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勘違い系○○  作者: 流音
第四章:社会人
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4-49約束する


ペンション旅行から帰って来てから二週間が過ぎて、私は学校で暇な当直業務をしていた。

夏休みに何日かこうして来なければいけないのだけど、部活動する生徒が来る以外は静かなものなので、すごく暇だった。


あまりにも暇だったので、私はケータイを開いて届いたメールをチェックした。

最近送られてきたメールの大半は吉田君からで、毎日何通も届く。

それもペンションから帰って来てからは増えたように思う。

なんでかは分からないけど、会うと距離も近くなっていてドキドキしてしまう。

吉田君って寂しがり屋なのかな?

私は最近の吉田君を思い返して、そう感じた。


そして最近は毎日のように会ってるけど、明日からは私は実家に帰るので毎日会えなくなる。

吉田君にももちろん伝えてあるけど、正直今年はこっちに残りたい気分だ。

毎日のように会っていたのに、急に一週間以上も会えないなんて耐えられるのか自信がない。

それだけずっと一緒にいたいなんて、今まで吉田君以外には感じた事がなかっただけに複雑だ。

口にするのは恥ずかしいけど、でも吉田君に伝えたくなる。

私は開いたケータイを見つめてため息をついた。


画面には久しぶりに来た涼華ちゃんからのメールが表示されている。

内容はお盆の休み中に同窓会をするといったものだった。

それも高校の同級生らしい。

高校の同級生には外部を受験した人もいたので、懐かしい対面となりそうだ。

私は涼華ちゃんと久しぶりに会うためにも、やっぱり帰らないとなぁ…と思ってケータイを閉じた。


それに麻友や夏凛、そして板倉さんにも会って話をしなければいけない。

吉田君の事、電話では言えなくて黙っていたけど、今も吉田君の事を気に病んでいる人たちには話さなければいけないと思う。

吉田君を会わす事はできないけど…せめて事情だけでも知れば、今までのわだかまりも消える…そう信じたい。


私は自分に気合を入れると、校内を見回るために立ち上がった。




***




そして私はその日の業務も終えて、八時過ぎに家に帰ってきた。

一息ついてケータイを見ると、ケータイが着信を知らせていて私は慌ててケータイを手にとった。


「はい、もしもし。」

『あ、紗英?今から会える?』


電話は吉田君からだった。

私は時間と明日の準備の事が引っかかったけど、明日から会えない事を考えると今日会っておきたかった。


「うん。どこに行けばいい?」

『えっと…じゃあ、紗英の家の最寄り駅まで出て来て。待ってるから。』

「分かった。すぐ行くね。」


私は電話を切ってから、何かが引っかかった。

最寄り駅で待ってるって…、もういるって事だよね?

何で家に来なかったんだろう?

私は帰って来たままの格好で家を飛び出すと、駅に向かって足を速めた。




駅に着くと、駅前の花壇の前に吉田君が座り込んでいるのが見えて駆け寄った。


「お待たせ。いつからここにいたの?」

「あ、うん。ちょっと前かな。」

「ふーん…。」


吉田君は煮え切らない返事を返して立ち上がると、一歩私に近づいて両手を握ってきた。

私はその手が熱かったのに驚いて、急にドキドキしてきた。


「紗英、明日には実家帰るんだよな?」

「え…うん。」


吉田君が切なげに瞳を潤ませていて、私は胸がギュッと苦しくなってきた。

え…これって…帰らないでって言われてる…よね?

私は吉田君の表情から読み取ってしまって、どう返そうか悩んだ。

こんな吉田君を置いて帰るなんて、言えない。

でも、帰らないと涼華ちゃんや麻友たちにも会えない。

吉田君と涼華ちゃんを両天秤にかけて、私は頭が痛くなってきた。

どうする…?帰る?帰らない?

私が悶々と考え込んでいると、吉田君が手を離した。


「じゃあ、今日は美味しいご飯ご馳走して、送り出すことにするよ。」

「え…?」


私の予想とは裏腹に送り出すと言われて、私は吉田君を凝視した。

吉田君は笑顔を浮かべていて、ふっと口元を歪ませて言った。


「行こう、紗英。」

「う、うん。」


私は歩き出した吉田君に続いて、駅前のお店へと向かった。




そして二人でお店でご飯を食べながら、いつもと変わらない会話をしていても、私は吉田君の気持ちが分からなくて胸がもやもやしていた。

目の前の吉田君は明るく振る舞っているように見える。

笑顔もいつもと変わらない…と思う。

でも、何かが違う気がして、私は美味しいはずのご飯の味が分からなかった。


結局食事をしている間は何も聞き出せなくて、私はお店を出てからもずっともやもやしていた。

そして時間も遅いからと家まで送ってくれる道中に、私は何気なく話をふってみた。


「竜聖はさ…お盆、何してるの?」

「んー?…何かな…。仕事じゃないかな…?店舗は休みねぇからな~。まぁ、休みの日は家でDVDでも見てようかな。」

「そ…そっか。お仕事大変なんだね。」


私は普通に返されてしまって、どう誘導したものかと考えた。

すると今度は吉田君が話をふってきた。


「紗英は向こうに帰ったら、何してるんだよ?」

「え…と、高校の同窓会と…小さい頃からの親友に会う…かな。」

「……同窓会って…いつ?」

「え?…いつだったっけ…。」


私ははっきりとした日を覚えてなかったので、手帳を取り出すと確認してから答えた。


「13日かな。ちょうど週の真ん中くらいの日だね。」

「それってどこであんの?」

「えっと…私の出身高校の近くのバーだって。貸し切りにしたみたい。」

「バーって…夜ってこと?」

「うん。お仕事の人もいるからみたいだよ。」


私は手帳をしまってから吉田君の顔を見上げて驚いた。

さっきまで普通だった吉田君の顔が不機嫌そうに歪んでいたからだ。


「りゅ…竜聖。どうしたの?」

「別に。何でもない。」


吉田君はムスッと顔を逸らしてしまって、私は黙って前を向いた。

何で…今のどこに不機嫌になる要素があったんだろう…?

