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勘違い系○○  作者: 流音
第四章:社会人
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4-51打ち明ける


私は実家に帰って来て三日目――――


麻友の家に向かうため、夏凛と電車に乗っていた。


「夏凛、今の仕事はどう?」

「うん。楽しいよ。でも、まさか自分が美術スタッフになるとは思わなかったけどね。」


夏凛は中学とは全然違う大人っぽい笑顔を浮かべて言った。

夏凛は美術系の学校に行ってからかなり垢抜けた。

今では幼馴染三人の中では夏凛が一番オシャレだ。

生まれつきの茶髪を高めにポニーテールにしていて、耳についているピアスがとても似合っている。

私はそのピアスを見つめて、吉田君もピアスしていたなーと思った。

ピアスってしてるだけで、何だかカッコいい。

私は憧れはあったけど、自分がするのは怖くてできないでいた。


「紗英はどうなの?」

「あ、うん。楽しいよ。自分が高校生になった気分になれるし、何より生徒に慕われるとやる気も出るしね。」


私は「紗英先生」と呼ばれるのが嫌いじゃなかった。

生徒たちの顔を思い返しながらにやける。

夏凛はそんな私を見てふっと微笑むと言った。


「だよね。紗英、何だか綺麗になったもん。きっと毎日が充実してるんだと思った。」

「えー?それを言うなら夏凛の方だよ。元々美人だったけど、私服もオシャレだし私とは天と地ぐらいの差があるよー!」

「そうかな?周りがオシャレな人が多いから、何だかサボれなくなっちゃって。その延長線なだけだよ。」

「その言い方がなんかカッコいいよ!また劇場の美術スタッフなんて仕事も一回でいいから口にしてみたい!」

「ははっ!紗英はなんか言い方が先生っぽい。褒めて伸ばす!みたいな。」

「そうかな…?」


お互いに褒め大会を繰り返している内に、麻友の家の最寄り駅に到着した。

麻友と服部先生の新居は西城高校の一駅隣にある。

私は降りたことのない駅にドキドキしながら、迎えに来てるはずの麻友の姿を探した。

夏凛も同じように辺りを見回している。


すると、通りの向こうから手を振って走って来る麻友を見つけた。


「紗英!夏凛!!ごめーん!!」


麻友は高校のときと変わらず足が速くて、あっという間に私たちの前まで来ると上がった息を整えて笑った。


「お待たせしちゃったね。家出たときに近所のママたちに捕まってさ。世間話に付き合ってたら遅くなっちゃった。」

「ママたちって麻友もそのうちそうなりそうだよね。」

「そうそう。子供できたら真っ先に連絡してね。」


私たちが麻友をからかうと麻友は赤ら顔で「やめてよー!」と叩いてきて、その力の強さに顔をしかめた。夏凛も同じようで二人で顔を見合わせて笑った。


そして麻友の案内で麻友の新居へやってきた私たちは、綺麗に花壇の整えられた入り口を通って、二階建てのお家へとお邪魔した。

麻友の家は建てたばかりのようで、新築の匂いが残っていた。

インテリアにもこだわった玄関で靴を脱ぐと、夏の日差しの差し込むリビングへ足を踏み入れた。

麻友は「座ってて」と言い残してキッチンへ向かっていく。

私と夏凛は並んでソファに座ると部屋を見回した。


部屋の棚には結婚式の写真や二人で旅行に行ったときの写真だろうか?たくさんの写真が飾られていて、幸せに暮らしているのがヒシヒシと伝わってきた。

夏凛も私も穏やかなこの空間に自然と笑顔になる。


「お待たせ。暑い中来てくれて、ホントにありがとう二人とも。」

「ううん。麻友の新居見たかったし。」

「うん。私も。」


私は麻友が差し出してくれたお茶をありがたくいただくと、嬉しそうに笑っている麻友を見た。

麻友は私たちの前に座ると同じようにお茶を飲んだ。


「そういえば、今日は服部先生はいないの?」

「あ、うん。明日までは部活があるらしくて暑い中指導してるみたい。」

「へぇ~大変だね…。監督さんもお元気なのかな?」


私は高校のときに少しだけ話したことのある、威厳のある監督さんを思い出した。

顔は怖かったけど、すごく優しい人だったのを覚えている。


「うん。すっごく元気みたいだよ。今年は甲子園に行けなくて、練習に力が入ってるみたい。誠一郎さんがフォローが大変だって言ってたから。」

「ふふっ…誠一郎さんか。」


私は麻友が誠一郎さんなんて言うのがくすぐったくて笑ってしまった。

麻友は恥ずかしかったのか拳を作って私に殴りかかろうとしてくる。

それを夏凛が制してくれて、何とか殴られずには済んだ。


「それより二人はどうなの?彼氏できた?」


麻友が椅子に座り直して尋ねてきて、私はビクッと肩を揺らした。

吉田君の事を言わなければと思って来たはずなのに、いざ口に出そうとすると緊張してくる。

私が言おうかどうか迷ってると先に夏凛が口を開いた。


「私は今は仕事一番かな。彼氏なんていらないかも。」

「えっ!?夏凛、例の高校の時から付き合ってた彼氏はどうしたの?」


夏凛は高校のときに打ち明けてくれた北嶌君としばらく付き合っていたと聞いていた。

確か麻友の結婚式のときはまだ付き合ってたはずだ。

夏凛はムスッとして口を開くと投げやりに言った。


「直樹とは終わった。デザイン会社に入ってから、好きな人ができたんだってさ。」

「うそー!!夏凛、その女にとられちゃったってこと!?」

「そうなるかな。ま、いいの。最後の一年はなんか冷めてたから。」

