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勘違い系○○  作者: 流音
第四章:社会人
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4-47指輪はどこ?


俺は昨夜、紗英の部屋に戻ってきたときに紗英が熟睡していて落胆した。

明日帰る事を分かってるのかと疑いたくなってくる健やかな寝顔に苛立った。

ちょっとぐらい名残惜しくて起きて待っててくれてもいいだろうに、やっぱり紗英と俺の気持ちの大きさに差があって悲しくなってくる。

俺はポケットから指輪を取り出すと、寝ている紗英の左手の薬指に通した。


「…紗英、ずっと一緒にいてよ…。」


俺は紗英の左手を握りしめて、泣きたくなってきた。

指輪を贈れば少しは安心するかと思った。

でも、全然紗英が自分のものになった気がしない。


俺は紗英に触れたくても寝込みを襲うのは違うと言い聞かせて、床にへたりこんだ。

ずっと一緒にいて…ずっと俺を好きでいてほしい…

俺は指輪に俺の気持ちが移るように目を閉じて何度も願った。

プロポーズのつもりで買ったわけじゃないけど、それと同じような想いを込めた。




***





俺は翔平の部屋で着替えを終えて、下に降りてくると紗英が竜也と仲良く料理していて、目を見張って立ち尽くした。

昨日は俺の要望に応えてくれていたのに、今はいつもと変わりなくなっている。

昨夜竜也と翔平から散々説教されて、一度は納得したけど、でも嫌なものは嫌だ。

何で自分の彼女が他の男と仲良くしてるのを見てなきゃならない。

俺は腹が立って、広間を通り過ぎて外に出た。


外は朝の爽やかな空気の中に夏独特のムワッとした空気が混ざり合っていて、日の当たるところは暑そうだった。

俺は扉横の壁にもたれかかるとぼーっと蝉の声の聞こえる雑木林を見つめた。


さっき紗英から逃げられたときも、同じようにここに立っていた。

イライラしていて、このまま翔平のところに戻るとからかわれると思ったからだ。

また手を出さなかったのかとか言われるに決まってる。

俺ははぁ~と大きくため息をつくと、その場に顔を隠してしゃがみ込んだ。


すると扉が開く音がして、誰かが外に出てきた。

俺は少し顔を上げると、そこには颯太が妹の和花と大きく伸びをしていた。


「あれ?竜聖!おっはよー!!んなとこで何やってんだ?」


朝から能天気な颯太から俺は顔を背けた。


「別に。」

「別にって事はないっしょー?沼田さん、キッチンで竜也と料理してたけど、お前は行かなくていいわけ?」

「俺は料理できないから!!」


俺の気持ちを察してくれない颯太にイラついて、俺は腹立ち紛れに声を荒げた。

颯太はきょとんとしていたが、何か分かったのかポンと手を叩くと「そうか、そうか」と笑った。

そのお前の気持ちは分かったぜ的な姿にさらに苛立ちが募る。

何で颯太は俺の気持ち簡単に分かるのに、紗英は分かんねぇんだよ。

もっと彼氏の事考えてくれてもいいのに。

俺は紗英に対する不満を思いながら、ムスッとふてくされた。


すると、扉の向こうから「朝ごはんできたよー!!」と紗英が二階に声をかけているのが聞こえてきた。

それを聞いて俺は立ち上がると、ニヤついている颯太を無視して中に戻った。


中に入ると階段の下にいた紗英が俺に気づいて嬉しそうに笑った。


「竜聖、そんな所にいたんだね。ご飯できたよ。」

「うん。」


紗英は俺が怒っているのも気づいてないのか、本当にいつも通り接してきた。

俺は何となく怒ってるのもバカらしくなってきて、ふと目線を下に向けると紗英の手が視界に入った。

そこで指輪の事を思い出した。

そういえば、つけたまんまにしちゃったけど、紗英気づいたのかな。

俺は確認しようと左手をマジマジと見て、息が止まった。

紗英の左手には指輪がなかった。


え!?俺、昨日ちゃんとつけたよな!?

まさか寝ぼけてつけそこねたなんて事ないよな!?


俺は昨夜の記憶が正しかったか疑い始めた。

でも今朝、俺に寄り添って寝てる紗英を見たときにはついてた事を思い出した。

紗英を抱きしめながら、幸せを噛みしめていたんだから正しいはずだ。

俺は何でなくなってるのか分からなくて自然と呼吸が浅くなる。

心臓がドクドクと嫌な音を立てていて、指輪の行方を考えて頭が痛くなってきた。

そこで朝、紗英が暴れた事を思い出した。


俺がイチャつこうとしたのを嫌がって暴れた拍子にどこかに飛んでったんじゃ…


俺は部屋のどこかに落ちてるかもしれないと思い、二階に向かって走り出した。


「りゅっ!竜聖!?」


紗英が急に走り出した俺を驚いた声で呼ぶ。

俺は「すぐ戻る!」と言い残して、紗英の部屋に走った。

部屋に入ると這いつくばって目をこらす。


紗英に気づいてもらえないままとか最悪だ!

