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勘違い系○○  作者: 流音
第四章:社会人
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4-43自信がない


さっきは翔平と一緒の紗英を見てズクンと心臓が変に動悸を奏でた。

俺の見間違いじゃなければ、翔平は紗英を抱きしめてたような気がする。

あいつには彼女がいるんだから、そんな事ないと思いたい。

でも、あの光景が頭から離れなくて俺は嫉妬でおかしくなりそうだった。


だから紗英の気持ちを俺に縫い付けておきたくて、恥ずかしい褒め言葉まで口をついて出てきた。

紗英の素直な反応を見て、俺は大丈夫だと少し安心した。

紗英は俺のことを一番に想ってくれている。


自信を持て…


俺は自分に言い聞かせる。

俺の心の狭い嫉妬のせいで、紗英に心苦しい思いをさせるのはイヤだ。

俺はグッと拳を握りしめて、奥歯を噛みしめた。


「見て見て!!今、魚が足を掠めていったよ!?大きいやつ!」


紗英が俺の腕を引っ張って表情を輝かせた。

俺はそんな無邪気な姿にドキッと心臓が高鳴る。


「あっ!ほら!竜聖の足元に行った!」


紗英がそう言った瞬間、足元にゾワッと何かが触れた。

俺は思わずその場から飛びのいてビビると、紗英がお腹を押さえて笑い出した。


「あはははっ!!びっくりしすぎだよーっ!」


大笑いする紗英を見て、俺はちょっと腹立って紗英の頬をつねった。


「笑いすぎ。ちょっと驚いただけじゃん?」


紗英は頬をつねった瞬間、一瞬表情を固まらせたけどふっと顔を緩ませると「ごめん。」と言った。

俺はその綻んだ顔を見てキスしたくなったが、何とか衝動を抑え込もうと紗英から手を離して背を向けた。

昨日から紗英には皆の前で恥ずかしい思いをさせている。

今もみんなの目がある中で、自分の衝動をぶつけるべきじゃない。

俺は何度か呼吸を繰り返して、自分を落ち着ける。


「竜聖?どうしたの?」


まだ落ち着いていない所へ紗英が顔を覗かせて、平常心でいられなくなる。

俺は不自然に紗英から離れると、逃げるように岸へと足を進めて言った。


「ちょっと喉渇いたからお茶飲んでくる!」

「えっ!?竜聖っ!」


俺は紗英の引き留める声を振り払うように岸まで走ると、荷物の前で座り込んでいた颯太の所に駆け込んだ。


「お茶くれっ!!」


俺は赤ら顔を腕で隠すと、もう一方の手を颯太に伸ばして言った。

颯太は目をパチクリさせていたけど、ペットボトルを俺に手渡してくれた。

俺はそれをヤケ酒のように一気に飲んだ。

落ち着けと自分の心の中で唱える。

すると、颯太が話しかけてきた。


「いつもイチャついてんな~、お前ら。見てるこっちが照れるんだけど。」


俺はペットボトルから口を離すと颯太を見下ろした。

颯太は俺を見てニヤついていた。

イチャついてるとか、人に言われると恥ずかしい。

颯太はからかう手を止めないように続けた。


「今日、ジュエリーショップでお前のこと見たけど、プロポーズでもすんの?」

「はっ!?」


俺は色々な意味で驚いて持っていたペットボトルを落としそうになり、慌ててキャップをしめて地面に置いた。

プロポーズって何の話だ!?

