、この正門前で公開告白をしたんだよ。それで学校中の噂になったから、覚えてるよ。相手は西城高校の子だって聞いた気がしたけどな。」


俺はそんな恥ずかしい事を過去にしでかしていたことに、一度口を噤んだが、その西城高校の場所を知りたくて尋ねた。


「その西城高校ってどこにあるんですか?」

「駅から電車に乗って10分ぐらいだよ。5駅先の駅で下りればすぐ分かる。」

「ありがとうございます!!」


俺は場所を聞いて、頭を下げると駅に戻るために先生に背を向けて走り出した。

背後で先生が「また来いよ!」と言ってくれて、俺は「はい!」と返事してまっすぐ前を見据えた。


紗英にやっと会える!!


俺は居場所が分かっただけで、胸がどんどん高鳴っていった。




***



そして俺は西城高校の前まで来て呆然と立ち尽くした。


…あれ?…高校に来てどうすんだよ。バーだよバー!!


俺はここまでまっすぐ走って来たため、道すがら店を探すのを忘れていた。

俺は駅までの道にあるはずだと思って、踵を返して辺りを見回しながら足を速めた。

時間も遅くなっていて、辺りは暗くなっていて視界が悪い。

俺は探しながら歩いたもののバーなんて見つからなくて、駅まで戻ってきてしまった。


そうだよ!!高校生が通る道にバーなんてあるわけねぇんだよ!!


俺はだんだん焦ってきて、駅前で不審な行動を繰り返した。

すると駅から出てきた女の子が「ヤバい!同窓会、遅くなっちゃった!」と言っているのが聞こえてきて、その子に目を向けた。

仕事終わりだったのか、きっちりとした格好のその子は高校の方向へ走って行く。

俺はストーカーするわけじゃないが、なんとなく距離を空けてその女の子を追いかけた。

もしかしたら同級生かもしれない…

俺はその可能性に賭けて、見つからないように彼女の後を追う。

すると、彼女は途中で曲がって細い道の奥にある店に入ってしまった。

俺はその店に足を進めると、上がった息を整えながら書かれたボードを見た。


「西城高校音楽科…同窓会様…。」


これを見て確信した俺は、入ってもいいかと迷ったけれど、会いたい気持ちの方が勝っていたので扉に手をかけて中に入った。

中はたくさんの人でにぎわっていた。

俺が入ったことで入り口の人たちが、俺を見て「誰?」とひそひそと話す声が聞こえた。

俺はどの顔にも見覚えはなかったが、奥にいる顔に目が向いて固まった。


紗英が誰か知らない男と揉めているようだった。

両手で必死に男の顔を押し返しているのが見えて、俺は咄嗟にそっちへ向かって走った。

人混みをかき分けて何とか紗英の所まで駆け寄ると、男の肩を掴んで思いっきりその場に押し倒した。

男は床に手をついた状態で俺を見上げると、驚いた表情で固まった。


「りゅ…竜聖…。」


紗英も驚いた顔で俺を見つめていて、俺はそんな紗英の手を掴んで引き寄せると男に吐き捨てた。


「人の彼女に手出してんじゃねぇよ!!」


俺は腹立ち紛れに紗英の肩を強く抱くと、入り口に向かって足を進めた。

周りの人たちが興味津々の目で見てきたが、それを振り払うようにかき分けて進んで店を出た。

そして店を出たところでふっと息を吐くと、紗英を放してから自分を落ち着けようと試みる。


何なんだよあいつ…

紗英に何しようとしてたんだ!?

本当に同級生なのか、すっげーチャラそうに見えたんだけど…


俺はムカムカとしていて、紗英をほったらかしで一人で悶々と考え込んだ。

すると紗英がふっと小さく笑い出した。


「…っふ…ふふっ!…ごめん…ちょっとビックリし過ぎて…おかしくなってきちゃった…っふ…。」


紗英は口元を手で押さえながら、身を捩って笑っている。

俺は久しぶりに見た紗英の笑顔に苛立ちが少しだけ収まった。

でも笑われていると気分は良くないので、ムスッとして紗英から顔を背けた。


「悪かったよ。同窓会にまで乗り込んでさ。」

「ううん。小野田君から助けてくれた竜聖、王子様みたいですっごくカッコよかった。来てくれてありがとう。」


王子様の例えは恥ずかしかったけど、紗英に素直にお礼を言われて俺は機嫌を直すことにした。

紗英は俺の手に遠慮がちに触れてくると、少し頬を赤らめて言った。


「私…ずっと会いたかったから、嬉しい。」


俺はそんな紗英を見て、体が勝手に紗英を抱きしめた。

自然と腕の力も強くなる。


「俺も…会いたくて…。おかしくなりそうだった。」


紗英は俺の言葉を聞いて「うん。」と言うと抱きしめ返してくれた。

その腕の温かさを感じて、俺は今までのストレスから解放されるようだった。

桐谷の家の事なんかどこかへと飛んでいく。

やっぱり俺には紗英がいるだけでいい…

俺は紗英から少し離れると、紗英の赤い顔に触れた。

頬や首筋を触って、紗英が目の前にいることを確認する。


「紗英…。」

「うん。」

「……紗英。」

「うん…何?」


俺は何度も紗英の名前を呼びながら、紗英の顔に触れつづけた。

紗英はくすぐったいのか何度か首をすくめながら、笑顔で返事をしてくれる。

俺はだんだん我慢できなくなってきて、紗英の顔を手で触れたまま紗英の唇に口づけた。

紗英は一瞬体を強張らせたけど、少しずつ力が抜けるのが分かって受け入れてくれたと思った。

キスするのが久しぶり過ぎて、俺は紗英に溺れるように何度も口づけた。

紗英は感じてくれているのか、体の力が抜けているようだったので、腕を回して紗英を支えた。

そして名残惜しかったが紗英から口を離すと、そのまま、また抱きしめた。


「…ドキドキし過ぎて…苦しい…。」


紗英がボソッと呟いたのが聞こえて、俺は勝手に顔がにやけた。

俺と同じだ

俺はギュッと紗英を抱きしめると、ずっと思ってきた事を口に出した。


「紗英…俺…紗英がほしい。」


意味が伝わったのか紗英がビクッと体を震わせるのが伝わってきた。

俺は紗英を少し離すと、紗英の見開かれた目と視線を合わせてもう一度告げた。


「紗英としたい。」


紗英は瞳を震わせると、少し目線を下げてから口を開いた。


「……その…私……嫌じゃ…ないけど…、…でも…その…家に…帰らないと…。」


紗英の言葉にそういえば今は実家だったことを思い出した。

せっかく気持ちが通じ合ってるっぽいのに、俺は本当にタイミングが悪い。

俺はふーっと息を吐き出すと、紗英から手を離した。


「悪い。考えなしだった。今日はいいよ。」


俺は諦めようと自嘲気味に微笑んだ。

すると紗英が俺の手を握りしめて、潤んだ瞳で見上げてきた。


「…ごめん。」


謝られると拒否されてる気分になってきて、少し胸が痛んだ。


「いいって。送るから帰ろう。」


俺は悲しげな顔をしている紗英から目を逸らすと、駅に向かうため足を進めた。


歩きながら紗英の様子を伺って、もしかしたら本当は嫌だったのかもしれないと思ってしまったが、気持ちは通じ合ってるはずだと自分に言い聞かせた。






久しぶりに増谷先生が登場しました。

嫉妬深い竜聖は書いていて楽しいです。

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