私は付き合って一カ月経った今でも吉田君の不機嫌スイッチがどこにあるのか分からなくて、首を傾げた。


「指輪。」

「え?」


急にボソッと呟いた吉田君に目を向けると、吉田君は顔をしかめたまま言った。


「同窓会、指輪絶対つけていけよ。」

「え…うん。いつもつけてるよ?」


私は毎日つけてる指輪を吉田君に見せて言った。

吉田君はそれを見て少し機嫌が直ったようで、口をもごつかせると「ならいいよ。」と言って少し微笑んだ。

私は指輪一つですぐに機嫌を直した事がよく分からなかったけど、そんな単純な姿も可愛くて胸が弾んだ。


そうしているうちに家の前についてしまい、私はマンションの玄関に足を進めて「送ってくれてありがとう」と告げた。

吉田君は「うん。」というと何か言いたげに目線を下げた。

それを見て、私はマンションに入るのをやめて吉田君の姿を見つめた。

吉田君はしばらく何か迷ってるようだったけど息を吸いこむと顔を上げて、私を見つめた。


「もうちょっとだけ、一緒にいてくれないか?」

「え…。」

「明日…から、会えなくなるだろ…。だから、もうちょっとだけ一緒にいたい。」


吉田君が一緒にいたいと言ってくれて、私は心の底から嬉しかった。

断る理由なんかない。


「いいよ。じゃあ、家来る?」

「へっ!?」


私の申し出に吉田君はものすごく驚いた顔で固まったあと、両手でそれを否定してきた。


「きょ、今日はダメだ!その持ってないじゃなくて…部屋はやめよう!!近くに公園あるし、そこに行こう!!」

「え…うん。いいけど…。」


何を想像したのか真っ赤な顔で全力で公園を薦めるので、私は勢いに押されて頷いてしまった。

そして吉田君は私から顔を背けると、ズンズンと公園に向かって歩いていってしまう。

私はその背中を追いかけて足を速めた。



公園には人がいなくてシーンとしていた。

まぁ夜なのだから当然だと思う。

吉田君は近くにあったベンチに座ると隣を示してきたので、私は少しだけ離れて腰を下ろした。

そうして二人で並んで座っているものの、話という話はし尽してしまったので沈黙だけが流れる。

私はちらっと吉田君を横目で見ると、吉田君の顔がまだ赤みを持っていて、まっすぐ前を見る姿にキュンとしてきた。

何も話しなくても、こうしてるだけでいいや。

私はドキドキと速い鼓動を聞きながら、この時間を楽しむことにした。

するとベンチに置いていた手に吉田君が触れてきて、驚いて吉田君に顔を向けると吉田君が横目でこっちを見つめていた。


「…ちょとだけだから…いいよな?」

「う…うん。」


私は返事だけすると目を地面に向けた。

吉田君の指が絡んできて、妙にドキドキして胸がぎゅーっと苦しくなってくる。

誰もいないという事が余計にこの状況をドキドキさせている気がする。

私は細く何度も呼吸して落ち着けと自分に言い聞かせる。


「……やっぱ…嫌だな…。」

「……へ?」


吉田君がボソッと呟いて、私は吉田君に目を戻した。

吉田君はさっき会った時と同じ潤んだ目をしていて、私はまさかと思った。

吉田君は私の手を強く握りしめると、少し眉間に皺を寄せて言った。


「…一週間も会えないとか…イヤだ…。」


吉田君の我が儘が胸に突き刺さった。

最初に感じたことが正しかったと分かって、私はどうしよう…と心がざわつく。

私だって一週間も会えないのイヤだけど…でも、帰らないなんて選択は…できればしたくない。


「私だって…竜聖と会えないの…寂しいよ…。でも、帰らなきゃダメなの。」


私は自分に言い聞かせるつもりで口に出した。

帰らなきゃダメだ。

一緒にいたいって理由だけで、涼華ちゃんや麻友たち…お父さんやお母さんに何て説明するの?

吉田君にはまた一週間後に会えるんだから、一年に何回も会えない友達や家族に会いに帰るべきだ。

私は吉田君に分かってほしくて、まっすぐ彼を見つめた。


「また一週間後に会えるよ。帰ってきたら、真っ先に吉田君に会いに行くから。だから…イヤだなんて言わないで?」


私の言葉に吉田君はきつく目を閉じると、ゆっくり口を開いた。


「約束…してくれよ。一番に会いに来るって…。」

「うん。約束するよ。一番に竜聖に会いに行く。」


私は聞き覚えのある言葉に、高校のときのあの日を思い出した。

あのときと立場は逆だけど、私は約束を破るつもりはなかった。

大丈夫。たった一週間だから…大丈夫。

吉田君はここにいるんだから…いなくなったりしない。

私は目の前で俯く吉田君を見つめて手を握り返した。











次からバラバラのお盆休みが始まります。

それに合わせて竜聖の家へと視点を移していきます。

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