何のために恥ずかしい思いしてジュエリーショップに行ったんだか分からない。


俺はベッドの下から机や荷物の下までくまなく探したが、まったく見つからない。

嫌な予感が頭を掠めていって、じわと汗が滲んでくる。

見つからなかったら、俺と紗英の関係はそこまでだと言われているようで怖い。

見つかってくれと願うものの、部屋の隅々まで目を向けても指輪はとうとう見つからなかった。

俺は上がった息を吐き出してその場にへたり込むと、苛立ちからきつく拳を握りしめた。

ジリッと目の奥が熱くなってきて、俺は眉間に皺を寄せてそれを堪える。


「…何でだよ…。」


俺は項垂れて呟いた。

すると、扉がひかえめに開いて紗英が顔を覗かせた。


「竜聖?みんなご飯食べてるよ?何やってるの?」


俺はちらっと紗英の顔を見た後、「後で行く。」と答えてじっと床を見つめた。

今はあの面子と食事をとるような気分じゃない。

こんな気持ちのまま行ったら、みんなに気を遣わせてしまうのは目に見えていた。

俺は紗英も戻ってほしくて言ったのだが、紗英は部屋の中に入ってくると、俺の横にしゃがんで言った。


「あのね…朝起きたときに言いそびれたんだけど、指輪ありがとう。」


俺は紗英の口から飛び出した指輪という単語に驚いて、顔を上げて紗英の顔を凝視した。

紗英は頬を赤らめていて、恥ずかしそうに言った。


「朝…ううん、夜中に目が覚めたときに、薬指に指輪があって驚いた。夢に見るぐらい夢みたいで…私、竜聖の寝顔見て泣いちゃった。それぐらい嬉しくて、絶対にお礼だけは言わなきゃって思ってたんだ。本当にありがとう。すごく嬉しい。」


紗英の本当に嬉しそうな笑顔を見て、俺は今まで胸を占めていた不安が吹き飛んでいくようだった。

さっきとは違う涙が出てきそうで、俺は紗英から顔を背けてグッと顔をしかめた。

ちゃんと紗英に渡っていた。

指輪にのせた俺の想いも届いていた。

それが嬉しくて紗英の顔が見られない。


でもここで一つ疑問が過った。

紗英に指輪が渡ってるなら、今その指輪はどこにあるのだろうか?

俺はそれが気になって紗英に尋ねた。


「紗英、その指輪…今はどこにあんの?」


紗英は一瞬目を瞬かせた後、ふと微笑んで立ち上がった。

そして自分の鞄の中から小さなケースを取り出すと、その中から光る指輪を取り出して俺に見せてきた。


「ここにあるよ。みんなに見られるの恥ずかしくて…大事にしまっておいたの。」


それを聞いて俺はほっと安堵した。

なんだ…そっか…ただの俺の早とちりか…良かった…

俺は安心して自然に笑顔が漏れた。


すると俺の表情の変化に気づいたのか、紗英が指輪を持ったまま俺の前にしゃがんだ。


「もしかして、これ探してた?」

「あ…あぁ、うん。紗英の指になかったから、どこかで落ちたんだと思って…。そこにあって良かったよ。安心した。」


俺はさっきまで怒ってた事も不安だった事もすべて吹き飛んでいて、いつものように笑って紗英と話せていて心が穏やかだった。

でも紗英は違ったようで、俺に詰め寄ってくると謝ってきた。


「ごめんっ!つけてくれたものを勝手に外したら、不安にさせちゃうよね。そこまで考えてなかった。本当にごめんなさい!!」

「あ…いや。あったんだから、もう別にいいけど…。」

「よくない!私、いっつも竜聖の気持ち分からなくて、全部…竜聖に抱え込ませちゃうから…。」


紗英の言葉に紗英は紗英なりに俺の事を考えてくれている事が分かって嬉しくなる。

紗英はじっと指輪を見つめると、ギュッと目を閉じてから俺に指輪を押し付けてきた。


「返す!!私、こんな…こんなもの受け取る資格ない!!」

「へっ!?」


俺は指輪を受け取りながら目を剥いた。

返すって…何で!?!?

俺は泣くのを堪えているのか、紗英がしかめっ面で指輪を見つめているのを見て混乱してきた。


「私…まだそんなに彼女らしい事もできてないのに…。こんな高そうなものもらっちゃダメだ。」

「えっ!?ちょっと待ってよ!!返されても俺が困るんだけど!!」


俺はあきらかに名残惜しそうに指輪を見つめている紗英を見て、声を上げた。

あげたものを返されるなんて、悪夢のようで俺は断固として拒否したかった。


「これは紗英にあげたくて、選んだものなんだ。紗英に持っててほしいよ。」

「…でも…、私…竜聖の何も分かってあげられなくて……。」

「いいんだよ。そんな事は。これから知っていけばいいんだから。」


俺はまだ迷ってる紗英の左手を手に取ると、薬指に指輪を戻した。

俺はその手をギュッと握りしめると告げた。


「これから、ずっと一緒にいてくれよな。」


紗英は口を引き結んで眉間に皺を寄せると、泣きそうな顔で何度も頷いた。

俺はそんな紗英に微笑みかけると、紗英の肩に頭をのせて本音を漏らした。


「…良かった…。もう突き返すとか…やめて…。」


俺は指輪を返されるなんて、結婚しようと言ったときに断られるぐらいのショックだと感じて怖かった。

紗英はそんなつもりなくて、ただの罪悪感から返してきたのは分かってるけど、俺の臆病な心には大きなダメージだった。

ちゃんと受け取ってくれて、心の底からホッとした。


紗英は俺の頭に頬を寄せると、鼻をすすって呟いた。


「うん。ずっと欲しかったから…二度と返さないよ。」


紗英の言葉に胸が熱くなった俺は紗英の手を握る手に力を入れると、紗英も優しく握り返してくれた。

たったそれだけの事が嬉しくて幸せで、俺はこのままの時間を味わおうとゆっくりと目を閉じた。






今までの事があっただけに、幸せそうな二人を書くのが楽しいです。

次の恭輔視点でペンション編も終了です。

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