俺は目を見開いて颯太を見つめると、颯太は目を細めてすべて分かったように言った。


「お前、独占欲強そうだもんなぁ~…。そうか、そうか。俺は応援してやるぜ?」

「ちょっ!!ちょっと待てよ!!何でプロポーズになんだよ!?俺はただ紗英にプレゼントしたかっただけで、そんなつもりはなくてっ…。」


そこまで言って、俺はしまったと口を手で覆った。

聞かれてない事までベラベラと勢いよく話してしまって、颯太の顔が面白いものを見たとでもいうように歪んでいくのが見えた。

紗英を驚かそうと思って、カモフラージュで男性物の店でもの買ってその袋に入れ替えたりして指輪を隠したのに、自分から話してしまってはその努力が水の泡だ。


「へぇ~?サプライズでプレゼントってわけか…。お前、粋なことすんなぁ~?そんなに沼田さんの事好きなわけ?」


颯太はここに座れと手で示してきて、俺は颯太の表情から逃げられないと悟ってしぶしぶ座る。

そして当然の答えを返した。


「好きに決まってるだろ。きっと今は俺の方が紗英の何倍も好きな自信あるよ。」

「ひゅーっ!!言うねぇ!男だな!お前!!」


冷やかしてくる颯太が若干うっとおしかったが、一応褒められているようなので素直に聞いて黙ることにした。


「でもさ、沼田さんよりお前の方が何倍も好きって事はねぇと思うけど?」

「え?」


颯太は紗英の何を知っていてそう言ったのか分からない。

俺が颯太を見つめてその理由を聞こうとしていると、颯太が俺の肩を寄せて言った。


「沼田さんの悩みの大半はいつもお前のことなんだよ。職場で暗いときは大概そう。だから、沼田さんもお前の事大好きだよ。仕事中でも心の中にいるんだからさ。」


仕事中の紗英の様子を聞いて、俺は顔が火照ってきた。

俺と同じで紗英も同じように仕事してるときも俺の事を考えていてくれたことが嬉しい。

俺が一人でニヤついていると、颯太が満足そうに俺の肩を叩いた。


「ま、あんだけイチャついてるぐらいだし?自信持てよって話だよ。」

「そうだな…。というか、なんかお前、色々全部知ってそうで怖いんだけど。」


俺は翔平の事もあって、自信のなくなってた俺に的確に助言した颯太が怪しく見えた。

颯太はしらばっくれるように笑うと俺から手を離した。


「何も知らねぇよ?俺は見たままの事を伝えたまでだよ。」

「ふーん…。まぁ、今はそういう事にしとこうかな。」


俺は助言をもらったので追及するのはやめることにした。

そして立ち上がると、颯太を見下ろして告げた。


「指輪の話はくれぐれも内緒にしてくれよな!」

「あ、指輪なんだ?いいこと聞いたなー。」


俺は口止めするつもりだったのに新しい情報を与えてしまって、汗が噴き出してきた。

ニヤニヤ笑いをやめない颯太を指さすと俺は吐き捨てた。


「とにかく!誰にも何も言うなよな!!特に紗英には言うな!!」

「へいへい。まぁ、精々頑張れよ?」


俺は上から目線で返す颯太が信頼できるのか不安だったが、今は信じるしかないので颯太を一睨みしたあと紗英のいる川へと目を戻した。


すると、川には紗英の姿が見当たらなくてスゥッと体温が下がった。


「あれ…?紗英は…?」


「うん?あれ?そう言えばいないな。どこ行ったんだろう?」


俺の呟きに隣の颯太が立ち上がって、俺と同じように川を見回し始めた。

川にいるのは紗英以外の女子と城田さんに絡んでる恭輔さんと堂上さん。

それに竜也が岸で寝転がっている。

いないのは翔平と紗英の二人だけ。


俺はさっきの光景が思い返されて、サーっと体が冷えていくようだった。


まさか…二人でいるなんて事…ないよな…


俺は胸がズクンズクンと痛くなってきて、いてもたってもいられなくなり川に向かって走った。

俺は川に飛び込むと、さっきまで紗英と一緒にいた場所に戻った。

そこにはさっきと同じように魚が泳いでるだけで、周りを見回しても紗英の姿がない。


どこだ…どこに行った…?紗英…!!


俺が行く場所に見当もつかなくて痛む胸を押さえて、顔をしかめていると水音が横から聞こえてきてそっちを振り返った。

すると、そこには驚いた顔をした翔平が立っていた。


「っくりしたー…。急に振り返るなよ。心臓縮んだだろ。」


翔平は川に潜っていたのか、髪からボタボタと水が滴っていた。

俺はそんな翔平に詰め寄ると言った。


「お前っ!紗英、見なかったか!?」

「は?紗英?…お前、紗英と一緒にいたんじゃねぇのかよ?」


翔平が眉をひそめたのを見て、俺は翔平が何も関係ない事が分かった。

それに少しほっとしたが、紗英がいない事実は変わらないので、言い様のない不安に胸が押しつぶされそうになる。


「知らないならいい。悪かったな。」


俺は翔平を突き放すと、紗英の捜索を再開する。

するとそんな俺の手を翔平が掴んで引き留めてきた。


「お前、紗英のこと好きなら見失ったりすんじゃねぇよ!」

「は…?」


俺は説教かと思って翔平を睨んだ。

翔平は曇りのない目で俺を見て続ける。


「紗英に隙ができないように、お前でいっぱいになるぐらい…紗英の事、しっかり繋ぎとめておけよ!」

「おい…お前、いったい何の話してんだ?」


翔平は辛そうに顔をしかめていて、俺は翔平が何に対して怒っているのか分からなかった。

翔平に言われなくても紗英の事、しっかり繋ぎとめておくつもりだ。

だからこそ散々イチャついているというのに、翔平の目にはそう見えていないのだろうか?