「え~…?でも、悲しかったんじゃないの?」

「全然。なんか距離空いてたから、悲しいとか思わなかった。仕事も楽しくなってきてたしね。だから、今は仕事が恋人かな?」


サバサバと言い切った夏凛が大人に見えた。

麻友も尊敬の眼差しで夏凛を見つめている。

同い年のはずなのにこの経験の差はなんだろう…

私は自分がすごく子供に見えてきて、ますます自分の事を言いだせない空気に頭を悩ませた。

すると、それに気づいたのか麻友が私に話を振ってきた。


「紗英は?山本君とは仲良くしてる?」

「や…山本君?あ、うん。仲良くしてるけど…」


私は何で山本君の名前が一番にでてきたのか分からなくて、麻友を見つめ返した。

麻友も夏凛も嬉しそうに笑うと、私を指さして言った。


「指輪。山本君からもらったんでしょ?」

「へ!?」


私は自分のしてる指輪と麻友たちを交互に見て、声が裏返った。


「隠さなくても分かるって!紗英が付き合うなら山本君しかないかなーって去年の夏に思ってたんだよね。」

「うん。私も同じこと思ってた。」


麻友と夏凛は勝手に誤解していて、私は慌てて声を上げた。


「ちっ!!違う、違うよ!!山本君はただの友達!!」

「…?じゃあ、その指輪。誰からもらったの?」


私が必死で否定すると、麻友も夏凛も不思議そうな顔で私を見つめてきた。

私は言うなら今しかないと思って、生唾を飲み込んでから口を開いた。


「これは…吉田君にもらったの。」


私の告白に二人の表情が固まるのが分かった。

私はそんな二人を見て、ギュッと手を握りしめると説明することにした。


「東京に行ってから、吉田君の行方が分かったの。それで、会いに行って…最初はちょっと拒絶されちゃったんだけど、なんとか友達になって…それで…今は一応付き合ってるっていうか…。」

「え!?吉田って…あの吉田!?聞き間違いじゃないよね?」


麻友が頭に手を当てて、焦って訊き返してきて私は頷いた。


「うん。吉田竜聖。今は桐谷竜聖だけど…。」

「え…!?桐谷って何…ちょっと待って!混乱してきた!!何?紗英は東京で吉田に会って、それであいつは何してたわけ?」


麻友は悩みながら言葉を絞り出したようだった。

私はなるべくわかりやすく伝えようと言葉を選ぶ。


「吉田君は東京のスポーツ用品店で働いてたんだ。そこで、再会したの。」

「えぇ!?再会したって、あいつの事簡単に許したの?5年もほっとかれてたんだよ!?」

「うん。それには事情があって、吉田君…記憶喪失になってたんだ。」


「「記憶喪失!?」」


私が驚いたように、二人もこの事情には驚いたようで口をぽかんと開けて固まってしまった。


「5年前、事故に合ったお父さんに会いに行ったときに事故に合ったらしくて、高校三年の夏より前の記憶がないみたいなんだ。今もその記憶は戻ってなくて…」

「紗英、それって記憶のない吉田君と付き合ってるって事だよね?」


夏凛がスッと鋭い目で私を見て尋ねてきた。

私は頷くと二人に分かってほしくて、説明を続けた。


「うん。記憶はないけど、吉田君には変わりないんだ。再会した最初こそちょっと壁があったけど、今は翔君や山本君とも仲直りして…本当に中学のときみたいでね。嬉しそうに笑ってるんだ。それに、私と一緒にいたいって…昔の吉田君と何も変わりないことを想ってくれてて、私もそんな吉田君がやっぱり一番好き。これって記憶があるとかないとか…関係ないと思うんだ。」


私の言葉に麻友も夏凛も真剣な顔で耳を傾けてくれている。

私は少し俯くと、自分の気持ちと吉田君から伝わってくる気持ちを口にした。


「吉田君は私にこんな…素敵な指輪くれるぐらい…私の事想ってくれてるんだ。私も吉田君の傍から離れるつもりはないし、これから記憶が戻っても戻らなくてもずっと一緒にいるつもり。私の心の中から吉田君を追い出すなんてこと…五年かかっても無理だったから、今は一緒にいられる時間を大切にしていくんだ。」


私は左手についている指輪をなぞると、顔を上げた。

すると麻友も夏凛も涙を浮かべていて、私は驚いて目を見張った。

麻友は涙を手でグイッと拭うと無理やり笑顔を作った。


「紗英…頑張ったんだね。私…高校のときみたいに二人が一緒にいるって聞いて、素直に嬉しい。」

「麻友…。」


私は麻友の顔を見て、胸が苦しくなった。

すると夏凛が私の腕を掴んで涙を流しながら、口を開いた。


「記憶がなくても元に戻れるなんて…もうこれは運命だよ。紗英。吉田君の手を二度と離しちゃダメだよ?」


『運命』と聞いて、私は胸が熱くなってきた。

そうなのかな…?

一緒にいられるだけで幸せで、そんなこと考えたこともなかったけど…

もしそうなら、どれだけ嬉しいだろうか…?


私はすごく喜んでくれている二人を見て、自然と笑顔がこぼれた。


「うん。これからずっと吉田君と一緒にいるよ。絶対、手は離さない。もう心に誓ったんだ。二度と手を離さないって…。後悔は五年前に死ぬほどしたからね。」


私が笑顔で言ったことで、麻友も夏凛も涙が止まって自然な笑顔を浮かべてくれた。

私は二人がまっすぐに話を聞いてくれたことで、肩の荷が一つ下りたようだった。


吉田君と関わったたくさんの人たちに、少しでも今の吉田君を理解してもらえればいい。


私はまっすぐに受け止めてくれた二人を見て、心からそう思った。




久しぶりの麻友と夏凛でした。

次はまた竜聖に戻ります。

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