翔平は苛立っているのか、俺の手を離すと背を向けて吐き捨てた。


「お前が不甲斐ないと…我慢できなくなる。」


翔平が独り言のように呟いた声が聞こえて、俺はその言葉の意味を考えた。

あいつ…何を我慢してるんだ…?

俺は翔平の去っていく後ろ姿を見て、首を傾げた。

そしてハッと紗英の事を思い出すと、俺は対岸に向けて足を進めた。

あっちにいないならきっとこっちのはず!!

俺は対岸まで来ると、紗英の姿を探した。

けれど、どこにも姿がなくて、後は当てずっぽうに林の中に入るしかないかな…と思っていると、目の前から紗英が姿を現した。


「あれ?竜聖。どうしたの?」


紗英は林の中を水着姿でうろついてたのか、少し体が汚れていた。

俺は紗英を見つけた事に安堵して、その場にへたり込んで項垂れた。


「竜聖っ!?」


紗英は急にへたり込んだ俺に驚いたのか、慌てて俺に駆け寄って来ると、へたり込んでいる俺の顔を地面に手をついて覗き込んできた。


「どうしたの?大丈夫?」


俺がどれだけ心配したかも知らないで、紗英は俺の顔色を伺うように訊いてきて腹が立ってきた。


「何で…。」

「ん…?」

「何で…あんなとこから出てくんの?」

「あー!あのね!!私、こっちの対岸に興味があって、どうなってるのかな~と思って探検してたんだ。結局向こうと一緒で何もなくてがっかりしたんだけど…。楽しかったよ!未知の領域だったから!」


紗英は自分勝手なことをしすぎだと思った。

無謀というか周りが見えてないというか…自分にしたいことがあればまっすぐ向かっていってしまう。

だから、目が離せなくて困るんだ。

俺は少しでも心配したという事を伝えたくて、紗英の手を掴んだ。


「なんで、何でも一人でやろうとすんだよ!!来たかったなら、俺が戻るまで待っててくれればいいじゃんか!!心配ばっかかけないでくれよ!!」

「……ごめん。…心配…したの?」


紗英は驚いているようで、口では謝っているもののよく分かってないようだった。

その姿にさらに苛立ちが募る。


「したに決まってるだろ!?さっきの翔平のこともあるし、また二人でいるんじゃないかって気が気じゃなくて…。」


俺は怒りに任せて自分が嫉妬心を丸出ししてることに気づいて口を噤んだ。

顔を上げて紗英の顔を見ると、紗英はぽかんとして俺を見つめていた。

俺は目の合った瞬間、自分の言った事が恥ずかしくなってきて紗英から顔を背けた。

すると紗英が俺の手を握り返して口を開いた。


「それって…ヤキモチ…?だよね?」


ヤキモチと言われて、グワッと体温が上がるのを感じた。

女々しい奴だと思われただろうか…

前にもそれっぽい事を口にしてるし、嫉妬ばかりする奴だと思われたくなかった。

俺は顔を背けたまま目を瞑って紗英の反応を待った。

すると紗英が俺の手を両手で握りしめて、嬉しそうな声で言った。


「…私だけじゃないんだね。なんか嬉しい。」


紗英の言葉に俺は紗英に視線を戻した。

紗英は俺の手を自分の方へ寄せると、そっと口付けてきて初めての事に体に電流が走るようだった。

心臓がドッドッと早鐘を打つ。


「ごめんね。これからは何でも竜聖に相談してからにするよ。」


紗英はふっと微笑んで、俺はその顔に弾かれるように繋がれた手を引き寄せると紗英を抱きしめた。


「もう…俺以外の男と二人っきりにならないでくれ。」


紗英が俺の嫉妬を受け入れてくれたことで、今までため込んだ気持ちを打ち明けた。

紗英は「うん。」と言って頷いてくれる。


「何でも一人で決めて、一人でやろうとしないでくれ。」

「うん。」

「水着姿…俺以外に見せないでくれ。」

「…うん。」

「俺以外に笑顔も見せないでくれ。」

「…うん?…え?」

「毎日好きだって言ってくれ。」

「えっ!?ちょっと待ってよ!!」


俺はあまり関係のない発言まで飛び出して、自分で自分に驚いていた。

紗英も流されて「うん」と言ってしまいそうになっていて慌てている。

でも言った事は全部本心だ。

俺はまだまだあったので、全部紗英に打ち明けると紗英は赤くなったり青くなったりと困っていた。

またその姿が可愛くて俺は思わず笑みが漏れた。


そしていつの間にか苛立ちが消えて、温かい気持ちだけが胸に広がっていた。





竜聖はモテるくせにグラグラと自信のない設定だけに、書いていて楽しいです。

次は久しぶりの翔平視点です。

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